ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル
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第41話 イリナの想い、コカビエルVSオカルト研究部
前書き
コカビエルが速さを売りにしていたなどは独自設定なのでお願いします。
side:イッセー
祐斗達がバルパーやフリードと戦闘をしているのを横目で見ながら俺はコカビエルと激戦を繰り広げている、奴の放ったパンチが俺の頬を掠めて血を流しながらも俺はコカビエルを蹴りつけた。
「ふん、ぬるいぞ!」
だがコカビエルは俺の右足を掴むと俺を上空に持ち上げてそのまま地面に向かって叩く付けた。
「がはっ!」
そして倒れた俺の上にマウントを取り打撃を繰り出してきた、俺は両腕で攻撃を防ごうとするがコカビエルの勢いは衰えず俺の鎧を砕いていく。
「どうした、お前の実力はそんなものか?これでは期待外れもいい所だな」
「まだ俺の全力を見せていないんだ、勝負はここからだぜ!」
俺はコカビエルを巴投げしてマウントを解除する、そして倒れているコカビエルを担ぎあげてブレーンバスターの体制に入った。
「このまま叩きつけてやるぜ!」
「そうはいくか、『体躯鸚鵡返し』!!」
「何?……ぐあぁぁ!?な、何が起きたんだ!?」
コカビエルを地面に叩きつけようとした俺が逆に地面に叩きつけられていた。恐らくコカビエルが何かしたのだろうがその原理が分からなかった、だが激突系の技は効かないのかもしれないと考えた俺は叩きつけるのではなく関節技でジワジワと攻める戦法に切り替えてコカビエルを持ち上げてアルゼンチン・バックブリーカ-を繰り出した。
「どうだ、これなら逃げられないだろう!」
「だから甘いと言っている、体躯鸚鵡返し!」
コカビエルが何かをするといつの間にか技をかけていた俺がアルゼンチン・バックブリーカーを喰らっている状況に陥っていた。
「ぐぅ……!?てめぇ、一体何をしやがった!」
「簡単な事だ、お前が気が付かないほどの速さでお前と体勢を入れ替えただけだ」
俺をアルゼンチン・バックブリーカーで痛めつけるコカビエルは自慢するかのように笑みを浮かべてそう話した。
「元々俺は速さを売りにして戦っていた、そこにグルメ細胞が新たに加わった事によって俺は神速の如き速さを得ることが出来たのだ。今の俺にはサーゼクスすら動きを捉え切るのは不可能だろうな」
コカビエルは俺を担ぎあげたまま自らも回転して俺を頭から地面に叩きつけた、その衝撃で俺の顔を覆っていた鎧が砕け散り素顔が露わになってしまった。
「貴様を始末した後はリアス・グレモリー達を、そしてその後にサーゼクス達を皆殺しにしてくれるわ!」
「そうはいくかよ!」
俺は両足をコカビエルの顔に組みつけて逆立ちしながら足の力でコカビエルを投げ飛ばした。そして体勢の崩れたコカビエル目掛けて釘パンチを放とうとした。
「体制を入れ替える暇もないくらいの重い一撃をくれてやるぜ!喰らえ、10連釘パンチ!!」
コカビエルに釘パンチを当てたが手ごたえが全くなかった、すると目の前にいたコカビエルの姿が消えてしまった。
「これは残像か!」
辺りを見渡してみると無数のコカビエルが俺を囲んでいた。匂いで本体を探そうとするが怪鳥ルバンダがやったみたいに匂いを残像に付けているから判別が出来ない、ここまで対策されているとはな。
「くそ、美食屋として使う技術や技が悉く防がれちまう。何か打つ手はないのか?」
『相棒、奴が美食屋としてのお前を知っているのなら赤龍帝としての力を使え!ドラゴンの炎で奴の動きを封じるんだ!』
ドラゴンの炎?そうか、ドライグは火を噴けるんだったな。魂を封印されて籠手になったとはいえドラゴンとしての特性は使えるのか。
「でもどうやればいい?火なんざ吹いたことねえんだぞ」
『腹の中から息を思いっきり吐くようにイメージしろ、今のお前なら出来るはずだ』
「ようし、やってやる!男は度胸だ!」
俺はドライグが言った通り息を思い切り吸い込んで勢いよく吐いた、するとそれは灼熱の炎に変わっており辺り一面を火の海にしていく。コカビエルは炎に囲まれて動きを止めてしまった、俺はそこに追撃の炎のブレスを吐いてコカビエルを火達磨にした。
「ぐう、これが赤龍帝の炎か。二天龍ともなると凄まじい熱気だな、まるで地獄の業火のようだ」
「どうだ、そのままだと焼き鳥になっちまうぞ!やせ我慢をしないで負けを認めろ!」
「フハハ!そんなチンケな作戦で俺を倒せると思っていたとは哀れだな!」
