獣篇Ⅲ
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42 大きい彼女と小さい彼氏
途中昼食が挟まったものの、最終的に全てが終わったのは結局夕方だった。できた書類をまとめ、バッグにしまい明日のバッグの準備を済ませ、明日会う予定の人物にメールを送り、あとは返信をもらうのみである。夕飯を作りながらメールの返信を待っていた。すると、炒め物をしている時に、耳につけたピアスから通知が入った。一段落付けてからメールを見る。のぶたんも待っている、とのことだったが、のぶたんとはだれか。私には全然見当がつかない。ふと晋助を見ると、新聞を読みながら煙管を咥えていた。相変わらず情報収集も兼ねて、新聞を読むようである。晋助の様子を一見してから夕飯づくりに戻った。半刻後、ようやく完成した夕飯を食卓に並べるべく準備をしていると、晋助が口を開いた。
_「オイ、お前明日佐々木家に行くんだろう?」
なんとまあ心臓に悪い。精一杯動揺を抑え込んで晋助に向き直る。
_「…もしそうだと言ったら?」
とは言いながらも手際よく料理を食卓に並べる。
_「…奇遇だなァ。オレもだ。佐々木に用があったから今回お前の用事に付き合ってからァ、お前も連れて行こうと思ってたんだがなァ?…ククク)テメェの方がオレよりもやっぱり一枚上手だったようだ。まんまとやられたぜェ。」
さすがは現役スパイだな、と囁いている。そうだな。現役をナメてもらっちゃ困りますわな、旦那。
_「…ま、結局は一緒に参ることにもなりましたし、よろしいのではなくて?」
まァそうだな。と言って晋助は食卓に着いた。二人で手を合わせる。
***
次の日のことである。私たちは予定通り江戸に出た。もちろん二人とも変装済みである。私が男装、晋助が女装をしている。出るときに鬼兵隊のメンツが必死でニヤニヤをこらえている姿を見て多少晋助が不機嫌な顔をしていたのがたまらなくツボだったが、今日はあいにくそれに付き合っている時間はないので、早々と船を出た。
_「まずは有印良品に行くんだろう?」
_「ええ。行きますわ。」
勿論お互いに性別と正反対の格好をしているが、言い方は普段のままである。私はサラシを巻いた上に群青色の着流しを着、帯に愛刀(杖)を挿している。もちろん着流しの下にはスパイパンツを履いているので万が一の時のために銃を二丁仕込んである。もちろんこれにも魔法をかけてあるので、弾は無制限で発射される。一方晋助は女物の着物をそのまま着ており、美的センス抜群の私が最高級のメイクを施したので、私の思惑通り、バッチリ超美人な女性にしか見えない。元々が華奢な体格をしているので、それがどこまでも似合ってしまっているが、それを言えば後で確実に絞められるので、一生涯お蔵入りの思い出となるだろう。
あとは、それが私の好みに的中していることも、一生の秘密である。
_「さて、ここからは格好に合わせてお互い口調も変えましょう。それこそ真選組に行くときなんかは厳重に。何を言われても冷静にね。じゃ、行きましょうか。」
と言って私は晋助の手を取った。半刻後にはもうすでにお目当てのモノをgetしたので、次は真選組へ、レポートを提出しに行く。手をつないでそのまま道を行くと、通りすがりの人々から羨望の眼差しを受けた。晋助は不機嫌そうだったが、まんざらでもない表情をしていたので、ニヤニヤが止まらなかった。しばらくすると、真選組の門と看板が見えてきた。私は持っていた警察手帳を出し、久坂です。とだけ告げて、門番に門を通してもらった。勿論晋助も一緒である。同伴の方ですか?と訊かれたので、そうです。とだけ返し門を潜った。するとまず出くわしたのが、沖田である。変装をさせておいて本当に正解だった。
_「あり、零杏じゃねェですかィ。どうしたんですかィ?」
_「ええ。今日は江戸に用事があったので、ついでと言っては何ですが、副長に課せられていたレポートを提出しに参った次第です。副長はおられますか?」
あァ、ここにいるぜ。と副長がヌッと顔を出した。
_「あァ、レポートだろ?わざわざご苦労だったな。」
バッグからレポートの入った封筒を手渡す。すると沖田が口を開いた。
_「ところで零杏、隣に侍らせてる大層な美人さんは、いったい何者でィ?彼女さんですかィ?」
晋助もこの状況を楽しんでいるのか、いつの間にか腕を絡ませている。
_「あぁ、彼女ですね。私の恋人ですわ。美人でございましょ?」
そうですねィ。と沖田は言った。
_「大層な美人侍らすなんて、零杏もカッコイイじゃねェか。おまけに二人そろって美人なもんだからな。お似合いだな。」
と副長も口を出している。だが晋助が地味に腕を締め上げるので、千切れそうである。ここは早く退散するしかなさそうだ。
_「そうですか。ありがとうございます。」
と言ってまずはその場を去った。後ろからデート楽しんで来いよ、と聞こえたのには後ろを向いたままで手を振り返すことで対応し、次の目的地に向かった。
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