空に星が輝く様に
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458部分:第三十五話 プラネタリウムその十一
第三十五話 プラネタリウムその十一
「だから月美は料理の才能あるって」
「それでなんですか」
「そうだよ。何度も言うけれどさ」
相変わらず食べながらだ。そのうえでの言葉だった。
「月美料理の才能あるって」
「そうですか。私が」
「うん、あるよ」
陽太郎はまた言った。
「滅茶苦茶美味しいから、このケーキ」
「そんなにですか」
「月美も食べてみなよ」
ケーキは陽太郎のところにだけあるのではなかった。ちゃんと月美のところにもある。ただ彼女はまだ手をつけていないのだ。それだけだ。
「自分のそのケーキか」
「そうですね。それじゃあ」
「絶対に美味しいから」
陽太郎は笑顔で月美に話す。
「もう絶対にさ。食べたらわかるよ」
「はい、それじゃあ」
陽太郎のその言葉に頷いてだった。実際に食べてみた。すると。
一口食べてからだ。月美はこう言ったのだった。
「はい、確かに」
「美味しいだろ?自分の作ったこのケーキ」
「そうですね。とても」
食べてみればわかることだった。自分の舌に嘘はつけなかった。
「美味しいです」
「そうだよ、このケーキ美味しいよ」
陽太郎はとにかくこのことを言う。
「月美の作ったケーキってさ」
「自分でもこんなに上手くできるとは思いませんでした」
「だからあれだって」
その月美にまた話す。
「月美料理の才能あるんだって」
「だったらいいんですけれど」
「あるって。それでさ」
「はい。それで?」
「このケーキもいいけれど」
ケーキと一緒に置いてある白いカップの中のコーヒーを見ながらだ。また話すのだった。
「このコーヒーは何かな。これも凄く美味いけれど」
「あっ、そのコーヒーは」
「このコーヒーは?」
「キリマンジャロです」
それだというのである。
「お父さんが好きなんで。それで」
「家にあったのをなんだ」
「自分で淹れてみました」
コーヒーもだというのだ。
「そうしました」
「凝ってるよなあ」
「そうですか?」
「いや、俺の家じゃさ」
陽太郎がここで話に出したのは自分の家のことだった。
「コーヒーなんてあれだよ」
「インスタントですか?」
「それで紅茶はティーパックで」
紅茶についても話すのだった。それだとだ。
「そんな簡単のだから」
「うちも紅茶は同じですよ」
ティーパックだというのだ。
「それは」
「けれどあれだよな。普通にスーパーとかで売ってるのじゃないよな」
「まあそれは」
そう言われるとだ。否定しない月美だった。
「輸入したのを買ってます」
「何処から?」
「イギリスのものを」
紅茶の本場である。やはり紅茶といえばイギリスであった。
「それをです」
「だろ?やっぱりそこが違うんだよ」
「陽太郎君の家とですか」
「凄いよな、そういうところに違いって出るんだよな」
陽太郎は素直にだ。月美の家のそうした豊かさを賞賛していた。
「俺の家ってそういうのがないからなあ」
「あの、けれど」
「けれど?」
「陽太郎君今ひがんだり羨んだりしていますか?」
月美はその温和な顔に咎めるものを含めて言ってきた。
「それは」
「ああ、それはないよ」
「ないですか」
「俺あまりそうした感情はないから」
ひがみや嫉妬はというのだ。実際に彼はそうした感情はなかった。嫉妬深くないというのは。彼の美徳の一つとも言ってもいい。
「だからただ凄いって思うだけで」
「それだけですね」
「具体的には美味いって思うだけだよ」
「それだと何よりです」
月美は陽太郎のその言葉を受けてほっとした笑顔になるのだった。
「陽太郎君がそうした感情を持っていなくて」
「そういうことは安心しておいていいから」
「はい、それじゃあ」
「このケーキだけじゃなくてコーヒーもな」
「よかったら紅茶もどうぞ」
「いや、それはいいよ」
紅茶の申し出は笑顔でやんわりと断った。
「両方はさ」
「それはいいですか」
「うん、どっちかだけでいいよ」
こうした欲を張ることもない彼だった。
「だからね」
「はい、それじゃあ」
「コーヒー。後でもう一杯貰えるかな」
彼が言うのはこのことだった。
「それいいかな」
「はい、どうぞ」
月美は陽太郎のその申し出を笑顔で受けた。
「その時は御願いしますね」
「それじゃあ。飲み終えてから」
「私ももう一杯」
「コーヒー好きなんだ」
「どちらかというと紅茶ですけれど」
それでもだというのである。月美はコーヒーも好きだったのである。
「やっぱり。紅茶も」
「そうか。それじゃあ後で二人で」
「もう一杯ですね」
にこりと笑って陽太郎に答える。そうしてなのだった。
二人は笑顔で二人の時間を過ごしていた。そうしてその仲をさらに進展させていた。二人の絆はもう誰にも邪魔できないものになっていた。
第三十五話 完
2010・12・31
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