炎に包まれたコカビエルは背中に生えた12枚の翼を勢いよく羽ばたかせて竜巻を生み出して自身を焼く炎を消していった。
「『鴉団扇』!そして……!!」
コカビエルは辺りで燃え上がる炎を竜巻で巻き込みそれを背中の翼から羽根を大量に出して炎の竜巻を包み込んでいった。
「俺の羽根は飾りじゃないぞ、『クロウフェザーシールド』!」
「羽根を使って炎を包み込みやがったのか……!?」
「オマケだ、これは返してやろう。『クロウフェザーファイヤーボール』!」
コカビエルは翼から強烈な突風を生み出して炎を包んだ羽根の塊をこちらに飛ばしてきた、俺はそれをかわすことが出来ず炎に包まれてしまった。
「うわあああァァァァ!?」
「フハハハハ!自らの炎で焼かれるとは間抜けにも程があるな!」
俺は堪らず倒れこんでしまい更に炎に焼かれていく、コカビエルはそれを見て大笑いしているが俺は炎に包まれながらほくそ笑んだ。
(油断しやがったな……)
俺は鎧を解除して上着を脱ぎ地面に穴を掘る、そして穴の中に入り上着で穴に蓋をしてそのまま掘り進んでいきコカビエルの真下に移動した。コカビエルはそれに気が付かずに燃えていく上着を俺だと思って高笑いをしていた。
「ふん、この程度とはガッカリだな。さっさと他の奴らも殺して戦争を……」
「甘いのはお前だぜ、コカビエル!」
「ぐはァ!?」
地面から勢いよく飛び出した俺はコカビエルの顎に右腕のアッパーを喰らわせてやった、油断していたコカビエルはまともにそれを喰らってしまった。
「貴様、上着を囮にして攻撃してくるとは面白い戦法を取るな!」
「のんびりとお喋りなんかさせたりしないぜ!」
俺は攻撃の手を緩めずにコカビエルの首を両手で押さえ飛び膝蹴りを顔面に喰らわせた、そしてのけぞるコカビエルの腕を掴んでこちらに引き寄せながら顔面に拳を叩き込み続けざまにフォークを腹、肩、右足に喰らわせた。
(硬いな、貫けはしなかったか)
俺のフォークはコカビエルにダメージを与えはしたが貫くことは出来なかった、この肉体の強度もグルメ細胞が齎したものだと思うがそれにしては固くないか?かなり本気で放ったつもりだったんだがこの程度のダメージしかないとは……
(もしかすると堕天使などの種族がグルメ細胞を得ると人間以上に強さが上がるのかもしれないな、長引くのは厄介かも知れん……)
元々悪魔や堕天使といった種族は人間以上の力を持っていた、そこに人間を超人にするグルメ細胞が加わったらそのパワーアップの比率は人間以上の物になるのかもしれない。俺達はそれを恐れていたが遂に実現してしまったか……!
「このままお前を野放しにはできない、ここで打ち倒してお前に協力した奴を必ず見つけ出してやる!ナイフ!」
トドメを刺すべく俺はコカビエルにナイフを喰らわせようとしたがコカビエルはそれを両手で受け止めた。
「気にくわんな……貴様、なぜ俺を殺すつもりで攻撃してこない?」
「何を言っているんだ?」
「とぼけるな、貴様の攻撃は全て俺の急所を狙っていない。先ほどの一撃も心臓に集中して攻撃すれば俺を倒せたかもしれんのにお前はそれをしなかったではないか」
コカビエルの言う通り先ほどコイツを攻撃する際に俺は全ての攻撃を死なないように急所を外して攻撃していた。
「俺は食う目的以外で殺しはしない、それでお前を殺しちまったらカニバリズムをすることになるじゃねえか。俺にそんな趣味はねえよ」
「下らんな、そんなつまらない事で戦いの手を緩めると言うのか」
「下らなくて結構。俺は俺の決めたルールを守って戦っているんだ、それを破っちまったら俺の魂が死んでしまう。例えそれが下らない事だとしても俺はそれを曲げるつもりはねえ!」
「ならその戯言を吐きながら死んでいくがいい!」
コカビエルは背中の羽根を広げて俺を挟むように叩きつけてきた。
「『鴉団扇叩き』!」
「ぐわぁ!?」
怯んだ俺を蹴り飛ばしたコカビエルは両手から光の剣を生み出して斬りかかってきた。
「させるか、ナイフ!」
俺は両手でのナイフでそれを防ぎそのままコカビエルと斬り合っていく、俺のナイフがコカビエルの肩を切り裂くとお返しと言わんばかりに放たれた斬撃が鎧を砕き俺の脇腹から鮮血を噴出させた。
「いいぞ!もっと俺を楽しませろ!」
「お前に付き合うつもりなんざ無い!このまま押し切る!」
身体中に血を浴びた俺とコカビエルは更に斬り合いを続けていくがそのうちに俺のほうが傷つき始めてきた。
(コカビエルの奴め、段々と速度が上がっていやがる。このままだと俺が付いていけなくなるぞ……!)
