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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第八話  使徒も怯えるリリン(人間)!?

 
前書き
使徒マトリエル編。続。

後半は、ゴジラと機龍フィアとの対決。 

 
 同じ場所でどっしり構えていた使徒マトリエルの胴体から血が噴き出たのを地上の地球防衛軍の部隊と、モニターで戦況を見ていた基地の司令官達もしっかり目撃した。
 そして出血するダメージを受けたマトリエルが長い脚を一本持ち上げて、胴体に近い地面を踏みつける動作をした。
「いったい何が!?」
 ATフィールドを持つうえに、胴体より遥かに長くて高さがある足を持つため陣取っている幅だけなら今まで出てきた使徒で一番大きいこの使徒に近づけないので何が起こっているのか確認することができない。
「司令! たった今、映像の解析が完了しました! 使徒の下腹部辺りに向かってエネルギー弾が放たれています!」
「なんだと?」
 前線い設置されたコンピュータなどの解析装置を担当するオペレーターの報告に前線司令官は、オペレーターのところにすぐに向かい、映し出された映像を見た。
 拡大された超スロー映像で、確かに白い複数のエネルギーの弾がマトリエルに向かって飛んで行き、着弾すると、マトリエルの胴体の目のような部分から出血していた。
「…弾が発射された方向は、使徒のほぼ真下……。風間達か!?」
 使徒に痛手を負わせた兵器がミュータント兵士に支給されているメーサー銃であると見抜いた前線司令官は、バッとマトリエルの方に振り返った。
 その直後、またマトリエルの胴体の目玉みたいな部分から出血が起こった。最初に出血した部分とはまったく逆方向にある部分である。
 するとまたマトリエルが攻撃された方向の足を一本持ち上げて地面を踏みつけた。
 一分とせず、今度はまた別の咆哮からまだ潰されてない目がメーサー銃で潰された。するとマトリエルは、ボタボタ出していた溶解液を止めた。
 そして動作こそ遅いがその場から動かない体制をやめて、動き出した。
 周りを警戒し、下腹部にあるコアがある目の部分をギョロギョロと忙しなく動かし、自分に攻撃してくる相手を探す。

 マトリエルが風間達に翻弄されている間に、マトリエルに接近していく一人の人間がいた。
 茶色のコートがマトリエルの巨体から来る空気の流れではためく。
 度重なる使徒とゴジラと機龍フィアが荒らしまくったせいで廃墟どころか荒野(?)みたいな荒れた場所となった第三新東京を、腰に業物の刀を引っかけたその男が進んでいく。
 数十メートル級の使徒にとって人間など蟻んこも同然。さらにマトリエル自身、現在自分を攻撃してくる相手を探すのに忙しいので茶色のコートの男の接近にまったく気付いていない。
 マトリエルの足の一本の付近まで来た男は足を止め、マトリエルを見上げた。
「…フンっ。神の使いを名乗るぐらいなんだから、ちったあ楽しませろよ?」
 男は、腰の刀に手をかけた。

 そして、マトリエルの足の一本が突然、根元辺りから切断され、胴体から離れた。
 突然のことに固まったマトリエルの目が切られた足の方を見た時、地面に向かって降下していく刀を手にした茶色のコートの人間の男の姿があった。
 その男と目が合った時、男が降下していく最中、ニヤッと笑ったのを見て、マトリエルは、ある感情に支配された。

 その感情は、恐怖という名を持つものである。




***




「なにやってんだーーーーーーーーーーーー!!」
 遠く離れた基地と前線の陣営とで同じ叫び声をあげていた。
 マトリエルの足の一本を刀で…、いや身一つで切り落としたゴードンに、悲鳴を上げる者、行き場のない感情にパニックになる者、さすが人類最強と目を輝かせる者と反応は様々だった。
 マトリエルの胴体が折りたたまれた足のおかげで地表に近いとはいえ、元々マトリエルは巨体なので人間からしたらとんでもない高さである。
 そこにあっという間によじ登り(どうやって?)、刀一本で足の一本を切り落とし(一見細いが人間の大きさと比較したら圧倒的に太い)、切り落とした後、普通の人間なら無事じゃ済まない高所から地面に降下し、難なく着地する。

 もはや人間の領域じゃない!

 地球防衛軍は、科学的な部分と超人レベルに鍛えられた戦士達が集まることから、はっきり言って非常識だと昔から言われることはあった。(ミュータントが発生する前である)
 人智を超えた怪獣達や、怪獣王ゴジラを相手に戦わなければならないのだ。怪獣は非常識レベルなんだから、こちらも非常識なレベルにならないと相手はできない。必然だった。
 いくら超人レベルに鍛えたからといっても所詮は人間である。巨大な怪獣相手に生身で戦うなどセカンドインパクト後に確認されるようなったミュータントによる戦闘集団が考案されるまで人間が戦う場合は策を巡らせ、あるいは命を捨てて間合いに入り特殊な武器を打ち込むなどばかりであった。
 ダグラス=ゴードンという人間が頭角を現すまでは……。
 彼は、普通の兵士からの叩き上げである。それも35年前の南極でのゴジラ封印の時の戦いで初代轟天号のモブ乗組員だった。
 たまたまゴジラの封印のとどめとなった氷山の破壊のため、ミサイルの引き金を引きはしたがそれがきっかけではないことは確かである。だが彼がゴジラをライバル視し、手段を選ばぬ指揮官になる原点ではあった。
 何がどこで、どうしてこうなった?っと、ゴードンの同僚達がいくら頭を捻ってもゴードンが人類最強と呼ばれるまでに強くなった過程を思い出せない。地球防衛軍所属の人間に義務づけられている定期的な健康診断では、ゴードンがミュータントではなく、ただの人間であることははっきりしていた。
 椎堂ツムグがこの場にいたなら、こう答えていた。

