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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第二十話  ロボット競技大会

 
前書き
今回は、対JA。

『ふぃあ』ちゃんがやらかします。 

 
 ポンポンパンパンと花火が舞う。
 軽やかな音楽がお祭り気分を盛り上げ、屋台も軒を連なりたくさんの人々が行きかっていた。

 世界ロボット競技大会。

 ゴジラやら、使徒やらが暴れているご時世にそんな悠長なことやっていたいいのかという意見もあるが、こんな時だからこそ盛り上がる楽しいイベントが必要なのである。
 ちなみに開催地は、アメリカだ。

「盛り上がってるな~。」
「ツムグさぁん、牛串買ってきましたぁよぉ。」
「ナッちゃん…、無理してついてこなくても…。」
 なぜかいるナツエに、ツムグは苦笑いを浮かべながら振り返った。
「え~、でもツムグさん体調万全じゃないんですよぉ。だから来たんですよぉ。心配でぇ。」
「あ~…、そう。ありがとう。」
 ナツエからの心配については素直にお礼を言いつつ、牛串を受け取るツムグ。精神感応でちょっと見えたナツエがついてきた理由は…、レイと話をしたことらしいということが分かっている。レイに危害が加わらないようについて来てもらって正解だったかもしれないと思ったのは言わないでおく。刺されたらシャレにならん。
 ちなみに二人がいるのは、地球防衛軍に割り振られたエリアで、人目に付かないトラックの中である。外の状況は、トラック内のコンピュータ機器のモニターで見ていた。
 G細胞完全適応者であるツムグのことは、一応秘密事項となっているので人目に付かない場所にいるよう命令されていた。機龍フィアのパイロットがツムグであること自体が機密となっているというのもある。
 まあ、もっとも、ツムグのことを一目で分かる人間は、部外者ではほとんどいないのであるが。なにせ発見されてからかれこれ数十年経過しているからだ。
 G細胞完全適応者という単語は、本などにも記載されているが顔までは載っていない。その理由については、外見が全く変わらないからだという諸説がある。
「機龍フィアの方はどうなってるかな?」
 現在機龍フィアは、展示会場の方に置かれていた。
 その隣には、修理が終わったMOGERA。それと他のロボット達と並んで立たされているのを、見物客や様々な業界人達が見て回っている。
 ちなみに二体とも他のロボット比べて巨大であるため特に目立っていた。
『ツムグ~、つまんない!』
 ツムグの目の前にあるコンピュータ機器から、ふぃあの声が響いた。
 機龍フィアのDNAコンピュータから、自我意識のふぃあがトラック内のコンピュータに人格が移されている状態なのだ。
「がまんがまん。」
『え~、ヤだ!』
「いい子にしてたら褒めてあげるから、じっとしてて。」
『ウ~~~、…分かった。』
 こんなにたくさん人がいる状況で100メートル級メカがジタバタされたら大惨事なので抑えないといけない。それこそイロウルに乗っ取られた時より人が密集している分、酷いことになること間違いなし。
「よしよし。がまんがまん。…ん、固い。」
 ツムグは、コンピュータを撫でながら牛串を齧った。お祭りの牛串だしこんなものだろう。
 噛みごたえがある肉を噛んでいると、ふいにツムグは、動きを止めた。
「? どうしたんですかぁ?」
「ん~…、ちょっとね。」
「あなたの“ちょっとね”は、すごく大変な事じゃないかと記憶してますけどぉ。」
「……よくないことが起きそうだなって思って。」
「はっきり見えないんですかぁ?」
「ただすごく嫌な予感だけがする。はっきりしてることは…、ここ(ロボット競技大会)じゃ起きないことだってことだ。ロボット競技大会は無事に終わる。それだけは確か。」
「こんなご時世ですしねぇ。」
 ゴジラの復活。使徒の出現。何よりセカンドインパクトの爪跡が酷い崩壊した地球。
 こんな環境でも人間はしぶとく生きている。
「なんだか楽しそうだね、ナッちゃん。」
「ツムグさんの預言が当たる瞬間が楽しいんですよぉ。うふふふ。」
「もしもの話だよ…。もしも、ナッちゃんが死ぬって預言をしたらどうするの?」
「うふふ…、その時は私のことを少しは想ってくれますぅ?」
 ツムグの後ろからツムグの肩に手を置き、寄りかかって来るナツエ。
「それは、その時にならなきゃ。」
 ツムグは、そう言って微笑んだ。
「ところでカキ氷が食べたいな~。ブルーハワイで。」
「は~い、分かりましたぁ。ちょっと待っててくださいねぇ。」
 ナツエにカキ氷を頼んで、ナツエがトラックから出て行った後、入れ替わりに波川が来た。
「波川ちゃん。」
「ツムグ。あと1時間でJAとの模擬戦闘を始めるわ。準備をしなさい。」
「了解。」
 ツムグは、そう言って立ち上がった。
「そういえば、JA作った時田って人が俺に会いたがってたんじゃなかった?」
「機龍フィアのパイロットは、秘密。あなたのことを一目で分かる人間がそうそういなくても、G細胞完全適応者がパイロットだということを知られるわけにはいかない。」
「そうか。」
「カキ氷持ってきましたぁ。あっ、波川司令。」
「ナッちゃんありがと。」
 波川の横を通り過ぎ、ナツエからカキ氷を受け取ると、ツムグは、トラックから出て行った。