コカビエルは戦いの中で進化しているようで奴の動きが段々と早くなっていっている、このままでは俺が奴を捕らえられなくなってしまう。
「考え事とは余裕だな!」
「しまった……!」
コカビエルが振るう光の剣が俺のガードを弾いて隙を生んでしまった、コカビエルがそれを見逃すはずもなく光の剣が俺の腹を突き刺した。
「がはぁ!?」
「このまま内臓をズタズタにしてやろう!」
「そうはいくかよ……!」
コカビエルが光の剣を俺の体の奥へと突き進めようとしたので腹の筋肉に力を入れて光の剣を筋肉で締め付けて固定する、そして膝蹴りで光の剣を破壊してコカビエルの腹を殴りつけた。コカビエルもお返しと言わんばかりに右ストレートのパンチを出してきた。
「ぬうォォォォォォ!」
「はぁァァァァァァァ!」
超至近距離で殴り合う俺とコカビエル、拳と拳がぶつかり合い凄まじい余波が生まれ鎧は砕けていき俺の体が露わになっていく。
『イッセー、これ以上は鎧を維持できんぞ!早くケリを付けないとこのままでは……』
(それは分かっているがコカビエルの奴め、中々10連釘パンチを当てさせてくれないな……!)
俺はドライグから後少ししか赤龍帝の鎧を維持できないと言われたがコカビエルは俺の釘パンチを警戒しているのか深く踏み込んでこない、さっき空振りしてしまったせいでカロリーを大きく消耗してしまったから迂闊には出せないのだがチャンスが一向にやってこないんだ。
(俺がコカビエルに勝つには10連釘パンチを奴にぶつけるしかない。だが流石は聖書にも名を遺すほどの堕天使だ、戦い慣れてやがる)
これが知能の少ない猛獣ならやりやすいがコカビエルはそうじゃない、打ち込む隙を見せずに確実に俺の攻撃をかわしていく。
(このままじゃ鎧の維持どころかカロリーが尽きてしまう……そもそもコカビエルはあんなにも全力の力を出してカロリーを消費しないのか?エネルギーの循環がいいのかそれとも堕天使は人間と比べるとカロリーが多いのか?くそっ、初めてのケースだから分からねぇ……!)
俺はコカビエルのカロリーは尽きないのかと疑問に思ったが堕天使がグルメ細胞を得たというケースは今回が初めてなので結局は分からない、分かるのは俺がピンチになっていることぐらいだ。
「攻撃が雑になってきたな、何かを狙っているようだがお前の思うようにはさせん」
コカビエルは俺の攻撃を飛び上がってかわす、そして上空で翼を広げて両手を上に突き上げた。
「お前のウィークポイントは知っている、ここからは遠距離戦をさせてもらうぞ。堕天使の奥義が一つ、『ライトニングスコール』!!」
コカビエルはそう言うと自分の周囲に大量の光の矢を生み出してそれを一斉に放ってきた。
「くそ、これじゃ攻撃が届かねえ!ならフライングナイフで……!」
コカビエルの放つ光の矢の雨を回避しながら俺はコカビエルをフライングナイフやフライングフォークで攻撃するが全てかわされてしまう。
「フライングナイフやフライングフォークの速度じゃコカビエルは捉えられないのか。ドライグ、俺も空を飛ぶことは出来ないのか?」
『ドラゴンの翼を出せば飛べは出来るがお前は空中戦などしたことは無いだろう?対して向こうは空中戦を得意とする堕天使、敵の有利な場所にのうのうと向かうなど愚策だぞ』
「やるしかねえだろうが!例え愚策でもこのまま串刺しにされるよりはマシだ!」
『よし、俺も腹を括ってやる!行くぞイッセー!』
俺の背中からドラゴンの羽が出て大きく広がった、そして宙に飛び上がった俺は光の矢をかわしながらコカビエルに突っ込んでいった。
「空中戦は我ら堕天使の十八番!そこにのうのうとやってくるとは馬鹿な奴め!」
「俺は美食屋だ、どんな環境でも適応してやる!」
空中で俺のナイフとコカビエルの光の剣がぶつかり合い激しい火花を散らしていく、俺は一瞬のスキをついてコカビエルの光に剣を蹴りで弾き飛ばして奴の顔面に頭突きを喰らわせた。
『チャンスだ、イッセー!!』
「ああ!これで決めてやるぜ!!」
俺は10連釘パンチをコカビエルに目掛けて放った、これで……!!
