夢幻水滸伝
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第五十三話 東国その九
「六万位ですね」
「それ位なのね」
「関西の軍勢がこちらに向けてきた兵は二十万で」
「その主力は相模や伊豆、それに江戸のある武蔵に向かっていて」
「上野にはです」
例え棟梁である綾乃が率いる軍勢でもというのだ。
「六万位がいてです」
「上野に攻め込んで来るのね」
「はい、五万対六万です」
「劣勢は劣勢だけれど」
「深刻に考えるまではです」
「劣っていないわね」
麻友も納得した。
「それじゃあ一気にね」
「はい、私達九人で急襲を仕掛け」
その五万の兵を以てとだ、宮子は麻友にさらに話した。
「そうして攻めればです」
「勝てるわね」
「やはり敵の総大将を破ると大きいです」
宮子もこのことについて話した。
「敵の士気はかなり落ちますしこちらの士気はその分上がり」
「流れも掴めて」
「尚且つ紫先輩は神星のお一人です」
十八人いて星の者達の中でもとりわけ強い者達のうちのだ。
「しかもその中でもとりわけ地位の高い三極星のお一人、その紫先輩を破ることが出来れば」
「大きい、だからこそ吉君も言ってるけれど」
「五万の兵で一気に破り」
「そこからなのね」
「都に向かうということで」
「わかったわ、何はともあれ上野での戦ね」
「はい、そこに勝つかどうかで」
まさにそれ次第でというのだ。
「私達の運命が決まります」
「私もそう思います」
千歳も麻友に言ってきた。
「この度の戦はです」
「上野で決まるわね」
「はい、ですから」
「総力戦ね、もう私達の全力を尽くした」
「それを挑みましょう、棟梁の言われる通り」
「そうね、じゃあ今にもね」
「ああ、もう失敗した時のことは考えないからな」
幸田は東国の棟梁の座からこの場にいる面々に強い声で言った。
「そこで負ければもうな」
「終わりだな」
「その意気というかそう決めている」
日毬にもだ、幸田は強い声で返した。
「綾乃ちゃんを攻めきれんで負けたらな」
「もう諦めるか」
「おいらに日本を統一して治めてな」
「太平洋、ひいては世界を一つにしこの世界を救う」
「それだけの器でないということ」
これから上野で挑む戦に敗れればというのだ。
「綾乃ちゃんは神星、その神星の頂点の三極星の一人でも今は一人」
「その一人に勝てぬとだな」
「器でないということ」
そうなるとだ、幸田はまたこう言った。
「だからな」
「ここはなのね」
「負ければそれまで、もう負けた時はな」
「降るか」
「そうする」
はっきりとした返事だった。
「もうな、おいら自身を差し出してでもな」
「好きにしろとか」
「ああ、そうすればいいだけのこと」
自分一人が犠牲になればというのだ。
「それならいい」
「言うものだ、一人か」
「何が言いたい」
「棟梁一人を行かせては配下の名が廃る、それは武士ではない」
日毬は幸田に強い声でこう返したのだった。
「私はそれこそ平安の頃からの武門の家だ」
「だからか」
「武士としてその様なことが出来るか」
断じてという声だった。
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