***





 ロボット競技大会のメインとも言える巨大ロボット同士の模擬戦闘イベントを、お客達は心待ちにしていた。
 模擬戦闘のイベントに出場する片方である、ジェットアローンは、すでに会場入りしており、模擬戦闘の戦闘場で沢山のスタッフによって念入りに準備が整えられていた。
 大きさは、80メートルはありそうな巨体で、今は足を曲げているのでそれよりは小さく見えるが立ち上がればエヴァンゲリオンとそう変わらない大きさかもしれない。
 長い両腕。首の部分はなく、頭部は胴体と一体化したような形をしており猫背。背中に数本の棒のような物が生えているというかなり独特な姿である。
 政府関係者や企業関係者に配られたパンフレットによると、日重が中心になって製作した物だと記されており、一般企業がこれだけのロボットを作ったのは驚嘆に値するだろう。
 対する機龍フィアは、地球防衛軍、作。
 ある意味で一般企業対地球防衛軍という図式になる。
 もうすぐイベントが始まるというのに、機龍フィアが来ない。
「波川司令殿。メカゴジラはどうしたのですか?」
 さすがに焦れた日重の重役が波川に話しかけた。
「ええ…。少し整備部が手間取っておりまして。」
「地球防衛軍最強の兵器の整備が遅れるとは、どうしたことでしょうか。」
 そこへジェットアローンの開発の中心人物である時田が現れた。
「ご自慢のメカゴジラに不備でもあったのですか?」
 時田は、相手が地球防衛軍の司令官だというのもものともせずそう言った。
 波川は顔色一つ変えず。
「なにぶん戦場での出番の多いものなので、油断ならないのです。」
「日本の都内を暴走したケースもありますから、確かに油断なりませんね。」
「あれについては、使徒に乗っ取られたと説明してあるはずですが。」
「あっさりと敵に奪われるようでは、防衛軍の警備体制にも問題があったと言わざる終えないのでは?」
「使徒はいまだにその生態・出現パターンが定まらず、怪獣と長らく戦って来た我々でも解明できていない未知の敵。まさか、機龍フィアの内部に出現するなど想像もしていませんでした。」
「なら、今回のイベントにメカゴジラを出したのは、名誉回復のためですか?」
「それも勿論ありますが…。」
「波川司令。機龍フィアの準備が整いました。」
「間もなくしらさぎで会場に輸送されます。」
 そこへ機龍フィアの準備が整い、会場に運ばれることが伝えられた。
 しらさぎに吊るされた機龍フィアが会場の中空を飛んできて、機龍フィアをゆっくりと地面に降ろした。
 日の光を浴び、銀と赤の巨体がきらめく。その圧倒的な姿に会場の観客席も、日重の重役達もどよめいた。
 やはり本物は、テレビや写真越しに見る姿とはまるで違う。
「準備はできたのですか?」
 波川が付き人から渡された通信機を使い、機龍フィアに話しかけた。
『オッケー。ふぃあちゃんも大人しくしてくれてるよ。』
「そう。その調子でお願いするわ。」
「ご自慢のメカゴジラは、パイロットがいると聞いておりますが。どのような方が?」
「それは秘密事項なので、答えられません。」
「ジェットアローンは、遠隔操作を採用しております。」
「それがなにか?」
「安全性においてもその方がよいと判断し、我々は遠隔操作を採用しました。メカゴジラに遠隔操作を搭載するご予定は?」
「遠隔操作では機龍フィアの力を引き出せませんので。」
「…何か引っかかりますな。その言い方は。」
「気のせいです。」
「時田さん、JAがスタンバイに入ります。」
「分かった。では、波川司令殿。また後程。」
 スタッフに呼ばれ、時田は去っていった。
「あそこまでよく自信が持てるものですね。」
 波川の付き人が呆れたように言った。
「まあ、自信を持つのも分からんでもないがな。」
 そう言っているのは、機龍フィアの開発に関わった古参の技術者である。
「遠隔操作に力を入れただけあり、AIの構成だけなら機龍フィアのオートにも匹敵するんじゃないっすか?」
「ほう…。」
 波川の付き人は、それを聞いて素直に感心した。
 機龍フィアのオートパイロットプログラムは、マトリエルの一件の時に約4分間しか使われなかった。使った理由だって、あの時ツムグがいなかったための緊急だった。ツムグが操縦席に乗ったことでオートパイロットプログラムは解除されたため、約4分間だけの使用となったのである。
 オートパイロットプログラムは、遠隔操作ではなく、ツムグの戦闘記録を基にした戦闘プログラムである。そのため動きは、ツムグの戦い方を再現するものになっている。
 ただ所詮は再現しただけのプログラム。記録にない動きには対応できない。4分だけで済ませることができたのが奇跡だったかもしれない…。
 まあ、自我意識“ふぃあ”が発生した今ならオートパイロットプログラムの性能も違うものになったかもしれないが。
「おかげで再構成し直しで、若い連中が血の涙流しそうな勢いですがな~。」
 ハハハハッと軽く笑っている。というか笑うしかないというレベルなのである。
 そうでなくてもオートパイロットプログラムを起動させるのに苦労したのだ、それをすべて一からやり直しとか死ねると、まともな神経をした若い技術者が絶叫するぐらいだ。
「もうすぐ始まりますよ。」
「ええ…。」

