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蒼穹のカンヘル

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三十二枚目

「ふみゅ~…」

グレモリー家の応接室。

そこで篝は溶けていた。

「気持ちいいですか篝様?」

「みゅ~…」

ソファーにうつぶせになっている篝の顔はふにゃっとして体からは力が抜けていた。

「えっと…グレイフィアさん?」

「はいヴァーリ様」

「どうやってるのそれ?」

「力の流れを誘導しているだけです」

「力の流れ?」

「はい。万物にある力の流れです。
それを上手く制御し、誘導すれば…」

グレイフィアが篝の翼をそっとなでる。

「ふみゃ~…」

「なるほど…」

「ヴァーリ様は『力の流れ』を認識できますか?」

「うっすらとは…」

「その流れに逆らわず、そして澱んだ場所はほぐすようにするのです」

「こうですか?」

グレイフィアが触っている方と反対の翼をヴァーリが撫でる。

「うみゅ…」

「ええ、そういう事です」

ヴァーリがグレイフィアのレクチャーを受けて篝の翼を弄っていると、やがて寝息が聞こえ始めた。

「あ、寝ちゃった」

「ではここら辺でやめておきましょう。
あまりやり過ぎると括約筋が緩んだりしますから」

「え?それ実体験?誰にやったの?」

濁した言葉の意味を察したヴァーリは、グレイフィアに問いかけた。

「以前夫への仕返しとしてやったら3日ほど拗ねてしまいまして」

言うまでもなく彼女、グレイフィア・ルキフグスの夫とはこの冥界を統べる魔王の一人だ。

「うわぁ…それは…うん…魔王様も大変だね…」

「はい。最終手段です」

ニッコリと笑ったグレイフィアをみたヴァーリは冷や汗を流した。

「え、えぇっと…リーアお姉ちゃん達の話し合いはもう終わったのかな…?」

この部屋には篝、ヴァーリ、グレイフィアしか居ない。

リアス、黒歌、白音の三人は今後の事を話し合うため別の部屋に移っていた。

「恐らくは既に終わっているでしょう。
大筋は篝様が決定されましたから」

なお三人が部屋を移ったのは、篝の翼をもふり続けるリアスを見かねたグレイフィアが義姉として追い出したからだ。

「如何なさいますか?」

「んー…邪魔しちゃ悪いかな。
リーアお姉ちゃんの事だしやることやったら篝の所に来るだろうから、それまでまちます」

side out









side The Lucifer

「私は…父親としても…夫としても…
それどころか、個人としても失格だ…」

雷光が、泣きながら言った。

酒の入ったグラスは、今にも割れそうな程に握り締められている。

「アザゼル、飲ませすぎだ」

「チッ…取り敢えず潰そうと思ったが失策だったか…」

炉の管理人と総督がそんな事を言う。

「肝心な時に…私は…誰も…守れなかった…
私に…存在価値など…父である資格も…夫である資格すらも……」

父として、夫として…

私はミリキャスに誇れる父だろうか。

私はグレイフィアに誇れる夫だろうか。

私はリアスに誇れる兄だろうか。

私は父と母に誇れる息子だろうか。

私は、冥界の全てに誇れる魔王だろうか。

気づけば、目の前に彼が立っていた。

リリンを退けた雷光の息子が。

神々しい光輪と猛々しい翼をはためかせる彼が。

彼は、私にその錫杖を突きつけた。

「テメェは家族を囮にされて平気でいられるか!?
リアスグレモリーやミリキャスグレモリーを…グレイフィアルキフグスを囮にされて平気でいられるのか!
答えろ!サーゼクスグレモリー!」

あのとき、私は彼の逆鱗に触れた。


『あそこに居るのはリリンの孫なのだろう?
ならば奴がまたここに現れる可能性がある。
ちょうどいいエサになるだろう』


私は…彼の家族を見殺しにすると、そう言った。

言ってしまった。

私は…わた…し………は………

side out










「サーゼクス。サーゼクス。起きなさいサーゼクス!」

「……母上?」

グレモリー家の一室。

実家のソファーに深く身を沈めていた魔王サーゼクスは、母ヴェネラナの声に目を開けた。

「貴方がなかなか起きないとは珍しい。
貴方の体は貴方だけの物ではないのですよ?」

「…………ええ、わかっています母上」

憂いを漂わせるサーゼクスに、ヴェネラナは違和感を抱いた。

「何かあったのですか?」

「私は………いえ、なんでもありません…
私が一人で向き合わねばならない事ですから」

「そうですか。ならば私は何も言いません」

プライベートではお調子者なサーゼクスだが、こういった場合は頑固だと、ヴェネラナは知っていた。

「サーゼクス、今日は泊まって行きなさい」

「そうですね…急ぎの仕事はないのでそうします」

サーゼクスは母へにこやかに応えた。

「今日はちょうど例のカガリ・ヒメジマも来ていますから。
彼には冥界の未来を左右するような大役を任せているのでしょう?
魔王じきじきに労ってさしあげなさい」

魔王の笑顔が凍りついた瞬間だった。
 
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