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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第七話  椎堂ツムグの決意 その1(※一部書き換え)

 
前書き
今回は、使徒マトリエル編。

あと、ミサトの扱いが悪いです。ファンの方注意。
 

 

警告
 ミサトの扱いが悪いです。

 尾崎と風間の年齢は、二十か二十代前半ぐらいの設定です。ミサトよりは年下にしたいけど、何歳ぐらいがベストか定まらず…。
 あとエヴァキャラとゴジラキャラに思わぬフラグ?

















 浅間山で蛹の使徒サンダルフォンが見つかり、火山国の日本への影響を考えて浅間山ごと破壊されまいと命を懸けて陣をしいた。
 ところがゴジラは、轟天号に乗るゴードンの機転で無理やり蛹から出てこなくてはならなくなって火山から飛び出してきたサンダルフォンを機龍フィアと共に殲滅すると、特に暴れることなく潔く海に返ってしまった。
 気を張ったのが馬鹿らしくなるゴジラの気紛れもうそうだが、浅間山を防衛するために出撃していた改良を重ねていたスーパーX2のファイヤーミラーが今のゴジラの熱線に耐えられず何機かを撃ち落された。
 量産型のこのスーパーX2には、地球防衛軍所属の技術開発部でツムグのDNAコンピュータのその他兵器への搭載を推していた開発チームがツムグのことを理解しないで搭載した小型のツムグのDNAコンピュータがあり、破壊されるたびにツムグに大きな影響があり、そのせいでツムグが暴走寸前になる事件を引き起こしてしまった。
 開発チームと、DNAコンピュータを応用する開発を許可した上層部の大失態であった。
 DNAコンピュータのその他兵器への応用の開発は凍結。開発チームも解散となり、兵器開発の大幅な見直し、更に技術開発部の評判が悪くなってしまったり、ツムグの処遇について反対派が増えたりと混乱が広がった。

 それから何週間もの間、使徒は出現せず、ゴジラも第三新東京に現れることなく、ふとすると緊張感がなくなりそうな平穏な日々が過ぎていっていた。




***




 シンジは、なぜ今自分はこういう状況になったのだろうと考えていた。
 天気は快晴。セカンドインパクトの影響で年中夏の日本であるが、今日は実に良い風か吹いている。
 地球防衛軍の基地の庭。正確には違うのかもしれないが、柔らかい芝生の広い敷地がある。
 シートを敷いて、大きな日よけ傘で紫外線と直射日光を避け、バスケットを開けて、そこに入れていた水筒とキュウリと人参と果物の三種類のサンドイッチを広げている。肉類は一切使ってない。ただしバターなどの乳製品はパンに水分が沁みないようにするために使っている。
 シンジの隣には、両手でサンドイッチを持ってもくもくとサンドイッチを食べている綾波レイがいる。
 実は野菜と果物のサンドイッチをリクエストしたのは、レイである。
 ついでにこの(たぶん)で一緒に食べようと言い出したのもレイだ。
 昼の食堂で出す日替わりランチのサンドイッチセットを作っていた時、レイから急に言われたのだ。
 基地に庭があるから、お昼の仕事が終わったらそこでシンジが作ったサンドイッチが食べたいと。
 そして肉類は食べられないから肉は無しでと。(あとで理由を聞いたら血の味がするからだそうだ)
 いきなりのことに固まったシンジの返事を待たず、違う仕事に行ってしまったレイに理由を聞くことができず、シンジは、混乱しながらリクエストされた肉なしの野菜と果物のサンドイッチを作り、お弁当を詰めるバスケットにお茶を入れた水筒も用意した。シートと日よけ傘は、レイが用意し(どこから持ってきたんだ?)、そして現在に至る。
 シンジは、緊張のあまりサンドイッチが喉を通らず途方に暮れていた。
 しかしこのままではいけないと、せめて理由だけでもと精いっぱい頑張った。
「あ…、あのさ…。」
「なに?」
 レイは、相変わらず淡々としているが、少し前のように人形のようなものではなく、呑気さを感じさせる。
「な…なんで、僕のこと……、じゃなくて…、えっと……お昼…。」
 頑張るけど中々言葉にならない。
「これ、美味しい。」
「えっ?」
「だって、碇君、料理が上手だって聞いたから…。それに今日のサンドイッチセット美味しそうだったから。」
「えっ? えっ? つまり、僕の作ったサンドイッチが食べたかったから?」
 言われたことを理解できず知らず知らず間抜けな顔になってしまったシンジが聞くと、レイは、こくりと頷いた。
 ここの食堂は、一週間の交代で食堂の職員のまかないを作るのが義務付けられている。義務化された理由は、プロの調理師がなんらかの理由で仕事に来れなかったり、もしも非常時でサバイバル状態に陥った時に腹を壊さず飢えをしのぐための術として簡単ではあるが適切な調理ができるように訓練するためである。ゴジラに始まり、怪獣との死闘を繰り広げてきた地球防衛軍と被災地で食事情で苦労した一般人達の体験から決められたことであった。
 新人でまだ学生の身であるうえに、特殊な理由で基地に身を置くシンジも漏れずその義務を負わされる。
 自炊経験が幸いし、初めて他人のために作ったシンジのまかない料理は好評で、シンジは他人のために料理を作る楽しさを覚えて食堂で働くことに幸せを感じ、初めはタダで基地においてもらうことに負い目を感じて頼み込んだことだったが今はここ(M機関の食堂)に来て本当に良かったと思っている。おかげでシンジの調理の腕は食堂で働くプロの調理師に匹敵するほどまでに上達された。
 なのだが、まさか、同い年の、それもとっても綺麗で可愛い女の子に料理をリクエストされて、更に一緒に食べようと誘われるなんてシンジは、夢にも思わなかった。
 だが理由を聞いてみれば、実はシンジの料理が美味しいと聞いたから食べてみたかったのと、今日の日替わりランチメニューのサンドイッチが美味しそうだったからだったということが分かり、シンジは、そのまま横に倒れそうになるほど脱力した。(レイの方に倒れてない)
 レイはまだシンジのまかないを食べたことがないが、来週はシンジの担当なので食べれたのに…。予定表のカレンダーにもしっかりそのことが記されているのに我慢できなかったのか?
 しかし…、しかしである。
 二人は、多感なお年頃の少女と少年だ。こんなどう考えても勘違いするシュチュエーションになるような形で頼まなくたっていいだろうに。
 残念なことにレイは、その出生と育った環境によりそういう知識がまったくと言っていいほどないので、全然気付いてない。だから無意識にこんなことになってしまったのだ。
 シンジは、レイが普通の人間よりそういう常識的な部分が欠けているのを聞いていたし、食堂で一緒に働いていてもレイが食べるこという行為がただ体を維持するための義務としか認識してないなどの問題に直面したりしていて食事の大切さを食堂のおばちゃん達と一緒に教えたのは記憶に新しい。
 体は大きいけれど、これではまるで自分より年下の子供を相手にしているようだとシンジは思った。
 そのことをすっかり忘れて二人きりでお昼を食べようと誘われてレイを普通に異性として意識して健全な男の子として反応してしまったのことに、シンジは脱力し、罪悪感と共に恥ずかしくて思わず体操座りになって顔を隠した。
「碇君、首と耳も赤い。熱があるの?」
「ちが…。ううっ…。」
 シンジは、レイに淡々と指摘されて、ますます恥ずかしくなって、半泣きなった。



