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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第四話  海の逃亡戦!

 
前書き
アスカ登場。

このネタでは、アスカの扱いが…非情にアレです。ファンの方は見ないことをおすすめします。 

 
警告!
 アスカと弐号機の扱いが悪くなってます!























 ネルフ・ドイツ支部に停泊している轟天号の客室で、金の長い髪の毛の少女がイライラと部屋の中をウロウロと歩きまわていた。彼女が身につけているワンピースは、薄汚れ、所々擦り切れたりしている。彼女の顔も掠り傷や汚れが目立つ状態だ。
 少女の名前は、惣流=アスカ=ラングレー。セカンドチルドレンに登録されている、エヴァンゲリオンのパイロットである。
 なぜアスカがイライラしているのか。そしてこんな姿になっているのか。
 その原因は時を少し遡る。


 アスカは、轟天号でエヴァ弐号機と自分ともう一人の人間を乗せてネルフ日本支部へ移送されることを、直前まで知らなかった。
 ついでに国連あらため、地球防衛軍にネルフがあらゆる権限を剥奪されて今やゴジラをおびき寄せるためのエサにされていることも知らなかった。
 地球防衛軍とゴジラのことは、様々な情報源から見知っていたが、地球防衛軍のこともゴジラのことも知らない若い世代であるアスカには、パッとしない情報でしかなく、自分は関係ないと思っていた。
 ネルフと、そして使徒とと戦えるエヴァンゲリオンのパイロットである自分の方が格上だという根付いた価値観がそうさせてしまったのだ。
 だからネルフがすでになんの力もなく、使徒の殲滅もゴジラがやっており、使徒を殺した後のゴジラを追い返すために地球防衛軍が戦うという流れができていると聞いたとき、信じられないと声を上げ、彼女の上官(ネルフ職員)に掴みかかったぐらいだ。
 アスカのその様子を見ていた轟天号に乗っていた地球防衛軍の者達は呆れて苦笑していた。チルドレンを特別視しない彼らには、アスカがただの気が強いじゃじゃ馬な少女にしか見えないのだ。
 それが余計にアスカの神経を逆なでした。苦笑していた地球防衛軍の者達に大声で罵声を浴びせたのは勿論、轟天号の見た目に対してドイツ語で散々文句を言ったのある。そしてこんなもので世界が救えるわけがないとまで言い、轟天号に乗る精鋭達やエンジニアの怒りを買った。おかげでネルフ・ドイツ支部の人間達は胃に穴が開きそうなストレスでこの後苦しむ羽目になる。
 大人達に睨まれ、ドイツ支部の彼女の世話をしていた職員達にも発言の撤回を求められてもアスカは、鼻を鳴らして手を腰に当ててそっぷを向いて反省も謝罪もしなかった。
 膠着していた状況を打破したのは、低い威厳のある男の声だった。
「おまえら! 仕事はどうした! さっさと終わらせねぇと日が暮れちまうぞ!」
「ハッ! 申し訳ありません、ゴードン大佐!」
 轟天号に乗る地球防衛軍の者達が一斉に声がした方を向いてビシッと背筋を伸ばして敬礼した。
 大股でブーツの靴底を鳴らしながら歩いてきたのは、大柄なガッシリ体系の50代ぐらいの超強面の軍人だった。腰には業物らしき日本刀がベルトに刺さっている。
 焦げ茶色のコートの襟に付けられたバッチから階級が大佐であることははっきりとしている。
 見た目もさることながら纏うオーラの次元が違う。そのため彼の登場にネルフ職員達も思わず彼に向って敬礼していた。
「なら、とっとと仕事に戻れ!」
「イエッサー!」
 地球防衛軍の者達は一斉に仕事に戻って行った。
「あんた、誰?」
「んっ? なんだこの小娘は?」
「こ、こら! 申し訳ありません、大佐殿!」
 ゴードンに向って敬語も何もなく誰呼ばわりしたことにアスカの傍にいたネルフ職員達が滝のような汗をかいて90度頭を下げた。
 ゴードンは、自分を不審な目で向けてくるアスカを見て、眉ひとつ動かすことなく、彼女の頭についている赤いインターフェースヘッドセットを見つけて、今回轟天号で運ぶことになっているエヴァ弐号機のパイロットの特徴と一致したため、なるほどと言う風に息を漏らした。
「な、なによ?」
「おまえがあのエヴァンゲリオンとかいう使い物にならないオモチャに乗らされてるガキか? なんだ、ただのションベン臭い小娘じゃないか。」
「なんですって!」
 エヴァ弐号機に愛着…、否、執着に近い誇りを持っているアスカにとって弐号機を貶される言葉は我慢ならないものだった。
 そのため彼女は、綺麗な黄色いワンピース姿なのも構わず上段蹴りをゴードンにかまそうと足を大きく振り上げた。しかしその蹴りはゴードンに足首を掴まれ、そしてひっくり返されてアスカは、そのまま固い床に転がされただけに終わった。
「くうっ!」
「中々いい動きをするじゃねぇか? だが、まだまだ未熟だな。俺を倒そうなんざ百万年早いぜ、白パンティーのお嬢ちゃん。」
「っ!! だあああ!」
 スカートのことも忘れて蹴りをしたのもあるが、ひっくり返されたことでスカートが思いっきりめくれて下着が丸見えになっていたことに気付いたアスカは、ゴードンの言葉で完全に我を忘れてゴードンに襲い掛かった。
 アスカは、幼い頃から軍事訓練を受けてきた。更にエヴァンゲリオンという世界の存亡に関わる重要な兵器に乗れるパイロットになれたことから、エリートであると自負しており、若すぎることもあって傲慢である。ネルフがまだ権限があった頃はちやほやされてきたが、今や彼女を守ってきた職員達は誰も彼女を守らない。
 いくら幼い頃から訓練を受けているとはいえ、アスカは14歳の少女である。歴戦の勇士であり、ゴジラや怪獣との戦いを経験した超ベテランであるゴードンとの実力の差はあまりにも違いすぎた。
 アスカの攻撃はすべてゴードンに軽く受け流され、何度も何度も床に転がされる。ゴードンは、呼吸を乱すことなく疲労もなく、その場から一歩も動いていない。ゴードンの強さに、アスカの訓練に立ち会ったことがあるネルフの職員は息を飲んだ。
 散々転がされてアスカは、四つん這いになってそれでも立ち上がろうとするが、生まれたての鹿のように足をもつれさせてへばってしまう。
「ゴードン大佐。エヴァンゲリオン弐号機の搬入作業が終了しました。…あの、何をされているんですか?」
「なーに、世間知らずのお嬢ちゃんにちょっとばかり世間の厳しさを教えてやっただけだ。お嬢ちゃんを轟天号に案内しな。」
「はっ」
 報告をしに来た部下に、ゴードンは、にやりと笑ってそう言うと、アスカに背を向けて去って言った。
 アスカは、ゴードンに手を伸ばそうとしてまだ戦いを挑もうとしたが、それは地球防衛軍の者に阻止され、疲労困憊で汚れた彼女は荷物のように運ばれていった。


