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ゴジラ対エヴァンゲリオン(仮)

作者:蜜柑ブタ
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第三話  使徒の反撃!

 
前書き
使徒ラミエル編。

使徒だって、やられてばかりじゃないぞという回? 

 
 機龍フィアが機能停止になったが、椎堂ツムグの細胞によって自己再生能力が付き、ほとんど人の手も、費用も掛からず万全な状態で次の使徒襲来でやってくるはずのゴジラに備えることができた。

 地球防衛軍では、使徒はただゴジラに蹂躙されるだけの怪獣にも満たないが人類にとっては脅威に他ならない正体不明の生命体という認識だ。
 使徒の研究を第一線で行っていたネルフに使徒についての資料の提供を呼びかけたが、赤木リツコがゲンドウとゼーレからの命令でMAGIのプロテクトで何百ものガードをさせたため、資料を出すことができなくなっていた。
 頑なに彼らが極秘と定めているデータを地球防衛軍に渡したがらない態度に、地球防衛軍の上層部は、こめかみをピクピクさせて漫画なら沢山の怒りマークがつくほど怒った。
 だが現状では使徒の情報を握るのは、ネルフにあり、あらゆる権限を失った彼らにとって、使徒の情報はいわば自分達の残命のための人質に他らない。
 地球防衛軍とて何十年もゴジラや怪獣、その他過激派組織と戦った歴戦の強者だ。彼らの目から見て、新参者に過ぎないネルフが、どこまで使徒の情報を盾にして強勢を張ることができるか見ものである。




***




 地球防衛軍の管理下にある病院に、一人の少女が入院していた。
 青い髪の毛に、赤い瞳。それだけで普通じゃないことが分かる外見の美少女である。
 彼女は、まだ包帯が取れていない体を起こして、病室の窓の外を眺めていた。
 彼女の名は、綾波レイ。
 ネルフの最終兵器エヴァンゲリオンのパイロットであるファーストチルドレンである。
 彼女は最初はネルフの病院にいた。
 しかしネルフが権限を失って、経費も維持費だけしかもらえない有様になったことで、ネルフが管理していた病院などの施設もすべて地球防衛軍に徴収されたのだ。
 病院が徴収されたことで患者も地球防衛軍の管理下にある病院に移されることになり、レイもその中に入っていた。
 レイは、ただ無表情のまま窓を眺めている。
 地球防衛軍の管理下にある病院に移る時、レイがファーストチルドレンであることを国連の人間が言ったため、レイには、ネルフの現状と、ゴジラのことと、地球防衛軍のことなどをすべて説明した。
 表情の変化も乏しく、感情も薄い彼女が大きな反応を見せたのが、エヴァンゲリオンがゴジラに破壊される対象なっているため、地球防衛軍としては今すぐに破棄してしまいたいという意見が出ているという言葉が説明をしていた職員の口から出た時だ。
 人形のような印象の少女がはっきりとした意思を示したことに、説明した職員が訪ねた。なぜエヴァンゲリオンが無くなるのを恐れているのかを。
「…絆だから。」
 レイは、小さな声でそう答えただけだった。
 詳しい事情を聞きだそうとしても、レイは、黙秘しますと淡々と答えるだけで何も語ろうとはしなかった。
 レイの経歴が抹消されていることについては、すでに地球防衛軍側に知られている。
 彼女の治療にあった医師は、念のため彼女の血液と細胞の一部を研究機関に送り検査を依頼した。
 そして提出された結果は、99.89%までは、人間の遺伝子と合致するという奇妙な結果だった。
 残り0.11%の差はなんだ?っという疑問が湧くのは当然である。
 使徒についてに研究していないが、最初の地球防衛軍が結成されてから、解散、再結成までに培われた怪獣の研究とその技術が僅か時間でレイがただの人間ではないことを解明させた。
 レイは、青い髪がその僅かな人間の遺伝子のと差異である未知の部分によるものだとしたら、レイは、ネルフが何かしらの人体実験によって弄られたか、一から作られた人造人間である可能性がある。もしそういうことなら、経歴が白紙なのも説明がつく。
 レイが黙秘を貫くのもマインドコントロールによるものか、あるいは自分のことを他人に教えたくないという自己防衛なのかは、分からない。
 レイの件についてネルフに問いただすべきではないかと、医療機関と研究機関が上層部に報告し、ネルフへの聴取を頼んだ。
 上層部は、レイについての報告書を見て、ネルフが隠している使徒との関連を疑い、極秘でレイの細胞と、第三新東京でゴジラに瞬殺、熱線で燃やし尽くされた使徒の残りカスのサンプルとの照合と調査・研究を行うよう、医療・研究機関に命じた。
 レイのことを突き出したとしてもネルフが固く閉ざした口を開くとは到底考えられなかったというのが上層部の答えだった。
 病室にいるレイは、自分の置かれた立場を知ってか知らずか、それとももう諦めてしまっているのか、ただそこにいるだけだった。脱走をするわけでも、自殺に走るわけでもなく、ただ生きているだけだった。
 レイの体から包帯が取れる頃になって、三体目の使徒が第三新東京に現れた。