 ゴードン大佐は、怪獣との戦いで成功と失敗をたくさん積んだから、強くなろうとして、強くなっただけ。

 ……ツムグに言わせれば、細胞の突然変異による進化で強くなったミュータント呼ばれる新人類にたいし、ゴードンは極限まで心身ともに鍛え上げた結果それが実を結んで50代過ぎだというのに人類最強と呼ばれるほど強くなったただの人間なだけなのである。
 しかしあくまでゴードンが人間であるとなると、同じ人間の括りになってる他の者達は複雑である。
「なあ…、人間の限界ってあるのかないのか分からなくなる時ってないか?」
「……あの人(ゴードン大佐)見てると人間ってなんだろ?って思うよ…。」
「分かる分かる。」
「おまえが言うな熊坂! ってそう言う意味じゃおまえも同類か!?」
「ゴードンが目立ち過ぎて忘れてたけど、そう言えばそうだった!」
 M機関の士官である熊坂は、ミュータント兵士を育て上げた教官であり、人間でありながら常人を超える身体能力を持つミュータントと互角に渡り合える戦闘能力の持ち主である。ちなみに彼も健康診断では、ちゃんと人間であることがはっきりしている人物である。
「いやいやいや、自分なんてゴードン大佐殿に比べればまだまだですよー。」
 などと謙虚に振る舞いつつ、ケラケラ笑う熊坂。
 しかし“普通”の範疇にある周りから見れば『どこが!?』っと言いたい状態である。
 よくよく考えてみれば、M機関のミュータントを対怪獣部隊として育て上げることについて、ミュータント達に強くなるためのレクチャーをしてそれを統制下に置くことができるかという問題が今まで問題視されなかったのか?
 下手をすれば戦う術を身につけたミュータント達が反発して反乱を起こす可能性だってあった。そうなれば人類対新人類という最悪の事態になっていた。
 それが起こらずミュータント達が地球防衛軍の新たな戦力となり、自らの誇りとして日々精進しているのも、すべては彼らの教官として彼らの上に立ってきた熊坂の存在があったからこそだ。
 共に汗を流し、笑いあい、涙を流し、悪いことをすれば叱る。ゴジラ封印後の怪獣との戦いの世代であることもあり、若年層が占めるミュータント達よりも年上なことも彼らの心を射止めたのだ。まあ、いわゆる父性愛という奴であろう。セカンドインパクトで被害が大きかった被災地での覚醒率と出生率が高いため、親がいない、身内がいない者が多い若いミュータント達には、熊坂の存在は同族の仲間とは違う意味でもっとも身近なものになっていた。
「……当り前みたいに受け入れてたが、改めて考えてみれば人類最強枠(じんるいさいきょうわく)って結構いるな?」
「なんだその、人類最強枠って? んなこと言ってたら…、ゴジラと戦うために日々厳しい訓練を積み重ねてきた地球防衛軍の軍人達は凡人だって言うのか? 自衛隊の陸上自衛隊のですら一般人の目から見れば超人だって言われるんだぞ?」
「そ、そうだけどなぁ…。その超人って言われてる側から見てもゴードン大佐も熊坂も次元が違うっていうかなぁ…。」
「そこまでこだわることか?」
「まあ、なんだ? そういう基準的なものを付けたいって時あるだろう? それだ、それ。」
「俺と大佐殿は珍獣扱いか!?」
 ゴードンが暴れてたことで、色んな意味で色々とクラッシュされカオスな空気になっていた。



 一方、基地の司令部では…。
「波川司令! さすがに此度のことは軍紀違反とかそういう範疇で済む問題じゃありませんよ!」
「問題はないわ。ゴードン大佐を行かせたのは私ですから。」
 波川の爆弾発言で右往左往していた司令部内の空気が凍った。
「な…、なぜ?」
「使徒については、まだまだ未開です。それにこれまでの使徒はゴジラに燃えカス程度しか残らないほど焼かれるか、機龍フィアにこれでもかというほど潰されるかでしたからサンプルとしてはあまりよくありませんでしたから、そろそろ傷の少ないサンプルを手に入れるべきだと考えたので。」
「まさか、ゴードン大佐にあのままあの使徒(マトリエル)を仕留めさせるつもりなのですか!?」
「仕留めるとまではいかなくても、サンプルさえ取れれば頃合いを見て撤退するようには指示を出していますわ。」
「いやいやいやいやいやいや、ちょっとお待ちを…、頭の整理が……。」
「なぜに!? なぜに生身で、それも単身で行かせたんですか!? サンプル回収だけなら機龍フィアか、あるいはミュータント部隊でもやれることですよ!?」
「節約です。」
「…はい?」
「対使徒のために怪獣用の兵器の大幅な改良をするにあたり、かなり費用がかかったので…。経済への負担を考慮して、体がなまってると言っていた大佐に頼ることにしたのです。」
 波川が顔色一つ変えずはっきりとそう言ったら、周りの者達は、開いた口が閉まらない状態になった。
 使徒独自のものであるATフィールドと強靭な生命力に対抗するため、現在ある対怪獣用兵器の改良と、新たな兵器開発に思いのほか費用がかかり、波川はセカンドインパクトの影響がまだ色濃く残る世界経済のことを考慮してゴードンを単身で使徒にぶつけるという普通ならあり得ない案を採用したのであった。
 ゴードンが人類最強じゃなかったら、どうする気だったんだこの人!?っと、波川以外の者達は同じことを思ったという。
 侮られがちな女であれど、司令官としてのその実績は地球防衛軍においてトップの波川は、セカンドインパクト前の数々の怪獣との戦いで鍛えられたせいか、時々とんでもない案を実行するのである。
 …ある意味この人もゴードンと似てるかもしれない。ただ損害を考えるか考えないかの違いだ。常識外れの怪獣を相手にしてるベテラン勢は、怪獣との戦いの経験がない若い世代とはちょっと感覚がずれてるのかもしれない。
 基地の司令部でそんなことが起こっている間に、マトリエルの左側の足がもう一本切断され、バランスを取れなくなったマトリエルの体が大きく傾いて胴体の部分が地に激突した。

「これぐらいでいいな。あとは、頼むぞ。…風間。」

 ゴードンは、刀についたマトリエルの血を刀を振って払い、鞘に納め、マトリエルの方を一度見てそう言い、マトリエルに背を向けて去って行った。
 なお彼の懐中には、サンプルを厳重に保管するための研究所のビンがあり、その中にはマトリエルの胴と足の間の肉片が入っていた。

 マトリエルの胴体が斜めに地面に接している今の状態の時。
 マトリエルのコアがある真下の腹の下では、マトリエルが激突した衝撃でハッチが一部壊れて開いてしまっていた。
 しかしそのハッチの真下でメーサー銃を構えた風間がいた。
 風間の目が爬虫類のように縦長に変化した時、マトリエルの下腹部にあるコアと一体化した目が風間の姿を捉えた。
 その瞬間、メーサー銃の無数の閃光がマトリエルの目とコアを貫いた。
 マトリエルは、ビクンビクンと数回大きく痙攣し、長い脚をズルズルと地面を抉りながら横に伸ばし、やがて動かなくなった。

 使徒マトリエルは、機龍フィアどころか、人間サイズの戦士達によって殲滅された。

 マトリエルが死んだそのタイミングで、ズシンッという重い足音と地震と間違えそうな地響きが第三新東京に響いた。
 前線部隊と、そして地下にいるネルフの者達、装甲版の中で使徒と戦っていた風間ら全員に緊張が走った。
 ゴジラが到着したことに。

 第三新東京を囲う山の上に立ったゴジラは、もうピクリとも動かない状態になったマトリエルを見ていた。
 グルルっと唸るゴジラは、死んだマトリエルを見て鋭い目を更に鋭く細めた。
 ゴジラがどう動くか分からないので身構えていた前線部隊の真上を、銀と赤の巨体が猛スピードで横切っていった。
 ジェットを吹かしながら弾道ミサイルのごとくゴジラ目がけて飛んできた機龍フィアを、ゴジラは、真正面から受け止め、しかし衝撃で受け止めた機龍フィアごと山から転がり落ちた。