 そしてアスカは、轟天号内にある客室に運ばれ、簡素なベットに寝かされた。
 アスカは、体の痛みが幾分か引いた後、無理やり体を起こして客室から出ようとしたが、客室の扉は外から鍵がかけられていた。
 出せと叫びながら扉を叩いたり蹴ったりしたが、誰もこない。
 これではまるで囚人扱いではないかとアスカは、悪態をついて、扉に最後に一回拳を叩いて部屋のベットに腰かけた。
 ややあって、ドアを叩く音がしてアスカがチャンス到来とばかりに立ち上がって攻撃するタイミングを図って扉に近寄った。
「やあ、アスカ。大丈夫かい?」
「か、かかかかか、加持さん!?」
 扉が開いて現れた人物を見て、アスカは飛び掛かろうとしていたのをギリギリのところで踏みとどまった。
「ゴードン大佐にケンカ売ったんだって? なんて無茶するんだ…。」
「だ、だって! あのオヤジ、あたしの弐号機のこと使い物にならないオモチャって…、それにあたしのことションベン臭いとか酷いこと言うんだもん!」
「なるほど…、それで挑んだのか。ゴードン大佐は地球防衛軍・最強っていわれてる有名な人で。肉弾戦で怪獣と戦うよう訓練されたミュータント部隊でも勝てないって言われるほどでな。ありゃもう人類最強だな。慰めてあげたいけど、現実を見なきゃダメだぞ? いまやネルフは、地球防衛軍がゴジラと戦うための疑似餌。エヴァンゲリオンを第三新東京の日本支部に集めるってのも地球防衛軍の上層部の決定なのさ。つまり世界のお偉いさん達が決めたことなんだから。」
「でも加持さん! 使徒はエヴァじゃなきゃ…。」
「もう三体の使徒がゴジラに殺されてる。地球防衛軍は、使徒をゴジラを呼び寄せる疫病神として見てる。あとエヴァもな。ゴジラは、使徒だけじゃなく、エヴァも破壊しようとしているらしいって話だ。」
「……ゴジラ…、ゴジラ、ゴジラゴジラって…! あんなでかいだけの黒トカゲがなんだってのよ! エヴァンゲリオンは、サードインパクトを阻止するために莫大な資金と年数をかけて作った最終兵器なのに、それをオモチャだの、エサだのなんて…、認められるわけないじゃない!」
 アスカは、髪を振り乱して喚いた。
 加持リョウジも、アスカの言い分は理解している。確かにエヴァンゲリオンを開発するためにかけられた費用も年数もシャレにならないものだ。それもすべては、サードインパクトを阻止し、世界の滅亡を防ぐためという名目で行われてきたことで、それに乗るために英才教育を受けてきたアスカは、エヴァンゲリオンこそ世界を救う鍵だと刷り込まれているまさに最良のパイロットだ。
 しかし現実はそんなアスカをどん底に突き落とすもので満ち溢れている。
 セカンドインパクトを乗り越えて復活した最強最悪の怪獣王ゴジラが第三新東京で第三使徒サキエルの右腕と肩を腕の一振りでもぎ取り、無様逃げようとしたサキエルを熱線で焼き殺し、そのあと初号機を破壊しようとした。間一髪で初号機は、新兵器・四式機龍コードフィアと地球防衛軍で活躍していた戦闘兵器と新たに戦力として育て上げられていたM機関のミュータント部隊によって守られ、ゴジラは海へ退散した。
 次に現れた第四使徒シャムシエルは、迫りくるゴジラに抵抗しようと鞭のようなものを振り回していたが、やがてゴジラの迫力と殺意に心が折れたのか抵抗をやめてしまい、あっさりと熱線で焼き殺された。この時の戦闘で機龍フィアがリミッターを一つ以上解除したためパイロットの椎堂ツムグが暴走して機龍フィアが機能停止に追い込まれる事態に陥ったが、ゴジラがなぜか見逃したため機龍フィアは回収され、修理と改良を加えられたり自己修復機能を身につけて万全な体制を整え、椎堂ツムグは、一時昏睡状態になったものの無事に回復した。
 第五使徒ラミエルでは、ラミエルはゴジラを遠くまで飛ばすほどの荷電粒子砲を発射し、ゴジラと地球防衛軍を驚かせたが、ゴジラのエネルギー吸収能力でラミエルの限界超える荷電粒子砲は吸収されて無効化され、最後には負担に耐え切れず力尽きたところを吸収したエネルギーを上乗せした熱線を流し込まれて、ラミエルは、派手に爆散した。その派手な爆発に巻き込まれたゴジラは無傷だった。別名、水爆大怪獣があの爆発で殺傷できたら苦労はしない…。
「アスカは、ゴジラどころか他の怪獣も知らない世代だから分からないのは無理ないさ。けど、すぐに分かる時が来る。もうそろそろ出発らしいから衝撃に気を付け…、っと、オットト!」
「きゃあ!」
 加持が轟天号の発進の時の衝撃に備えるよう言おうとした矢先に、足元がふらつくほどの大きな揺れが襲ってきた。