「がんばれ、少年! 近いうちに報われるから!」

 庭を見ることができる、基地の建物の隙間から、椎堂ツムグが、こっそり覗いていて、聞こえない音量でシンジを応援した。

「その子だっておまえのことちゃんと意識はしてる。ただまだ自覚がないだけだ。性に目覚めてないだけだ。頭は良いからそう遠くない未来に報われるって! ……ん?」

 シンジを応援していたツムグだったが、ふいに何かに気が付き、後ろを向いて、宙を見上げた。
 そして不愉快そうに眉を寄せた。

「……おいおい。どうなってんだ? あいつ…、意外に粘着質だな。絶対、尾崎には近づけさせないぞ。」

 ツムグは、誰かに向かってそう言うと、その場から姿を消した。
 ツムグが去った後、レイがシンジの腹の虫の音を聞いて、シンジお手製のサンドイッチを食べさせようとシンジの気も知らず、そして可愛くて綺麗な女の子が思いっきり近寄ったら普通の男の子がどんな気持ちになるかも知らずに、サンドイッチを片手に迫ってシンジを余計に赤面させてゆでダコみたいにさせるのだった。
 完全に混乱してるシンジをよそに、レイは、食事というのはかつて自分が住んでいた殺風景なマンションの一室でひとりで食べるより、今日のようないい天気の日に誰かと一緒に食べる方が美味しいのだということを理解し、シンジにまた頼もうと呑気に無邪気に考えていた。




***




 ネルフ本部の一角。
 今はまったく機能していない作戦本部の作戦部長であるミサトは、ご機嫌ななめだった。
 自宅待機なのに暇だからここにいるのはもう恒例になっていた。
 そんな彼女が機嫌を悪くしているのは、彼女の目の前にいる無精ひげの男のせいである。
「なんで、あんたがここにいんのよ?」
「つれないな~。久しぶりに会ったていうのにそんな顔するなよ、葛城。」
 加持リョウジ。ちょっと前にアスカと共に轟天号でネルフ日本支部に運ばれた男だ。
 あの後ネルフの司令部に顔を出したもののミサトには会ってなかった。
 そして今日、偶然にも加持と接触することになった。
 やたらミサトに馴れ馴れしい加持。
 それもそのはず。加持はミサトの元恋人なのだ。
「用がないならさっさと帰りなさいよ。」
「いいじゃねぇか。おまえだって作戦部が機能してなくってメチャクチャ暇してるんだろ?」
「うっぐ!」
 言われたくない事実にミサトは、呻いた。
「リッちゃんにも会ったけど、なんかゴジラや地球防衛軍の資料見るのに夢中みたいだし。折角だし、飲みに行かないか?」
「いくら暇でもあんたと一緒にいる時間は作らないわよ。」
「なんだよ~。奢ってやるのに…。」
「おご…!」
 加持の言葉にミサトが思わず過剰に反応した。
 本部の維持費以上の費用を削減されたネルフ。特に本部を維持する部門の責任者以外の給与は大幅に削られてしまった。ミサトの作戦部もその一つであり、ミサトの給与は最低限の生活を出来る程度まで削られてしまっている。
 やることがないこともあり、娯楽に逃げたくてもそのためのお金もなく、ネルフに権限があった頃は忙しくて一日の疲れを癒すための楽しみだったビールも制限しないと食事に困る状態だった。
 積み立てのローン(主に車)の支払いなどもあるが、ミサトの給与は、それを差し引いても自炊などして工夫すれば十分娯楽を楽しめる程度にはある。しかしミサトは家事一切がすべてできないインスタントに頼る生活をしていたため生活は苦しくなっていたのだ。もちろんゴミなどの掃除もほとんどできず、彼女の住いのマンションは、ゴミ溜め状態である。洗濯もネルフのクリーニング(本部に住む込みの職員用なのだが)を利用して辛うじて衣服はなんとかできている状態だ。
 そんなミサトには、加持の食事を奢るという言葉は魅力的すぎた。
 しかし加持とあまり接触したくない気持ちもあり、ミサトは、唸った。
 加持は、そんなミサトを見ていて、楽しそうに笑っていた。
 今のミサトは、例えるなら目の前にオヤツをチラつかせられて、デレるべきかツンな態度をするか葛藤する猫である。
 加持が葛藤しているミサトをくすくす笑って楽しそうに見つめていた時。
 加持は、視線に気づいてバッとミサトの後ろの通路の曲がり角のところを見たら…。