***




 その使徒は、なんというか、すごく、シンプルな見た目だった。(前の二体がアート過ぎた。でもこっちはこっちでアート)
 日の光を浴び、ガラスのような光沢を持つツヤツヤの表面。美しい完璧な線で象られた形。目もないし、口もない。手足もない。これが生物に見えるかと聞かれたらほぼ全員が否と答える見た目だった。
 巨大な青い正八面体が無重力で宙を舞い、第三新東京を目指してゆっくりと飛行する様は、前回の使徒とは違う意味で不気味だ。(シャムシエルは、空から飛来してきた)
「使徒というのは、実にバラエティー豊かなんだな。」
「こんなのがあと十匹以上はいるって言うんだから、怪獣とどっちがマシなんだか?」
「人類の敵に使徒も怪獣も関係ないだろ。同じ人類が人類の敵になる方が怖いぜ。」
「無駄口はそこまでにしろ! 東京湾にゴジラが現れた! 総員! 配置に付け!」
 第五使徒ラミエルの襲来と共に、ゴジラが第三新東京に上陸するべく東京湾から現れた。
 きっとこのヘンテコなシンプルイズベストみたいな使徒も、ゴジラに瞬殺されて終わるんだろうな…っと、地球防衛軍の者達は考えていた。前に来た二体の使徒がなすすべもなくゴジラにあっさりと殺されていたのだからそう考えるのも仕方ない。ゴジラの規格外ぶりは、地球防衛軍を支えるゴジラと戦ったことがあるか、ゴジラがもたらした被害を目で見て体験したベテラン勢が嫌と言うほど分かっているからだ。

 しかしその安直になっていた思考が、覆されることになるとは、誰も想像していなかった。

 第三新東京の上に来たラミエルは、移動速度を緩め、やがて止まった。正八面体が宙に浮いたまま静止している様は、これはこれで不気味だ。
 第三新東京が揺れ、ゴジラの雄叫びが木霊する。
 すでに住民をすべて他県へ避難させ、いるとしたら地下にあるネルフ本部にいるネルフ職員達だけの第三新東京に、遠慮なくゴジラが進撃して来た。
 ゴジラは、武装ビルの瓦礫を踏み終え、蹴り飛ばしながらまっすぐラミエルへと突き進んでいく。
 ラミエルに動きはない。早くもゴジラに殺されるのを受け入れてしまったのか、とにかく変化がない。
 しかしゴジラとの距離が数メートルという目と鼻の先に迫った時、変化が起こった。
「使徒に高エネルギー反応!」
「なんだと!?」
 ゴジラと使徒を観察していた地球防衛軍の前線司令部のオペレーターが機械の表示の変化に気づき叫んだ。
 そして間もなく、使徒ラミエルの角の部分からゴジラの熱線に負けない凄まじい荷電粒子砲が発射され、ゴジラの胴体に着弾した。
 ラミエルの見た目からは想像もできなかった予想外の大火力の攻撃に、発射された直後ゴジラは驚いて目を見開き、接近し過ぎていたこともあり避けることもできず荷電粒子砲を胸と腹の間にもろに喰らうことになった。
 ゴジラの巨体が、超重量の体が、ゴジラの苦痛を訴える雄叫びを残しながら荷電粒子砲で一気に後ろへ飛んでいった。
 そしてラミエルが豆粒に見えるぐらいの距離までゴジラが荷電粒子砲で飛ばされていったところで、やっとラミエルは、極太で大火力の荷電粒子砲を発射するのを止めた。
 ゴジラは、地面にうつ伏せに倒れ、顔をめり込ませて呻きながら身をよじっていた。
 この光景に、起こった出来事に、誰もが言葉を失い、愕然としていた。
 ゴジラになすすべもなく殺されるしかないと思われていた、ゴジラに劣る奇妙な生命体の使徒が、まさかゴジラを痛めつけるほどの攻撃力を発揮してゴジラを攻撃したのだ。
 それも地球防衛軍のどの兵器でも実現できないような100メートル級の怪獣を一撃で遥か遠くに飛ばすほどの荷電粒子砲で…。
 過去見た目からは想像できない攻撃力を見せつけてきた様々な怪獣と戦い続けていたはずの地球防衛軍のベテラン勢は、敵を見た目で判断してはいけないのだという初歩中の初歩のミスを猛反省した。
 やがてゴジラが、むくりと起き上がると、ラミエルの角の部分、つまり荷電粒子砲の発射口が光った。
 次の瞬間には、再び荷電粒子砲がゴジラの、それも頭に着弾し、ゴジラの体が地面に転がされた。これによってまた距離が離れた。
 その後、ラミエルは、ゴジラが起き上がろうとするたびに、荷電粒子砲を発射し、ゴジラを転がすという作業を延々と続けた。
 ラミエルのしつこい攻撃の仕方を見た地球防衛軍の前線指揮官は。
「今まで虫けらのように殺された仲間のための復讐か?」
 ラミエルは、前の来た二体の使徒の無念を晴らすかのように容赦なく自慢の荷電粒子砲でゴジラに反撃の機会を与えずに攻撃を続けている。
 まるでゴジラしか眼中にないような…、いやゴジラを放っておいたら自分が何かする前に容赦なくゴジラに殺されるからゴジラに集中するしかないのかもしれない。
 それにしてもあれだけの大火力の粒子ビームを発射し続けているのに、ラミエルに変化はない。攻撃力も落ちない。
 これは、ネルフから言わせれば使徒が持つS2機関という永久機関によるものなのだが、地球防衛軍はそれを知らないため、ゴジラを攻撃し続けるラミエルを固唾をのんで見守ることしかできない。
 戦闘に介入しないのは、ゴジラが使徒を殺してからゴジラを追い返すなり、あわよくば倒すためである。地球防衛軍にとって、使徒は人類の敵という見方よりも、ゴジラを地上へ上陸させてしまう原因の一つとしてしか見ていない。
 だからラミエルがまさかここまでゴジラを追い詰めるほどの武器を持っていたとは考えていなかった。
 ネルフが実権を握っていた頃、彼らがなぜ使徒を危険視していたかという理由を今になって彼らは理解した。
 もしかしたら使徒は、怪獣以上の敵になりうるかもしれない。怪獣と戦ってきたベテラン勢は、その最悪の展開が起こる可能性に嫌な汗をかいた。


