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永遠の謎

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146部分:第十話 心の波その四


第十話 心の波その四

 それを果たしながらだ。彼は己の夢を見ていた。
 今日も歌劇場に入りだ。舞台のリハーサルを観るのだった。
「いよいよだな」
「はい、間も無くです」
「本番の時です」
 今度は舞台の関係者達が王に答えていく。
「遂にトリスタンとイゾルデが上演されます」
「この王立歌劇場において」
「私が最初にトリスタンに会うのだ」
 王はこのことに今から胸を震わせていた。
「何という素晴しいことか」
「イゾルデにもです」
「彼女にも」
「そうだな。どういう訳かわからないが」
 ここで王の顔には戸惑ったものが宿った。
「私はこのオペラはだ」
「はい、このオペラは」
「どうされたのですか?」
「私はイゾルデの目で観ている」
 そうだというのである。
「どうもな」
「イゾルデですか」
「あの姫の目で、ですか」
「オペラを御覧になられているのですか」
「私はイゾルデではない」
 王は自分でそれを否定した。
「しかしだ。何故かだ」
「イゾルデにですか」
「なられていますか」
「そうだ。不思議だ」
 自分でもだ。戸惑いを見せる。
「何故イゾルデなのだ」
「トリスタンではなく」
「イゾルデなのですか」
「彼女だと」
「私はトリスタンを見ている」
 また言う王だった。
「イゾルデの目でだ」
「そのうえでトリスタンを見ている」
「陛下は」
「何故なのだ。私はトリスタンに最も感情移入している」
 そうだというのだ。
「ワーグナーのどの作品もだ。私はテノールこそ見ている」
 感情移入はだ。そちらにあるというのだ。
「だが。彼から見ているのではなく彼を見ているのだ」
「イゾルデの目で」
「そしてですね」
「そうだ。エリザベートになりエルザになっている」
 他の二人のヒロインの名前も挙げる。
「ゼンタでもあるが」
「さまよえるオランダ人のですね」
「あの」
「そうだ、どちらにしてもヒロインだ」
 こう話すのだった。
「私は何故か彼女達の目から英雄達を観ているのだ」
「何故ですか、それは」
「それは一体」
「それがどうしてもわからない」
 王はというのだ。
「どういうことなのだ」
「陛下は女性は」
「それはなのですね」
「そうだ、興味はない」
 青年を愛する王ならだ。それも当然のことだった。
 しかし彼はだ。あくまでその目でだ。英雄達を見ているのだった。
 そのうえでだ。彼は舞台を見ていた。そうしていたのだった。
 王は舞台を見続けていた。その中でだった。
 その中でもだ。ワーグナーへの攻撃が続いていたのだった。
 歌劇場を一歩出ればだ。すぐにだった。
「ワーグナーを追い出せ!」
「このミュンヘンから追い出せ!」
「バイエルンからもだ!」
「陛下を惑わす山師をだ!」
「追い出してしまえ!」
 市民達も煽られていた。まずはマスコミに。
 
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