『エンジン機動! 轟天号、発進!』

 アナウンスと共にゆっくりとした浮遊感が二人を遅い、やがて浮遊感はなくなると機械が稼働する音が微かに聞こえるだけになった。
「あ~、びっくりした。もうちょっと警告を出してくれないと客が舌を噛むってあとで言っておいたほうがいいな。しかし、思ってたより乗り心地はいい、さすが地球防衛軍の技術の粋を結集させた万能戦艦・轟天号ってとこか。一体どんな仕組みになってるのか興味が湧くね。日本に着くまでに見学していっておくのもいいな。アスカも行くかい?」
「冗談じゃないわ! こんなドリルのついたダッサイ戦艦なんか見る価値なんてないわよ!」
「そうか? 轟天号は、セカンドインパクト前の核保有国の大国の全戦力を投じても勝てないほどの戦艦って言われてるんだぞ?」
「はあ? けど噂なんでしょ? 実際はそんなことないわよ、絶対。」
「地球防衛軍になる前の国連の軍事部門からの確かな情報だぞ?」
「絶対ぜ~~~~ったい大したことないわよ、こんなダサ戦艦! 使徒に襲われたら一発で撃墜されるに決まってるわ!」
「オイオイ…、そんなこと言ったら、今これに乗ってる俺達もあの世行き決定だって…。」
 二人がそんな会話をしていた時、突然緊急事態を告げる音が鳴り響いた。
「な、なに?」
「アスカがあんなこと言ったから、現実になっちゃったのかもしれないぞ…?」
「あたしがナニ言ったって言うの?」
「さっき言ったじゃないか。『使徒に襲われたら一発で撃墜される』ってさ。」
「あ…、あれは……。って、本当に使徒!?」

『緊急事態! 巨大な未確認生物が轟天号の真下を潜航中! 総員緊急配置につけ!』

「……アスカ、日本じゃこういうのをフラグが立ったって言うんだ。」
「あ、あたしのせいじゃないわよ! それより、この船の真下って…、この船どうやって移動してるの?」
「あれ? アスカ、そんなことも知らないのか。轟天号は今海の上を飛行してるんだ。つまりその下の海に使徒が現れたってことだろう。巨大な未確認って言ってたからゴジラじゃないのは間違いないな。」
「使徒が来たのは分かってるわよ! それよりも、この船って空飛ぶの!? これだけの質量と大きさでこんな安定した飛行ができるなんて…、セカンドインパクト前にこんな技術がもう確立されてたなんて信じられない。」
 アスカは、使徒が突然現れたことより、轟天号が飛行して移動していることと、その技術力が自分が生まれるよりもずっと前に確立されていたことに驚いていた。
 アスカが知らないのは、ゴジラが封印され、セカンドインパクトが起こってから轟天号をはじめとした対怪獣用に作られた多くの技術が解体されてしまったからだ。
 でも実際は、ゴジラの復活を椎堂ツムグが予言していたためそれに備えて表向きは轟天号や対怪獣用兵器を解体しということにして、地下に潜伏させていたGフォースに管理をすべて任せていたのだが。
「……それだけ怪獣の被害が凄まじかったのさ。」
 1900年代から遡って見ても、2015年までの間に人類は、凄まじい数の対怪獣用の技術をあみ出し、実戦に投与してきた。初代ゴジラを知る世代がまだ生きている間に轟天号のようなオーバーテクノロジーな兵器が登場してきたのだ。人類が争いをやめ、ゴジラをはじめとした怪獣の脅威に立ち向かうために一致団結した結果である。




