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獣篇Ⅲ

作者:Gabriella
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37 時代の流れには従いましょう。

提督から貰っていた鍵を使って、私たちは神威を抱えて牢へ入った。腕の中の神威が、私の腕を掴む。

_「神威、どうしたの?」

うっすらと目を開けて私の胸に頭をくっつける。

_「零杏、シンスケ、…?」

そういえば、まだ神威(かれ)
背中に傷を負っていたままだった。
ハッとして晋助に言う。

_「手当ての道具を出すから、しばらく神威を抱えておいてくれるかしら?」

いいぜェ?と言って、私と晋助が場所を交代し、私は例のバッグから道具を取り出した。
まずは、傷口から出た血液を拭くためのガーゼと、斬られた箇所を癒す為の軟膏を取りだし、晋助に神威をうつ伏せにして抱えてもらい、神威(かれ)の服を脱がせミネラルウォーターにガーゼを浸し、優しく血液を拭き取った。綺麗になった傷口にその軟膏をしっかり塗り込み、早めよの呪文を小さく唱えてから、包帯を巻いていく。まずは胴体が終わった。

次に、腕に移る。先程と同じ手順で事を進め、受けた(はずの)傷は全て応急手当てが済んだ。

_「よし、これでいいわ。後は、服が問題だわね。でも、そろそろ時間的に提督のところへ行かねばならないでしょう?」

まァ、そうだな。と晋助が答える。

_「じゃあ、晋助先に行ってて。私は神威(かれ)の服をどうにかしてから後を追うから。じゃあ、このマイクをオンにしててね。」

と言って、小型のマイクを着物の合わせに着ける。しばらくの沈黙の後、晋助は渋々了承の意を示し、先に行った。晋助が居なくなったのを確認してから、神威が言葉を発する。

_「ねェ、零杏?」

_「どうしたの?神威。」

_「シンスケはなぜ、オレを殺さなかったのかな?シンスケなら…オレに手加減をするような男じゃないダロ?」

群青色の瞳が、私を見つめる。
暫し考えてから、私は口を開いた。

_「…さぁねぇ…なぜ晋助(かれ)がそんなことをしたのか、は私には分かりかねるわ。でもね、きっと何かしらの意味はあるわよ。それが何か、はまだ彼にしか分からないけれど。…さ、私はそろそろ行かなきゃだからあなたに新しい服をあげなくてはね。本当は私の服だけど、今回は特別にあげるわ。返さなくていいから大切に使ってね。」

と言って、バッグの中から男物のチャイナ服を取り出すと、神威に着せた。ついでなので、合わせのパンツもセットで渡す。

_「あと、これも。じゃあね。」

と言って牢の鍵を閉めると、私はその場を去った。晋助(かれ)の後を追って提督の場所へ向かう途中、イアホンから提督の声が聞こえてきた。


_「ブアッハッハッハッハ)高杉殿。よく殺ってくれた。これでワシに仇なす反乱分子は消えた。勾狼(こうろう)もその働き、見事であったぞォ?」

_「いえ、私はアホ、阿保提督閣下、第12師団団長としての務めを果たしたまで。反逆者の将軍を見れば、神威についていた連中も目が覚め、提督への忠誠を新たにしましょう?」

_「よし、今宵は会合(えんかい)をしようではないか。そなたら鬼兵隊も参加するがよいぞ。」

_「予定が空いてたら、にすらァ。」

ウワーこれ、すっかり入るタイミングを失っちゃったな。

_「だが、…ちと勿体ない気もしたがな。」

_「ん?」

失礼致します、と言って私は部屋に入る。提督が、ご苦労であった。とだけ言うと、晋助が話を続ける。

_「あの餓鬼ィ、雑作一瞬で混濁させる毒矢をあれほど浴びて、オレの一太刀を受けても尚、最後まで笑ってやがったァ。…あの手負いでェ、そっちの手勢24名を殺っちまうたァ。ヤツを刈るための損害よりも、ヤツが抜けた損害の方が甚大な気がするねェ。」

_「構わぬさ。空いた穴は、そちら鬼兵隊が埋めてくれるのであろう?」

_「ハッ)悪いが遠慮させてもらうぞ?鶏口となるも、牛後となる勿れってなァ。海賊の低幹部より、お山の大将やってた方がオラァ気楽でいい。それにオレは、この鬼兵隊の名、捨てるわけにはいかなくてね。」

_「ならばやはり恩賞は?」

_「何もいらねェさ。なァ、零杏?…ってな訳で、今まで通り、持ちつ持たれつ、で行こうぜ。」

さ、行くぞ。と言われ、私も一緒に席を立つ。超高速技で壁に画ビョウ型の矢を指し、耳のイアホンから盗聴する準備を整えて、晋助(かれ)と一緒に部屋を去った。


_「…お気を付け下さい。ヤツは神威以上にィ、何を企んでいるか、分からぬ虎狼故。」

_「分かっておる。芝居は二度とないさ。」

はい、全部聞こえてます。


会合(えんかい)の前に、晋助はもう一回神威のところに行く。と言ったので、それまで私は船内をブラブラすることにした。
相変わらずトランシーバーは、オンにする。今回は、晋助の方にチューニングを合わせる。


_「丁か半か…フフフ)丁か半か…フフフフフフ)」

_「半だ。」

_「ハハハハ)残念。丁じゃぁ。」

_「ありゃりゃ。今度はアンタが死ぬ番だねぇ。ソイツは呪いの博打だヨ。負けたヤツは、必ず不幸になるのサ。オレも負けたんだから、間違いない。」

_「フン)殺しても死なねェ化け物が抜かしやがる。とは言え、手当ては全て零杏がしたがなァ。」

_「…わざわざ手当てまで生かしたのは、公開処刑でもして、他の連中への見せしめにするためだろう?日取りはいつ?」

_「三日後だ。」

そう、予定が狂わなかったら。

_「三日かぁ。オレとアンタ、どっちが先に死ぬかなぁ?アンタも分かってたんじゃないかい?ここはの連中はドイツもコイツも自分のことしか考頭にない。どれだけ恩を売っても、利用されるだけ利用されて、お払い箱サ。」

_「確かに…利用するしろされるにせよ、こんな不甲斐ない相棒じゃァつまらねェってもんだ。こんなところにいたらァ、せっかく生えたその立派な牙も、腐り落ちちまうだろうよォ。」

ホラ来た、勧誘だ。

_「アンタは、一体ここに何をしに?」

_「テメェと、同じだよ。無様に生え残った大層な牙を突き立てる場所を探してブラリブラリだ。だが、こんなおんぼろ船じゃ、どこにも行けやしねェ。どうせ乗るならァ、テメェらの船に乗ってみたかったもんだな。…じゃァな。宇宙の喧嘩師さん?」
 
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