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結城友奈は勇者である ー勇者部の章ー

作者:あさりん
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古今無双の大和撫子

「赤、東郷美森」
「はい」
「白、弥勒夕海子」
「はい!」
「礼、前へ」
私、東郷美森は先鋒。面越しに見える相手の顔には見覚えがない。明るい色、山吹色の髪をした、自信に満ちた顔をした少女だ。
互いに蹲踞(そんきょ)し、一定の間合いをとる。
「始め!」
素早く立ち上がる。
「やああああ!!!」
相手は真っ先に上段から面を放つ。
竹刀を切っ先が斜め左上に向くように持ち、防御する。
かぁあああん!
「っ…!」
(思っていたより、ずっと重い…!)


「大丈夫かな…東郷さん」
友奈は不安そうに東郷を見つめる。
「あいつなら大丈夫よ、きっと勝てるわ」
夏凛は余裕そうに呟いた。


―――「…私、ですか?」
私は正直不安だった。私は、お役目の時、武器の性質上敵と直接切り結ぶことはほとんどなかった。ましてや、生きている人間と戦うなんて、それも一番手だなんて…
それでも、夏凛ちゃんは私を先鋒に置きたいようだった。
「そう、あんたよ!先鋒は切込隊長だから、流れを作る重要なポジションよ」
「だったら、友奈ちゃんやそのっちのほうが…」
「だめ、友奈は大将の次に重要な中堅に入ってもらうから。園子でもいいけど、こいつは副将がベストだと思うの。丁度いいから説明するわ」
そう言って夏凛ちゃんは、つい先日まっ皿にした黒板(写真を撮ったが、みんな泣く泣く、一人ずつゆっくり、ゆっくり消した)を使い、説明し始めた。
「先鋒が起点とすると、中堅は砦。中盤を落とされることは、大局においては痛手なの。大将は言わずもがな、絶対に勝たなければならないポジション。対して、次鋒は重要度が低い。んで、副将はその次に優先度が低いわけだけど、終盤ということもあって、場合によっちゃ、大将に試合を託せるように引き分けに持って行けるような、器用で防御力が高い選手が最適、ってわけ」
「え〜っと…もしかしてアテにされてる?」
そのっちはちょっと縮こまって言う。
「超アテにしてるわ」
夏凛ちゃんは何故かドヤ顔でそう言った。
「うわ〜…プレッシャーだよ〜…」
「てちょっと待って、じゃあ樹は次鋒に…?」
「そうよ。剣道初心者だし」
「我が妹が…かませ犬…」
風先輩は崩れ落ちた。それに反して樹ちゃんは喜んでいる。
「やったあ!ありがとうございます夏凛さん!」
「うぇーい…イッつんサティスファクショーン」
「いえーい!ファクション!」
話を戻す。
「では、消去法で私…ということ?」
「いいえ、あんたは秘められた力がある。それを引き出すには…これよ!」


「なっ…あなた、一体その格好は…」
弥勒さんが、鍔迫り合い中に私を見て驚きの声をあげた。
お互いがさっと距離をとる。
私はばっと片手で空を裂き、素早くこう言った。
「国を守れと人が呼ぶ!愛を守れと叫んでる!憂国の戦士!国防仮面見参!とう!」
「な…」
私は、呆気に取られていた彼女に音速の面を打ち放った。
パシーン!
「面あり!」
「し…しまった…!一本取られてしまいましたわー!」
それを見て、私は短くこう言う。
「私は国防仮面。人々が脅威に晒された時、後剣道の試合をする時、()()現れます」
「最後の絶対今付け足しましたわー!」
相手選手は地団駄踏んで、騒ぎ立てた。