「な、なに!?」
だが俺の攻撃が当たる前に鎧が消えてしまい俺は地面に向かって落下していく。
「しまった、ここで鎧を維持できるタイムリミットが来てしまったのか!?」
『くそ、あと一歩の所で……!』
最悪のタイミングに俺とドライグは言葉が出なかった、そんな俺達をあざ笑うかのようにコカビエルは笑みを浮かべて俺を何かの技の体制にクラッチした。
「残念だったな、あと少しでこの俺の首を取れたものを運の無い奴らだ。だがここまで心躍る戦いは初めてだった、感謝の想いも込めて我が奥義で葬ってくれるわ!」
コカビエルは大きく上昇すると俺の両腕を掴み地面に向けて急降下していく、このまま俺を地面に叩きつけるつもりか?
「百舌という鳥は獲物を捕らえると木の枝や棘に突き刺して食う『百舌の早贄』という習性があるのを知っているか?」
「何が言いたいんだ?」
「お前もそれと同じ運命をたどるという事だ!」
俺はコカビエルの言葉に疑問を感じ落下地点を見てみる、するとそこには先ほどコカビエルが放った光の矢が大量に刺さっている地面が目に映った。まさかこいつ……!?
「喰らえ――――――ッ!堕天使の奥義が一つ!!鴉の早贄刺し―――――――――ッ!!!」
脱出することも出来ずに俺は背中を大量の光の槍で貫かれてしまった、全身を耐えがたい激痛が走り意識が朦朧としてきた。
「ぐ、うう……俺はまだ……」
「いい恰好じゃないか、これで俺のコレクションがまた増えたな。後でお前の仲間も同じ末路を歩ませてやる、だから先にあの世へと旅立って待っているがいい」
コカビエルはそう言うと俺を放置して皆の元に向かおうとする。俺は何とか動こうとするが体に力が入らず目が霞んできた……くそ、俺はまだ戦えるのになんで動けねぇんだ……
「イ、イッセー先輩―――――――――ッ!!!」
……小猫ちゃんの叫び声が聞こえた。薄れ行く意識の中小猫ちゃん達の方を見ると彼女は泣きそうな顔で俺の方に腕を伸ばしていた。隣にいるアーシアと朱乃さんも口を押えて泣いている、祐斗もリアスさんも泣いていた。
皆に心配をかけていちゃ世話ねえよな、そう思って立とうとするが力ばかりが抜けていく。起き上がらなければならないのに、どうして体は動かないんだ……そして俺の意識が真っ暗な闇の中に沈む寸前に見たのが瞳孔が開いて虚ろな表情をしたイリナだった。
「イ……リナ……」
俺は無意識に手を伸ばしたがそれが届くことは無かった……
―――――――――
――――――
―――
side:イリナ
初めて兵藤一誠君と出会った時、私は正直に言うと心臓を掴まれてたくらいの衝撃を受けていた。だって彼は私が小さい頃に一緒に遊んでいた神崎一誠君に似ていたからだ。特に頭についていた3本の傷は、幼いころに見たイッセー君の頭についていた傷によく似ていた。
でも私は彼をイッセー君だって思う事が出来なかった、だって私の知っているイッセー君はちょっとオドオドしていて可愛らしい顔立ちの男の子だった、昔は頭の傷のせいで近所の子にいじめられていたから、よく私が守ってあげていたっけ。
そんなイッセー君があんな外人顔負けの筋肉ムキムキでワイルドな男性になってるとは思えなかった。それにイッセー君は黒髪だったけど彼はゼノヴィアと同じ青髪だ、染めてるわけでもなさそうだし結局は他人の空似かと思っていた。今までもそうやって希望を持っては裏切られてきたこともあったから信じる気持ちを失っていたのかもしれない。
でも一緒に過ごしているうちにやっぱり彼は私の知っているイッセー君なんじゃないのかなって思うようになったの。えっ、どうしてそう思うようになったかって?それは私にも分からないかな?しいて言うなら懐かしい感じがしたの。
時折見せる笑みやしぐさが昔のイッセー君に重なっていたし何より二人で買い物に行った時私の名前を呼んでくれた時に彼が幼いころのイッセー君に呼ばれたように感じた。
