Re:ゼロから始める士郎の生活
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六話 異端と歩み寄る影
前書き
久々の投稿なん。体調優れないし…早く病院に行って治そう...(lll-ω-)チーン
脱字とか多そう…すみません。それでも読んでくれたらとても嬉しいです。
イライライライラ。
あぁ、遠目で見ていても分かる。ラチンスはご立腹だ、
歩きながら時折、舌打ちし、足元に転がっている小石を蹴り上げる。そして時折…「………チッ」と小言を呟いていた。この怒りの原因を作ったフェルトさんは一体、何をやらかしたのやら。
「なぁ、フェルトってラチンスに何したの?」
我慢の限界、疑問の爆発だ。俺の隣でクスクスと笑っているガストンとカンバリーに質問する。
「何って…そりゃあな、」
「まぁ、色々あったのよ」
答えになってない応えだ。そんな返し方をされると余計に気になるではないか!
「気になる…」
ラチンスの怒りはグツグツと煮込まれている。話し掛けたらまず「アッ?」と睨みつけてくる。これは長引きそうだ…と判断し、俺達三人は少し距離を置いて歩く。
「なんだ、ありゃ…?」
それは、ラチンスの声だった。
「ん?」
遠く、遠く離れた視線の先────近付いてくる何か。
物凄い速度で建造物の屋根を利用し駆けていき。その姿は、まるで忍者を連想させる。
そして、ソレは俺達の頭上を飛び越えた。
「────────────────」
一瞬、すれ違いの一瞬だった。アレは、ラインハルトだ!
「なんだ…さっきの?」
ラチンスは過ぎ去っていくラインハルトを目で追う。
「ラインハルト…だった」
「は?」
「さっきのはラインハルトだ。カンバリー、」
「は?」
「だからラインハルトだって、この国の騎士なんだろ…詳しくは知らんが、」
エミリアの話だと、この国で騎士で『剣聖』と呼ばれる存在らしい。さっきの動きは人間というよりサーヴァントに近いものを感じるが…一体、ラインハルトって何者なんた?
「お前…ラインハルトの知り合いなのか?」
「知り合い?
うん。まぁ、そう言われればそうだな」
「お前…何者だ?」
「言ったろ、俺は流れ者だ。それ以下でもそれ以上でもない。てか、今はそんな事どうでもいい。ラインハルトの奴は急い飛んでいったけど何かあるのか?」
ラインハルトの飛んでいった方に指をさすとカンバリーは。
「ンな事言われても…ここら一帯は何もねぇ…」
するとカンバリーは口を閉じた。
「どうした?」
「いや、ただの偶然かも知んねぇけどよ…あの方角は巨人族のジジィとフェルトの住処だ」
────ドクンっ。…その時、胸の奥で嫌な気配を感じた。
なんだ。なんだ。何か、とても嫌な予感が…。
剣聖 ラインハルト・ヴァン・アストレアは空を飛ぶ。
正確には、跳ぶ────。
建物の屋根を利用し、最低限の脚力で────跳ぶ。
力を入れ過ぎると利用した足場が持たない。だから…力加減を調整しつつ、現状維持できる最高速度で目的地まで向かう。
腸狩りの血の跡は途中で途切れており、今は大まかな位置しか特定できないが、この近くに居ることは確かだ。
ラインハルトは目を閉じる。
感覚を研ぎ澄まし────心の目で、腸狩りを追う。
「……?」
この感じ、このマナは────エミリア様?
研ぎ澄まされた感覚で感じ取れたエミリアのオド────そして、腸狩りの気配。
何故、こんな所にエミリア様が?
そして…何故、このタイミングで腸狩りの気配が…?
エミヤ…いや、アラヤの一撃で腸狩りはかなりのダメージを負った筈だ。ここら周辺で身を隠しているのは解っていたが…何故、この最悪のタイミングで現れるんだ?
「まさか、腸狩り狙いはエミリア様か…?」
それとも偶然────いや、もしかしたら必然?