『オートパイロットプログラム起動に成功! 前線部隊は、ゴジラと応戦せよ!』

 ついに機龍フィアの自動操縦プログラムが正常に作動し、ゴジラと初の無人での戦闘を開始することとなった。




***




 ハッチの下に通じる通路に移動した風間は、メーサー銃を膝に置いて、壁に背を預けて座り込んでいた。
「…はあ。どうだ。ったく、何が神の使いだ。」
 風間は、疲労感のため荒くなる呼吸を整えるのをあとにして、仕留めた使徒マトリエルにそう言った。
 風間の耳にある通信機が反応し、風間はけだるそうにスイッチを押した。
『風間少尉。使徒の殲滅が確認された。』
「それで? ゴジラが来たのか?」
『第三新東京エリア付近の山の上で殲滅した使徒を見ていたらしい。そこにオートパイロットプログラムが起動した無人の機龍フィアが突撃して、前線部隊と共に交戦しているとのことだ。』
 監査官との通信の最中、急に通路の照明が点いた。
「…停電が復旧したみたいだな?」
『そのようだな。一旦こちらへ戻って来てくれ。』
「めんどくせぇ。」
『まあ、そう言わないでくれ少尉。今回は非公式とはいえ、ネルフの赤木博士との共同戦だったんだ。一時的とはいえ手を取り合ったんだ、一言声をかけるぐらいのことはした方がいい。ゴードン大佐ならそうするだろう。』
「……チッ。」
 風間は舌打ちをして、立ち上がり、メーサー銃を肩に担いで歩きだした。

 風間が歩き出した時、ハッチの真下から巨大な何かが地上に向かって飛び出した。
 風間がバッと振り向いた時に目にしたのは、紫色。
 ガリッ、グチュッという音がして、死んだマトリエルから出ていた体液の匂いが更に濃くなる。
 風間がメーサー銃を構えて、紫色の何かを睨んでいると、やがて紫色の何かは目にも留まらぬ速度で下へ潜って行った。
 風間が走り、紫色の物体を探すも、紫色の物体が開けた巨大な穴の中には紫色の物体の姿はなかった。
「な、なんだ? あれは……、一体?」
 そして風間は、ハッとして、上を見上げた。
 マトリエルの死体。胴体の部分が噛みちぎられていたのだ。ドロリっとした臓物らしき物がはみ出てて、そこにも噛みちぎられた跡が生々しく残っている。噛み跡からして犯人がかなり巨大であることが分かる。
 先ほどの紫色の何かは、マトリエルを…食った?
 風間は、吐き気が込み上げてきたが、グッと力んで我慢した。
 そして通信機のスイッチを押した。このことを伝えるために。




 一方ツムグは。
「ゴジラさんの接近に気付けなかったってどういうこと? なんかネルフ来てからおかしいことばっかりだな。どういうことなんだろ? ま、いっか。とりあえず今は…。」
 ネルフから地上へ出たツムグは、オートパイロットプログラムで動く機龍フィアを見ていた。
「自動操縦って確か、俺の操縦データを基にプログラムしたんだっけ? うん。中々動くね。そりゃそうか、俺の動きを再現してるんだし。でもゴジラさん、つまらなさそうだね。そりゃそうか。だって無人で、あと使徒を殺しに来たのに使徒が死んでたから不満たらたらなんだね? よし! ゴジラさんの不満を解消させるため! 頑張らせていただきます!」
 ツムグは、両手を上げてそう言うと、その場から瞬間移動し、パイロットスーツなしで機龍フィアのコックピットに現れた。
 コックピットにぶら下がるヘルメットを掴み、頭にかぶる。
 DNAコンピューターが瞬時にツムグの存在を認識し、オートパイロットプログラムが解除され、ツムグとのシンクロが開始された。
 機龍フィアの目に光は灯っていたが、ツムグとのシンクロで輝きが変わったことに、ゴジラは、すぐに気が付く。

 そして、今日一番の雄叫びをあげた。

「光栄だね。そう思ってもらえるなんて。さあ、不満解消させてあげるね。ゴジラさん!」
 ツムグが操縦桿を握った。
 オートパイロットプログラムから、椎堂ツムグの操縦に切り替わった機龍フィアとゴジラの戦いが始まった。