***




 一方、轟天号の中枢。つまり管制室では。
「解析完了! パターンブルー! 使徒で間違いありません!」
 コンピュータで解析していたオペレーターが中央の席に堂々と座っているゴードンに報告した。
「…使徒は第三新東京に現れるんじゃなかったのか?」
 ゴードンは、思わぬ場所に使徒が現れたことにそう呟いた。
「現在、使徒は轟天号の真下にぴったりついてきています。今のところそれ以外の変化は見られません。」
「まさか、このまま一緒に第三新東京に行くつもりなんでしょうか?」
 副艦長が冗談交じりにそんなことを言った。
 使徒は、なぜわざわざ轟天号の真下にぴったり合わせて泳いでついてきているのか。そしてついてきていること以外に何もしてこないのが不気味だ。
「飛行高度と速度を上げてまきますか?」
「このまま様子を見ろ。」
「了解。飛行高度、速度をこのまま維持せよ。」
「風間。たぶん、奴が来るはずだ。頼むぞ。」
「Roger(ラジャー)。」
 轟天号の操舵手である風間が、鋭い目つきでモニターを睨みながら淡々とすごい良い発音でゴードンに返事を返した。
 このまま膠着状態が続くと思われたが、僅か数分後に新たな警報を知らせる表示が出た。
「艦長! 轟天号の後方から使徒以上の巨大な物体が接近中!」
「これは…、ゴジラです! ゴジラが海中から追ってきています!」
「なんだと!?」
 それを聞いた副艦長が驚きで目を見開いて叫んだ。
「艦長! この事態は、一体…。」
「ハッ…、そうきたか。」
「艦長?」
 副艦長がゴードンを見て指示を仰ごうとしたら、ゴードンはすでに何かを見抜いたかのように鼻で笑い、艦長の席の腕かけのところに頬杖をついて口元を釣り上げて笑っていた。
「真下にいやがる使徒は、これが狙いだった。自分を餌にゴジラをおびき寄せて轟天号とゴジラを戦わせて、漁夫の利を得ようって算段だな。」
「…そ、そんなことが……。あ、だからさっきからついてくるだけで何もしてこなかったということですか!? 艦長、指示を! このままでは、ゴジラは、使徒とエヴァンゲリオンを運んでいる我々を狙ってきます!」
「そいつも計算の内だろう。使徒にしてみりゃ俺達もエヴァンゲリオンも共倒れしてくれりゃこれ以上ない喜ばしい状況になるだろうからな。」
「熱源感知! ゴジラの熱線が来ます!」
「風間!」
「フッ!」
 ゴジラが海中を泳ぎながら背びれを光らせ熱線を海の上を飛行する轟天号に吐いたのを、風間が紙一重で回避した。
 熱線の余波が轟天号に伝わり船体が揺れた。
「ハハ…、マジでセカンドインパクト前より強くなったんだな、ゴジラよ…。」
 ゴードンは、慌てることなく、むしろ喜んでいるように口元を緩めながらそう呟いた。
 ゴジラの攻撃から逃げるため飛行速度が上がる。使徒もついてくる。
 ゴジラは、使徒より轟天号の方を先に撃墜しようとしているらしく連続で海の中から上空へ向かって熱線を吐き続ける。
 それを風間が眉間に皺を寄せて、時々唸りながら回避していく。風間は、尾崎に次ぐミュータント部隊のエースだ。それゆえに明らかに異常なまでの操縦テクニックを発揮する。ちなみに尾崎は、轟天号に兵器管制を担当しているのだが、今は尾崎が入院中なため別の者が担当している。兵器管制を任されるほどなので実力はあるのだが、この非常事態に汗をダラダラ垂らして兵器を発射するための幹を握る手が震えている。
 なお、ゴジラに撃墜される危機に瀕してる状況だというのに、風間は懸命に操縦桿を操作しながら兵器管制につかされた者を観察して、シンジを治療するために危うく死にかけて入院沙汰になってしまった尾崎に向って心の中で文句を垂れていた。基地に帰ったら真っ先に尾崎に入院沙汰になるようなムチャをしたことについて怒ってやると決めた。
 念のために、風間は今兵器管制を担当している仲間に不満があるわけじゃない、彼にとってライバル的な位置にいる尾崎が何日も入院してて訓練やそれ以外の仕事の時も張り合いがなく本人は無自覚にストレスを溜めているだけだ。
 日本まではまだ遠い。風間の操縦テクのおかげで直撃は免れているが、強化されたゴジラの熱線の余波は防ぎきれない。ゴジラの熱線を回避するごとに船が揺らされるため、船内にいる人間達に負荷がかかる。それに風間だって長くはもたない。このままでは消耗する一方だ。
 尾崎がいたらなら、ゴードンは、この状況を好転させるために上層部から怒られるのを承知でムチャクチャな作戦で攻撃をしていたに違いない。しかし残念ながら尾崎はいない。尾崎の代わりの兵器管制を担当している兵士を軽んじているわけじゃないのだが、いかんせん緊張のあまりガチガチになっているので、今後のためにも経験を積ませてやりたいところだが一歩間違えれば全滅は免れない。ゴジラがゴードンが知るゴジラ以上に強くなっていることも問題だ。そこは轟天号の最高責任者である自分の判断にすべてがかかっている。
 そしてゴードンは、決断した。
「全速力で海へ潜れ! 海底付近までだ。」
「艦長!? 何をするつもりですか? まさか使徒とゴジラを相手に…。」
「少し違うな。」
「はい?」
「エンジン全開! 潜水モードへ移行!」
「海へ突入します! 総員、衝撃に備えよ!」
 ゴードンと副艦長のやり取りが行われている間に、テキパキと優秀な船員達が轟天号を操作し、轟天号はエンジンをフル稼働させて全速力で船首のドリル部分から斜めに海へ突入しようとした。
 が……。突入態勢に入ろうとした時、異変が起こった。
「艦長! 緊急事態発生! 倉庫のハッチが開いています! 倉庫のモニターで確認できません! カメラ及びマイクが破損しています!」
「なんだと?」
「轟天号の電気系統に異常! かなりの電力が吸い取られています!」
「倉庫のハッチ……、電気をくう? まさか…。おい、客人共はどうした?」
 突然起こった異常事態に潜水を中止し、ゴードンは、客室にいるはずのアスカと加持の確認を急がせた。
 加持は客室にいたが、別室にいたアスカの姿がない。
 やがて外部カメラが倉庫のハッチから飛び出そうとする真紅の人型兵器の姿を映した。
「エヴァンゲリオン弐号機が、飛び出そうとしているようです!」
「クソッ! エヴァンゲリオンは、大量の電力の供給が必要だと資料で見ていたが、まさかあの少女が一人で休止状態エヴァンゲリオンを起動させるなんて…! この状況であの人型兵器に何ができるというんだ!」
 副艦長がアスカの暴挙に怒り、大声で叫んだ。船員達も口には出さないが、アスカの行いに副艦長に同意して怒った。
 ゴードンもこの事態に面倒だと言う風に頭を片手でガリガリとかいた。