正直彼が私が知るイッセー君なのか知りたくてしょうがない、でもそんな迷いを持っていてはコカビエルに勝つことなど不可能だろう、だから今回の作戦が成功したら……勇気を出して聞いてみようかな?任務を終えた後なら主も許してくれるよね。
「イッセー君……?」
今私の眼前に映っている光景は何なの?光の矢で背中を串刺しにされたイッセー君の姿しか映っていない、これは夢だよね?だってようやく私が探していた人が見つかったかもしれないという希望があったのに……
「ふん、中々に楽しませてもらえたが所詮は人間、こんなものか」
こちらに向かってくるコカビエルが何かを言っているが私の耳には聞こえてこない、私の意識は私達の方に手を伸ばしているイッセー君にしかなかった。
でも彼は力尽きたかのように伸ばしていた右腕をダランと下げてしまった、私はそれを見た瞬間、頭の中が真っ白になってしまって、気が付けばイノセンスを発動させてコカビエルに向かっていった。
「コカビエルゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」
「イリナ!?いくら何でも無謀だ!!」
ゼノヴィアの静止を無視した私はコカビエルに向かっていき勢いよく足を振るう、私の繰り出した一撃はコカビエルの顔面に当たったがコカビエルはケロッとした表情で笑みを浮かべて私のお腹にパンチを喰らわせた。
「がはぁっ!!?」
内臓に重いダメージを受けた私は思わず血を吐き出してしまった。蹲る私を踏みつけようとコカビエルが足を上げるが振り下ろした足は私ではなく間に入ってきた祐斗君の刀に防がれた。
「これ以上はやらせはしない!」
「ほう、貴様、禁手に至ったのか。面白い、先ほどの赤龍帝のナイフとどちらが切れ味がいいのか試してやろう」
コカビエルの左手から光の剣が生み出され、祐斗君の刀とつばぜり合いをする。その上空を高速で動きながら激しい攻防を繰り広げていた。
「兵藤一誠以外は雑魚しかいないと思っていたが中々やるじゃないか、奴が死んだ事で楽しみが減ったと思ったが嬉しい誤算だったぞ」
「イッセー君がお前なんかに殺されているものか!彼が目覚めるまで僕がお前を抑える!」
コカビエルの剣を弾いた祐斗君が背後に素早く移動して斬りかかったがコカビエルは背中の翼で祐斗君を挟むように叩きつけて押しつぶした。
「がぁぁぁ!!」
「背中ががら空きだと思ったか?甘いんだよ!」
コカビエルは祐斗君の肩に踵落としを喰らわせた、骨が折れる音がして祐斗君は地面に向かって落ちていった。
「とどめだ」
「させません!」
地面に倒れた祐斗君を斬ろうとコカビエルは光の剣を持って斬りかかる、だが小猫ちゃんがコカビエルの左手を蹴って光の剣を弾いた。
「鬱陶しいわ、消えろ!『孔雀羽斬刃』!!」
「ああぁぁぁ!!」
コカビエルは背中の翼を鋸のように振るって小猫ちゃんを斬りつけた、彼女の胸からお腹にかけて鋭い切れ込みが走りそこから鮮血が噴き出す。そして小猫ちゃんに追撃しようとしたコカビエル目掛けて黒い魔力と雷が放たれて辺りを煙が覆った、リアスさんの滅びの魔力と朱乃さんの雷の魔法だ。
「アーシア!私達はコカビエルを抑えるから貴方はイッセーや皆の回復をお願い!」
「わ、分かりました!」
リアスさんに指示を受けたアーシアさんがイッセー君の元に向かおうとする、だがコカビエルの辺りを囲んでいた煙を切り裂くように光の矢が出てきてアーシアさんの肩と足を貫いた。
「ああっ!?」
「アーシア!?」
地面に倒れるアーシアさんを見てゼノヴィアが悲鳴を上げた。リアスさんや朱乃さんもコカビエルの放った光の矢に反応できなかったようでアーシアさんの方を見て驚いていた。
「貴様、よくもアーシアを……!」
ゼノヴィアはデュランダルを上段に構えると月牙天衝を放とうとした。
「喰らえ!秘剣、月牙……」
「遅い」
コカビエルはゼノヴィアの腕を掴んで攻撃を阻止した。いつの間にゼノヴィアの懐に移動したなんて信じられない速さだわ……!