 ちなみにオートパイロットプログラムによる戦闘時間は、わずか4分だった…。




***




『機龍フィアのオートパイロットが解除されました! DNAコンピュータからの信号によると、椎堂ツムグが搭乗したもよう!』
「遅い! まったく! あいつはこっちの苦労も知らずに…!」
 オートパイロットプログラムの起動で苦労させられていた技術部は怒りで頭をかきむしっていた。
 怒っているのは、大半はベテラン。
 その下で働いてる技術部の大半の若年層技術者達は、あんなに苦労したのに、っと大泣きしていた。
「でも、いいデータは、取れましたよん。」
 ……中にはマイペースな奴もいる。マッドなのは、意外と順応性高い。
 少しだけであったが機龍フィアによるオートパイロットプログラムの戦闘という貴重なデータは取れたのは確かだ。これは、今後の機龍フィアの改良にも使えるし、他の兵器にも応用できる。無人というものは、戦闘でもそれ以外のことでも重宝されるコンピュータやロボット工学で強く求められている分野だ。人を乗せる事で人命の危機や、人が入れない危険な環境で活動できるし人員削減などいいことづくめではある。
 しかし無人であることは必ずしもいい結果をもたらすことはない。
 一つは、暴走である。何らかのトラブルで遠隔での命令を聞かなくなったり、無人機の頭脳部分やプログラムの故障で暴走し被害が出ることだ。
 高度な電子頭脳が反乱を起こすという事体だってある。SFフィクションによくあることだが、それが現実になるほどの技術力が地球防衛軍にはある。
 意思を持たないはずの機械に意思が灯る。その現象の一例として地球防衛軍のベテラン技術者の記憶に強く残るのは、3式機龍のことだ。
 3式機龍は、ゴジラの骨髄幹細胞のDNAコンピュータから別物に取り換えられるも、なぜか突然自我が発生し、ゴジラと共に海に沈んでいる。一代目のゴジラの骨を使用したメカゴジラだった3式機龍は、ゴジラの骨を兵器として使うことを死者への冒涜だと言った小美人達の言葉通り静かに海の底で眠りたかったのだろうか…、3式機龍が永遠に失われた今となっては、永遠に答えは分からない。
 日本では古い物や魂を込めて創られた物には魂が宿るというのが昔から浸透している。いわゆる付喪神(つくもがみ)という概念だ。あらゆるものには魂が宿っているという神話や言い伝えが生活に浸透している日本だからこそ無機物に意識が芽生えても案外簡単に受け入れてしまえるのである。
「パイロットスーツなしだからDNAコンピュータとのシンクロ率が低いな…。それに波長が乱れている。脳との接続と手動操作だけでどこまでやれるか。これも貴重なデータだ、しっかり記録しろ。」
 機龍フィアから伝達される情報を管理するシステムのモニターを見て、メカゴジラの開発技術者の一人がそう命じた。
 シンクロ率が低いといっても、椎堂ツムグ以外が万全装備で乗った場合に比べれば雲泥の差である。どれくらい低くなってるかいうと、150パーセントから145パーセントと…、わずか5パーセント足らずであるのだが…。
 そこまでシンクロに差が出ないのは、機龍フィアの素体とDNAコンピュータがツムグの細胞から作られているからである。これは、エヴァンゲリオンのシンクロとよく似たものだが、エヴァンゲリオンとの大きな違いは、機龍フィアは、遺伝子(細胞)の提供者の椎堂ツムグとは同一人物、あるいは一卵性双生児といえる関係であり、遺伝子の近親性による共鳴が万全装備じゃない状態でも高いシンクロ率を叩き出す要因になっている。
「新しい監視用の物を作っておいて正解だったな。」
 今回のツムグ失踪事件で苦労させられたことにでかいため息を吐いたベテラン技術者は、開発室にあるとある装置のスイッチを押して細長いカプセルのような物を穴からせり上げさせた。藍色の液体は、ナノマシンである。
 ゴジラとの戦いが終わったらこれをツムグの体内に注射することになるだろう。
 監視用のナノマシンの開発は、G細胞完全適応者を警戒する上層部の命令である。ツムグが解散前の地球防衛軍に保護され、監視下に置かれてから、脳や心臓に埋め込まれた自爆装置や監視装置、更に精神がゴジラ寄りになった時の危険を知らせるなどの情報を伝達する様々なナノマシンを技術部が開発し、科学部と医療部との共同でツムグの体に埋め込んできた。
 たまたまG細胞と融合していたことが分かり、記憶がないことから椎堂ツムグという名を与えられた一人の人間に、約40年物の月日をかけて監視や万が一のためと惨い手術を施し続けてきた。G細胞の異常性もあり、ツムグは死にもせず、弱らず、狂いもせず、最近ゴジラ寄りになりかけた(サンダルフォンの時)ことはあったものの、怨み頃すら言わずマイペースに地球防衛軍の束縛の中で生きている。
 危険を回避するためと監視のためと開発された自爆装置やナノマシンを始めとした機器も、もう何十個目となるだろうか?
 それが全て普通の人間のサイズのツムグの体に入れられた。その内の半分以上はG細胞の再生能力で吐きだされたり、機能が停止したので手術で取り出されたりしている。だが入れられている箇所が通常なら手の出しようがない急所ばかりなので手術はいつも地獄絵図となる。G細胞の回復力もあり、再生が済む前に捌いて中のものを取り出さなければあっという間に元通りになるのでやり直しになるため地獄絵図に拍車をかけており、ツムグの手術に立ち会った科学者や医者は、約40年の間に6割が精神を病んだ。
 しかし椎堂ツムグにやってきたこれらの非人道的な人体実験は、地球防衛軍の生物化学や医療技術などの向上にもつながっており、すべてがマイナスというわけではないのだから皮肉である。
 新しいナノマシンとナノマシンと連動している監視装置を詰めたカプセルを厳重なアタッシュケースに詰めて施錠したベテラン技術者はまたため息を吐いた。