「流石、国防仮面さんだね〜」
園子様は感嘆して、国防仮面を賞賛した。
「カッコイイなー国防仮面さん!一体誰なんだろう!」
「本気で言ってるの友奈!?」
風が驚愕してぶるぶる震えだした。
「あ、そっか」
友奈はあほ面で気の抜けた声を出した。
「あんたの記憶力にはニワトリも呆れて鳴かなくなりそうね…」
(しかし…ちょっと変装しただけであそこまで…もはや尊敬の念すら覚えるわ…)
夏凛は、勝っているとはいえ複雑な心境だった。
「私も、国防仮面二号として友情出演しちゃおうかな」
「流石にこれ以上事を大きくしないで…」
夏凛が頭を抱えた。


「あ、ちょっと前に巷で有名になった国防仮面さんだ。正体は東郷美森さんだったのか〜」
「あら、雀、知っていたの?」
「雀さんは博識だからね!」
「勇者って…変な人…多いのかな…」
雀はこれを聞いて、声を低くしてこう言った。
「多分、あの人が一番変だと思うよ…」


「くぅ〜!屈辱ですわ!ですがまだ終わってはいません!」
見上げた根性だ。
(私も…手を抜かない!)
「二本目、始め!」
お互い、真っ先に距離を詰める。
鍔迫り合いの力比べだ。
「…ぐぬぬ…中々やりますわね…国防仮面さん…」
「あなたも…日々鍛えているのだろうな」
国防仮面が押すかと思えば、今度は弥勒が押し返す。中々白熱している。
「ここですわ!」
弥勒が引き面を打った。上体を後ろにそらしつつ、しなやかな軌道を描いて国防仮面の面に吸い込まれていく。
しかし、国防仮面は首を真横に倒し、回避する。
「嘘…ありえませんわ!?」
(私、東郷美森は、国防仮面になっている間だけ、私に流れている武士、そして軍人だった者の血が滾り、私を修羅の世界へと誘う)
意識が加速され、時間の流れが遅緩になる。
(私には戦場で生き、戦場で死線をくぐり抜けた者の血が流れているの…!)
「富国…強兵ーーー!!!」
狙い済ました一撃。
そう、私の得意とする武器は弓、そしてーーー狙撃銃。
空間を切り裂く弾丸。あるいは獲物を貫く剛弓の一矢のように。
私の突きは、彼女を捉えた。


「勝負あり!」


「やったあ!とーごーさーん!」
「やったよ!友奈ちゃ…いや、友奈さん」
「あいつ、いつまで国防仮面やってんのよ…」
夏凛は呆れながらも、右手は強く握って、勝利の喜びを噛み締めていた。
「完敗ですわ…流石勇者、と言ったところかしら」
「あなたも、最後の引き面は見事でした。躱せたのは半分奇跡みたいなものでしたし」
「ふふ…また、戦いたいですわね」
「ええ、そうですね」


「お疲れ様、弥勒さん」
楠が弥勒を労った。
「申し訳ありませんわ…無様に負けてしまって」
「おやおや?いつものウザイ感じが無いねぇ…ずっとこのままでいてくれないかなぁ…」
「雀さん?それはどういう意味でしょうか」
「私も…ちょっと…ウザい…」
「ちょっ!二人して扱いが雑すぎませんか!?」
「まあ、まだ一戦目です。こちらにはまだシズクと私、それから雀が残っています」
「やめてよ〜メブ…やっぱ一体一とか怖いよぉー…」
「なあに、バーテックスよりずっとマシでしょ?そう思えばいいのよ」
「でも…勇者は…バーテックスより…ずっと強いよ…」
山伏しずくの一言で、雀の顔から血の気がサーっと引いた。
「うわ〜!勇者に細切れにされるー!助けてメブ〜!てか私帰っていいかなあ〜!?」
「だめよ。その時は私がみじん切りにするから」
「うぅ…メブが一番怖い…」


「それじゃあ!次は我が妹!愛しの樹ちゃんね!」
「うぅ…ちゃんとやれるかな…」
「だーいじょうぶよ!頑張れ!部長!」
「頑張れ部長!」
「頑張って〜部長」
「ご武運を、部長」
「サプリ決めとく?部長」
「もう!部長部長言わないで下さい!」


早速一勝をもぎ取った勇者部。
果たして、このまま流れに乗れるだろうか…? 
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