どの道、エミリアと腸狩りを会わせてはならない。もし鉢合わせでもすれば腸狩りはエミリアに危害を加える可能性がある。
「少し、力を入れるよ」
飛び移った建物の足場に心の中で謝罪する。
メリッとひび割れる足場────そしてラインハルトはさらなる高度に身を乗り出す。目を凝らし先程、感じられたエミリアのオドと腸狩りの気配を探索する。
「…アレか…」
貧民街の端にポツンっと建てられた建物。あそこからエミリアの気配を感じる。
そして、そのすぐ側に腸狩りの気配も。
「間に合ってくれ」
ラインハルトは平常心で言った。
やはり、『完璧』な超人はズレている、
「なんじゃ、フェルトとお主は知り合いだったのか?」
何故か嬉しそうに笑う巨人族のバルガ・クロムウェル。そして。
「それはこっちのセリフだよ、ロム爺。なんでアルトリアの姉ちゃんがこんな所に居るんだよ?」
状況を把握し切れていないフェルト。正直、エミリアも少し困惑気味だが…このロム爺と呼ばれているバルガ・クロムウェルとフェルトは知り合いということは理解出来た。
「おぉ、そういえばお主の名前を聞いておらんかったな」
「自己紹介もしてねぇのかよ!」
「いや、ワシの名前はさっき教えたんじゃがな…名前は別に聞かんでもよいかとな、」
「そこは聞いとけよ!」
フェルトとバルガの会話はとても楽しそうだった。
明るくて、ポカポカして…少し懐かしく感じた。なんでだろ、昔の記憶なんて無いのに。
「で、姉ちゃんはなんでこんな薄汚ねぇ所に居んだよ?」
「薄汚いとはなんじゃ!外見は少しみすぼらしいかも知れんが中身はそこそこ綺麗じゃろっ」
そこそこ…綺麗?
エミリアは「あははははっ」と苦笑し、フェルトの方を見る。
「ロム爺、これは綺麗とは言わねぇ。
散らかってはねぇが見ろよ。こことか結構ホコリまみれだぜ?」
商品と思わしき物は綺麗に並べられてはいるが…お世辞にも綺麗とは言い難い。だが、フェルトはキッパリと言い切った。そんな所を見るとバルガとフェルトの信頼関係は中々のものだと見て分かる。
「で、アルトリアの姉ちゃんはなんでこんな所に?」
「あっ。うん。ちょっとよそ見してたらフェルトちゃんとシロウを見失っちゃって…」
「んで、ロム爺に誘拐されたと」
「誘拐なんぞしておらんわ!」
「解ってるよ、ちょっとしたジョークだよ」
そうして、ここまでの経緯を話すとフェルトは「成程な。ロム爺、お手柄だ!」と言ってバルガの方に駆け寄る。
「よっし。んじゃぁ、シロウと合流するぞ!」
フェルトとロム爺はニヤニヤと笑顔で外へ出ようとする。先程の経緯を話している最中に「ここから安全に抜き出せたらお礼する」という発言でやる気スイッチを押してしまったらしい。頼もしいが、この暗闇の中…どうやってシロウを探し出すのか?
「そんな心配そうな顔すんなよ。シロウとは合流するって約束してるから多分、そこで待ってると思うぜ?」
そう言ってフェルトはエミリアの手を握る。
「さっ、早く行こうぜ」
その姿はとても頼もしくて、とても自分よりも幼い女の子とは思えなかった。
少し、羨ましいと感じるのは自分が…無知なのだから?
それとも憧れを抱いているのかも?
「うん、」
エミリアの表情も自然と笑顔になっていた。そしてエミリアもフェルトの手を握り返す。
その姿は歳相応のもので、それを見ていたロム爺は微笑んでいた。
「ロム爺、なんで笑ってんだ?」
「なんでもないぞい」
「きめぇ…」
「うるさいわい」
ロム爺はフェルトの頭を優しく撫で回す。
「や、やめろ」
と言ってはいるが、嫌がっている訳ではない。
この信頼関係はどうやって構築されたのか?
ロム爺は亜人種、巨人族の生き残り。フェルトは普通の人間の女の子。
何故、こうも仲良く出来るのか…?
亜人種であり、ハーフエルフであるエミリアに理解する事は出来なかった。
少なくとも亜人種同士であるバルガは、ハーフエルフであるエミリアの心情を多少は理解できるだろう。だが、普通の人間の女の子であるフェルトが、エミリアの素性を知ったら…。
フェルトはエミリアに何と言葉を掛けるのか?
そんな事を考えると不安になる。
「アルトリアの姉ちゃん?」
「ん、なんでもないよ」
あの人は、私がハーフエルフって知ったらどんな反応をするんだろうか?
遠い、遠い国からやって来た少年は私の事をなんて言うのだろう?