 緊急出動の時に行方をくらましていた椎堂ツムグに対して、地球防衛軍側で新たな監視のための処置が決定していた頃。
「うぉりゃああああ!」
 ツムグは、手動操作でゴジラを巴投げしていた。
 機龍の体系からして巴投げは無理…なのだが(足の長さと尻尾が)、できないことをやれるぐらいじゃないとゴジラとのガチバトルなんてやってられない。
 ぶん投げられたゴジラは、受け身を取り、すぐに起き上がると機龍フィアと掴みあった。
 押し合いへし合いしている最中、ゴジラが戦いを楽しんでいるというのがツムグには分かり、ツムグは、汗をかきながら楽しそうに笑った。
「アハハハハ! ゴジラさん楽しんでくれてる!? 嬉しいな! 俺も楽しいよ!」
 命がけの戦いだというのに本当に楽しそうに笑い声をあげながら、操縦桿を巧みに操り、機龍フィアの片手をゴジラの手から離すとゴジラの顔を殴ろうと振りかぶった。するとゴジラも離された手で拳を作り、機龍フィアを殴ろうと振りかぶった。
 前代未聞のゴジラとメカゴジラのクロスカウンターが発生し、機龍フィアの下顎が横にずれて火花が散った。
「つよーい、やっぱりゴジラさん、強いよー。パイロットスーツなしだからか、ちょっと調子出ないし、どうしよう…、こうなったら……、リミッター解除! 三つだ!」
 いつもとシンクロ状態が違うため少々頭がぐらぐらしたツムグは、ヘルメット越しに頭を押さえながら、そう叫び、リミッター解除を行った。
 途端、ツムグの両目が黄金に輝いた。DNAコンピュータからの信号の逆流による脳への負担を歯を食いしばって耐える。
 よろついた機龍フィアにゴジラは、尻尾による一撃を入れようと体を大きく捻らせた。その尻尾が機龍フィアに掴まれ、ゴジラの体が浮いた。機龍フィアがゴジラの尻尾を掴んで持ち上げ、後方に放り投げたのだ。
 仰向けに倒れたゴジラに、機龍フィアが馬乗りになり、マウントポジションを取って、これでもかと殴り始めた。
 殴られていたゴジラの背びれが輝き、ゴジラの体内熱線によって大爆発が起こり、機龍フィアとゴジラの体が飛んだ。
 お互いに地面に落下したが、すぐに立ち上がり、また取っ組み合い体制に入るのだが、リミッターを三つ解除した機龍フィアの馬力に押され、ゴジラが凄い勢いで後方に押されていった。
 しかしゴジラは、学習し絶え間なく強くなっていく、怪獣王たる力を備えている。サキエルが襲来した時の戦闘もあっても機龍フィアの特性をもう把握したのかサキエルの時より多くリミッターを解除した機龍フィアの寄り切りに堪えて踏ん張った。
「ガフっ!」
 コックピットの中で、ツムグが、吐血した。
 顔を覆うヘルメットと、膝と床が赤黒い血で汚れた。
「あ、頭……、潰れそう…。血が、沸騰してるみたいに熱い。スーツの端子って大事なんだな…。よく分かった。アハ。確か、負荷軽減だったっけ? ……ま、いっか。どーせこれぐらいじゃ、死なないし。そろそろ終わりにしようか、ゴジラさん。もっと戦いたかったけど…。ごめんね。」
 わずか5パーセント足らずの差だが、内容が問題であった。パイロットスーツの背中の端子を指す部位は、開発目的は搭乗者とDNAコンピュータのシンクロの安定のためであるが、もともとシンクロ率が異常に高いツムグにはシンクロによる肉体への負担を軽減させるものになっていたのだ。波長の乱れという基地に伝達される情報は、負担の増減に関わるものだった。
 機龍フィアの腹部が開閉し、絶対零度砲の発射口が出ると、ゴジラは、それにいち早く気づき、機龍フィアから素早く距離を取って絶対零度砲のダメージを軽減しようとした。だが発射はされなかった。
 ゴジラがそれに気付いて訝しんだ時、ゴジラの顔の真横に機龍フィアの肩にある砲台が押し付けられた。
 ゴジラの目が機龍フィアの顔を見た時、機龍フィアは下顎が横に歪んでいるし、表情も変わらないというのに、ゴジラには、機龍フィアが笑ったように見えた。
 第三新東京に響き渡る轟音と共に、ゴジラの顔面にゼロ距離の砲撃が決まり、ゴジラの頭部が爆発の炎と煙で包まれてゴジラの体がぐらりと傾いた。
 この砲弾は、一撃で怪獣の体に風穴を空けられる威力を持つ新調された対怪獣用兵器だ。
 爆炎のあと、ゴジラの足元に砕けたゴジラの歯が落ちた。
 煙が晴れるか晴れなかの合間にゴジラの背びれが青白く光り輝き、すぐ傍にいる機龍フィアの顔面に向かって大きく口を開いた。
 すると機龍フィアも歪んだ下顎を部分を無視して、大きく口を開けた。3式機龍に搭載されていた99式2連装メーサー砲の強化版である、100式メーサー砲を発射するためだ。
 ゴジラの熱線と、機龍フィアの100式メーサー砲がぶつかった。
 異なるエネルギーのぶつかり合いによる凄まじい閃光が第三新東京を覆い、前線部隊も戦闘状況を見守っていた地下のネルフの方も目を覆った。
 光が治まると、機龍フィアとゴジラがお互いにそれなりに距離が離れた位置に仰向けで倒れていた。
 ゴジラがゆっくりと起き上がる。顔の片側がさっきの至近距離の砲撃で分厚くて固い皮膚が抉れ、上下の歯が何本か無くなっている。出血は止まっているので、すでにG細胞による再生が起こっているのは間違いない。
 少し遅れて機龍フィアが起き上がった。片手で歪んだ下顎を掴み元の位置に戻す。それだけで壊れたはずの関節部や頭部の装甲などが自己修復された。
 起き上がったゴジラは、顔の血を煩わしそうに手で乱暴にこすり、機龍フィアを睨んで、唸り声をあげた。
 機龍フィアは、グッと身構える体制になり、それに呼応するようにゴジラも同じような形で身構えた。
 100メートル級、さらに超重量級の怪獣とその怪獣を模した姿をしたロボットが、その巨体からは想像もできないスピードで動いた。
 熱線も近代兵器も使わない、まさに泥仕合。殴り合い、つかみ合い、投げ技。怪獣プロレスなどという単語…、誰が最初に言った?
 機龍フィアが押し倒されると、機龍フィアは、鋼鉄の尾っぽを振るい、土を抉って器用にゴジラの横顔に土をぶつけた。目に土が入り怯んだゴジラを押し返して起き上がるとブレードを展開して傷が癒えていない反対側のゴジラの顔を目と一緒に切りつけた。ゴジラは、土で潰された目とブレードで切り付けられた目を押さえて悲痛な鳴き声をあげた。
 ゴジラが両目を潰されて怯んでいる間に、機龍フィアは、ぐぐ~っと頭と背中を後ろにしならせ、次の瞬間、ゴジラの頭部に強烈な頭突きをくらわした。その結果、機龍フィアの額が割れ、左目の部分が砕けた。オイルが垂れ、まるで血の涙のように機龍フィアの顔と首を濡らした。
 頭突きをされたゴジラは、バランスを崩して倒れそういなったが、土をくらった眼を薄く開けてなんとか倒れずにすんだ。鼻からボタボタと血が垂れており、先ほどブレードで切られた反対側の目と砲撃で抉られた部分が瘡蓋になっており、瘡蓋はやがて剥がれ落ちて新しい黒い皮膚が現れた。そしてポロポロと折れた歯が落ちて新しい歯が生え変わる。やがて切られて閉じられていた目が開いた。
 地球防衛軍も地下のネルフも、固唾をのんで戦いを見守っていた。
「なんて奴だ…。」
 前線部隊と合流したゴードンがゴジラの回復力を見てそう呟いた。
 確かにゴジラは、凄まじくタフで、不死と言っていいほどの回復力を持つが、怪我をしたり強力な相手と戦った後は、大抵一か月、長くて数年ぐらい寝て全快するという感じであった。
 なので顔面にあれだけダメージを受けて、目の前で傷が癒えていく様は地球防衛軍の記録にない。セカンドインパクトを経て、どうやら熱線の威力の上昇だけじゃなく、回復力もパワーアップしたらしい。つくづくゴジラ細胞…略してG細胞というのは厄介であると改めて実感させられる。
「は…、はあ! はあ、はあはあはあ!」
 機龍フィアのコックピットの中で、荒い呼吸を繰り返しながら口から唾液が混じった血をダラダラと垂らし続けるツムグ。足元は流れた血が広がり、ゴジラとの肉弾戦で機体が凄まじく揺れ動いたためコックピット全体に血が飛び散っていた。
 ツムグは、止まらない血を見て感じた。どうやら体の中の沢山の血管が破けてしまったらしい。G細胞の修復ができていない。だが死ぬには至らない。出血に合わせて血液が生産されているのだ。
 内臓からの出血なのだ、痛くないはずがないし、大量の血を喉から吐き出す苦しさは、常人でもミュータントでも耐えられるものじゃない。
 だがG細胞が。椎堂ツムグというG細胞を取り込んだ椎堂ツムグを形作るすべての細胞が彼を死から遥か遠くに遠ざけている。どんな惨い実験でも気絶すらせず耐えたということは、意識を失っても仕方がない苦痛から逃げられないということだ。マイペースにのらりくらりと平気そうにしていたが、もしツムグにただの人間だった頃の記憶があったなら…、とっくに狂っていた。彼が取り込んでしまったG細胞は、狂うことすら許さない。本当なら死んでいたはずの彼が偶然G細胞に触れてしまい、死の淵から甦らされ、その過程でG細胞完全適応者に相応しい精神が再構築されたのではないかと、彼の細胞の研究を担当する研究者が口にしている。
 だからツムグは、こう考える。