 模擬戦闘の始まりを告げるブザーが鳴った。


 もう見るからに勝負あったという空気が観客席からもVIP席からも漂っていた。
 そりゃそうだ。なにせ大きさだけで20メートル近くも違うのだ。
 先に動いたのはジェットアローンだった。
 節が多数ある両腕を振りながらの独特の動きをしながらの突進。
 見かけによらずかなり早かったが、それを機龍フィアの片手がジェットアローンの頭部分を押さえて止めた。
 観客席からああ~っという声が上がった。その声色は、やっぱりかっという意味がこもっていた。
 重量もまるで違うのか、突進を続けるものの機龍フィアは微動だにせず、ジェットアローンの足に接している地面ばかりが抉れていく。

「う~ん、これはいかんな~。」
『ツムグ~、つまんない!』
 操縦席で腕組をして唸っていたツムグに、ふぃあが文句を言った。
『もう壊しちゃってイイ? 壊しちゃってイイ!?』
「ダメ。あ~、ここからどう盛り上げればいいのか困るな…。」
『もう壊したい、壊したイい!』
「ふぃあちゃん、我慢。壊しちゃダメ。…う~ん。」
『もうヤダ! 壊す!』
「って、わーーー! ふぃあちゃんダメーー!」
『っ、アウッ。』
 慌てて操縦桿を動かそうとした次の瞬間、ふぃあの短い悲鳴が上がった。
 見ると、機龍フィアの顔が上にのけ反っていた。
 下からジェットアローンのしなやかな腕が殴り上げたのである。しかも機龍フィアが頭を押さえていた手を弾いて。
 これには、会場がシーンとなった。
 数秒置いて、顔を戻した機龍フィアが弾かれた手とは逆の手をジェットアローンに振り下ろそうとしたら、ジェットアローンが、その場から動かず片手を鞭のように振るって弾き火花が散った。
 これには観客席から歓声が上がり、立ち上がる者もいた。
「……へぇ…、中々。」
 意外な攻撃にツムグは、素直に感嘆の声を漏らした。
『うぅ~。なにコイツなにコイツ! 壊す、壊してヤるゥウゥ!』
「ふぃあちゃん落ち着いて!」
 それでもふぃあは止まらず、機龍フィアの手がジェットアローンを捉えようと振り下ろされるが、また弾かれる。
 なぜ弾かれるのか。
 機龍フィアの機体の出力はパイロットとのシンクロ率によって左右される。
 今、機龍フィアは、接続はしているもののツムグがシンクロに集中していないことと、ふぃあが独断で動いているため機体の出力が本来の半分くらいで止まっていた。だからジェットアローンは、振り下ろされる機龍フィアの腕を弾くことができるのである。なにせ腕力が半分くらいなのだから。
 何度も機龍フィアの手を弾くジェットアローンに、観客席から歓声が上がり、応援する声が上がるようなった。
 見た目からして圧倒的な差がある相手に果敢に挑むその姿に、VIP席の客もどよめくほどであった。
『うう~、ううう~、ツムグ~、ちゃんとシンクロして~! 力出ない!』
「力出したら瞬殺になるからダメ。でもそれにしても良い動きするなぁ。名前聞いた時に勝負にならないとか思って悪かったな。ごめん。」
 ツムグが操縦席で両手を合わせて頭を下げた。
 その時だった。