 しかし、しかしだ。
 ラミエルが相手をしているのは、ゴジラだ。


 地球防衛軍を、人類を長年苦しめ、敵対したたくさんの怪獣達を葬り、南極に封印するまで終わりが見えない戦いを繰り広げてきたゴジラだ。
 強力な荷電粒子砲でゴロゴロ転がされているだけですみはずがないのだ。今まで地球防衛軍だけじゃなく、様々な怪獣を相手に時に苦戦を強いられながら勝ち抜いてきた(たまに怪獣がタッグ組んだり、未来人が介入したりしてゴジラを海に封印したりしたのはノーカウント)。その怪獣王が黙ってやられたままでいるはずがないに。
 ゴジラが、再び上体を起こした。するとまた荷電粒子砲が飛んできた。
 しかしゴジラは、荷電粒子砲が頭に着弾しても怯まず、転がることもなく、ゆっくりと立ち上がった。
 ゴジラを転がすために発射された荷電粒子砲は、すぐに止まる。
 ゴジラは、ただでさえ鋭い目を、さらに鋭く、目を怒りの炎を宿したようにぎらつかせ、ラミエルの方をぎろりと睨んだ。はるか遠くにいるラミエルは、豆粒より小さく見えるぐらいの距離が離れているがゴジラの目は真っ直ぐラミエルを睨みつけていた。
 立ち上がったゴジラは、今日一番の大きな雄叫びをあげ、ラミエルに凄まじい勢いで進撃していった。
 ゴジラが荷電粒子砲を浴びても怯まず、起き上がったことに驚いて固まっていたのか、ラミエルは、ゴジラが自分のところへ向かってきたからやっと現実に戻ってきたらしくエネルギーを集中させた。
「使徒のエネルギーが更に上昇! 最初の粒子砲以上です!」
「使徒に限界はないのか?」
 前線指揮官は、報告を受けて、そう呟いた。
 ラミエルが、ゴジラを最初に吹き飛ばした以上の荷電粒子砲を発射した。
 ゴジラは、それを真っ向から受けた。しかし吹き飛ばされることなく、歩みは止まらない。凄まじいエネルギーの熱がゴジラの体を焼き尽くさんと手加減なしに浴びせられているのにゴジラは怒りのままに進撃を続けるだけだ。
 ゴジラがラミエルの攻撃にまったく怯まなくなったことに状況を見ていた地球防衛軍は、怪訝に思ったが、ゴジラのある特性を思い出すことであっちらこちらから大変なことを忘れていたことを思いだしたという叫び声があがったという。

 ゴジラの特性。それは、あらゆるエネルギーを取り込み、自分の物とする能力である。

 ゴジラは、自分の力の源である放射能を摂取する以外に、この能力で一時的なパワーアップや回復を行い、様々な怪獣に勝利してきた。
 地球防衛軍の兵器の攻撃を受けても吸収はされないので、ゴジラがその気にならなければできないことなのだろう。もしくは、緊急時の一か八かの賭けという部分が強いのかもしれない。
 ラミエルは、外見から見て分かるが荷電粒子砲以外に攻撃手段がない。唯一のその攻撃を逆利用される状況に陥ってしまったら、もう……打つ手はない。
 しかしそれでもラミエルは、荷電粒子砲を発射し続ける。
 他の二体のように逃げようともせず、諦めもせず、ゴジラに挑み続ける。
 ゴジラへの反撃は、終わった。終わってしまったのだ。
「…っ、これは、使徒のエネルギーが下がっていきます! この状態だと、あと一、二分ほどで粒子砲は止まると思われます!」
「そうか…。根競べでも使徒は、ゴジラに勝てなかったか…。あのゴジラを少しだけでも反撃させる暇も与えず転がし続けられたのは、驚嘆に値するぞ。使徒よ…。」
 機械に表示された使徒のエネルギーの量が急激に下がり始めているという報告を受け、指揮官は、どんどん細く弱くなっていく荷電粒子砲を発射し続けるラミエルと、ラミエルのエネルギーを喰らいながら背びれを凄まじく発光させつつラミエルに近づいて行くゴジラの光景を眺めながらそう言った。
 そして、ゴジラが目と鼻の先まで近づいた時、ラミエルの粒子砲は発射口の角から消え失せた。発射を止めたのではなく、力尽きて。
 途端に宙に制止していたラミエルがグラリと傾き地上に落ちそうになった。それをゴジラが掴み、粒子砲を発射していた角の部分に熱線を溜めた口を開けて噛みついた。
 そしてラミエルの中に、ラミエルから吸収した荷電粒子砲の分を倍にして返すぜと言わんばかりの熱線が注ぎ込まれ、ものすごい速度でラミエルの表面に白く光るひび割れが走り、正八面体が粉々に砕け散る直後、ゴジラを巻き込んだ凄まじい爆発が起こった。
 やがて光は収まり、爆発による煙の中、立っていたのは、黒い巨体。ゴジラだけだった。ラミエルの残骸は残っていない。恐らく燃えカスすら残らず死んだのだろう。
 呆然とする人間達を正気に戻したのは、ゴジラの雄叫びだった。