「コカビエル、貴様いつの間にッ!?」
「如何にデュランダルといえど当たらなければ何の脅威にもならないな」
「ぐわぁぁぁ!?」
ゼノヴィアの腕の骨を握力でへし折ったコカビエルはそのまま彼女を殴り飛ばす。ゼノヴィアは頭を強く打ったのか地面に横たわってしまった。
「ふん、くだらんな……むっ?」
ゼノヴィアを一瞥していたコカビエルは突然背後に向かって光の矢を投げた、それは音もなく背後からコカビエルを襲おうとしていた白い狼に当たった。
「ギャンッ!?」
「貴様は兵藤一誠のペットか、音や気配を感じさせずに接近するとは犬っころの癖にやるじゃないか。だが殺気までは隠せなかったようだな、お前も主人の元に向かうがいい」
「ベキラゴン!!バギクロス!!」
お喋りをしていたコカビエルを炎の渦が飲み込み辺りを焼き尽くしていく、そこに竜巻が起こり炎を巻き込んで更に炎上させていく。誰がこの攻撃をしているのか見てみると視線の先には涙を流すルフェイさんがコカビエルに見た事もない魔法を放っていた。
「コカビエル、師匠の仇です!マヒャド!!ギガデイン!!」
上空から氷の塊と激しい雷が落ちてきてコカビエルを襲うが、奴は両手でのラッシュで魔法を打ち砕いていく。
「魔法使いなど接近すれば脅威でも何でもないわ!」
「ッ!?」
そしてルフェイさんに接近したコカビエルは、彼女の両肩や両足に光の槍を刺して串刺しにした。
「ルフェイ!?」
「人の心配をしている場合か?次は貴様だ、死ね」
「ッ!?」
そして今度はいつの間にかリアスさんの前に移動していたコカビエルは、リアスさんを殺そうと拳を握っていた。そして放たれた高速の一撃をリアスさんは赤い籠手を使って何とか反らす事が出来た。
「この!」
攻撃を凌いだリアスさんは、返すように魔力弾をコカビエルに放つが、コカビエルはそれを難なくかわしてリアスさんのお腹に鋭い膝蹴りを入れた。そしてリアスさんを魔法を放とうとしていた朱乃さんに目掛けて蹴り飛ばした。
「しまっ……!?」
このまま魔法を放てばリアスさんに当たってしまう、朱乃さんは咄嗟に魔法を解除したが既にコカビエルが朱乃さんの背後に立っており、振り返ろうとした朱乃さんの首を掴んで宙にぶら下げた。
そして飛んできたリアスさんを踏みつけて地面に押さえつけると朱乃さんをマジマジと見て面白そうに笑みを浮かべた。
「ぐぅ……!?」
「貴様、もしかするとバラキエルの娘じゃないか?貴様の使う魔力に奴の力を感じ取った。くくっ、面白い因果もあったものだな。だが何故貴様は光の力を使わない?バラキエルの血を引き継いでいるのなら使えるだろう?」
えっ、朱乃さんはグリゴリの幹部であるバラキエルの娘だったの?衝撃の事実に私は動揺を隠せなかった。
「……生憎わたくしは父の元を逃げ去った負け犬です、力の使い方など知りませんわ」
「ハッハッハ。そうか、折角得た力の使い方も分からないとは哀れだな。バラキエルの奴も人間の女などというくだらない存在に現を抜かすとは存外間抜けな男だったみたいだな」
大きな声で同族であるバラキエルを馬鹿にするコカビエル、それを聞いていた朱乃さんは怖い笑みを浮かべていた。
「父から逃げ出したわたくしを馬鹿にするのは構いません。でも……愛し合っていたわたくしの両親の事を馬鹿にするのは許せませんわ!」
異空間から金の棒を取り出した朱乃さんは、それを大きく横に振るってコカビエルの頭に当てようとした。コカビエルは朱乃さんから手を放してバックステップで攻撃をかわす。
「雷治金(グローム・パドリング)!!」