もしかしたら────と淡い希望、願望がエミリアの中を駆け巡る。
そんな事は有り得ないと分かっているのに、なんでそんな事を考えてしまうのか。
この感情は、なんて呼ばれるものなのだろうか?
エミリアの頭と心の中では様々な感情が入り乱れていた。
もし、もしかしたら────────────。
グチャ。
何か、生々しい音。
グチャグチャ。
何処から聴こえてくる気持ちの悪い音。
フェルトとロム爺は身を低く構え、いつでも反応できる状態を維持する。
何の音?
こんな夜中に、それもこんな生々しい音…嫌な予感しかない。
ぐちゃぐちゃ。
少し、音が変化した。
とても嫌な音だ。不快な音だ。
そして、それは少しずつ近付いてくる。
ぐちゃぐちゃ、グチャ。
この音は、生き物の音だ。
そして『肉』の音だ。肉を咀嚼する音…肉を無理矢理引きちぎり音────。
月の光を遮っていた雲達は晴れていく。そして、そこに映し出されたのは一人の女だった。
とても美しく、真っ赤な液体が滴る妖艶な女だった。
「あら、見られちゃった」
外見と同様、声も妖艶だ。そして、この耳にしたフェルトとロム爺は戦闘態勢に入る。
「そんなに構えなくても大丈夫、私は貴方達に何の興味も無いから」
そうやって笑みを浮かべ、コチラへ近付いてくる女。
「そこを通してもらえるかしら?」
「…てめぇ、何モンだぁ?」
フェルトは冷や汗をかきながら言うと。
「ごめんなさい。その質問には応えられないわ。それに知らない方が貴方達にとっては都合がいいと思うのだけれど?」
妖艶な微笑みを浮かべ、女はやって来る。
ズルズルズル。
何か引き摺る音だ。
「────────?」
女の背後…正確に言えば、女の手で引き摺られる何か…。
月の光が輝きを増し、少しずつ顕になる。
「────────────────────」
突如、エミリアはとてつもない吐き気に襲われた。
口元を手で抑え、足を震わせながら目を逸らす。
「お前、ソレは────」
フェルトは構えていたナイフを落とす。
ズルズル。ズルズルズル。
女の手に握られていたのは生き物の足だった。
それも皮を剥がされた生き物の生肉。
「これ?
ちょっと怪我したから治そうと思って、適当に捕まえてきたの」
エミリア達は、あの女が何を言っているのか理解出来なかった。
ズルズル。ズルズル。ズルズルズル。
引き摺られるソレの正体をエミリアは知っている。
引き摺られるソレの正体をフェルトは知っている。
引き摺られるソレの正体をロム爺は知っている。
「でも、これだけでは足りなさそうね…」
少し不満そうな表情を見せる女。
「かといってこれ以上、ここに長居するのも危険だし…どうしたものかしら」
女はブツブツと小言を呟き、コチラへやって来る。
女から殺意は感じない。
だが、女の手で引き摺られるソレを見て、この女に背を向けるのは論外だ。
後ろを向いた瞬間────────『死』
「あら。貴女、」
女はエミリアを見つめる。
「変わったローブを羽織ってるわね」
ニコッと人を惑わす笑みでエミリアに話し掛ける。
エミリアは…女の方を少し向くが、女の手で引き摺られるソレを見て目を逸らした。
「そんなに恐がらなくても大丈夫よ。コレは死んでいるから、」
何を言っているの?
なんで、そんな平然としていられるの?
定まらない思考回路に、エミリアは困惑する。
「…………」
どうすればいい?
どうすればこの状況を乗り切れる?
「……………」
どうしよう。
どうしよう。どうしよう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
どうしたらいい?どうしたら?どうすれば?
「────────そこまでだ」
そんな時、彼はやって来た。
この国、最強の騎士────ラインハルト・ヴァン・アストレアだ。
「エミリア様、ご無事ですか?」
そう言って、妖艶な微笑みを浮かべる女の前に立ちはだかる。
「私達は…大丈夫……でも、」
視線の先、恐らく先程まで生きていたソレにエミリアは指差す。
ラインハルトはソレを見て、表情を歪ませることも無く、女を見据える。
「貴方が、この国で最強と謳われる騎士────剣聖 ラインハルト・ヴァン・アストレア」
ウフフフフ、ウフフフフ。
楽しそうに。
愉しそうに。
樂しそうに。
ただ、ひたすらに歓喜の声を上げる。
「その方は?」
もう死んでいるであろう人間だったものに対してラインハルトは質問する。
「これは私の食事よ。先程少し変わった騎士の方と手合わせしてやられちゃったわ」
「一応、無駄だと思いますけど言っておきます。投降してください。罪が軽くなる訳ではありませんが、ある程度は譲歩するよう尽力します」
「あらあら優しいのね」
「最低限の慈悲です」
ラインハルトの表情は変わらない。
冷たくはない。かと言って暖かくもない。
当てはまるとすれば無表情と言うべきだろう。
恐怖している訳でもなく、楽観視している訳でもない。面倒だとも思っていない。一体、ラインハルトは何を思い、何を感じているのだろう?