 黒いつなぎのジャンプスーツにプロテクターという特徴的な地球防衛軍のミュータント部隊の戦闘服を纏った青年がいた。
 青年は、呆れ顔で加持とミサトを見ていた。

 加持は、彼のことを知っていた。

 地球防衛軍・M機関の風間勝範少尉だ。ドイツからアスカと共に日本に移送された時に見かけている。
 風間の冷めきった目線に、加持は、思わず引きつった笑みになってしまい、気まずい汗をかいた。
 やがて風間は、フンッという風に体の向きを変え、去って行った。
「ちょっと? なんて顔してんのよ?」
「えっ?い、いいいいいや、なんでもない! なんでもないんだ!」
「でっ…、ホントに奢ってくれる話だけど……。」
「ああ、どーせ、インスタントか、コンビニ弁当ばっかなんだろ? たまには美味いもん食わせてやるよ。」
「失礼ね! もうあんたなんか知らない!」
「あ、おい、ミサト。」
 ムキ~ッと機嫌を悪くしたミサトは、加持に背を向けて早足で離れていった。加持は、そんなミサトを追いかけた。
 ところで、ミサトが行った方向は…、さっき風間が去って行った方向である。つまり。
「キャっ! ちょっと前気を付けなさいよ!」
「…はっ?」
 前を見てなかったミサトが、前を歩いてた風間の背中に思いっきりぶつかったのだった。
 ミサトは、風間が後ろを向けていたのに前に気を付けろと難癖をつけてきたので風間はただでさえムスッとしている顔を余計に悪くした。
「って、あんた誰? あと、その恰好って…、ミュータント部隊の奴!? なんでこんなところにいんのよ!」
「ぶつかってきておいて謝罪も無しか。」
「そんなことはいいでしょ! 答えなさい!」
「なんで答えなきゃならない? 使い物ならないオモチャ抱えた、ゴジラのエサのくせに図に乗るな。」
「な、なんですってー!」
「大体、おまえらネルフに地球防衛軍にどーこー言う権利はない。もちろん質問もだ。だから俺がこんなところにいることを答えるわけないだろ。」
「キーーーー! 年上に向かってなんて言いぐさよ! 毛も生えそろってなさそうなクソガキの癖にー!」
「歳は関係ないぞ、オバさん。」
 風間は冷静に返しているが、内心では、『俺は二十代だ』っと軽く怒っていた。
「私はまだ二十代よーーー!」
「お、落ち着けって、葛城!」
「ったく、こんなだからおまえらネルフは、地球防衛軍に切り捨てられたんだ。」
 風間は捨て台詞を残して背を向けると、去って行った。
 ミサトを後ろから羽交い絞めにしている加持は、大きなため息を吐いた。
 風間の言い分は理解できる。
 ネルフがここまで失墜したのは、ネルフがまだ実権を持っていた頃、国連の上層部に対して多くの無理を押し通し、それ以外の組織にも権力で圧力をかけるなどして不平不満を買ったからだ。その主となる原因は、総司令の椅子に座っているゲンドウになるのだが、それ以外の職員もネルフという肩書を使い好き勝手した前科があるため、その被害にあった者達から伝染してネルフへの不信は世の中に広まってしまった。
 これまでは、ネルフの権限で被害者達の声は抑え込まれ、時に事故を装って社会的に抹殺されるという非道な処置が平然と行われたことすらあった。
 それゆえにネルフが地球防衛軍の復活であらゆる権限を失った途端、これまで泣き寝入りするしかなかった被害者や、被害者遺族は地球防衛軍にネルフから受けた被害を訴えた。結果、ネルフの肩書きを使い好き勝手していた職員は根こそぎ処罰され(防衛軍に転職した者も含む)、地球防衛軍の管轄にある、恐らく世界最凶の監獄に放り込まれた。
 この監獄…、地球防衛軍が解散されるずっと昔に作られ、怪獣対策のために培われた技術力を駆使した死刑より怖い罰を受けるので、世界中の凶悪犯罪者が送り込まれるようになった有名な監獄である。
 地球防衛軍が解散してからも監獄自体は残ったため、ゼーレもこの監獄の有用性を認めていたらしい。しかしゼーレは、自分達の意思にそぐわない人間を放り込むなどしていたため、地球防衛軍が復活してからは、一度囚人たちの経歴と罪状を洗い、ゼーレによって罪をでっち上げられて放り込まれてしまった者達は即座に解放された。
 このように、ゴジラがエヴァを狙っている以外に、積りに積もった悪行が地球防衛軍がネルフを切り捨て、権限も資金も最低限に抑え込まれ、ゴジラを誘き寄せるためのエサという役目を言い渡させたのだった。
 もしも、もしもであるが、ネルフが不信を募らせず、まっとうな道を歩み信頼を勝ち得ていたなら、地球防衛軍はネルフを切り捨てはしなかったただろう。
 地球防衛軍が築いた怪獣兵器、その他技術に及ばずともMAGIを始めとした世界最高峰の技術力を有している。またMAGIの開発者を母に持つ赤木リツコを始めとした人材にも恵まれているため手順と交渉次第ではGフォースのように組織内部にある組織として機能することが許されていただろう。
 しかし、後の祭り。
 過去は、変えられない。現実は非情だ…。
「いい加減はなしなさいよ!」
「ぐふっ!」
 思考にふけていた加持は、羽交い絞めにしていたミサトに肘で腹をつかれて体を二つ折りにしてその場に蹲った。
 加持を撃退したミサトは、怒りの感情のままに去って行った風間を追いかけて走って行った。
「ま、待て…。いくらおまえでも風間少尉に勝てないっていうか…、風間少尉に手を出したら地球防衛軍が…ネルフに……、ウグッ。」
 加持は遠ざかるミサトの背に手を伸ばすも、その場に倒れてしまった。




***




 風間がネルフに来たのは、地球防衛軍からネルフに行くよう命令された監査官の護衛のためだ。
 護衛にあたっているのは風間だけではない。風間の仲間のM機関所属のミュータント兵士も何人もいる。
 風間は、その護衛として派遣されたミュータント兵士達の指揮を執る立場である。
 護衛対象の監査官は、ネルフ総司令官ゲンドウと副司令の冬月がいる指令室に籠っている。でかくてごっつい旅行用カバンに書類を詰めていたのだから、ねっちねち責めているに違いない。
 監査官の身に何かあってもすぐ対応できるよう仲間を配置し、風間はネルフ本部を見て回っていた。
 いまやほぼ全ての権限を失い、ゴジラを誘き寄せるためのエサ扱い状態のネルフだが、マッピングなど情報を頭に叩き込んで置くに越したことはない。もしも使徒が侵入した場合の対応に即座に備えられるから、これも仕事の一環だ。
 ネルフ本部のマッピングは勿論だが、風間は無駄に広大で入り組んでいるネルフ本部の中で、ある物を探していた。

 探し物は、エヴァンゲリオンである。

 尾崎と音無からエヴァンゲリオンが使徒から作られたもので、幼い子供の親を材料にしている疑いがあること。そして尾崎がシンジの心にダイブした時に仕入れた情報からサードインパクトとジンルイホカンケイカクなる謎の災厄の鍵である可能性があるため、その真実を確かめるためである。
 しかし、さっきからずっと歩き回っているのだが、一向にエヴァンゲリオンのところに辿り着けずにいる。
 決して方向音痴ではない。むしろ持ち前の特殊能力もあって一度通った場所はまるでゲームや本に挟む栞のように頭に記録している。
 権限を奪われる前に機密としていたのでそう簡単には見つからないようにしているのだろう。世界最高峰の技術力と情報網を持っていたネルフがミュータントの特殊能力で機密が暴かれるのを防ぐ対策をしていても不思議ではない。
 M機関の設立は、ミュータントの社会的地位の保証と同時に、犯罪に走るミュータントを無力化させる技術を編み出すことになるのだ。
 ネルフにもしっかり、その技術が使われていることに、風間は、舌打ちした。
「あら? お仕事はいいのかしら? M機関の方。」
 プシュッと音が鳴って、通路沿いにあった扉の一つから白衣をまとった金髪の女性が出てきた。
 その容姿を見て、風間はすぐにこの女性が誰なのか思い出した。確か地球防衛軍がまとめたネルフの要人リストで一番重要な存在だと明記されていた…。
「赤木リツコ…。」
「まあ、私のことをご存知なの? 光栄だわ。」
 リツコは、悪戯っぽく微笑んだ。その美しく妖艶な表情に、風間は思わずたじろいた。
 年頃は、自分にぶつかってつっかかってきたミサトと同じぐらいなのだが、随分と雰囲気が違う。同じ女なのにこうも差が出るのかと風間は無意識に感心した。
「何か困った事でも? 私でよければ力になりますわよ。」
「……エヴァンゲリオンは、どこにある?」
 大人の女性の雰囲気が前面に出ているリツコが年下の風間にそう言うと、風間は、遠慮なく言った。
 するとリツコの雰囲気が変わった。表情も硬くなり、風間に向ける眼差しが鋭くなった。
「理由を聞かせてもらえるかしら?」
「確認したいことがある。見せてもらえるだけでいい。」
「…分かったわ。案内するからついてきて。」
 リツコは、背中を向けて歩き出し、風間はその後を追った。