 『俺(椎堂ツムグ)は、ゴジラさんの細胞と一つになったあの日生まれた。』

 逆流してくる信号によるノイズのようなビジョンが脳内に映し出されるような錯覚の中、ツムグは、自分の出自について考えていた頃に出した自分なりの答えを思い出していた。
 過去がない。自分がかつて何者だったかを解明する物も知人もおらず、その辺にあった物についていた言葉を繋ぎ合わせてつけられた『椎堂ツムグ』という名前。この名前が自分の呼び名だと認識した時が、空っぽだったツムグの頭の中の記憶の始まりだった。
「はあ、は…あ、…ゴ、ジラ…さん。ゴジラさん、ゴジラさんゴジラさん、ゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさんゴジラさん。」
 ツムグは、笑いながら、DNAコンピュータから映し出されるゴジラを見てゴジラの名前を呼び続けた。
 自分を、いや、機龍フィアを睨みつけ、いつでも飛び掛かれるよう体制を整えるゴジラに、ツムグは、ゴジラの名を呼びながら無意識に手を伸ばしていた。
 それはまるで、唯一信じる神に縋るかのように…。
「ゴジラ…さん……。ああ、ゴジラさ…ん……。」
 ツムグは、震える声で、甘えるような声色でゴジラの名前を呼び続ける。
 コックピットの外では、ゴジラと機龍フィアが睨みあった状態で膠着していた。
 すると、ゴジラが急に構えを解いた。
 機龍フィアを見つめるゴジラの目に先ほどまでの泥仕合で燃え上がっていた怒りの炎が静まりつつあった。
 やがてゴジラは、唸り声をあげて、やがて海に向かって行った。

『……しらさぎに告ぐ。機龍フィアの回収を急げ。』

 ゴジラが退散したのを見届けた基地の司令部は、機龍フィアの輸送を担当している戦闘機しらさぎにそう命令した。
 マトリエルの襲来、そしてツムグの失踪で機龍フィアが出せないやら、ゴードンが派手にマトリエルの足をぶった切ったり、ネルフにいた風間らがマトリエルを仕留めたりと騒々しい一日が終わりを告げた。
 マトリエルの死体は、今までの使徒と違い、ゴジラに殲滅されずに済んだためほぼ完ぺきな形で残ったため、貴重なサンプルとして全部回収された。生きている間に取ったゴードンが持ち帰ったサンプルも死ぬ前と死後との違いの比較に使える貴重なサンプルになった。
 機龍フィアが格納庫に収容された後、中で気絶してたツムグを担架で運ぶ最中、何度もツムグは吐血して激しく咳き込んだ。
 ツムグの体調管理などを任されている研究所に運ばれすぐに検査が行われた。
 結果は、ツムグが強力な熱線を使用したことによる負荷で、本人も知らぬ間に内臓の血管が脆くなっていて、その状態で機龍フィアに乗って力んだために血管が破裂していただった。
「ツムグ…。どこで熱線を使ったんだ?」
「黙秘しまーす。ゲフっ。」
 ツムグと付き合いが長い研究者兼医者がじと~っと怒りをにじませた視線と共に尋ねても、ツムグは、沢山の機器に繋がれて横になったまま黙秘するとマイペースに答えてまた吐血していた。
「この十数年の間に熱線なんてまともに使ってないからここまで負担がかかったんだ。それにしてもおまえの中の監視システムからの電波が届かないなんて、一体どこで油を売ってたんだ? おまえの治療優先で来てないが、波川司令達が怒り心頭なんだぞ?」
「ごめんねー。ちょっと散歩してたら迷っただけだから。グフっ。」
「…おまえの監視体制は、地球の裏側にいても特定できるはずなんだがな? 何が妨害したんだか?」
「あ? そうなの、ガハっ。」
「あんまり喋らせないであげてくださいよー! さっきから喋るたびに血ぃ吐いてますって!」
「この程度じゃこいつは、死なん。緊急時に勝手にいなくなった罰だ。」
 さすがに見かねた研究者の卵が止めたのだが、ツムグの吐血を無視して話しかけていたこの医者は漫画表現なら怒りマークつけた状態でツムグを睨みながら言った。オロオロする研究者の卵とは裏腹に、睨まれてるツムグは、口を血で濡らした状態でニッと笑った。ツムグにしてみればこの程度のことはスキンシップみたいなものであったのだ。緊急時に自分がいないことでどれだけの危険と損害が出るかぐらい分かっているからこそ、自分に与えられるこの苦痛は相応のものだと受け止められる。
 ツムグが横になってる色んな機器だらけのベットの枕元が血塗れだった。
 結局、ツムグの吐血が止まるまで、翌日までかかった…。
 精密検査で全身の血管が修復されたのを確認されてから、新しい監視のためのナノマシンが注入された。
 ツムグがどこにいるのか捕捉できなかったことについて、監視衛星や世界中にある地球防衛軍の施設のデータからも、ツムグが機龍フィアに乗る直後まで完全にロストしていたことが分かり、ツムグにどこにいたのか聞きだそうとしてもツムグは黙秘を貫くため謎のままだった。
 それはツムグにとっても予想外のことで、まさかネルフにいただけで自分の監視の目が届かなくなったことに驚いていた。
「どういうことなんだろ? 調べる必要があるけど…、しばらくは大人しくしとこ。」
 続けざまに消えたら自分が親しい者達が迷惑するので、しばらくは大人しくしようと思ったのだった。調べに行った時、マトリエルさえ来なければ調べに行ったのだが…。




