戦国異伝供書
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第十話 朝倉攻めその五
「あそこで尾張でわしに逆らう者達が兵を起こす」
「殿がうつけ者と見て」
「その為にあえてああしたが」
「いや、そうしたお考えだったともです」
「わからなかったか」
「無念なことに」
己の不明をだ、平手は恥じるばかりだった。
「左様でした」
「そうであったか」
「あの時もう腹を切るつもりでしたが」
「そこでわしの挙兵を見てであったか」
「ようやくでした」
信長、自身の主を理解したというのだ。
「まことに」
「そうであったか」
「はい、ですがそれまでは」
「わしが奇矯だとばかりか」
「思っておりました、しかし殿は実は」
「あれからすぐであったな」
「尾張を統一され今川家も退け」
そしてというのだ。
「伊勢と志摩、美濃まで手に入れられ」
「そこから上洛してな」
「今に至ります」
そうなったとだ、平手はそれから今に至るまでも考えて述べた。
「そして次は、ですな」
「我が織田家と因縁のある朝倉家じゃ」
「あの家との戦ですな」
「そうなる、それでお主にはな」
「お任せ下さい」
是非にとだ、平手は信長に応えた。
「留守の間は」
「頼むぞ、それで一つ気になることじゃが」
「まさかと思いますが」
「勘十郎にも言ったがのう」
信行にもとだ、信長は平手に顔を近付けてそのうえで彼に囁く様に話した。
「公方様じゃが」
「やはりあの方ですか」
「爺、お主どう思う」
将軍である義昭のことをだ、信長は平手に問うた。
「一体」
「はい、それがしも聞く限りですが」
「近頃おかしいと思うな」
「どうも朝倉家とです」
「誼を通じておるな」
「そのこと、それがしも聞いておりました」
宿老の中でも筆頭である彼はというのだ。
「そして聞く限り」
「勘十郎も言っておる、しかもな」
「朝倉家と誼を通じているだけでなく」
「はい、さらに」
平手はさらに言うのだった。
「金地院の住職である崇伝という僧に天海という高齢の僧が」
「近頃しきりに傍におるとな」
「聞いておりますが」
「勘十郎もそう言っておる」
信長に言われ都を預かって治めている彼が信長に伝えているのだ、近頃彼は都での義昭の動きに目を尖らせているのだ。
「公方様が当家を嫌っておられてな」
「朝倉家と誼を通じられ」
「他の家ともな」
「厄介ですな」
「別に公方様を軽んじてはおらぬがのう」
信長は平手にこのことを言った。
「わしは」
「はい、殿は常に公方様を立てられています」
平手もそれは間違いないと答えた。
「それがしが見ましても」
「そうであるな」
「いつも銭なり何なり献上され」
「住んでおられる二条の城も整えてな」
「これまでとはうって変わって」
義昭が流浪だった頃とは違ってだ。
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