朱乃さんは金の棒を槍のような形に変えてコカビエルに攻撃を仕掛けていく、コカビエルはそれを腕で弾こうとしたが触れた腕が黒く焦げてしまっていた。
「ほう、電熱で武器の形状を変えただけでなくそのまま熱を保ちつつ攻撃に使ってくるとは面白い発想をしているな」
「触れれば電熱で丸焦げですわ、このまま焼き鳥にして差し上げましょう」
「舐めるなよ、貴様程度の攻撃で俺を倒せると本気で思っているのか?」
「舐めてなどいませんわ、わたくしは自分が持てる力を全て使って貴方と戦うだけです」
朱乃さんは再び異空間から何かを取り出した、それはいくつもの太鼓がアーチ状に繋がれた道具だった。
「これはイッセー君がくれたわたくしの切り札でもありますわ。この太鼓はわたくしの雷の魔法を強化してくれる効果を持っていますの、だから今から放つ一撃はシャレにならない威力になりますわよ」
「面白い、だったらそれを見せてもらおうか!」
コカビエルは頭上に大きな光の矢を生み出して朱乃さんに向かって投げつけた、朱乃さんはそれをかわそうともせずに立ち尽くしていた。
「朱乃さん、危ない!」
「大丈夫ですわ、イリナさん。今のわたくしならアレを打ち消せます……雷光!」
朱乃さんの体からバチバチと大きな音を上げながら電熱が溢れていく、それが一気に放たれると向かってきていた光の矢を相殺して打ち消してしまった。
「我が光の矢を打ち消しただと……?」
「驚くのはまだ早いですわ!」
朱乃さんが金の棒で太鼓を叩くと電が放たれる、すると太鼓から出てきた電は何かの形に変わっていった。
「3000万V、雷鳥!雷獣!」
「これは……!?」
雷が鳥と獣になりコカビエルに向かっていった、コカビエルが雷獣を光の剣で攻撃しようとしたが雷獣はそれをかわしてコカビエルの肩に噛みついた。
「ぐわぁ……!?こいつら、意思を持っているのか!?」
驚くコカビエルに雷鳥が向かいコカビエルの腹を嘴で貫いた。コカビエルは3000万Vをまともに喰らい苦痛の表情を浮かべた。
「この子達はわたくしの意思で自由自在に動き回ることが出来るのです、さて次は倍の電力を見せて差し上げますわ」
朱乃さんが太鼓を2回叩くと今度は雷が龍の形に変わっていった。
「6000万V、雷龍!!」
朱乃さんの太鼓から生み出された雷の龍はコカビエルに絡みつくと締め付けながら首筋に噛みついた。うわぁ、電撃と拘束の二段構えに首筋への出血ダメージ……えぐいわね。
「どう、6000万Vのお味はいかがかしら?」
「中々刺激的な味だな、だがこの程度では肩こりしか取れないぞ」
「うふふ、なら最後にとっておきをプレゼントして差し上げますわ」
朱乃さんは魔法で異空間に穴を開ける、するとそこから雷雲が出てくるとそれを上空で球状に集めていく、それは次第に大きくなっていき巨大な雷雲の球になった。
「な、なにあれ……?」
「ここに来る前にずっと異空間にため込んでいた分厚い積乱雲……それを球体にしたものですわ、膨大な気流と雷のエネルギーを内包したあれは、差し詰め放電爆弾と言った所かしら。名付けるとしたら『雷迎』と呼ぼうかしら?」
雷迎……あんな切り札を隠し持っていたなんて思わなかったわ。
「本来ならもっと大きなものを作れるのですが時間もかかるし今回はこれが限界ですわね、でもこの大きさでも威力は絶大……流石の貴方でもあれをまともに喰らうのは危ないのではないかしら?」
朱乃さんがニコリと笑うが私は寒気がした、だって学校を飲み込んでしまう位の大きさなのにまだ小さいなんて信じられないわ!
それにそんな危険なものをここに落としたら私達も危ないじゃない!?