「機龍フィアの投下を命令する! 地上部隊、メーサータンクでゴジラを攻撃し、機龍フィアを援護せよ!」

 前線指揮官の命令により、地球防衛軍とゴジラの戦いが始まった。




***




 使徒ラミエルがゴジラに反撃したことと、ゴジラに超強力な荷電粒子砲を撃ち続けることをやめず、最後には力尽きるまでの姿に驚いているのは、地球防衛軍だけではない。
 地球防衛軍が復活するまで使徒戦において最後の砦であったネルフだ。
「S2機関を持つ使徒が…、力尽きた…。」
 一番驚いているのは、司令部で地上の状況を観察していた赤木リツコであろう。
 彼女は、あまりのことに足から力が抜けてへたり込んでしまっているほどショックを受けていた。
 使徒は、S2機関という永久機関を持つため疲れ知らずであるはずだ。なのに使徒ラミエルは、力尽きた。
「先輩…。」
 マヤがへたり込んでいるリツコを心配して声をかけた。
「いいえ、…違うわ、力尽きたんじゃない。エネルギーを高め過ぎた荷電粒子砲を休みなく発射し続けたことで使徒本体に負荷がかかり過ぎてしまっただけだわ。休息さえすれば使徒は再び荷電粒子砲を撃てたはず。けれどそれは叶わず、ゴジラに喰われた荷電粒子砲のエネルギーを加えた特製の熱線を内部に叩き込まれて殲滅…。使徒にも負けると分かっていも、最後までもがく意思があるというの?」
 ラミエルがゴジラに荷電粒子砲が効かないと分かっていても発射し続けるのをやめなかったのは、意地があったからか、あるいはラミエルが完全な戦闘マシーンで敵と判断した相手を倒すまで死んでも戦い続けるようになっていたか、真相は不明である。
 荷電粒子砲を発射し過ぎて一時的に(リツコ曰く)力尽きたせいか、ATフィールドすら出ていなかった。もしかしたら気絶していたのかもしれない。
 しかし、前の二体の使徒がなすすべもなく、シャムシエルに至っては死を受け入れて殺されたことを考えれば、ラミエルは、凄まじい勇士であった。
 そして長い間、人類を苦しめ続け、やっとのことで封印して、セカンドインパクトで死んだかと思ったら前より強くなって復活、何かを目的にして使徒とエヴァンゲリオンを破壊せんと第三新東京に現れるようなった怪獣王ゴジラ。
 ゴジラと人類の戦いの歴史をまとめた資料を見れば、ゴジラは、人類(地球防衛軍)だけじゃなく、様々な怪獣と戦ってほとんどの場合勝っている(未来人のメカキングギドラで海に運ばれたとか、モスラの幼虫に糸で雁字搦めにされたあと3式機龍と海に沈んだとか、モスラとバトラのタッグがゴジラを海に運んだとか)。
 エネルギー吸収も怪獣との戦いで何度も披露されており、それが決め手となって勝利しているケースも幾つもある。
 セカンドインパクト前のゴジラなら吸収しきれずラミエルと痛み分けで終わっていたかもしれない。しかしラミエルは不幸なことにセカンドインパクトを生き延びたせいかパワーアップしたゴジラを相手にしなくてはならなくなった。それが永久機関を持つ使徒であるラミエルの敗因であろう。
「真に恐れるべきは、今も昔もゴジラ…、なのかしら?」
 ヨロヨロと立ち上がり、椅子に座り込んで額を抑えたリツコは疲れたようにそう言葉を吐いた。
「リツコ、リツコリツコーーーー!」
 そこへドタバタと走りこんできたのは、葛城ミサトである。ネルフとエヴァが戦えなくなってから必要なくなった作戦部の部長である。連絡があるまで自宅待機であったはずだが、なぜいるのだろうか?
「ねえ、ちょっと見てたでしょ!? 使徒がゴジラに根負けしちゃったのよ! 使徒ってS2機関があるのに負けるってゴジラどんだけって話よ! ねえ、聞いてるのリツコ!」
「五月蠅いわね。見てたし、言われなくても聞いてるわよ。」
「もーーーー、あんなバケモノ相手に地球防衛軍はどうやって戦うのよ!? 最初にあれだけやられた癖にピンピンしてて、しかも無傷ってどんだけチートなのよ、あの黒トカゲ!」
 頭をかきむしり、地団太を踏みミサト。
「ゴジラは、相手の攻撃のエネルギーを食べることができるのよ。だから傷だって治せるし、元気になる。より強力な熱線を吐くことができる。でも、エネルギーを吸収できる量にも限度はあるはずよ。……どれぐらいで限界なのかは分からないけど。」
 例えエネルギーを喰わなくても自前のG細胞の再生力で傷を癒してしまうとか、一時的に弱っても好物の放射能物質を摂取したり一か月程度住処で寝ているだけで全快してしまうのがゴジラの嫌なところだ。そうでなければ古傷が祟って死ぬなり弱体化するなりするはずだが、ゴジラにはそれがない。G細胞の研究が延々と続けらているのもゴジラのその再生力をなんとかするためだ。オキシジェンデストロイヤーで一代目ゴジラを殺したが、製作者は自らの手で海中にいるゴジラに向ってゴジラを殺せる分だけのオキシジェンデストロイヤーを使用しゴジラを殺した後、そのまま海で自決した。資料などのデータも製作者が処分したためもうオキシジェンデストロイヤーは二度と手に入らない。
