| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

オズのガラスの猫

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四幕その十

「最高の身体でしょ」
「そこでそう言うのが貴女ね」
「その最高の身体のあたしが言うのよ」
 まさにというのです。
「今回の旅はね」
「大船に乗ったつもりでなの」
「壊れないガラスの船にね」
 こう言い加えたガラスの猫でした。
「乗ったつもりでいなさい」
「そういうことね」
「例え何があってもよ」
「貴女がいれば」
「万全なのね」
「そういうことよ、それにしてもこの像は」
 またブリキの像、五人のそれを見て言ったガラスの猫でした。
「よく出来てるわよね」
「服の細かいところまで丁寧に造っていて」
「あんた達のそれぞれの服のね」
「これで色まで着いたらね」
 ブリキの銀色でピカピカです、そこは違います。
「私達でもね」
「ガラスに映る自分を見るみたいによね」
「そう思うわね」
「そうなのね」
「そうよ、いや本当にね」
 しみじみとです、ナターシャは他の四人と一緒に五人の像を見つつ言うのでした。
「私達みたいよ」
「ブリキのあんた達ね」
「そう思ったわ」
「あたしはブリキのあたしの像を見てもね」
「特になのね」
「凄くよく出来てるとは思っても」
 それでもというのです。
「動くとかは思わないわ」
「それガラスの貴女の像を造ってもよね」
「ええ、思わないわ」
 全く、という口調で言うのでした。
「それはね」
「それはどうしてかしら」
「だって動くのはあたしだけよ」
 どんな精巧な像でもというのです。
「あたしはあたしでね」
「貴女だけが動くから」
「そうよ、動くものはね」
 それこそというのです。
「あたしだけだから、意識があるのもね」
「つまり魂があるのも」
「あたしだけだから」
「それがはっきりしてるから」
「若しその像が意識があってもあたしじゃないのよ」
「貴女は貴女ね」
「この世に一人だけいるね」
 そうしたものだというのです。
「あたしなのよ」
「そこは確かってことね」
「そうよ、この世で一番確かなことよ」
 それこそというのです。
「あたしがあたしであるってことはね」
「それじゃああたしもあたしね」
 つぎはぎ娘も言ってきました。
「あたし自身があたしだから」
「そうよ、あんたもね」
「あたしなのね」
「このことは確かよ」
「真実なのね」
「そうよ、真実よ」
 まさにそれはというのです。
「あんたはあんたよ」
「あたしそっくりに造った像が魂を持っても」
「あんたなのよ」
 あくまでというのです。
「そこはね」
「成程ね」
「だからあたしはナターシャみたいには考えないの」
「像が動いたら自分が自分かわからなくなるとか」
「全くね、むしろ何でそう考えるかね」
 それがとです、ガラスの猫はここでは首を傾げさせて言うのでした。
「あたしはわからないわ」
「むしろなのね」
「その方がわからないわ」
 そうだというのです。
「あたしとしてはね」
「そう言われてもね」
 どうかと返したナターシャでした。「私は実際にそう思うから」
「僕もだよ」
「見ていてそう思ったよ」
「実際にね」
「そう思いながら見ていたわ」
 四人もこうガラスの猫に言います。
「どうにもね」
「あんまりにも細かいところまでよく出来てるから」
「ひょっとしたら動くかもって」
「それで動いたらって」
「そういうものかしらね」
「あたしはね」
「ううん、貴女は本当に自分がどうかなのね」
 ナターシャはガラスの猫のその性格をここでも再認識しました。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