「ありがとう。でも、御遠慮するわ」
そう言って女は鋭利なナイフを何処からか取り出し────戦闘態勢に入る。
「忠告はしました」
「えぇ、忠告ありがとう────ね!」
消えた。女は消えた。
だが、ラインハルトの目は女を逃さない。
空を舞い、ナイフを突き立ててくる女を見逃さない。
ふぅ…と軽く深呼吸し、ラインハルトは手を差し出す。武器を構えず、右手を前に差し出す。それだけだ。女に躊躇はない。ナイフはラインハルトの心臓目掛けて突き────刺さらなかった。
「!?」
女は喜びに震えている。
ラインハルトの心臓に突き刺さる筈だった己の武器はラインハルトの手によって受け止められていた。それも武器も構えず、素手で受け止めたのだ。
「鋭い────でも、それだけでは僕は殺せない」
ラインハルトは受け止めたナイフごと女を吹き飛ばす。
女は物凄い勢いで吹き飛ばされ誰も住んでいない建物に激突する筈…だったが、吹き飛ばさる最中、女は何とか体制を整え着地した。
「成程、確かに…貴方は上物……いや、それ以上ね」
「お褒めの言葉、痛み入ります」
相変わらず、ラインハルトは武器を構えない。何も構えず、己の肉体のみで、あの異様な女を圧倒している。戦いの素人であるエミリアですら分かる。ラインハルト・ヴァン・アストレアは最強の騎士であると。
だが、それなのに。最強の騎士である筈なのに…何故だろう。
ラインハルトから『強さ』を感じない。なんと言葉にすればいいのか…強者としての素質は誰よりも持っているのに強者の威厳をラインハルトから感じ取れないのだ。
「貴方、その腰の剣は抜かないの?」
ラインハルトの腰に携えられた剣。
剣聖の名を象徴する龍剣レイドだ。
「この剣は幾つかの条件を満たさなければ使えません。申し訳ありませんが、僕は『コレ』を使わせてもらいます」
そう言ってラインハルトは足元に転がっていた小石を拾う。
「その小石で私を倒すのかしら?」
エルザはこれから起こる何かに期待し楽しんでいる様子だった。
普通なら小石で相手をする…なんて言われたら激情する筈だが、エルザは違った。不満なんて一切感じていない。ただ、楽しめればそれでいいと思っている。
「倒す、とまてばいかないでしょうが…致命傷は与えられると思います」
「あら。それは楽しみね────!」
エルザは駆ける。
周囲の建物の壁を利用しトリッキーな動きで駆け回る。
ラインハルトの持つ小石を警戒しているのだろう。アレだけ激しく動かれたらまず当たることは無いだろう。
まぁ、普通の人間ならね。
ラインハルトは小石を指で弾く。
弾かれた小石は惹かれ合うようにエルザの元へと向った。
「!?」
エルザは高速で放たれた小石をなんとか避ける。そして────ラインハルトの元へ一気に詰めた。
なんて微笑みを見せる女なのだろうか。とても嬉しそうで楽しそうで無邪気な子供のような表情だった。
ラインハルトには理解できない感情だ。
人を殺して楽しめるなんて到底、理解できない。人を傷付けて笑顔でいられるなんて考えられない。理解しようとしても理解できないエルザという女から伝わってくる感情にラインハルトは少しだけ苛立ちを感じた。
いや、違うな。
ラインハルトは怒りを覚えたんじゃない。そうやって本気で楽しめる女の感情に嫉妬した。ただ、それだけなんだ。
「────────────────?」
突如、エルザは倒れ込んだ。
エルザ自身、何が起きて何故、自分が倒れ込んだのか理解出来ていない様子だった。
だが、エルザは気付く。自分の体の異常に。
「これ、は…」
エルザの腹部には小さな小さな小石がめり込んでいた。
恐らく。先程、ラインハルトから放たれた小石の一部なのだろう…だが、こんな小石程度で体勢を崩されるとはエルザ自身も思っていなかったのだろう。
「何を…したのかしら?」
「何のトリックもありません。ただ、貴女の腹部には夥しい程の血の跡があった。恐らく、アラヤの放った矢の一撃で受けたダメージの跡だと判断し、そこに狙った。それだけです」