 ちなみにオキシジェンデストロイヤーは、その効能で酸素を破壊し、その場にいる生物をすべて死に至らしめた後、液化させてしまうため、使用には、多大な自然破壊が伴う。使用する時、当時の首脳や軍人達は頭を悩ませたそうだ。一番悩んだのは製作者だった。彼はオキシジェンデストロイヤーの凄まじい威力にしばらく食事が喉を通らなかったと訴えたことがあるほどショックを受けて、オキシジェンデストロイヤーが大量破壊兵器になるのを恐れ、国の命令でも使用する気になることができなかった。そんな彼を決意させたのが、彼の知人達の説得と当時のテレビで放送された「平和への祈り」だったと言われる。
 そしてオキシジェンデストロイヤーでゴジラが死んだ後、オキシジェンデストロイヤーが撒かれたその海の魚や海の生物も死に絶え、その海域だけ太古の無酸素の海になってしまい、しばらくの間漁業に大きな損害を与えた。このことで漁業関係者からのデモが起こったり、時を経てオキシジェンデストロイヤーで変異した微生物からデストロイアという怪獣が誕生する原因になった。
 このデストロイアもゴジラと対戦し、ゴジラの勝利で終わっている。この時、ゴジラの同族であるゴジラジュニアがデストロイアに殺されていたため、ゴジラは怒り狂い、爆弾を抱えていた心臓の暴走でメルトダウン寸前の灼熱を纏った形態になった。
 デストロイアは、オキシジェンデストロイヤーと似た効果を持つミクロオキシゲンという物質を体内で生成することが可能となり、更にG細胞を取り込んで完全体になったことでオキシジェンデストロイヤーに匹敵するミクロオキシゲンを武器にするようになったデストロイアの攻撃も通用せずコテンパンにやられ、最後には逃げ出し、空で待機していた当時の自衛隊の戦闘機に撃ち落されて死んだという、ゴジラが対決した強力な怪獣の中で唯一人間にとどめを刺された怪獣として歴史に刻まれた。
 生態系の破壊と未来にデストロイア問題が発生したことを除けば、オキシジェンデストロイヤーは、唯一ゴジラを完全に殺すことができた手段だったと、初代ゴジラを知る軍人達や科学者達から次の世代へと語り継がれている。
 ちなみにデストロイヤ戦の後、メルトダウンで核爆発寸前までいっていたゴジラは、ギリギリで元に戻り、ヨロヨロの状態で海に帰り、1年ぐらいは顔を出さなかった。実はメルトダウンを抑えるのに、G細胞完全適応者の椎堂ツムグが大きく関わっているのだが、非公式となっているため知られていない。
「唯一ゴジラを完全に殺せたオキシジェンデストロイヤーを作るため、多くの科学者達が挑み、ミクロオキシゲンというオキシジェンデストロイヤーの前段階のような物質までは発明できた。けれど、オキシジェンデストロイヤーのようにゴジラを葬るほどまでには至らなかった。それどころかオキシジェンデストロイヤーの影響でデストロイアという怪獣が誕生し、ミクロオキシゲンを自力で体内で生成する怪物になってしまった。もしデストロイアが倒されてなかったら、公式に完全体と呼ばれている形態以上の進化を遂げ続けていたと言われる人の罪が生んだ悪夢。人類は、どこまで罪を犯すのかしらね? ゴジラは、核爆弾の罪。ビオランテは、娘を蘇生させようとした一人の科学者の愚行。ゴジラを倒すために使ったオキシジェンデストロイヤーの影響で誕生し無限の進化の可能性を秘めていたデストロイア。ゴジラの怒りは、もう核実験だけじゃないはず。人類が滅ぶまでゴジラは、永遠に人類の敵として暴れ続けるのでしょうね。そして今…、ゴジラは、使徒とエヴァを破壊するために動いている。ゴジラは、とっくに気付いているのね。私達人類が行った戦争を遥かに越える大きな罪に。まさに人類を断罪する破壊神というべきかしら。」
 MAGIに繋げたパソコンからゴジラとゴジラの歴史の資料を纏めたデータを閲覧していたリツコは、自虐的に笑い、コーヒーを一口飲んだ。
 ミサトが来た時も、リツコが今ゴジラのことを閲覧していた時も、ずっと地響きがネルフ本部に響いていた。
 ネルフ本部を覆い隠す22層の特殊装甲の上で、ゴジラを相手に機龍フィアを中心とした地球防衛軍が激闘を繰り広げている影響だ。
 ネルフ本部は、とにかくでかくて広いのだが、100メートル級の怪獣と怪獣型兵器の戦いによる地響きが本部内にまで響いてくるのだから上の方でどんな激しい戦いが起こっているのか容易に想像できる。ゴジラが最初に来た時からこんな状態だ。
 三十分ぐらいだろうか。やがて地響きがなくなった。どうやらゴジラを追い返すのに成功したらしい。なぜそのことが分かったかと言うと、MAGIを通じて地球防衛軍からゴジラが海に戻ったという知らせた通達されたからだ。