 リツコと風間が通路の先へ進んでいった後、二人の後方にある通路の曲がり角から、そ~っと椎堂ツムグが顔を出した。

「風間くんは、仕事ついでの調査か…。尾崎みたいにお人好しじゃないから適任かも。あの方向…、赤木博士が見せるのは、参号機か…。零は暴走した後のまま放置だし、弐号機は絶賛修理中だし、五号機は未完成だし…、初号機は………、あっ! 忘れてた、俺の目的は、初号機だった! 俺の馬鹿! 機龍フィアのDNAコンピュータの接続で頭がボケたかな? まっ、いっか。急ご。」
 などと独り言を口走り地団太を踏んで、大急ぎで違う方向へ走って行った。


 一方では。
「あーもう! あいつ(風間)どこ行ったのよ、まったくぅ! ってここどこよ! 仕方ない…リツコに電話しよ。…………ちょっとぉ、電源切ってるってどういうことよ! リツコーーー!」
 薄暗い空間にミサトの叫び声が木霊した。




***




 リツコに案内されたエヴァンゲリオンの格納庫のハンガーにかかっている黒っぽいエヴァンゲリオン参号機の頭部を、風間は見上げた。エヴァンゲリオンは、LCLに漬かっているので頭部と肩の部分しか見えない。エヴァンゲリオンの全長は80メートルもあるので見えてる部分だけで十分すぎるほどでかい。
「これがエヴァンゲリオン・参号機よ。」
「さんごうき…。」
 見た目は、黒っぽい色を抜けば、角がない初号機といった感じだ。口の形や頭の造形は、初号機によく似ている。
 だが、形だけは似ていも、何か根本的な部分が初号機とは全く違うと風間は思った。
「もしかして他の機体を希望してたかしら?」
「いや、十分だ。エヴァンゲリオンを一度しっかり見ておきたかっただけだからな。」
「そう…。そういえば、あなた達は、第三使徒襲撃の時、初号機によじ登ってたわね。」
「パイロットを保護しろと命令されたからだ。」
「そう。あの子は元気?」
「それを聞いてどうする?」
「ただ気になっただけよ。…あんな方法で無理やり乗せたから。」
「…ふぅん。自覚はあったのか。」
 シンジに初号機に乗るよう誘導したことに少なからず罪悪感を持っているのを感じ取った風間は、目を細めてリツコの横顔を見た。
「レイのことも保護してるんでしょ? あの子、免疫が弱いから定期的な処方が必要だったんだけど、地球防衛軍の医療技術なら問題無わね。」
「単刀直入に聞かせてもらうぞ。」
 レイのことで少し感傷にふけるリツコに、風間がきつい口調で言った。
「エヴァンゲリオンは、使徒なのか?」
 風間の言葉に、リツコは答えなかった。それを風間は肯定と受け取った。
「…なるほどな。じゃあ、俺はそろそろ仕事に戻る。俺の要求に応えてくれたことには、感謝するぞ。」
「これぐらいなんでもないことよ。ねえ、言うこと聞いてあげたんだし、お礼に私の我儘聞いてもらえるかしら?」
「……なんだ?」
 急にニコニコ笑いだすリツコに、風間は思わず一歩後ずさった。

 数秒後、『いでぇ!』っという風間の短い悲鳴があがった。




 風間と別れたリツコは、それはそれはご機嫌な様子で研究室に戻ってきた。
 戻ってきて数刻せず、研究室の扉が開き、オペレーターのマヤが現れた。
「あの先輩、頼まれてた書類が……、あの、随分ご機嫌ですね? 何かあったんですか?」
「ええ。いい退屈しのぎができたの。ウフフフ。」
 リツコは、マヤから書類を受け取り、マヤが退室した後、白衣のポケットから、シャーレに入った毛髪を宙に持ち上げて顔を和ませた。
 この毛髪は、風間の髪の毛である。
「ウフっ、ミュータントの細胞に触れる機会が巡ってこなかったから大収穫だわ。それもピチピチの若いイケメン現役ミュータント兵士。最高だわ…!」
 リツコは、風間の髪の毛が入ったシャーレに頬ずりしそうなほど顔を緩ませて興奮していた。



「風間…、どんまい。」
 研究所の外の扉の横に立ってるツムグが、両手を合わせて風間を憐れんだ。
 ツムグは、この数秒後にまた目的を忘れていたことを思い出して、大慌てで移動したのだった。



 尾崎と音無の協力者として秘密裏にエヴァンゲリオンの視察をして、監査官の護衛の仕事に戻った風間。
 地球防衛軍の基地で異変を感じとって駆けつけてきた椎堂ツムグ。
 それぞれがそれぞれの理由で奔走している間に、異変そのものが動いていた。
 ネルフの中枢であるMAGIをリツコに悟られず支配し、本部全体に仕掛けられている対ミュータントの仕掛けを巧妙に操り、風間らに気付かれず行動した。
 ソレは、怪獣王の細胞を持つ椎堂ツムグの本能と直感をも騙すため、ネルフ本部の地下深くに隠された己に近いモノを利用した。
 そうすることで椎堂ツムグから自分の身を守るために…。
 ツムグが感じ取った異変の元凶は、自分が手引きして招き入れた反乱異分子がネルフの電力系統を落とす瞬間が来た時、最後の仕上げだと笑みを浮かべ、自分が収容されているドッグから抜け出し、地上を目指した。

 第三新東京のネルフ本部の真上では、ザトウムシのような形をした使徒、マトリエルが現れていた。




***




 マトリエルが出現したことで地球防衛軍の基地の本部は大忙しだった。
「あのバカは、どこで油を売ってるんだ!?」
 あのバカとは、椎堂ツムグのことである。
 正式ではないが機龍フィアのパイロットであるツムグがどこを探してもいない、いつもなら親しい人間が探すか、どこからともなく自分から来るかして機龍フィアに乗るのだが、今日に限っては姿が見えないのだ。
「だから奴のは監視を見直すべきだと進言したのだ! どうするのだ!」
「使徒は第三新東京の中心。つまり地下のネルフ本部の真上の位置に急に出現したらしいな、まったく…、使徒はどこからどうやって現れるのか分からん!」
「機龍フィアは、ツムグじゃなくとも操縦できる! 適当にパイロットを見繕って出撃させるしかない!」
「だが、G細胞完全適応者以外のパイロットについての機龍フィアの起動とシンクロ実験の成果は、まだ1割にも満たされてない! 例えミュータントのエースを乗せてもただの木偶だ! 自動操縦の方がまだマシだ!」
「なら自動操縦で行けばいいだろう!」
「そうと決まれば機龍フィアのDNAコンピュータのオートパイロットプログラムによる使徒の迎撃をせよと、ネオGフォースに指示を出せ!」
「よろしいですね! 波川司令!」
「ええ…。どこへ行ったの? ツムグ…。」
 ツムグがいないことで迷惑被っている司令部は大変だった。


