とある3年4組の卑怯者
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149 全国大会
前書き
リハーサルを終えた藤木は彼の応援のために花輪の自家用飛行機で盛岡に来た3年4組の皆と合流。大会の前祝を行うことになり、必ず世界大会の出場権を勝ち取る事を宣言するのだった!!
笹山は寝ていると、誰かの声が聞こえた。
「笹山さん・・・。笹山さん・・・」
笹山は目を開けた。すぐそばに藤木が立っている。
「藤木君・・・?」
藤木は泣いている。
「ごめんよ。僕はみっともない結果に終わっちゃったよ・・・。ごめんよ、せっかくスケートで世界一になるって約束したのに・・・!!僕はいつまでたっても卑怯者の上に嘘つきだね。もう僕は・・・、君の事は忘れるように努力するよ・・・。君には・・・、僕なんかよりも・・・、もっといい男がお似合いだよ・・・。さよなら・・・!!」
「え・・・?だめ、藤木君・・・!!行かないで・・・!!」
藤木が遠ざかっていく。そして藤木は消えた。笹山の周りが闇に包まれる。
「嫌、藤木君、私はそれでも藤木君を責めないわ・・・!!だって私は藤木君が・・・!!」
その時、笹山は自分は病室のベッドにいる事に気が付いた。夜中だったため、部屋は暗い。
(ゆ、夢・・・?)
笹山は先ほどまでの出来事は全て悪夢だと気づいた。
(藤木君・・・。負けないで・・・。私は絶対に藤木君は目標を果たせるって信じているから・・・)
どうかあの悪夢は正夢にならないで欲しい。笹山はそう願い、再び眠った。
朝になった。藤木は目を覚ました。時計はまだ5時20分を過ぎたばかりだった。
(まだこんなに早いのか・・・)
緊張で早起きしてしまったのか、寝坊が怖いのか、藤木は布団に戻らないようにしようと思った。そして遊園地で買ったストラップを見つめた。
(笹山さん・・・。今日、本番だよ。絶対に最高のお土産を持って帰るからね・・・。それから今日は君の所にあるお客さんが来てくれるよ・・・)
藤木は笹山の事を考えていた。
一時間が過ぎ、両親が起きた。
「おはよう、父さん、母さん」
「茂、お前今日は早いな」
「うん、今日は緊張してるのかもしれないね」
「茂。アンタのやれるだけの事をやるんだよ。アンタが好きで得意なスケートなんだからね」
「うん、ありがとう、母さん・・・」
藤木は出かける身支度を始めた。
朝食を食べ、旅館を出た。藤木には地区大会や中部大会のように緊張が迸っていたが、クラスメイト達も応援しに来てくれるのだから、無様な失敗をするわけにはいかないと思い、己の全力をぶつけようと燃えていた。途中で藤木は黄花とその両親と思われる人物と合流した。
「やあ、おはよう、黄花さん。あ、静岡県の藤木と申します」
藤木は黄花の両親に挨拶した。
「藤木君、おはよう。頑張ってね!」
「うん、君もね」
「途中まで一緒に行ってもゐゐ?お父さん、お母さん」
「ああ、いいよ」
藤木と黄花、それぞれの両親と同行でスケート場に行く事になった。
「茂、その子とはいつ仲良くなったんだい?」
「たまたま意気投合したんだ」
「そうか、お前、友達が増えて良かったな」
「うん・・・」
藤木とその父の会話を聞いて黄花はくすっと笑った。
「藤木君、一緒にカナダに行けるとゐゐわね」
「うん!」
藤木は黄花にそう言われてどこかしらかやる気が出てきた。
スケート場入りした。藤木と黄花の両親は観客席に向かい、藤木と黄花は控室に向かった。その時、美葡と合流した。
「おはよう、藤木君、黄花さん」
「ああ、おはよう」
「そうだ、私のお父さんに話してみたら、藤木君の撮影してくれるって」
「え?うん、ありがとう・・・」
藤木はその事を聞いて自分の滑る映像をせめて笹山に見せてやりたいと思った。
(笹山さんにその姿見せてあげたいのにな・・・。そうだ、帰って来たら笹山さんをスケート場に連れていって大会と同じ演技を見せてあげよう・・・!!)
