獣篇Ⅲ
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32 安物は後が怖い。
部屋に戻ると、私はまず衣装をいつものに着替えた。髪も元に戻し、結い上げた。武器セットも、もちろん装備済みである。
改めて書類を机の上に出して、有印良品のゲルインキペンを取り出す。私の大のお気に入りのブランドだ。
書類を書く間、晋助は私の机の前に来て、書く様子を見守っていた。
_「晋助、お茶でも飲まない?」
_「…じゃァ、もらっていいかァ?」
_「いいわよ。何茶がいい?緑茶でいい?」
_「あァ。」
お茶っ葉をセットし、3周ほど回して湯呑みに注ぐ。二人分のお茶と、お茶請けに真選組饅頭を出して、机に持っていった。
_「船が着くまでにまだたくさん時間もあるし、これでも食べて待っててね。私も食べるけど。」
_「オイ…これ、真選組饅頭じゃねェか。」
_「そうそう。隊士たち全員に配られるから、相当溜まってたんだけどね。まだまだ賞味期限は先だから、大丈夫でしょ?」
_「…今度、潰しに行ってやらァ。」
何か物騒な言葉が聞こえたが、無視した。
_「ハイハイ、嫌なら私が食べるからいいよ、そこ置いといて。」
_「いや、オラァ食う。」
_「ハイハイ。じゃあどうぞ。」
と言って、私は懐から煙管を取り出し、煙草を刻んだものを詰め、火をつける。のんびり咥えつつ書類を書くために筆を進めた。相変わらず晋助は、私の机の目の前に座っている。
切りの良いところまで書類を書き終えると、お茶を啜る。
饅頭を手に取って包みを開けると、ホワンとお菓子の、甘い匂いが鼻を擽る。やっぱ甘味は最高だ。wwww
私がおいしそうに頬張っているのをガン見していた晋助は、煙管を吹かしながらお茶を啜っていた。何ともまぁ、器用なことをするものだ。
食べ終わったあとのカスをゴミ箱に放り投げ、シュートさせたあと、お茶で一服してから、残った書類に手を付けた。
半刻後、やっと書類を書き上げた私は、出来上がったその書類を封筒に入れ、机の上に置いた。だがまだ到着予定時刻には程遠いので、暇潰しをすることにした。
晋助が寝返りをしてこちらに振り返る。チッ、気配を消すのは失敗だったな。余計なことを言うんじゃなかった。
_「うーん。まぁ、そんなところだわ。ねぇ…もし今、それをしようとしたら…貴方はどうする?」
目の前が真っ暗になった。突然意識を失ったようだ。夢を見ているような…そんな感覚。僅かに晋助の声が聞こえたような気がする。
_「オイ、しっかりしろ!チッ)目の色が変わってやがる。」
なぜだろう。目の前は真っ暗なはずなのに、それに反して先程の情景が続いている。晋助が私を押さえつけている。何するのよ、と言おうとした時、自分の声が違うことを口走った。
_「そう、私は久坂零杏であって、久坂零杏ではない者…ククク)裏の人格とでも言った方がいいかしらァ…?ククク)」
自分の声とは思えないくらいドスの効いた低い声だ。
_「随分とォ…遅めのお出ましだったな。またいつ会うのか、と思っていたが…。今こんなところでお出ましたァ、余程の何かがあるんだろォ?早く言えや。」
_「いずれ、零杏は私と入れ替わるはず。貴様は零杏を好いておろうが、私はお前を好いている。この意味が分かるかァ?」
_「さァ、分からねェなァ。」
つまり、獣が晋助を好きだから、零杏に対しての愛を奪いたいんでしょう?
と、喚いたところで今の状況では聞こえるはずもあるまい。獣が収まるか、私がこの状況を打破するまで、これが続くだけだ。
どうするかなぁ…。
_「ならば、…力付くでも教えてやるしかあるまい?」
いつの間にか取り出したナイフで、晋助を刺そうとして、構えている。
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