***




 マトリエルが殲滅され、ゴジラを海に退散させた後。
 ネルフの地下の一部がこれでもかというほど焼き尽くされ、破壊されていたことが分かり、現場に急行したネルフの総司令ゲンドウが前のめりに倒れ担架で緊急搬送されたりしていた。
 破壊された場所を見て、赤木リツコは、額を抑えて大きなため息を吐いた。
 レイのクローンは、エヴァンゲリオンに搭載されるダミープラグという自動操縦プログラムの開発にも利用されていたのだが、サキエルの襲来のすぐ後にネルフが実権を奪われたためダミープラグの研究も停止していた。
 それなのにレイのクローンの培養、維持が行われていたのは、ゲンドウの独断であり、維持費はゲンドウのポケットマネー(金の出所は不明)である。
 ゲンドウの最愛の妻ユイのコピーといえるレイは、彼にとってユイの忘れ形見であるシンジよりも外見や遺伝子的にユイに近いことから思い入れが圧倒的に強く、現在いるレイが地球防衛軍の手に渡ってしまった時の荒れっぷりからもその執着ぶりが明らかだ。
 地球防衛軍にいるレイがあらかじめ刷り込んでおいた消えたいという願望から自殺して、プラントのレイのクローンのいずれかに入って手元に戻るのを待っていたが一向にその兆しがなく、暗殺を企てようとしていた矢先にレイのクローンとその材料のすべてが焼き払われて失われてしまった。そのため現在地球防衛軍にいるレイ以外にもうレイはこの世に存在しないということになる。
 レイの育成やクローン体の維持などの研究をすべて任されていたリツコは、母親絡みの確執もあり、ゲンドウに対する復讐をかねてレイを利用していたのだが、何者かにこうも徹底的に破壊されてなんかもう色々吹っ切れてしまった。
 レイのクローン体の破壊は、自分の手でと考えていたのに、っとリツコは、自虐的に笑った。そして顔面強打でサングラスを粉砕して額を割り、鼻から大量の血を流しながら運ばれていったゲンドウの情けない姿を思い出し、地下プラントを破壊してくれた犯人に感謝した。
 ゲンドウのことだから、初号機からサルベージを行いレイを作ろうと躍起になるだろうが、そのための機器も施設も破壊され、一から作ろうにも地球防衛軍の監視は厳しく、秘密裏に建設しようものならすぐ気付かれるだろう。仮にレイのような使徒と人間のハイブリッドの作成に成功しても、そこにレイの魂が宿ることができるかと言ったら微妙なところだ。世界有数の頭脳であるリツコの力をもってしてももうレイを作ることは不可能なのである。
 リツコは、復讐を果たすためゲンドウに従っていたがために身を亡ぼす気で今まで生きてきたが、この短期間で随分と自分自身が変わったというのを実感した。
 思い返せばサキエルの襲来のときに復活したゴジラと、その後の地球防衛軍の復活からすべてが変わった。
 そしてつい最近で思い出すのは、エヴァのことで自分を訪ねてきたミュータント兵士の一人である風間のこと。
 あの不機嫌そうな顔に反して、守りたいもののために戦う戦士としての強さを宿した眼差し。リツコは、不覚にもそんな風間を美しいと思っていた。捻くれ者が見れば偽善だのなんだのと好き勝手に貶すであろうあの真っ直ぐさこそ、心という見えない物を進化させてきた人類が持つ強さなのではないかとも思った。ああいう者達で構成された地球防衛軍だからこそ、地球防衛軍は、長らくゴジラを始めとした怪獣達と戦い続ける強さを維持できたのだろう。
「奇妙な巡り合わせだわね。」
 リツコは、クスクスと笑った。
「あの子(風間)、また来てくれないかしら?」
 そんなことを口にするリツコであった。どうやら彼女の心からはすっかりゲンドウはいなくなっているようだ。

 リツコが風間のことを思い返していた時、基地に帰った風間がくしゃみをしていたとか?