 地球防衛軍が右往左往して、ネルフはネルフで停電事件が起こっている間。
 使徒マトリエルは、ザトウムシのような大きな足を折り曲げ、地面すれすれに体を降ろすと、下腹部の目玉のような部分から、ドロドロと液体を吐きだし始めた。
 液体は地面を溶かし、その下にあるネルフ本部を覆い隠す装甲を少しずつ溶かしていった。


「……地味だな。」
「地味ですね…。」
 前線に配備された地球防衛軍の前線司令部が、マトリエルの動きを見てそう言っていた。
 見た目のインパクトはある。虫嫌いは生理的に受け付けない見た目なうえに、何しろでかい。
 だが、今までの奴らの派手だっただけに(特にラミエル)、マトリエルの攻撃方法が溶解液だけなので残念な印象を持ってしまう。
「大変です!」
「どうした?」
 走ってきた兵士の一人が前線司令官達に言った。
「ネルフとの交信が取れません! どうやら本部の電力が落ちていて本部全体が停電状態にあるようです!」
「確か、本日は、監査官と護衛としてM機関の風間らがネルフ本部に行くことになってたと…。」
「つまり監査官も風間達も本部に取り残されているのか? なら余計にあの使徒を早く殲滅しなければ!」
「基地からの伝達です!」
 前線のオペレーターがヘッドフォンを片手で押さえて司令官達の方に振り向いた。
「椎堂ツムグが行方が分からず、地球防衛軍司令部は、機龍フィアをオートパイロット状態で出撃させる決定をしました! ですが、オートパイロットプログラムの起動がうまくいかないトラブルが発生しているとのことです!」
「別のパイロットを乗せないのか!?」
「ツムグ以外のパイロットでの起動実験では、現状の機能の2割程度しか使えないと聞いているぞ。そんな状態じゃ木偶人形と変わらん!」
「オートパイロットといい、G細胞適応者以外のパイロットの件といい、技術部は何をやっているんだ!?」
 前線も前線で大変だった。
「とりあえずあの虫みたいな使徒の攻撃を止めさせるために、メーサーをありったけ撃つぞ!」
 イスラフェルの時の経験でATフィールドを貫通できたメーサーによる攻撃が開始された。
 いくら攻撃方法が地味でも、地味は地味なりに地道に確実にネルフ本部を守る鉄板の束を溶かしている。ほったらかしていいわけがない。
 いきなり現れたこの使徒マトリエルもだが、それ以上に問題なのが…、ゴジラが来るのが時間の問題だということだ。
 マトリエルの出現位置と、出現してから現在までの時間はそれほど経っていない。ゴジラがまだ使徒の出現に気付いていないことを祈りたいが、サキエルやシャムシエルの時のことを思い返すとゴジラが使徒の存在を察知するまでそんなに時間はかからないようだ。
 今頃海の中を進撃しながら第三新東京を目指してるゴジラを想像しただけで、現場の人間達は汗が噴き出てくる。基地にいる人間では分からない、現場で実際にゴジラを目の当たりにした者でなければ分からない凄まじい緊張感だ。
 使徒マトリエルは、ゴジラが来るかもしれない危機感をまったく考えてないのか、そもそも考える頭がないのか、変わらず地味にボタボタと溶解液を出し続けている。
「なんなんだ、あの使徒は?」
 今までのヘンテコながら強敵であることを示してきた使徒なのに、その部分が今のところ見られないマトリエルの様は、違う意味で変な奴っという印象をもたせた。




***




 停電したネルフ本部の中を走り抜け、地下へ地下へと進み続けた椎堂ツムグは、ある場所で足を止めていた。
 そこは、セントラルドグマと名付けられた場所であり、ネルフが抱える最大の秘密を隠された場所だった。
 ツムグは、意図してここまで来たわけじゃない。寄り道し過ぎたのを反省して考えずに走って、はたっと気が付いたらここまで来ていたのだ。
「……やっちゃった。」
 誰もいないのに誰かに向かってテヘッと舌を出してふざけてみたりする。
 しかしふざけたところで現実は変わらない。
「あ~あ…、こういう秘密の場所には、ゴードン大佐や尾崎達が来るべきだろ。俺が来ちゃだめだろ…。ど~しよ、かな。……んん?」
 腰を落とし膝を抱えてどんよりしていたが、ツムグは、ふいに顔を上げて鼻をヒクヒクとさせて匂いを嗅いだ。
「この匂い……。あと気配。………やられた!」
 顔に怒りの感情を浮かべ立ち上がったツムグは、目の前にあるパスワードやら認証が必要な扉を蹴飛ばした。
 それだけで強固な扉は破壊され、ツムグは、激情のままに遠慮なく中に入り、片手を差し出して青白く発光する光で部屋を照らした。

 そこにある巨大な水槽の中を漂うのは。
 透けるような白い肌。
 青い髪の毛。
 赤い瞳。
 瑞々しい十代半ばの少女の造形。

 何人も。何十人もいた。

 お昼ご飯を基地の庭でシンジと一緒に食べていた、あの少女。
 綾波レイとまったく同じ姿形をした心を持たないモノが、水槽の中という限定された世界でただ生かされているだけの異常な世界がそこにあった。
 ツムグは、眉間に皺をよせ、もう片方の手で口を押えた。
「あの…野郎……! 同じ匂いと気配を持ってる“コレ”を囮にしたな!」
 ツムグは、天井を見上げて、自分を騙した相手に向かって怒りを露わにした。

 レイという存在は、初号機と同化してしまったシンジの母、碇ユイをサルベージしようとした時に出てきた偶然の産物である。
 使徒と人間の遺伝子の近親性が生んだ碇ユイの遺伝子と初号機の素体に使われた使徒の遺伝子が混ざって生まれた、使徒と人間のハイブリッドなのだ。
 ユイの遺伝子を持つため、科学的に見ればユイのコピーと言えるが、クローンのそれとは違う。
 水槽の中にいるレイ達は、最初に生まれたレイから作られ、増やされたコピーのコピーであろう。
 レイと違い水槽の中でしか生きられない脆弱な生命でしかないレイ達は、さしずめ取り換えがきくレイという存在の予備の器だ。ゲームに例えるとコンテニュー回数といったところだ。
 現在いるレイが死ねば、その魂は、このレイ達の中のいずれかに移り、レイは蘇生するというサイクルになっているのだろう。
 つまりネルフから離されて自殺を図ったレイが仮に自殺に成功したとしても、消えたいいう願いは成就されず、恐らく最低限の記憶だけ受け継いでそれ以外はリセットされるなりして、別人のレイとしてこの世に連れ戻されていたのだ。
 そういう意味では、シンジが勇気を振り絞って今いるレイに手を差し伸べたのは幸運だったいえる。
 恐らくレイは、死ねばこうなることを知らなかったのだろう。だから安易に自殺に走ったのだ。