「まだ、完全には回復し切れなかったから…それでも…こんな小石程度でやられるなんて私もまだまだ…ね」
「いえ、貴女は相当の手練でした。だから…少し本気になってしまった」
「少し…ね。本当に貴方は化物ね」
「昔からよく言われています」
ラインハルトはゆっくりと歩き始める。
エルザを捕縛するのだろう。腰から動きを封じる為の手錠を取り出した。
これで終わり。
そう、終わりなんだ。
「無様だな、エルザよ」
何処からか響き渡る男の声。
そしてそれと同時に複数の足音が響き渡った。
「まぁ、相手はあのラインハルトだから仕方なくね?」
その声は、とても巫山戯ていた。
「勝てない相手と最初から分かっているなら逃げるべきだったな」
その声は、とても落ち着いていた。
「エルザちゃん大丈夫?」
その声は、とても幼かった。
「日頃の行いが悪いからそういう事になるんですよ」
その声は、とても冷静だった。
「情けない。吸血鬼の端くれはこの程度なのか?」
その声は、とても呆れていた。
そして、それはラインハルトを取り囲むように現れた。
「………」
姿は見えない。
だが、ヒシヒシと感じるこの威圧感は只者ではない。
だが、それでもラインハルトは冷静に状況を見極め、エミリア達の安全に第一に考えていた。
「お初にお目にかかる。剣聖 ラインハルト・ヴァン・アストレア」
その声は、エルザに呆れていた者の声だった。
「貴殿の実力、しかと見させてもらった。流石は、歴代最強と謳われる剣聖だ」
「お褒め頂き、光栄です。ですが、私はまだまだ未熟者の身。この剣も、まだ私を真の主としては認めてはいません」
「かっかっか!そんなに強ぇのに未熟者の身ってお前…そりゃあなんだ?
自分への戒めか?それとも自分は他の奴とは違うってのを主張してんのか?アッ?」
その声は、エルザの事を一応は心配していたが、本当の所はよく解らない巫山戯た声の者だ。
「いえ、そんな事はありません。私は、剣聖として一人の人間として未熟…だからもっと強くならなくてはならない」
「でも、それ以上の強さを求めたら元から化け物じみてるのにもっと化物になっちゃうよ?」
その声は、とても幼い者の声だ。
「もし仮にそうだとしても、助けを求める全ての人々を救えるなら、私は喜んで化け物になりましょう」
「ふむ。自分の為ではなく、他人である誰かの為に使うのはコイツはとんだ自己犠牲野郎…いや、自己中だな。誰もテメェの
なんて本当は誰も頼りにしてねぇかもしれねぇのによ」
それは先程、エルザの日々の行いを知った素振りを見せた冷静な声の者だった。
だが、先程の発言とは大きく印象の変わる言葉使いに少し違和感を感じた。
「構いません。私は、僕は…自分一人だけでは生きていけない。この力は自分の意思で誰かの為に使うと決めたんです」
「己の存在を否定されてもか?」
「今までの人生、僕は否定され続けた。剣聖としてだけ必要とされてきた僕だから分かる。僕個人の自我は誰も必要とはしないでしょう。でも、ラインハルト・ヴァン・アストレアという象徴は決して誰も手放す事はないのだから」
ラインハルトは己の価値を誰よりも知っている。
剣聖として必要とされ、個という自我は必要とされない事は誰よりも知っている。
だから、ラインハルトは弱者という存在に強い憧れを抱いている。
こんな完璧な超人のフリをした紛い物ではなく、一人の弱者として人間として生きていきたい。
「…お前、本当につまらない人間だな」
「えぇ。僕自身もそう思います」
そんな事は自分がよく分かっている。
こんな事でしか役に立てない自分に価値なんてあるのか?
いつも考えるしいつも感じている事だ。
だからこそ、ラインハルト・ヴァン・アストレアは強者でありながら強くあろうとはしなかった。強くなろうとはしても強くあろうとはしなかった。
ラインハルトは普段通り平常心で身構える。
そう。それだけ、後は────いつも通りだ。
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