「はあ……、あと12体の使徒が来るのか。その都度、ゴジラが来る…。気が滅入る…。」
 本部の中庭で、冬月が黄昏ながら独り言を呟いていた。
「はあ……、こんなことになるなら、ゲンドウに協力などしなかったのだがな…。生きているうちにまたあの悪夢(ゴジラ)に遭遇する羽目になるとは、フッ…、これが人類最大の大罪を犯した者達への罰なのだろうな。ゴジラは、核爆弾という罪から生まれた。セカンドインパクトで消滅した南極に眠っていたはずのゴジラは、死なず、15年ぶりの使徒の出現に呼応するかのように第三新東京に現れ、使徒を殺し、エヴァを破壊しようとした。ゴジラは、セカンドインパクトの真実を知っているというのか? 南極のLCLを取り込みその記憶を垣間見たとしたら……。そういうことならば、ゴジラの行動も説明が付く。ゲンドウの奴はまだユイ君のことを諦めていないようだが、最強最悪の怪獣王を相手に何ができる? いい加減、現実を見るべきなのに、奴ときたら…。ゴジラが生きているともっと早く分かっていたらユイ君もE計画を発案せず、地球防衛軍の科学者として活躍していたかもしれんな。はあ…、すべては後の祭り。ユイ君…、君は初号機の中で見ているか? 君らが幼い時に暴れていた怪獣王が更に強く、更に怒りを増して人類補完計画を阻止しようとし、人類を断罪しようとしているのを……。」
 冬月は、サキエル襲来時にゴジラが第三新東京に出て以来、ずっとこんな感じだ。
 ゲンドウと違いゴジラがもたらした恐怖を骨の髄まで染みつけているため、冬月は、ずっとゴジラの悪夢に苦しめられていた。それは、ゴジラが封印されても、セカンドインパクトで死んだのではと世間に噂が広まった時も変わらない。
 セカンドインパクトで南極もろともゴジラも消滅したと、冬月は信じていた。信じたかった。しかし現実は非情である。
 よりにもよって自分が協力したゼーレとネルフ、ユイが考えた人類補完計画がゴジラの標的になってしまったのだ。
 もう年老いた自分は、先は長くない。しかし生きている間にセカンドインパクトを生き延びて強くなったゴジラの悪夢から脱することはできないと思った。
 絶望を通り越して、もうすべてを諦め、何もせず傍観しているだけである。
「あの老人達がいかなる手を尽くしても、ゴジラを止められるはずがない。罪の象徴に勝てるはずがない。」
 冬月は、ブツブツと独り言を呟きながらネルフ本部にある自室に帰って行った。




