獣篇Ⅲ
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41 バラガキ
さて、今日は江戸に出る為の下ごしらえをする日である。ご飯を土鍋に入れて水を量り、適量を土鍋に突っ込んで蓋をしたあと、ガスにかけて、その間に味噌汁の用意をしながらだし巻き玉子を手際よく量産する。そんなことをしている間にも、晋助は出口のところで万斉と何やらゴニョゴニョと打ち合わせをしていた。
_「…ところでいい臭いがするでござる。零杏殿が何か作っているのでござるか?」
_「あァ。今朝飯を作ってんぜェ?」
_「だからか。とてもいい臭いがしたでござるよ。」
_「だろォ?職業に合わず、料理を作らせりゃァ、天下一品だぜ?…ククク)」
_「…そうか。ま、いつか味わってみたいでござる。」
オイ、そこのお二方。朝御飯の下りから会話が全部聞こえてるぞー。いくらのろけてもいいものは出ないぞー。
今気づきました、とばかりにそちらに出て、会話に入る。
_「あら、おはようございます、万斉殿。どうされたのですか?」
_「…あァ、晋助に仕事の用事で来たのでござるが、部屋からいい臭いがするので覗いてみたのでござる。朝御飯でござるか?」
_「ええ。そうですよ。良かったら食べて行かれますか?」
晋助は一瞬ギョッとした顔をしたが、晋助の方を向いて口だけニッコリ微笑むと、明らかに渋い顔をした。
_「あ、あァ、…いいぜ?」
では、用意して参りますので、晋助一緒に席にお座りください。と言って、晋助にだけしてやったり、という顔をしてから、キッチンに戻った。そして仕上げを済ませてテーブルに料理を運ぶ。
_「さて、お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりください。」
とだけかましてまたキッチンの方に戻り、片づけを済ませてから、書類整理の方に移った。あと今日は、書類の仕上げとアポを取るだけである。フカフカのクッションの上に座り、まずは書類を書き上げた。できた書類を封筒に入れ、持っていく用のファイルに入れたタイミングで彼らも朝御飯を食べ終えたようだ。
_「…零杏殿、とても美味しかったでござる。旨かった。」
_「いえいえ、こちらこそありがとうございます。」
と言って食器を片付けていると、席を立つ音が聞こえた。どうやらもう仕事に戻るらしい。
邪魔したでござる、とだけ言うと、万斉は部屋を退出した。万斉が退出したのを見計らってか、万斉の気配が消えた段階で晋助が動き出した。下げた食器を流し台に持って行って洗い終わり食器乾燥機に突っ込んだあたりで、晋助がキッチンの柱に寄っかかって、こちらを見ていた。
_「オイ、零杏。明日お前は確か江戸に向かうって言ってたよなァ?」
_「ええ。そうだけど…それがどうかしたの?」
と、乾燥機のボタンを押してからそちらに向き直した。
_「オレがお前に付き合ってやるから、お前もオレに付き合えや。」
_「…分かりました。乗りましょう。ではまず、私のレポート提出に立ち会ってくださいね。それを済ませてからなら晋助の予定にもお付き合いいたしますわ。それでもよろしくて?」
_「あァ、いいぜェ?付き合ってやらァ。」
おそらく目的地は同じなはず。目的はおそらく違うだろうが。
_「それはそれは。ありがとう。助かるわ、晋助。じゃあ、今からは明日のためにお互いの仕事を片付けましょう。」
_「あァ、そうだな。」
私たちはその後、それぞれの仕事を進めることになった。私は真選組宛のレポート、天導衆へのレポートとあともう一つ、それに加えて手紙を出さねばならない。こちらは電子メールだが。色々と面倒くさいからもう、こちらからの差出人は『バラガキ』から、ということにしておこう。
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