「時田さん、JAのOSが!」
「制御が利きません! まさか…、暴走!?」
「そんな馬鹿な!」
 日重側のオペレーター達が慌て出し、傍で指示を出していた時田がありえないと声を荒げた。


 ジェットアローンが、その体格からは想像もできない跳躍力で飛んだ。
「あっ…。」
 ツムグがポカンッと驚いている間に、上から振り下ろされたジェットアローンの腕が機龍フィアの頭部に振り下ろされた。
 重い一撃によって首が下に反った。
 着地したジェットアローンは、両腕を交互に振り、機龍フィアの頭部ばかりを狙って打ち続けた。
『アン、アッ、アウぅ! もうしつこいよォ!』
 ふぃあが声を上げるが…、実際のところダメージにはなっていない。
 打たれるたびに火花が散り、宙にキラキラと金属片が散っていた。
 機龍フィアの特殊超合金を打つたびに、ジェットアローンの腕の金属が削れているのだ。
『ツムグ!』
「なに? 波川ちゃん?」
『JAのOSが暴走を始めたわ。JAを沈黙させなさい。』
「暴走…。」
 波川からの指示を聞いて、ツムグは、少し考え込んだ。
「まーさーかー…。ふぃあちゃ~ん。」
『な、ナニナニ、ツムグ、ナニ?』
 不自然に焦っているふぃあの声に、ツムグは確信した。
「こら。」
『してないしてない! 暇だったからウィルスなんて作ってない!』
「はい、アウト!」
 ジェットアローンの暴走の原因が、ふぃあが作ったコンピュータウィルスによるものだと分かった。
「今すぐワクチンプログラムを作れ!」
『適当に作ったのだから解析に時間かかる~!』
『ツムグ、…どういうこと?』
「聞いた通りだよ。ふぃあちゃんがやらかした。」
『……まったく。うまく手綱を握ってほしいわね。』
「ごめん…。」
『ウェ~ン。』
「ともかく解析を急いで。あれ(ジェットアローン)を壊してもウィルスが他に移るってことはない?」
『移んないよ…。』
「それなら…。」
 一人納得し、うんうんと頷きながら、ジェットアローンを見る。
 そして操縦桿をしっかりと握り、シンクロを開始した。
 打ち続けるジェットアローンの片腕が、途中で千切れ飛んだ。しかしそれでも攻撃を止めようとしない。
「ごめんね。」
 そう言った瞬間、機龍フィアの尾がジェットアローンの胴体を直撃しジェットアローンの巨体が軽々と吹っ飛び地面に落下した。
 わき腹からバチバチと放電し、立ち上がろうともがこうとしていたが、全身を支える胴体が大きく破損してしまってはできない。
 放電は少しずつ弱まっていき、やがて完全に停止した。
 会場がシーンッと静まり返り、機龍フィアは、体の向きを変え、ジェットアローンの冥福を祈るように首を垂れた。
『ツムグ~。』
「なーに?」
『こいつ、イイところ見せたかったって言ってる。』
 ジェットアローンのOSを解析したふぃあがそう言った。
「そっか…。生みの親の時田さんに良いところ見せたかったんだ。親思いのいい子じゃん。」
『ふぃあ、悪い子…?』
「ふぃあもいい子。」
『ワ~イ!』
「いい子だから、お仕置きするから、ジッとして。しばくから。」
『ワーーーン!』
 接続しているDNAコンピュータから精神感応を使ってコンピュータプログラムであるふぃあをしばいた。


 こうしてジェットアローンとの模擬戦闘は、終わった。


「波川司令殿…。」
「時田殿。」
「申し訳ありませんでした。」
 時田は、波川に土下座した。
「ご無礼の数々…、そしてJAを止めてくださりありがとうございます!」
「面を上げてください。」
「しかし…。」
「我々は、やるべきことをやっただけです。しかしJAを無傷でお返しすることができませんでした。」
「いいえ! あの状態では破壊しない限り止めることは…。」
「JAのことですが…。OSの構成プログラムは、中々の物のようですね。随分と親思いだと聞いています。」
「えっ? し、しかし…JAには自立意思は…。」
「精魂込めて作った物には魂が宿ると、いう言葉がわが国にはあります。OSの暴走は製作者であるあなたに良いところを見せたかったからだったようですわよ。」
「な、なぜ…そのようなことを…。」
「我が地球防衛軍が誇る機龍コードフィア型に搭載されたDNAコンピュータがそう解析したのです。ところで、我々地球防衛軍は、JAのOSの研究の支援をと考えていますが、いかがでしょう?」
「なっ…、そ、そそそそそんな、恐れ多い!」
「あなた方が製作したOSの技術は、我が軍でも流用できそうだと、技術部の人間も太鼓判を押しています。」
「ああ、このプログラムは、ぜひとも使いたいねぇ。」
「そ、そんな…。本当ですか?」
「本当です。では、後日、詳しい取引を行いましょう。」