「大丈夫ですわ、普段はアレを落としますが今回はコカビエルを直接押し込んで棺桶にしますから」
私の心の叫びを感じ取ったのか、朱乃さんは大丈夫と言い微笑んだ。そして彼女が指を鳴らすとコカビエルを締め付けていた雷龍が浮かび上がり、そのままコカビエルごと積乱雲の塊の中に突入した。
「ぐおおおォォォォォ!?」
中からコカビエルの絶叫が聞こえてくるがいったいどうなっているんだろうか?
「荒れ狂う気流の嵐に迸る雷の渦……いずれ体がバラバラになってしまいますわ」
朱乃さんは傷を抑えながら笑みを浮かべて私の傍まで歩いてきた。
「大丈夫ですか、イリナさん?」
「私は大丈夫です、でも他の皆が……」
「ええ、まずはアーシアちゃんを回復してあげましょう。彼女さえ回復できれば後は……」
その時だった、空に浮いていた雷迎が大きな音を立てて消えてしまった。一体何が起こったと言うの?
「これは……うっ!?」
「あ、朱乃さん!?」
それを見上げていた朱乃さんのお腹から何者かの腕が突き出ていた。そして倒れる朱乃さんの背後に立っていたのは全身が焦げていたコカビエルだった。
「バラキエルの娘よ、正直危ないと感じたぞ。もしグルメ細胞を持っていなかったら死んでいたかもしれん。でも俺はこうして生きている、この勝負は俺の勝ちのようだな」
そんな、皆やられてしまった……辺りで倒れ伏す皆を見て私は絶望に落とされてしまった。
「さて、残るは貴様だけだな。何か言い残すことは無いか?特別に聞いてやろう」
「……」
「つまらん、絶望して喋る事も出来なくなったか。ならもういい、貴様も死ね」
コカビエルは心底つまらない物を見るような視線を私に浴びせると、光の剣を上段に構えて私を斬ろうとする。
(ああ、ここで死んじゃうのか。やっとイッセー君に会えたと思ったのになぁ……でもどうせ死ぬのならあの世でイッセー君に会いたいな……)
死ぬ間際に思い浮かんだのは幼い頃の記憶だ。イッセー君とあの時別れたりしなければ、自分だけでもイッセー君の傍に残れば良かったとずっと後悔していた。
実はこの町を去るのを嫌がった私を見かねたイッセー君の両親が私だけなら面倒を見れますがどうでしょうか?とそう提案してくれた、でも私は結局家族を取った。そしてイッセー君の両親は死んで彼もいなくなってしまった。
あの時私が残っていればイッセー君だけでも守ってあげられたかもしれない、でも今更そんなことを思っても仕方のない事だった。後悔ばかりして結局生き続けてきてしまった、なら最後にイッセー君に謝って死ぬことにしよう。
「ごめんね、イッセー君。肝心な時に守ってあげられなくて……」
そしてコカビエルの振るった光の剣が私を切り裂く……
「謝る必要なんかねえよ、イリナ」
……ことは無く光の剣は死んだはずのイッセー君の腕に掴まれて止まっていた。
「イッセー君……?」
「き、貴様ッ!?」
「よう、コカビエル。地獄から戻って来てやったぜ」
コカビエルは光の剣を止めたイッセー君に顔面を殴られて大きくのけぞった。
「な、何故生きている?死んだはずじゃなかったのか?」
「素人め、野生の世界では獲物が死んだかどうか分かるまでは油断しちゃいけないんだぜ?まあ今回は怖い鬼に叩き起こされたからこうやって立っていられるんだけどな」
私を庇う様に背中を見せるイッセー君を見て、私は幼い頃の記憶を思い出した。
あれは確かいつもイッセー君を虐めていた子供達がそれを庇う私をムカついたのか虐めてやるといって大勢で囲んできたことがあった。その時はさすがに数が多くて泣いちゃったんだけどそこにイッセー君が駆けつけてきてくれた。
(イ、イリナを虐めるな!ボクが許さないぞ!)
怖かったのか涙でグチャグチャになった顔で必死で私を守ろうとしてくれたあの背中……それが今の彼と重なって見えた。
「俺が寝ている間に好き放題してくれたじゃねえか、コカビエル。だがもう好きにはさせない、仲間は……イリナは、俺が守る!!」
そう叫ぶイッセー君の背中はとても大きくて頼もしかった……
後書き
イッセーがどうやって復活したのか、怖い鬼とは何か、それは次回判明します。因みに幼い頃のイッセーは気が弱くいつも守ってくれていたイリナを兄のように思っていました。実際は女の子だったんですが現在のイッセーの性格はイリナの影響もあります。
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