***




 ゴジラを追い返した後。地球防衛軍の病室の一室で。
「って、感じで、今回はこんなに早くゴジラを海へ追い返せたわ。」
 折り畳み椅子に座った音無がノートパソコンの画面を操作しながら説明した。
「機龍フィアの改良がここまで進んだんだな。」
 病室のベットで上体を起こしているのは、尾崎。
 シンジの心を治すために無理な精神感応をしてから、意識を失い、数日ほど寝たきりになるほど疲労してしまったのだ。
 ミュータントは、生命力が常人のそれを遥かに上回り、特に稀に生まれるとされる“カイザー”という超越者の尾崎もだが、肉体的ダメージは、治りが早いが、精神に負ったダメージはさすがに治しようがない。特に尾崎は、シンジの心の中でひと悶着あったのでダメージが大きかった。並みのミュータントなら精神崩壊して廃人になっていたか、最悪脳死していたと、ミュータントの医療を担当する医師から怒られた。
 目を覚まして意識がはっきりしてからは、風間を含めた同僚や音無らから面会を受け、怒られたり、心配されたり、回復したのを喜ばれたりした。
 今、尾崎は、自分が戦線から離脱している間に何が起こっていたのかを音無から教えてもらっている真っ最中だった。

 実は、尾崎真一と、音無美雪は、恋仲である。

 きっかけは、音無の護衛をした時だったらしいが、最初は二人はツンツンな関係だったのだが、お互いに相手を見ているうちに相手を見直し、そして恋人関係になるまでに仲を深めていた。
 二人は、立場上このことは隠している。……つもりだが、二人とも恋愛関連のことには経験がほとんどないので隠しているつもりでも態度や行動に出ているため、二人がそういう関係なことは周知の知になっていたりする。周囲にばれているのを知らないのは、尾崎と音無だけである。
 それなりに付き合いが長いので、そろそろプロポーズしてもいいんじゃないかと周りは思っているのだが、臆手な尾崎は、中々プロポーズとまではいかない。そのことに一番イライラしているのは、風間だったりする。尾崎に直接言わないが、イチャイチャしてる二人を見かけては、いい加減くっつけと言わんばかりに殺気立ってると同僚のミュータント兵士が怖がっていた。
 話は、現実に戻り、音無に見せてもらった映像を見終わった尾崎は、音無に聞いた。
「あの子は…、シンジ君はどうしてるんだい?」
 尾崎がここまで弱るほど頑張って助けようとした少年が今どうしているのか気になった。人を守ることを優先する尾崎らしい。
「まだ意識が戻っていないわ。でも、血色はとてもいいし、いつ目覚めてもおかしくないのに…、どうしてかしら?」
「……“あいつ”のせいか?」
「なに?」
「んっ、何でもない。シンジ君の様子を見に行きたいな。」
「またムチャするんじゃないでしょうね?」
 音無がジーッと疑り深い目で尾崎を見つめる。
 音無にそう言われ、その視線に、尾崎は、視線を彷徨わせた。尾崎の性格上、自分より他人を優先するのでやらないという保証がない。
 やったら絶対怒られるのは目に見えているし、今までムチャをして音無から雷を落とされたこと数知れず…。
 尾崎は、やらないと返事が出せず、無意識にダラダラと汗をかいた。音無はそんな尾崎を見てため息を吐いた。自分がどれだけやめるよう言っても聞かないのはもう分かりきっているのだが、愛する人の身を案じるのは当然である。
「私も行くから、行くなら早く行きましょ。ダメって言ってもついていくからね。」
「…分かった。」
 音無の監視のもと、尾崎は、シンジがいる病室に向った。
 病室に入ると、最初の頃と違い、沢山あった医療機器がなくなり、最低限の機器がシンジの体に繋がっていた。
 近づいて見ると、死体と見間違えそうなほどゲッソリと酷い状態だったシンジは、すっかり顔色がよくなっており、静かな寝息を立てて眠っている。音無の言う通り、もう目を覚ましても不思議ではない状態だ。
「よかった…。ずいぶん元気になったんだな。」
「そうね。ここに運ばれてきた時に比べたら雲泥の差ね。」
 尾崎の安心した言葉に、音無も同意してそう言った。
 尾崎が、シンジの瞼にかかっていた髪の毛をそっとどけようと手を伸ばし、指先が触れた時だった。
 シンジの瞼がピクピクと反応したのだ。
 目覚めの予兆に尾崎と音無は、顔を見合わせた。
 そして二人の目の前で、シンジは、微かなうめき声を上げながら、ゆっくりと瞼を開けた。
 何日も眠り続けたためか、ほとんど光を認識しきれていないらしく、目の焦点があっていない。
 しかし徐々に目の機能が回復を始め、眩しそうに目を細め、やがてベットの横に立っている尾崎と音無の存在に気付いて、そちらを見た。
「………誰…、ですか?」
 掠れた声でそう言った。
「よかった。目を覚ましたんだな。」
「気分はどう?」
 二人が優しく聞くと、シンジは、困惑した表情をした。
「ここ…どこ? 僕は…、確か………。ヒッ!」
 シンジがあの時のことを思い出したらしく、恐怖で顔を歪めて頭を抱えた。
「大丈夫! 大丈夫だ! ここにはゴジラはいない! 君はもう、エヴァンゲリオンに乗らなくてもいいんだ!」
 恐怖でガタガタと震えるシンジの体を、尾崎が包み込むように抱きしめた。
「い、いやだ…、やだ、やだ…、やだ、やだやだやだやだ! 怖い怖い怖い!」
 尾崎を振りほどこうとシンジが暴れた。
「大丈夫だ! 本当に、もう…、大丈夫だから。君はもう、お父さんに怯える必要はない。怖いのを我慢して戦わなくたっていいんだ。君のことを責めたりなんかしない。君は、ここにいていいんだ!」
 尾崎の最後の方の言葉に、シンジがびくりと体を跳ねさせ、硬直した。
 尾崎は、初号機からシンジを救出するとき、そしてシンジの壊れた心を治療するために精神感応で精神をダイブさせた時、シンジが何に怯え、どういう経緯でエヴァンゲリオンに乗らなくてはならなくなったのか、そして何を渇望しているのかを感じ取っていた。
 尾崎に抱きしめられたまま固まっていたシンジは、やがて、嗚咽を漏らしてボロボロと涙を流し始めた。
 尾崎には(というかミュータント全般)、相手の気持ちを感じ取る能力の他に、相手に自分の気持ちを伝える能力もあった。だからシンジは、尾崎の言葉が、気持ちが本物であることを直に感じている。
 孤独な幼少期を送ったシンジが求めていた本気で自分のことを想ってくれる情がものすごい勢いでシンジの中に流れ込んでいた。
「ううぇええ……、ぼぐ…、ごごにいて…いいの?」
「ああ。もちろんだ。」
「う…う、うわあああああああ…。」
 シンジは、尾崎の胸に顔を押し当てて大声を上げて泣いた。
 音無は、二人の様子を温かい目で見守っていた。
 やがてシンジは泣きつかれてまた眠ってしまった。壊れた心が治ったばかりで数日も眠っていて体力が長続きしなかったのだろう。
 シンジの意識が回復し、精神状態も良好であることなどをナースコールで呼んだ担当医にちゃんと伝え、尾崎と音無は、寝ているシンジに挨拶をしてから病室を後にした。
 なお担当医に尾崎は、シンジが目を覚ました時に言ったことも全部伝えている。なのでシンジのためにもしばらくは地球防衛軍で保護することが決まった。地球防衛軍側の諜報部がシンジの経歴を調べたところ、あまりにも巧妙にシンジの精神を他人を渇望するようにされたとしか思えない環境で育ったことが分かり、それが8年前に彼の父親であるゲンドウが赤の他人を金で雇って親戚と偽りシンジを預け、ただの金づるとしてしか扱われない環境で育てさせ、そんな環境だから学校の方でも他人と関わって傷つくのを恐れ、表面上は受け応えはするものの他人との壁を作るため親しい友人もおらず、本心では自分以外の相手を求め続けているという悪循環を作ってしまった。そして彼が14歳になった時、シンジを捨てたゲンドウがエヴァンゲリオン・初号機に乗せるパイロットの“予備”として、手紙とも言えない手紙で呼び出し、エヴァに乗らないのなら帰れと、誰にも必要とされないことを何よりも恐れる彼の心を抉り、重体の綾波レイを脅迫材料にしてついに初号機に乗らなければ存在価値がないと彼に思いこませる条項にに追い込んで乗るのを承諾させていたことが判明した。
 ゴジラの乱入がなければ、何の訓練もしていない普通の中学生のシンジに初号機で使徒サキエルを倒させた後、彼をサードチルドレンとして徴兵させる予定になっていたことも分かり、子を持つ諜報部の者は怒りで顔を真っ赤にしていたという。
 最初は、シンジが回復して日常生活に問題なしと判断されたら地球防衛軍の保護が解除され、彼を普通の中学生に戻す手筈になっていたが、シンジの経歴と保護されるまでに至った経緯が判明した今、いまだに腹の底で何を考えているか分かっていないネルフの総司令のゲンドウを警戒して、シンジを地球防衛軍の保護下に置くことが決定された。
 あと綾波レイの方もである。ただの人間でないということもあるが、チルドレンというエヴァンゲリオン専門のパイロットというものに得体のしれない不信が高まった今、チルドレンとして登録されている者をネルフに帰すのは得策ではないという判断だ。
 綾波レイの他に、すでに登録されたチルドレンとして、ドイツのネルフにセカンドチルドレンの惣流=アスカ=ラングレーという少女がいることも分かり、近いうちに彼女のこともなんとかしなければならないと検討された。