「なんて…、酷いというか…、奇妙な運命だなぁ。」
 ツムグは、ゆっくりとした足取りで水槽のガラスに近づき、片手を添えた。
 ツムグの姿を認識した無垢なレイ達が水槽の中で漂い、泳ぎながらガラスの向こう側にいるツムグに純粋な好奇の目を向けてくる。そのさまはさながら人懐こい動物のようで、ツムグは、思わず微笑んでしまった。
「はあ…、ネルフの資金が最低限で、しかも停電状態でここだけしっかり稼働してるってことは…、シンジを捨てた馬鹿親父の独断だな。どんだけ奥さんに執着してんだ。子供を見習えよ。このまま放っておいたら、間違いなくあの子(※現在いるレイ)が暗殺なりで殺された場合ここに移るから…、ダメダメ、あかん、せっかく育ち始めた甘酸っぱい少年少女の物語にドロドロの臭いどぶのヘドロをぶっかけるなんてできるかぁ!」
 ツムグは、片手の発光を止め、ガラスに添えていた手を握り、握りこぶしを作った。
 ツムグは、暗くなった部屋の中で、水槽から数歩後退った。
 彼の赤と金の髪が青白く発光する。その光は全身に広がり、部屋を眩しく照らした。
「何が正しいかなんて、分からるわけない。けど…、これが……、俺の決意だ!」
 ツムグは、そう叫び、青白い熱線を纏った右腕を振りかぶった。

 熱線で焼き尽くされるレイ達を管理している水槽と、レイの基となる素材。
 地球防衛軍の技術力をもってしても再生は不可能なほど念入りに破壊した。
 ……ただしここで何があったのか、ここに何が隠されていたのかは、“カイザー”である尾崎が全力でサイコメトリーすれば分かるだろう。自分がレイ達を殺したことと、破壊した件についてはその時に話し合えばいい。
 人間の罪から作られた外では生きられない悲しき命達を独断で殺した事実は変わりないから。

「は~あ…、俺ってさ、人間でも怪獣でもない…。俺が“椎堂ツムグ”になったあの日が俺が俺だという記憶の始まりで、40年以上生きてて…、どうすればいいのか、どうなりたいか…、何にも決めてなかった。その場に勢いと気紛れで周りに流される適当な生き方してた。『おまえは、何も考えてないだろ?』っとか、『マイペースに気楽な人生送ってるな』っとか言われてきたけど、ずっと、ずっと…、考えてた。ゴジラさんの細胞を持ってるのに怪獣でもない人間でもない俺はどう生きればいいかって。何ができるんだろうって。だからどんな実験にも付き合ったし、機龍フィアを作る時だって、データ取りのためにゴジラさんと戦わされても俺にできることだからって思ってた。けど、なんか、足りなかったんだ。それがはっきりしないままズルズル来て、ここであの子の分身達を壊して殺して、俺は……、何かがカチッてはまった気がした。俺は、あの子に…、生きていてほしいんだ。せっかく築いたシンジとの絆…、幸せってものを掴んでほしいって…、俺なんかが親気取りしたってなぁ。」
 焼け焦げた地下プラントで、両手を広げたツムグがケラケラと笑っていた。
 その目からツーッぽたりと透明な滴が零れて焼け焦げた床に落ちた。
 G細胞完全適応者になる前の記憶がなく、怪獣でも人間でもない世界でたった一人の存在であるツムグは、マイペースに周りを振り回すお気楽なキャラクターを気取りながら心の内では、数十年のも歳月をかけても出せない自分自身の存在意義についての大きな悩みを抱えていたのだ。
 G細胞の爆発的なパワーもあり、“カイザー”である尾崎にすらその心の内に見抜かせなかった、隠し続けた本音。

 ネルフ本部の地下プラントにあった綾波レイのコピー達を殺し、レイが二度と歪んだ輪廻を繰り返させないようにし、レイの新たな人生のために力を尽くそう。
 それが、ツムグが自身の存在意義に繋がる決意の一つとなる。

「アハハハ、目に煤が入っちゃったかな? って、そういえば、肝心のアイツ! 初号機はどこだ!?」
 地下プラントの一部を破壊したツムグは、ゴシゴシと腕で涙を拭うと、瞬間移動のごとくその場から消えた。