 一方、轟天号の船員達にメッチャ怒られているとも知らず…、いや全然頭にないアスカは、起動させた弐号機で無理やりこじ開けた倉庫のハッチの端に手をかけた状態で膠着していた。
「うう…、なんて速度なのよ。倉庫にあったこの艦のワイヤーで繋いだから海の底に落ちるないようにしたけど、この速度で出たら宙づりで風で煽られてブラブラ浮いた状態になるだけじゃないのよ!」
 ゴードンを見返してやろうというアスカの思いが、身勝手極まりないこの非常事態を生んだのだが頭に完全に血が上ってしまっているアスカには状況を理解することができなかった。
 彼女は、轟天号から颯爽と弐号機で飛び出し、真下にいる使徒とゴジラを仕留めてからすぐに艦に戻りゴードンにエヴァが使い物にならない玩具じゃないことを証明しようとしたのだ。そうすればネルフの威厳も戻り、ネルフに権限があった頃みたいに彼女がエースとしてちやほやされていた頃に戻れると、簡単に考えていた。考えてしまった。
 しかし現実は、轟天号の飛行速度は彼女の想像を軽く上回っており、更に使徒の後ろには強化されたことで通常でも凄まじい威力がある熱線を海の中から轟天号に向けて発射し続けるゴジラがいた。
「それに…、さっきからこの揺れが…、あの使徒の後ろのから青い熱線…かしら。あの黒とかげ、この艦を落とす気? あんなの浴びたら確かにヤバイわね…。くっ! どうしたら…。」
『エヴァンゲリオン弐号機に告ぐ! 今すぐ倉庫の奥へ退避せよ!』
 轟天号からの無理やり繋げられた通信が入る。
「はあ? ここまで来て引っ込めるわけないじゃない! それよりも速度を少し落として! あたしが使徒とゴジラを仕留める!」
『なにを馬鹿なことを言ってる! 状況を理解しろ! 命令に従えないなら軍法会議にかけられるぞ!』
『こちら轟天号・副艦長だ! チルドレン・ラングレー! 貴様の勝手な行動のおかげで今は我々は危機に瀕している! 貴様の行動は、ゴジラを刺激するエサを増やしただけなのだぞ! っ、うあああ!』
「キャアアア!」
 副艦長がマイクに噛みつくようにアスカに怒鳴っていた時、熱線が轟天号の一部にかすり、その衝撃で弐号機は倉庫から外へ放り出されてしまった。そして釣りの餌のように宙づりになってしまった。
「さっきの衝撃で…! くうぅぅ、も、戻れない! 風圧が…。キャア!」
 アスカは、弐号機に括りつけた怪獣に引っかけて運べるぐらいの強度のあるワイヤーを手繰って轟天号に戻ろうとするが、轟天号の飛行速度から生まれる風圧と、轟天号を撃墜しようとするゴジラの熱線の衝撃で戻るに戻れない状態になってしまった。


 弐号機が宙づりになったことに、ゴードンと風間以外の船員達が顔を青くした。
 彼らの任務は、エヴァ弐号機を第三新東京に輸送することと、そのパイロットのアスカと、ネルフと元国連(いまは地球防衛軍)の関係者の人間である加持を運ぶことだ。
 このままでは、ゴジラに撃墜される以前に命令の対象になっているエヴァとそのパイロットが死ぬ。
 轟天号だけ助かるなら弐号機を迷わず切り捨てるところだが、命令なのでそうはいかない。
 この事態にゴードンが出した決断は。
「海に潜れ。」
「しかし艦長! エヴァンゲリオンが…。」
「頭に血が上った小娘の頭を冷やしてやるだけさ。ついでに二度とこんな真似する気を起こさせないようにお仕置きだ。」
「な、なるほど…。」
 ゴジラと使徒に追いかけれて、ゴジラに撃墜されそうになってる危機的状況を更に悪くしたアスカへの仕置き。
 14歳の女の子という免罪符はもうどこへやらへ吹っ飛んでいた。アスカはそれだけの問題を起こしてしまった。
 ゴードンとの付き合いの長い副艦長は、ゴードンのことだからアスカを死なせはしないというのを理解していたので素直に従った。
 そして轟天号は、潜水モードに移行し、エンジン全開で先端のドリル部分から海へ突っ込んだ。

「えっ? ちょ、ちょっと! 何する気よ! あたしまだ艦に戻ってな……、ああああああああああああああ!」

 弐号機に乗るアスカは、轟天号にワイヤーで繋がってるためそのまま海に引きづり込まれた。

 急にスピードが上がったため、使徒が轟天号のすぐ後ろの位置になった。
 弐号機は、ワイヤーで轟天号に引っ張られるままで、何もできない。
 シンクロ率によるフィードバックで水圧と轟天号のスピードで無理やり引っ張られる力に耐えるアスカは、歯を食いしばり目を固く閉じて耐えていたが、ややあってうっすらと目を開けた。
「ヒッ!」
 彼女が目にしたのは、鋭い牙が並んだ大きな口を持つ魚型の使徒と、使徒のすぐ後ろの方で追跡してくる、暗い海の中でもギラギラと目を光らせてこちらを睨みつけているゴジラの目だった。シンジのように狂乱して正気を失っていたならまだよかったかもしれない。しかしなまじ軍事訓練を受けているアスカは、肉体的にも精神的にもシンジよりも丈夫だったため嫌でも現実を突きつけられ現実逃避すら叶わない。
 アスカは、この時になってやっと弐号機で勝手に出撃したことを後悔した。