***




 一方その頃。
 地球防衛軍の基地、科学部の研究所のひとつ。
「大丈夫?」
「ああ…。」
「風邪でも引いたのか?」
 くしゃみをした風間を音無と尾崎が心配した。
「それで、研究結果はどうなってるんだ?」
 風間が音無に聞いた。
 音無は、分子生物学博士なので怪獣などの生物の研究の他、使徒の解析にも立ち会っている若き天才である。
 聞かれた音無は、ノートパソコンを開き起動させると保存されたデータを二人に見えるようにした。
「第三使徒や第四使徒の燃えカスから採取したDNA配列と照合してみたけど、結果は、99.88パーセント、人間の遺伝子と一致する結果が出ているわ。燃えカスから得られなかった新たな情報としては…、使徒の細胞はあのATフィールドをほぼ常時発動できるほどの莫大なエネルギーを生産できるということ。そのエネルギーの生産はどうやっているのかはまだ分からないけど、急所であるコアが使徒の体の機能のすべてを司っているわ。ここまでコアに依存している仕組みじゃ、コアを潰されたらそれで死んでしまうのも無理もないわ。はっきり言って使徒はコアだけですべての体の機能を維持していると言ってもいいわ。つまりコアさえ無事なら体のどの部分を失っても平気ってことよ。」
「二つに別れた状態で活動した使徒が良い例か…。」
 尾崎はイスラフェルのことを思いだして言った。
「ええ。使徒という生物は、生命としてはまさに究極と言っていいわ。これまで確認された使徒の形状から見ても分かるけど、生物として絶対必要な食事や排せつなどがまったく見られない形をしている。コアの部分だけで生命活動のすべてを維持しているのよ。生命としての完成度なら怪獣の遥か上を行くわね。」
「怪獣よりも上位の生物…。」
「だがその完璧な生物とやらもゴジラのあっさり殺されてるぞ? 機龍フィアにだって負けてる。俺でも仕留められたしな。」
「完璧、完全、究極。…なんて言葉ほど、不完全なものはないわ。少なくとも私はそう思うもの。」
 音無は、そう言って肩をすくめた。
「使徒は、急所であるコアを潰されなければN2地雷でも殺せないわ。だけどコアさえ潰せれば、風間少尉やゴードン大佐でも倒せるってこと。異常な生命力のすべてをコアという急所に全部かき集めた体の構造が仇になってるわね。そう言う意味では、完璧だけれど、凄まじく弱いってこと。」
「…コアを潰すとか言う前にゴジラの熱線で跡形もなく焼き払われてるけどな。」
「それは…、うん。ATフィールドという特殊なエネルギーの壁については、まだ解明できないんだけど、ゴジラの熱線やメーサー砲なら貫通できる。だから何かしらのエネルギーの波長が突破口になっているのは間違いないのよね…。あ、そうそう。」
 音無は、思い出してパソコンを操作し、別のデータを表示した。
「風間少尉の報告で、何かがこの使徒を食べて姿を消したってこと、調べたんだけど…。ネルフ本部が停電してたから使徒を食べた相手の正体に関する情報は何も掴めなかったわ。」
「そうか…。」
「歯型が残ってたから調べてみたんだけど、少なくとも数十メートルぐらいはある巨大な生物の口だったわ。適合する生物の歯型がなかったから、分かったのはそれだけ。唾液と思われる分泌物も見つけたから解析したけど、人間の唾液とほぼ一致したのよ。どういうことかしら?」
「数十メートル? 確かに…、俺が見た物はかなりでかかった。一瞬だったから全部を見れたわけじゃないが、唾液が人間と同じだと…? まさか…、そんな馬鹿なことが。」
 風間は、停電前に見た三号機の口の形を思い出し頭を振った。
「心当たりがあるのか? 風間。」
「正直、考えたくもねぇ。もしそうなら余計に訳が分からなくなっちまう。」
「教えてくれ。それがヒントになるかもしれないぞ。」
「……エヴァンゲリオンだ。」
 渋々答えた風間の言葉に、尾崎と音無は目を見開いた。
「え、エヴァって…、あのエヴァンゲリオン? あれが? 使徒を? 確かに初号機の外装から見れば口らしい部分は……、ちょっと待って、確かにそうだとしたら風間少尉が認めたくない気持ちがすごく分かるかも。でもエヴァンゲリオンは、膨大な電力があって始めて動けるのよ? 大停電の状態で、誰も乗ってない状態で自力で動くなんて考えられないわ。」
「初号機に意思があったらどうだ?」
「尾崎君?」
 困惑していた音無に、風間が言った。
「エヴァンゲリオンは、使徒だ。ロボットじゃない。生物だ。意思があっても不思議じゃない。」
「尾崎、おまえ…。」
 風間が不審げに尾崎を見た。
 尾崎が初号機に意思があるとはっきりと言っていることに、何かを察したらしい。
「おまえ…、あのシンジってガキの心の中で、初号機の意思って奴に接触したのか?」
「……ああ。」
 ずばり言い当てた風間の言葉に、尾崎は肯定した。
「どうして話してくれなかったの?」
 音無の非難を込めた言葉に、尾崎は、ゆるく首を横に振った。
「言いづらかったんだ。ごめん…。」
「もう…。私って信用ない?」
「そ、そんなことない! 美雪はすごいよ! 俺は君のことをすごく頼りにしてるんだ!」
「ほんと?」
「ほんとだって!」
「要するに、尾崎、おまえは、初号機から直接聞いたってわけか? 使徒のことと、ジンルイホカンケイカクのことも、全部!」
 恋仲の尾崎と音無の世界が展開されそうになったので、無自覚イチャイチャ馬鹿ップルにうんざりしている風間が強い口調で無理やりその世界を破壊した。
 フォローしておくが、風間は尾崎と音無の仲を妬んでいるわけではない、むしろ一番応援している。
「そ、そうだ。そうだよ…。あいつが、小さいシンジ君の姿と声を借りた姿で現れて、それで話をしたんだ。まさか、あんなことを聞かされるなんて思いもしなかったよ。信じられなかった。信じたくなかった。でも、嘘偽りのない精神の世界だからあれが全部真実だって分かるんだ。あの後、意識がなくなったから夢だったかもしれないって無意識に自分に言い聞かせようとしてたのもあるせいで、自信が持てなかったんだ。だからシンジ君の心の中で初号機の意思に会って重大な話を聞いたってはっきり言えなかったんだ。すまない…。信用してなかったんじゃない。俺が悪いんだ。」
 俯き、そう語る尾崎を見て、風間は大きく息を吐いて、頭をかいた。
「生死の境を彷徨ったんだ。記憶が曖昧でも仕方ない。むしろそこまではっきり覚えてる方がおかしいぐらいだ。」
「えっと…、すごい頭に焼き付いちゃってたから。だってすごい情報だったからつい…。」
「さすが“カイザー”ってとこか? 普通のミュータントなら、脳が焼け焦げて死んでたってのに…、おまえはマジで規格外だな。ま、そのおかげで、とんでもない貴重な情報を持ち出せたわけだから、その規格外さに感謝しないとな。」
「そうだな。」
 尾崎はただでさえ人間を超越した新人類であるミュータントでも、更に上をいく突然変異体である“カイザー”と名付けられた存在である自分自身をあまり良く思ていない。彼が心優しく、自分より他人を優先する正義感が強い性格であるため自分が誰よりも優れた力を持っていることが辛いと思うことがあるのだ。シンジの心の中に精神感応でダイブした時、初号機に指摘されたことに即座に否定はしたが、実は少なからず“孤独”を感じていたことがあった。
 自分だけがこの世界でたった一人しかいないということ。数百万分の一というぐらい低確率で生まれるという科学的なデータがあるものの、現在尾崎以外に“カイザー”がいないこと。
 強すぎる力は、諸刃の剣である。
 使い方次第。あるいは、周りの認識で力の持ち主を悪魔にして、どこまでも傷つけてしまう。
 強すぎる力を持て余す尾崎の優しすぎる性格に、力では劣る者達が妬まないはずがない。その妬みを知るたびになぜ自分がこんな強い力持たなければならなかったのだろうかと繰り返し考えた。自分じゃなく、もっと力を持つに相応しい者達がいるはずだと思った。
 しかしM機関の社会貢献の仕事の時、その大きな力で沢山の命を救い、仲間を守ることができた。
 力を持たぬ正義と優しさでは何もできない。他の者達ではどうすることもできない悲しき無力と、力を持たない優しき者達の傷を自分のことのように感じ取り続けた尾崎は、強すぎる力への迷いを捨てる決意をした。
 迷いを捨てたことで尾崎の見る世界が変わった時、彼はかけがえのない仲間との絆と、風間という友と、初めて愛した女性である音無を得た。
 だから、尾崎は初号機に反発したのだ。残念ながら幼い精神を持つ初号機には、尾崎のその心中は伝わらなかったが…。
「もしかして…、おまえが死にかけたのは、その初号機のせいだったりするか?」
「うっ…、う~ん、当たらずも遠からずかな?」
 あの時、魂を取り込まれかけたことについては、尾崎はほとんど覚えていない。ただツムグの助けがなかったら今こうして三人で一緒にいなかったというのは漠然と覚えている。
「…ネルフ行った時にぶっ壊してくればよかったか。」
「なんでそうなるんだ!?」
「前から思ったけど、風間少尉って、尾崎君のことになると過保護になるよね?」
「好き好んでやってんじゃねぇよ!」
「お、怒らなくてもいいだろ? 俺がなんか悪いことしたか?」
「あー! ったく、おまえは、面倒な奴だよ!」
「えー?」
 放っておいたらほうほい自ら死にに行くような真似をする、面倒見てないと危ない無自覚な尾崎に、風間は怒鳴った。
「もう、二人ともやめて。それにしても、何のために使徒を食べたのかしら? 使徒を食べるメリットっていったい…。使徒を生け捕りにして構造を調べられればいいんだけど、そうはいかないわよね。たぶん次の使徒はまた全然違う姿だろうし。虫みたいな使徒は、9番目の使徒だから…、残りは、8体。…ねえ、尾崎君、私、もーれつに嫌な予感がするの。」
「俺もそう思ってた。」
「いきなり現れるうえに、ここまで形が違う奴ばかりだしな……。だが今まで現れたのは、エヴァンゲリオンと同じぐらいか、少々でかいぐらいの奴らばかりだった。ネルフがサードインパクトとの関連性を主張したぐらいだから、俺達の想像を超えるような使徒が現れても不思議じゃないぜ。」
「あまり想像したくないな…。」
「同感だわ。」
「ああ、まったくだ。」
 次に来る使徒について嫌な予感がしている三人は、揃ってため息を吐いた。


 そして三人の嫌な予感は的中する。

 地球の衛星軌道上に、これまで確認された使徒ととは比較にならない巨大な使徒が出現した。 
 

 
後書き
マトリエルの足をぶった切るほど強い、ゴードン大佐さんでした。

リツコ、風間に興味を持つ。ゲンドウのことなどもはや眼中に無い。

次回は、サハクィエル。 
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