***




 一方そのころ。
 大停電に陥ったネルフ本部内。
 今現在、加持は、とても気まずい気持ちで一杯だった。
 加持がなぜそんな気持ちで一杯なのか、少し時を遡る。

 自分に肘の一発を入れて風間を追いかけて行ったミサトの行方を捜していたら、ネルフ本部が暗くなった。
 非常時の時のために持っていた小型の懐中電灯を取り出して通路を照らした時。
 すごく見覚えがある頑丈そうな黒いブーツとジャンプスーツで覆われた足が目に入った。
 懐中電灯の光を下から上へ移動させたら、機嫌悪そうな若い男の顔が真っ直ぐこちらを見ている状態が分かった。
 ミュータントの能力ならこんな真っ暗な状態でも光も無しで普通に行動できる。現に加持の数メートル前の方にいる風間が暗い中で加持の存在を認識していた。懐中電灯で照らした顔がそれが真実だと物語っている。普通なら暗から明に急に変わったら咄嗟に目をつぶるなりして反応するものだが、ミュータントの、それも戦士として訓練された風間はまったく微動だにしない。恐らくそういう訓練もメニューとして取り入れられているのだろう。
「…か、風間少尉殿。どーされたんです?」
 顔が引きつりそうになりながら加持が言う。
「そんなことを言っている場合じゃないだろうが。」
 風間がますます機嫌を悪くしたと言う風に低い声で言った。
「さいですね~。いや~、何が起こったんでしょうね?」
 ここで黙ると後々頭が上がらなくなると踏んだ加持は、ごますりしそうなベタベタな態度で風間と会話を続けようとした。
「何も知らないのか?」
「いや~、自分、ここの職員じゃないんで。けど、もしかしたらメインの動力が落ちたのかしれませんね。今は、予備動力で本部そのものの維持はできてるはずですけど。」
「以前にもあったのか?」
「いいえ。今回が初だと思いますけど?」
「なるほど。」
「ところで、関係ない話になりますけど、風間少尉、葛城を見ませんでしたか?」
「誰だ?」
「…あなたに喧嘩を売った赤いジャケットを着た髪の長い女性ですよ。」
「会ってないな。」
「そうか…。」
 ミサトの奴、間違いなく迷子になってるなっと加持は心の中で結論付けた。
 加持がそう考えてると、風間が背を向けて去って行こうとした。
「あ、待ってくださいよ! どちらへ行くんです?」
「おまえは、ここで待つつもりか?」
「い、行きます! 行きますよ!」
 後で聞くことになるが、風間は護衛対象の監査官からの命令で大停電の中、無駄に広いネルフ本部の中で閉じ込められるなりして取り残されている人間を救出していたのだ。
 ネルフ職員は総司令のゲンドウを含めて最低限しか残っていない。職員ではない加持は範囲外なのだが、放っておくわけにはいかないので、避難場所に案内することにしたのだ。
 ちなみにミサトは、他のミュータント兵士が見つけて避難場所に運ばれていた。どうやら迷子のあげくこの停電で足を滑らして、手すりすらない通路から落下したらしい。結構な高所から落ちたというのに気絶だけすんだあたり、ミサトの頑丈さについて彼女はミュータントじゃないかと疑われたがミサトと腐れ縁なリツコが速攻で否定した。
「ミサトがミュータントなら、もっとマシに…、それにこんなところ(ネルフ)で腐ってないわよ。」
 っというリツコ。加持曰く、ミサトの友人らしいがミサトを酷評している。いつ知ったのか不明だがリツコは、ミサトが風間に突っかかったことに怒っていたため、こんなことを言ってるのである。
 まだ気絶してるミサトを睨むリツコに、何か清々しさすら感じた地球防衛軍から派遣された監査官と風間らミュータント兵士達であった。
「赤木博士。ネルフ本部の動力の復旧の目途は立っているのですか?」
 監査官が話題を変えようとリツコに言った。
「急ピッチで動力の復旧をさせていますわ。どうやら、ネズミが入り込んだようで…。」
「おや? 今のネルフを狙うとは、世間知らずもいたものですな。」
 権限を失ったネルフを軽く疎んじる発言をする監査官に、リツコはクスッと笑っただけだった。
「ええ。どこかの馬鹿な男のせいで随分と敵が多くて…。下の者…、つまり現場のことなどひとつも考慮しないのでほんと困っていますわ。」
「…そのこともペナルティとして叩きつけましょう。」
 リツコのため息交じりの愚痴に、監査官は同情し、手帳にスラスラとメモを書いた。
 監査官の対応にリツコは、笑顔で、ありがとうございます、っとお礼を言っていた。意外とこの監査官と気が合ったらしい。リツコを先輩と慕うオペレータの女性を焦られていた。
 しかしリツコが真剣な表情に変わり、不可解なことを口にした。
「ですが、おかしいのです。動力炉のような重要な場所にはそう簡単に入り込めるようにはしてませんでした。誰かが手引きでもしなければ…、絶対に入り込めるはずがないのに…。」
「ネルフが誇るMAGIでも感知できなかったっと?」
「そういうことは真っ先に感知するよう命令していたわ。停電が起こる直後までMAGIの定期検診を行っていた時、プログラムの一部が書き換えられていたのを見つけた。MAGIのプロテクトを越えてハッキングを行うなど、この地球上の人間の文明なら地球防衛軍が保有するスーパーコンピュータでもなければ無理だわ。」
「我々を疑っているのか?」
「いいえ。こんなことをしてもあなた方にメリットはない。先ほども言われましたわよね? 今のネルフを狙うなんて世間知らずだと。」
「確かに…、その通りだ。だとするならば他に容疑者に心当たりは?」
「残念ですが、まったく心当たりはありませんわね。せめてシステムが復旧さえすれば足跡を辿れるのですけれど。」
「それは、参りましたな。辛抱して待つしか……。ん?」
 その時、監査官の懐にある通信機が鳴った。
 監査官が通信機からイヤホンを伸ばして耳に差し込み、通信を繋げた。
 ノイズが十数秒ほどして、急にはっきりとした声がイヤホンから監査官の耳に届いた。
『おお! やっと繋がったか!』
「こちら、Y-81。通信状況は良好です。どうぞ。」
『そちらの状況を確認したい。何が起こっている?』
「現在ネルフ本部が大規模な停電状態陥っています。現在復旧を急いでいるとのことです。」
『停電? なるほど、そうだったのか。赤木博士はいるのか?』
「ええ。現在、避難場所にした場所に共にいます。」
『できる限り早くネルフ本部から安全に地上へ脱出する経路を確保してしておいてもらえるか? 現在地上では使徒が出現し、溶解液で装甲を溶かし本部を攻撃しようとしている。』
「使徒ですって!?」
 監査官が思わず声をあげると、リツコを始めとしたその場にいた面々が驚いた。
『まだゴジラは、来ていない。だが時間の問題だろう。しかもG細胞完全適応者が行方不明で機龍フィアが出撃できない状況だ。地上部隊が使徒を攻撃しているが、攻撃を少し妨害する程度で撃滅とまではいけない。』
「なんてことだ…。」
 監査官は、地上で使徒が現れていて、戦闘が起こっていることに愕然とした。
 監査官が口にした言葉から出た使徒という単語から、リツコは、現在使徒が第三新東京でネルフ本部を破壊しようと活動していることを見抜いた。
 そしてリツコは、監査官に進言した。
「監査官殿。私、赤木リツコが使徒の殲滅に協力させていただけませんか?」
「りっちゃん!?」
「先輩!?」
 リツコの言葉に加持とマヤが驚きの声を上げた。
「…どういうつもりだ?」
「言葉のままですわ。私は、ネルフで使徒の研究を続ける恐らくこの世界でもっとも使徒に精通した人間です。念のために言っておきますが、これは、私個人の言葉です。ネルフのためではなく、生き残る最良の道を開くために力を貸したいのです。」
「神に誓ってもか?」
「生憎と、神様は信じていません…。ただ、私はここで死ぬつもりはありません。死にたくないから戦うのです。」
 リツコは、一息置いて、しかし…と言い。
「私は拳銃程度しか使えない貧弱な研究者でしかありません。強い戦士の力が必要なのですわ。」
「ほう…? つまり私の護衛として来ている風間少尉達に戦ってもらいたいということかね?」
「その通りですわ。」
「っ…。」
 それを聞いた風間は、訝しげにリツコを見た。
 風間と目が合ったリツコは、笑ってウィンクをした。それを見た風間は溜息を吐いて腕組をした。
「命令なら、俺は構わない。」
「それでいいのか? 風間少尉。」
「怪獣を相手に白兵戦を行うことを想定した訓練を一日と欠かさず続け来た俺達が…、使徒ごときに負けるとでも?」
 風間がそう言うと、それに同調した護衛として来ていたミュータント兵士達が一斉に強い意志を宿した視線を監査官に向けた。ミュータント兵士達の迫力に監査官は思わずたじろいた。
「い、いや…、そんなつもりは…。しかし使徒への白兵戦はぶっつけ本番だ。何が起こるか分からない。」
「あんたが生き残ったら、上の連中にこう言え。『すべては、風間の独断だと』な。」
「な、それは…、風間少尉!」
 風間の肩を掴もうとした監査官の手を振り払い(手加減してます)、念のために持ち込んでいたミュータント部隊に支給される武器の入ったトランクを担ぎ上げ、風間はリツコの前に来た。
「それで? どうすればいい?」
「力を貸してもらえるの?」
「じっとしてるのも飽きたからな。」
「ありがとう。それで、監査官様はいかがされます?」
「……仕方がないですな。生きて外の空気を吸いましょう。」
「感謝しますわ。」
「先輩…、私達はなにをすればいいですか?」
「MAGIが使えない今は、あなた達にやれることはないわ。ここで待機してて。」
「分かりました。」
「そうっすか…。」
「そんな…。」
 日向マコト、青葉シゲル、伊吹マヤは、それぞれリツコの指示に違う反応をした。特にマヤは、リツコの手伝いさえできないことに落胆していた。
 リツコは、ネルフの主力のメンバーに指示し終えると、風間と監査官に向き直った。
「まず、監査官には、地上の状況と使徒の形状などを地上の地球防衛軍から聞いてもらえますか? 現在、地上と交信できる手段は監査官が持っているその通信機しかありません。どうか、お願いします。」
「分かった。こちら、Y-81。地上の戦況はどうなっている?」
 こうして地球防衛軍(ネルフに派遣された監査官と護衛のミュータント兵士達)とネルフの赤木リツコによる秘密の共同戦線が始まった。