 轟天号が海中を潜航し、海底付近まで潜っていく間に使徒ガキエルは、轟天号に追いつき、弐号機など眼中にないと言わんばかりに、海底すれすれで轟天号の下に潜り込むと、轟天号の腹のあたりの外装の一部にその大きな口を開けて噛みついた。使徒の上には、丁度弐号機がある。
「使徒が轟天号の下部に噛みついてきました! 使徒は外装に噛みついたままです! 泳いでいません! どうやらコバンザメみたいに張り付いているようです!」
「自分もろともこの轟天号と心中するつもりか!? 艦長! このままでは、使徒もろともゴジラに撃墜されてしまいます! どうするおつもりですか!?」
「海底火山がこの海域にあったはずだ、そこまでお連れしな。」
「えっ?」
 それを聞いた船員達全員がいや~な予感がした。特に副艦長などはゴードンと轟天号で怪獣と戦った経験の持ち主であるため、ある怪獣との戦いの記憶が蘇って真っ青になりダラダラ汗をかき始めた。
「か、艦長…、それは…、それだけは…! 船員達はまだ怪獣との戦いの経験のない者達ばかりなのですよ! それに使徒にその戦法が通じるか…。え、エヴァンゲリオン弐号機の方もマズいのでは?」
「うるせぇ。今回は、戦って勝つんじゃない。逃げ切るのが目的だ。波川の奴も“傷一つ付けずに”とは言ってねぇし、炭になる前に終わるさ。」
「ああ……、あの子もこんなことをしなければ酷い目に合わずにすんだのに。」
 副艦長は、アスカを憐れんだが、ゴードンを止めようとはしなかった。
「間もなく、海底火山のエリアに入ります!」
「よし、海底火山に向ってミサイルを撃て。」
「えっ? …ら、ラジャー。」
 兵器管制を担当しているミュータント兵士がゴードンの命令に一回後ろの方にいるゴードンの方を見ようとしたが、なんとかこらえて、数発のミサイルを海底火山に向って発射した。
 ミサイルが着弾したことで海の底で赤々と燃え盛るマグマを噴出し続ける海底に亀裂が入り、海の底に灼熱のエリアが広がった。そこに使徒が引っ付いた轟天号が突入した。
 轟天号の真下は灼熱のマグマ。轟天号の下には、使徒。轟天号よりガキエルの方が熱で炙られている。
 ゴジラは、マグマなどものともせず追跡してくる。ゴジラは、その性質上熱に強いのでマグマなど屁でもないのだ。大体熱線の温度は90万度もあるのだからそれをバンバン吐きだしまくるゴジラが熱に弱いわけがない。ゴジラ撃退用の武器に冷却兵器がよく使われるのもこのためだ。
「船内温度60度突破! 冷却機器がオーバーヒート! 船内温度の上昇が止まりません!」
 オペレーターが血を吐きそうな勢いで叫ぶ。
「まだだ、進め!」
 慌てる船員(風間以外)達に、ゴードンが命令する。
 マグマの熱で炙られまくるガキエルが、身をよじり始めていた。白い体は炙られて所々黒ずみ、焼け焦げはじめていた。
「船内温度90度!」
「かんちょー!」
 普通の人間でもミュータントでもやばい温度に突入して、轟天号のシステム全体が悲鳴を上げるように火花があちこちで散り、蒸気が漏れたり、船員の中に熱にやられて席から倒れる者が出始めた。風間は汗を垂らしながら操縦桿を握りモニターを睨みつけて耐えている。
 マグマの熱で轟天号の船体が熱で赤く染まり始めた頃、ガキエルは轟天号の外装に噛みついてはいるがジタバタ暴れ始めていた。焼け具合ももはや表面だけ黒こげで中身は生焼け状態寸前の焼き魚状態だ。
 そしてついにガキエルが海の中で悲痛な鳴き声をあげて轟天号の外装から口を離した。そして一目散にマグマの熱から離れようと温度の低い方へ泳いで行った。
 追跡していたゴジラが、轟天号から離れて移動していく使徒の方へ針路を変えた。
「今だ、離脱しろ!」
 ゴードンの合図と共に風間が操縦桿を操って海底火山エリアから脱出するよう進路変えた。
 轟天号は、マグマの熱から逃れたことで海水で冷却されながら潜航を続ける。
 ゴジラと使徒ガキエルとは、まったく違う方向へ…。
「ゴジラよ…。戦いは次に持ち越しだ。次は正々堂々戦おうぜ。」
 轟天号からは、もう遥か遠くの方で、ガキエルに襲い掛かっているゴジラに向けて、ゴードンはそう呟いた。
 その間に、使徒と同様にマグマに炙られて黒くなった弐号機をワイヤーを巻いて引っ張り上げる作業が急ピッチで行われた。アスカは、気絶してたが使徒の体の上に弐号機があったおかげで丁度いい具合に熱を遮断したため弐号機は表面が焦げただけで済み、乗っていたアスカも熱中症を起こしただけで命に別条はなかった。ほとんど奇跡である。
 ゴードンとは反対に、頭を抱えている副艦長は、轟天号の損傷やらエヴァンゲリオン弐号機の報告を聞いて。
「あああああ…、またあの時みたいに波川司令にどでかい雷を落とされる…。」
 っと嘆いていたという。
 そして轟天号は、飛行モードに移行し、無事に第三新東京に到着するのだった。
 焦げた弐号機をネルフに渡し、意識がまだ戻らないアスカは病院に、加持はネルフに降ろされた。
 基地に帰った轟天号は、すぐさまドッグで修理され、乗っていた船員達の中に出た負傷者は医療機関に行き、ゴードンと副艦長は、司令部へ呼び出された。
 ゴードンは堂々とした態度を崩さないが、副艦長は汗をダラダラかいて上層部から下されであろう処罰に暗くなっていた。
 しかし上層部から言い渡されたのは、緊張でガチガチになってた副艦長を拍子抜けさせるほど軽い罰だった。
 轟天号に残っていたアスカが客室から逃げ出し、弐号機を勝手に起動させるまでに行った軍規違反の数々の証拠が二人に下される罰を軽くしたらしい。
 アスカは、秀才で14歳ですすでに大学を卒業しており、その能力は実戦経験の少なさを抜けばベテランの兵士や工作員に引けを取らないものだった。その能力ゆえに轟天号の客室の扉を回路を弄ってこじ開け、同じ方法で倉庫まで来ると、監視カメラなどの機器を壊してドイツのネルフ職員があらかじめいつでも起動できるようになっていた弐号機に乗って、電源ケーブルを轟天号に繋いで電力を盗み、怪獣用のワイヤーを弐号機に括りつけてハッチを破壊したのだ。
 轟天号のシステムと轟天号に乗る精鋭陣の目を掻い潜てここまでやったのだ。非常に有能な人材であるが、環境が彼女の傲慢さを増長させたためその優れた力のせいで危うく彼女自身の命と轟天号とその船員達を全滅させかけてしまった。アスカが回復したら兵士として徴兵されている彼女には相応の罰が下されることになった。
 ドイツのネルフ職員がいつでも起動できるようにしていたのは、アスカがもしもの時行動できるようにした彼女への気遣いだったらしいが、轟天号…、地球防衛軍側からしたらとんだ大迷惑だ。
 断りもなくいつでも弐号機が動けるようにしていたことについて、地球防衛軍は、ドイツのネルフ支部をしっかり処罰を下したそうだ。
 焦げた状態の弐号機を渡されたネルフ本部は、こっちはこっちで地球防衛軍に文句を言えず、雀の涙の維持費から修理費を捻出して弐号機の修理をしたとか。