 地球防衛軍のネルフへの不信が高まった頃、地球防衛軍の上層部から地球防衛軍の艦隊にある命令が下された。

「エヴァンゲリオンをネルフ日本支部に輸送?」
 鼻の下のヒゲと、どう見ても堅気じゃない風貌に、茶色の軍服コートの上からでも分かるごつい鍛え抜かれた肉体を持つ50代過ぎくらいの男が、片眉をあげてモニターに映る波川の言葉に対してそう言った。
『そうです。ゴジラが使徒とエヴァンゲリオンを狙って第三新東京に現れるようなったことはすでに知っていることでしょうが、ネルフは、各国にある支部に開発途中のエヴァンゲリオンとすでに完成しているエヴァンゲリオンを保有しています。ゴジラがそちらに向かってしまい、その国に甚大な被害をもたらす前にすべてのエヴァンゲリオンをネルフ日本支部に集めるのです。ですが、輸送途中でゴジラに襲われては元も子もありません。そこで轟天号での輸送をすることが決まりました。』
「ハッ、俺たちゃ宅配便じゃねぇ。ごつい箱に詰めて他の連中に頼むんだな。」
『ゴードン大佐! これは、地球防衛軍の総意の命令なのです。ゴジラをおびき寄せる餌を失うわけにはいきません。ゴジラを引き寄せる要因が一か所になれば、これまでのゴジラとの戦いと違い民間への被害も損害も少なくて済み、また我々も作戦を立てやすいのです。』
「それくらい分かってる。だがな、久しぶりの轟天号の初仕事が荷物の輸送だってのが気にくわないだけだ。」
『大佐…、あなたのお気持ちは察します。ですが、輸送途中でゴジラが海中から襲って来る可能性がある以上、逃げ切れるのは現段階で轟天号だけなのです。そしてあなたの艦長としての腕がなければセカンドインパクトを耐え抜き復活してより強くなったゴジラから無事にエヴァンゲリオン弐号機を運ぶことはできない。我々は、あなたに期待しているのです。』
「フン。まあ、いいぜ。ドイツからエヴァンゲリオン・弐号機の輸送。やってやる。」
『言質は取りましたよ。それとですが、エヴァンゲリオンの輸送と同時に弐号機のパイロットとネルフ関係者を一人ずつ、一緒に乗せてネルフ日本支部へ移送させてもらいます。』
「ちょっと、待て。人間まで運ぶのか? タクシーじゃないんだぞ。」
『弐号機の“おまけ”です。適当に客人として部屋に閉じ込めて置くなりしてくれてかまいません。何かしらの問題行動を起こしたならば捕虜として扱ってもいいです。それは、大佐に任せます。ただし、殺さないようにしてください。特に二人の内、一人は14歳の少女なのですから。』
「ガキは苦手なんだがな…。仕方ねぇ、その仕事引き受けた。」
『感謝します。ダグラス=ゴードン大佐。』




 こうしてドイツ支部にあるエヴァ弐号機とそのチルドレンのアスカともう一人の人間を日本支部に運ぶことが決まった。

 轟天号。これは、対怪獣戦のために開発された先端がドリルとなっている万能戦艦である。空水両用で、宇宙での活動も可能な技術の粋を結集した最強の戦艦と言われている。
 ゴジラが封印された南極での戦いで初代轟天号が出撃し、たまたま起こった地震でできた地割れにはまったゴジラに向って氷山をミサイルで撃って破壊し、崩れ落ちてきた雪と氷でゴジラを封じ込めた、歴史の教科書にも載っている伝説の戦艦である。
 その新型機が、ゴジラ封印後に開発され、その間に暴れていた他の怪獣との戦いで頭角を現したが、セカンドインパクトの発生でゴジラの行方が不明となり怪獣が消えたことで地球防衛軍が解体され、対怪獣兵器はその破壊力から危険だということで解体されることになった。轟天号もそうである。
 ……表向きはそうだった。
 しかし実際は、地下に潜伏していたネオGフォースが対怪獣兵器と轟天号を管理しており、いつでも使えるよう整備をして、そして第三新東京でゴジラの復活が確認され、地球防衛軍が再結成された時、地下に隠されてきた轟天号と対怪獣兵器は、再び日の光を浴びることができたのだった。


 ドイツへと出発した轟天号の機体が太陽の日を浴びて銀色に輝くさまは、歴戦の勇者を彷彿させるほど神々しかった。
 轟天号がドイツに向けて海の上を飛行している最中、その下の海中に白い巨体を持つクジラとも魚ともつかない姿をした使徒が轟天号を追跡していた。しかもレーダーに引っかからないように絶妙な距離を保ちながら海底近くを泳いでいたため轟天号側は使徒に追跡されていることに気付いていない。
 そして轟天号がネルフ・ドイツ支部に到着し、せっせとエヴァ弐号機を搬入する頃、太平洋の海底で眠っていたゴジラが、ゆっくりと目を開け、太くて長い尾をくねらせてその体系からは想像もできない速度で海中を泳ぎ、ドイツへ向かって行った。


「ゴジラさんの次の戦いは、海で行われるのか…。まあ、あの使徒(ガキエル)があの形だし仕方ないか。で、35年ぶりの轟天号との再会か…、うーん初代じゃないから若干違うけどゴジラさんにとっては記憶に残る好敵手だったんだよね? ゴジラさんきっと喜ぶだろうな。ゴードン艦長も。ゴードン艦長なら機龍フィアがなくてもやれるはずさ。」
 日本の地球防衛軍の施設の高台からドイツのある方角を眺めながら椎堂ツムグが、実に楽しそうに笑いながら独り言を言っていた。 
 

 
後書き
次回は、アスカ登場。けれど…?

このネタでは、アスカが不憫な目にあいます。アスカファンは注意。 
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