 こうして時田のチームは、ジェットアローンのOSの技術提供を行うことになった。
 引き抜きではなく、時田が所属する日重との商売である。
 これにより機龍フィアのオートパイロットプログラムの構成がスムーズになり、性能アップすることになるのだった。これには、構成プログラムを組むのに日夜励み過ぎてゾンビ状態だった技術者達に光明が見えて日重の時田に感謝する者達が多数いた。

 ……けど本当の狙いは、ジェットアローンのOSに入ってしまったふぃあ製作のウィルスのことが明るみになるのを防ぐためだったのであった。



『くすぐったいィ。』
「こら、我慢しなさい。メンテのたびにくすぐたがってたらメンテができないでしょ。」
『う~。』
「慣れるように頑張ろう。」
『む~。』
「よしよし、いい子だね。」
『ふぃあ、イイ子?』
「うん、良い子。」
 ツムグは、機龍フィアの操縦席で、機材の一部を撫でた。
『ワ~イ。』
 ふぃあは、喜んだ。
「でも拳骨ぐらいはした方がいいかもね? ふぃあちゃんのせいで波川ちゃんに余計な仕事作っちゃったから。」
『ヤダーー!』
 上げて落とす。


 それからしばらくして、緊急を知らせる通信が入った。
 ゴジラが、日本海側から上陸し、第三新東京を目指して進撃を始めたのだ。
 すぐに機龍フィアは、しらさぎで輸送され、第三新東京でゴジラとの戦いが始まった。





***





 会場の警備に当たっていた尾崎は、追われていた。
 謎の覆面集団が、追って来る。
「この辺なら…。」
 周りに人がいないことを確認し、尾崎は止まって振り返った。
 武装した覆面集団が、一斉に尾崎に武器を向ける。
「何が目的だ?」
 尾崎が聞くが、向こうは答えない。
 代わりに銃火器の安全装置が解除される音が響いた。
「なぜ、俺を狙う?」
 次の瞬間、一斉に射撃が行われた。
 尾崎は、手をかざし、超能力のバリアで防いだ。
 それを見た覆面集団は、驚き、どよめいた。
「答えてくれ。手荒な真似はしたくないんだ。」
 尾崎は、そう言いつつ、構えた。
 武器は手にしていない。つまり肉弾戦で武装した敵をすべて倒せるということだ。
 尾崎の迫力に、覆面集団は、圧され、一歩後ずさる。
「頼む、答えてくれ。なぜ俺を狙ったんだ?」
 しかし、敵は結局何も答えなかった。
 尾崎が出す覇気に根負けし、一人が逃げ出すと、それに触発されて全員が背中を見せて脱兎のごとく逃げ出してしまった。
 残された尾崎は、溜息を吐いた。
 今までに殺されそうになったことは何度もあるが、こんなあからさまな、それでいて“雑”なのは初めてだった。
 内部犯行(尾崎という標本を手に入れたがっているマッドの仕業)ではないということは分かった。
 しかし、命を狙われる心当たりがない。
「いったい誰が…、どうして…。」
 尾崎は俯き呟いた。
「尾崎少尉!」
「! トリス。」
 トリスと呼ばれた茶髪のミュータント兵士の少女(15歳)が駆けて来た。
「ご無事でしたか!」
「ああ、なんとかな。そっちは?」
「逃げられました。逃げ足が恐ろしく早い連中ですよ。」
「そうか…。」
「また内部の人間の犯行でしょうか?」
「いや、違うと思う。」
「なぜ?」
「勘だ。」
「勘ですか…。」
 腕組してう~んと唸る尾崎を、トリスはジッと見つめていた。
「? どうかした?」
「あっ…、いえ、なんでもありません。」
 トリスは慌てて首を振った。
 その頬がほのかに赤くなっていることに尾崎は気付かなかった。 
 

 
後書き
椎堂ツムグとナツエの会話は伏線です。

ゼーレが差し向けた殺し屋に狙われた尾崎ですが、尾崎の方が圧倒的に強いので意味ありませんでした。
後輩のミュータント兵士であるトリスちゃんは、尾崎に片思いしています。
まあ、ここだけのことですが。 
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