 風間達が使徒殲滅のため共闘を始めてた頃。
 地下プラントから出て、初号機を探してネルフ本部の中を移動していたツムグは、自分の足元に転がる複数人の人間を見おろしていた。
「……反ネルフ組織の残党か。それも熱心な信者。匿名で送られた情報で動力炉まで侵入して停電騒ぎを起こした…。本当ならネルフ本部ごと爆破して自決するつもりだったわけか。よくあるテロリストのやり口だな~。でも実際にやってみたら動力炉を爆発させられず停電止まり。焦って、こうなりゃ物理的に動力炉を破壊しようとしてたところに俺が来て、今こうしてのびてるわけだ。」
 通路に転がるテロリスト達は死んでない。
 2、3日ほど意識不明で、目を覚ましても頭痛のあまりしばらくまともに動けない程度に超能力で精神と脳などの神経細胞にダメージを与えてやったのだ。さすがに熱線を使うと火傷じゃすまない。
 このテロリスト達が侵入した理由と動力炉の稼働を止めるまでの流れとその後のことをツムグが知ることができたのは、テロリストの一人を残して他の者達を昏倒させた後、残った一人をG細胞を持つ者である自分にしかできないゴジラによく似た威圧感と殺意を浴びせて脅迫し、失禁させ、白目をむいて泡を吹かせて隙のできた精神に割って入って脳の中を覗き見たのだ。それで分かったのが、先ほどの独り言の内容である。なお、その他もろもろのあんなことやこんなことも全部見えたのだが、関係ないので除外した。
 テロリスト達をその辺に転がしておいて、ツムグは、頭の後ろで両手を組んで歩きだした。
「さ~て、さてと。赤木博士と風間達の共同戦線か…。ゴードン大佐が聞いたらまた笑い転げるんじゃないかな。それにしても、赤木博士は、中々人を見る目はあるなぁ。……あの男の愛人ってのを抜けば。ま、元々お母さんの件で複雑な事情があってそういうことになったわけだし、今まで人生を捧げてきたネルフがこのありさまだし、愛想は完全に尽かしてるっぽいけど。あの人を地球防衛軍に勧誘する? ん~、それは、無理か。っというか、時期じゃない。赤木博士は、地球防衛軍よりネルフにいてもらう方がいい。」
 ツムグは、独り言を言いながら、ブラブラと歩いて行った。
 当初の目的だった初号機だが…、彼は、また完全に忘れており、この数分後に思い出してまた走り回るのだった。




 地上では、地球防衛軍とマトリエルとの戦いが続いている。
 戦いと言っても、一方的にマトリエルに対して地球防衛軍が砲撃を行いネルフへの攻撃を妨害しているだけである。
 マトリエルは、淡々としており、当たった個所によっては少しぐらつくも、多く長い足でしっかりバランスを取り、変わらず溶解液を吐きだし続けている。
 他の使徒のように、胴体の部分にある複数の目玉から発射するようなビーム兵器を使う様子もなく、本当に淡々としている。
 それが逆に気色悪い。
 淡々と、地味、だが確実に、マトリエルの溶解液はネルフ本部を覆い隠す装甲を溶かしていく。
 その時、マトリエルの胴体の斜め下辺りのハッチが開いた。

 メーサー銃を肩に担いだ風間と数名のミュータント兵士達がメーサー銃を構えた。そして斜めすぐ下からマトリエルの目に向かって、メーサー銃の引き金を引いた。
 放たれる閃光。そして潰れたマトリエルの目玉の一つからブシュッと大量の鮮血が噴き出た。
 マトリエルは、ギロリッと残った他の目で風間達の姿を捉えると、足の一本を持ち上げ、風間のいる場所を踏みつけた。
 しかし風間達は、マトリエルが足を振り上げてる間にさっさと潜り込み、その場から退散していた。

「この使徒のコアは、溶解液を吐きだしている目玉に似た部分の中心よ。それを潰せば使徒は殲滅できるわ。」

 風間は、仲間を率いて第三新東京の地下通路を走り抜けながらリツコの言葉を思い返し、別のハッチを開くと、再びマトリエルの目玉(溶解液を出している腹部の目玉じゃない)部分を狙ってメーサー銃を構えた。





 一方、地球防衛軍の基地では。
「ゴジラが東京湾内に侵入!」
「とうとう来たか…。」
「随分と遅い登場だが。まだ機龍フィアは起動できないのか!」
「オートパイロットプログラムの再起動とフリーズを繰り返しているとの報告が…。」
「あああああああ! 椎堂ツムグめ! 本当にどこへいったのだーーー!」
「ツムグ…。」

 ゴジラがついにマトリエルの気配を察知し、第三新東京に上陸するのが秒読み段階に入った。

 ゴジラとの対決で一番の武器であった機龍フィアが万全でない状況。
 ネルフの科学者赤木リツコとの共闘して使徒マトリエルを殲滅戦と白兵戦で挑む風間。
 初号機を探しして彷徨う椎堂ツムグ。


 彼らと、この状況を嘲笑うように、“異変”は、その時をジッと待っていた。 
 

 
後書き
序盤、ちょっとだけシンジ×レイの進展?

マトリエル戦は、風間をはじめとしたミュターント部隊の一部とリツコの共同戦線による戦いになります。

レイのクローンを、椎堂ツムグがすべて破壊しました。念入りに。
これで、レイは、現状のレイだけになりました。もう復活は出来ません。 
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