 そんなこんなで、セカンドインパクト後、轟天号の初仕事となったエヴァ弐号機とアスカと加持の輸送は終わった。




***




 轟天号を破損させた罰で、独房で数日過ごすことになったゴードンは、簡素な格好でベットの上で刀を磨いていた。独房行きやら始末書などは、上層部を怒らせることが多い彼には慣れっこだった。
「お疲れ様ぁ~、ゴードン大佐。」
「なんだ…、おまえか。」
 独房の檻越しに椎堂ツムグがゴードンに話しかけてきた。ちなみに足音はしていなかった。
 ゴードンは、椎堂ツムグとの付き合いが長いので別に驚きはしない。
「聞いたよ。大変だったんだんだね? 折角のゴジラさんとの再会だったのにあの子のせいで台無しになっちゃって。」
 ツムグが言うあの子とは、アスカのことだ。
「なーに、奴と戦う機会はこれからまだまだ沢山ある。焦るこたないさ。」
 ゴードンは、ニヤリと笑って楽しそうにそう言った。
「それでこそゴードン大佐だね。ゴジラさんも轟天号と戦えなくて、残念がってたからそう言ってくれると俺も嬉しいよ。」
「ゴジラが? あの野郎、昔の戦いの続きをしてるつもりか。」
「たぶんそうだと思うよ。轟天号は、ゴジラさんが封印された時に最後に見た人類の武器だし。特に印象に残ってるんだ。」
「そうか。おい、ツムグ。ゴジラに言っておけ。あの時、テメーを氷の中に封印したのは、この俺だってな。」
「大丈夫だよ。言わなくたって、戦ってればゴジラさんがゴードン大佐のこと知るからさ。それに、ゴジラさんは、他のことで忙しいからたぶん地球防衛軍との戦いはしばらくそっちのけになると思うよ。」
「使徒か…。」
「あとエヴァンゲリオンもね。…ま、それだけじゃないんだけどさ。」
「どういうことだ?」
 ゴードンが立ち上がり、檻を間に挟んでツムグと向かい合った。
「そのことは、尾崎から聞くと良いよ。人間のことは、人間で解決した方がいいと、俺は、思うから。」
「尾崎が? あいつが何を知ってるってんだ?」
「ちょっとね。色々あって無理やりそうなっちゃっただけだよ。独房から出たら、尾崎と風間と美雪ちゃんが内密な話をしたいって来ると思うから、周りに気を付けてね。」
「ほう? そりゃよっぽどのことなんだな?」
「当り前じゃん。だってゴードン大佐は、尾崎達に信頼されてるんだよ。ねえ、ゴードン大佐、俺ね、どっちでもいいんだよ。人類がどうなろうと。でも、ちょっと気に入らないんだ。ゴジラさんの怒りはもっとものことだ。」
 ツムグは、そう言うと背を向けて立ち去って行った。
 残されたゴードンは、独房のベットに再び腰かけ。
「『人間のことは、人間で解決した方がいい』か…。誰だ? 誰が何を企んでやがる? 俺達を無視するほどゴジラを怒らせることをやったのは、誰だ?」
 ゴードンは、そう独り言を呟いた。
 そして彼は、静かに、静かに独房の中で時が来るのを待つ。




***




 風間は、普段の不機嫌そうな顔を余計に不機嫌にしてぶす~っとしていた。
「なあ、風間。いい加減、機嫌治してくれないか?」
「うるさい、黙れ。」
 あれから尾崎が退院してからというもの、風間はこんな調子だ。
 轟天号がエヴァ弐号機を輸送し終えてから、間もなく退院した尾崎が帰還したばかりの風間に顔を合わせにきたのだが、風間は何も言わず寮に帰ってしまった。
 それから顔を合わせるたびに機嫌が悪い~っというオーラ全開で、なのに不機嫌な理由を喋ろうとしないため尾崎も他の仲間も困っていた。
 悪く言えばお節介な尾崎は、風間が機嫌が悪い理由を聞こうと早足で歩く彼を追いかけてる。
「せめて理由を教えてくれよ。」
「言わない。」
「風間…。」
 このやり取りはもう何度もやっている。しかし頑なに風間は理由を話そうとしない。
 だが風間が機嫌が悪くなったタイミングが尾崎が退院して、帰還した風間に顔を合わせに来た時だったことから尾崎絡みのことで機嫌が悪くなっているのは間違いないのだが…。

「あいつには、少しばかり素直さが身に付くよう、尾崎の爪の垢煎じて飲ませてぇな。」

 っと、M機関のミュータント部隊の訓練と指揮をする士官である熊坂は不器用で素直じゃない風間についてこう独り言を言っていたとか。
 食事の時間を告げるアナウンスと音楽が流れたので、交代でM機関の食堂に行く時もぶす~っとしてる風間を追いかける尾崎の姿があった。
 尾崎は入院し、風間の方は尾崎の代わりとして仕事をするためにM機関の本部から離れていたため、二人とも食堂に来たのは久しぶりだった。
 そこで二人は思わぬ人物と出会う。
「シンジ君じゃないか!」
 給食着を身につけて食堂の調理場で働く大人達に交じって働いているシンジの姿を見つけて、尾崎は調理場の方に身を乗り出した。
「どうしてここに?」
「あ、尾崎さん…。あの…、その、えっと……。」
 シンジは手を止めてモジモジと手を動かして俯く。
「尾崎君、それは私が説明するよ。」
 シンジに変わって説明をすると出てきたのは、食堂で一番長く働いているおばちゃんだ。尾崎達がM機関に来た時からずっとお世話になっている一番の顔見知りである。親がいない仲間の中には、彼女を母親や祖母のように慕っている者もいるぐらいだ。
「この子はね、タダでここ(地球防衛軍)に保護されてるのが悪い気がするから、何でもいいから働かせてくれないかってお医者さんを通じて頼んだよ。それで、今人手が足りてないここ(食堂)でパートに入ってもらったわけ。」
「そうだったんですか…。でもシンジ君、体の方はもう大丈夫なのかい? 無理しちゃダメだよ。」
「もう大丈夫です。お、尾崎さんのおかげで…。」
 精神崩壊状態からの回復と、目覚めてから錯乱した時に優しく宥めてもらったことを思い出したのか、シンジは、微かに頬を染めて尾崎に頭を下げた。
 シンジは、はっきり言ってどちらかと言うと女顔な方であるため、14歳と若いのもあり、頬を染めて身を小さくするその仕草が女の子と錯覚しそうな可愛らしさがある。尾崎が恋人持ちだと知ってる大勢の人間がいるこの場所じゃなかったら確実に尾崎との間に何かあるという誤解が生まれて広まっていただろう。
 残念というかなんというか…、尾崎もシンジもどっちもそういうことに鈍いため全然そんなことに気づいてはいない。
 一方、風間は、シンジの治療の時に少しだけ死体みたいな状態だったシンジに精神感応を試みたっきりシンジを見ていなかったので、すっかり元気になったシンジをじーっと見ていた。
 シンジが顔を上げた時、尾崎の隣にいる不機嫌な顔をした風間が目に入った途端、少し固まり、数秒置いて顔色を悪くして慌てておばちゃんの後ろに隠れてしまった。
 そのシンジの反応に風間は片眉を吊り上げた。よく被災地の子供に避けられがちな風間は、子供に好かれにくいと自負していたが、シンジにそんな反応される心当たりがなかったので驚いた。
「…風間君、何かしたのかい?」
「何も…。」
 後ろにシンジが引っ付いたおばちゃんが、風間に向って目を細めて聞くと、風間は首を横に振った。
 尾崎は、顎に手を当てて、風間の横顔を見て少し考えた。
 そしてシンジの反応の理由に気付き、手を叩いた。
「風間、ちょっと来い。」
 尾崎は、風間の肩を掴んで調理場の方から離れた。
 そして顔を近づけて、ヒソヒソと話した。
 風間の機嫌悪そうな顔が、シンジの父親であるゲンドウの印象と重なってしまったんじゃないかということを。そしてシンジがゲンドウに何をされたのかを話した。
「シンジ君には悪気はないんだ。怒らないでやってくれ。」
「おまえは、俺がそんなことで怒ると思ってやがるのか?」
「あ、いや…別にそんなつもりじゃ…。」
「……悪かったな。」
「えっ?」
「おまえが子供一人を助けるのに死にかけたのを、まだ気にしてたってことだ。」
「風間…。」
 風間は、退院してきた尾崎と会ってからずっと不機嫌だった理由を話すと、照れ隠しで尾崎から素早く離れて料理を受け取る窓口に向かってズカズカと歩いて行った。
 尾崎は、風間の様子を見て、苦笑した。そして機嫌が悪い原因が分かってホッとした。結局自分に原因があったということだ。もっと言ってしまえば単純に心配されていただけだったということだ。
 風間は定食を受け取ると、わざわざ調理場からできる限り見えない位置の席に座って、しかも角度的に顔が見えないようにしていた。
 やっぱり風間は不器用なだけで、根は尾崎に負けない優しい奴なのだと尾崎は風間のことを再認識した。風間がわざわざそうしたのは、シンジのトラウマを刺激しないように気遣ったからだ。
 回復してからそう経ってないのでシンジがあんな反応をしてしまったのはやむおえなかったのだろうが、時間が経てば直るはずだ。シンジだってそのことは分かっているはずなので、風間にあんな態度を取ってしまったことを後悔しているだろう。
 あとで風間のことについてフォローしようと、尾崎は心の中で決めて、自分も料理を受け取って席についた。

 食堂の出入口で、こっそりと椎堂ツムグが覗いて、クスクス笑っていた。彼は、風間と尾崎が席について食事を始めて一分ぐらいでその場から立ち去った。




 シンジがM機関の食堂で働くことになって何日も経った頃、第三新東京に新たな使徒が出現する。
 新たな使徒、第七使徒イスラフェルの出現と戦いは、今までとは違う形で行われることになる。ある意味で第五使徒ラミエルとは違う意味で地球防衛軍に冷や汗をかかせることとなる。 
 

 
後書き
アスカの扱いに関しては、どうしてもそういう役が必要だったため、彼女にしてもらうことにしたためです。ファンの方申し訳ありません。

シンジが復活して、M機関の食堂で働くことになりました。本人の強い希望です。
シンジが尾崎に懐きますが、変な意味はありません。お兄ちゃんに懐く弟みたいなもんです。

あと、椎堂ツムグは、覗き常習犯。 
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