藤木はそう考えていた。
控室は男女分かれていた。藤木は男子の控室に入り、スケート靴をリュックから取り出した。
「よお~」
「なんだ、大串君か・・・」
「お前は誰が好きなのかな~?にひひひ・・・」
「う・・・。ほっといてくれ!それより君は自分の心配をしろよ!!」
「俺は別に平気だよ~」
藤木はその場を離れた。
(大串啓太か・・・。ふざけてる奴だと思ったら、リハーサルでの演技凄かったんだよな・・・。でも僕は絶対に負けないぞ!本当の目標を目指すには世界大会に出なきゃいけないんだし、それにまだまだ全国大会は通過点に過ぎないからな!!)
その時、瓜原が控室に入ってきた。
「やあ、おはよう、瓜原君」
「おお、藤木君。燃えとるか?」
「うん、もちろんさ。世界大会に出なきゃいけないからね!」
「出なきゃいけない、か・・・」
その時、強迫するような口調で瓜原に近づいた男子がいた。瓜原に因縁をつけた住吉重彦だった。
「おう、てめえ、甘ったれんなよ!!てめえみてえな奴が世界大会に出るなんて一億年はええんや!!」
「う、わかりました・・・」
瓜原は何も反論する気はなかった。
「よし、わかりゃええんや!おんどりゃただの生意気野郎ってな!」
住吉はそう言って瓜原から離れた。
(ふん、あんな奴・・・!!)
藤木は住吉を軽蔑した。
「瓜原君、気にする事ないよ!」
「ああ、せやな・・・」
3年4組のクラスメイト達もスケート場に到着した。
「藤木の活躍、楽しみだなー」
「ふん、多分緊張で、何もできなくて泣き出すよ」
永沢の嫌味は相変わらずだった。
「スケートはジャンプが8つまで、スピンが3つまで、そしてステップが一つまでと決められているんだ。それらが上手くできるかの他、演技の構成でも評価がつけられるんだよ」
物知りの長山が説明した。
「藤木君の評価、高く付くといいわね」
リリィが心配した。
「大丈夫だよ、藤木君のスケートの凄さは僕達よく知ってるから藤木君を信じようよ」
「そうね・・・」
皆が観客席に座った。
「ふあああ~、腹減ったな・・・」
小杉が欠伸をしながら呟いた。
「小杉君、そんな事言わないで藤木君を応援しようよ!君は何しに来たんだい!?」
山根が注意した。
「え~、お前達で応援しろよ・・・」
「ホント小杉は食べ物ばかりよねっ!私のピアノの応援で大阪行った時もアンタだけ寝てたそうじゃないっ!」
「だって、俺は食い物の為だけに行ければそれでいいんだよ!!」
城ヶ崎は呆れて何も言う気にならなかった。
開会までもうすぐだった。出場者達は出場番号順に並んだ。藤木の前には瓜原が、後ろには豆尾が並んでいた。
(豆尾亮吾・・・。リハーサルでら僕や瓜原君よりも凄い演技を見せた・・・。強敵だ・・・)
藤木は豆尾の姿を見るだけでも手強さを感じた。以前、初めて和島に会った時も彼の技術を見て地区大会で賞を獲れるか不安になった事があった。しかし、その時、電話で相談した時の堀の言葉が蘇る。
《いくら手強いからって無理だなんて思っちゃだめよ。こいつに勝ちたい、って思ってやればきっと勝てるわよ!だから自信失くさないで!》
そうだ。他の相手が凄いからって自信をなくしてはいけない。自分も闘志むき出しにして望め。藤木はそうでなければならないと思った。なぜなら自分にとって全国大会は己の目標を達成するための通過点に過ぎないのだから。
(負けるなんて思っちゃだめだ!向こうが失敗してくれるのを祈るだなんて僕にはもうそんな卑怯な事はしないぞ!!自分がもっと上手くできればいいんだ!!)
全国大会の開会式が始まった。アナウンスが入る。
『皆様、本日はご来場頂きまして誠にありがとうございます。これより、アマチュアフィギュアスケート全国大会小学生部門を開会させて頂きます。出場者の入場です』
出場者達が入場した。
「あ、あそこにいるのは藤木君だじょ~!!」
山田が藤木の姿を発見した。皆が藤木の方を見た。藤木も皆がいる事に気づいた。
(皆・・・。あ、リリィがあそこにいる!君に僕の最高の演技を見せてあげるよ!中部大会の時よりもずっと素晴らしい演技をね!!)
そして片山の姿も目に入った。
(片山さん、今までの大会、いや、昨日のリハーサル以上にいい演技を見せます・・・!!)
全員の入場が終わると、アナウンス係が再び喋り始めた。
『まずは国歌斉唱です。皆様ご起立下さい』
観客席の全員が起立し、国歌を歌った。
『続きまして、スケート協会会長のより開会のご挨拶です』
スケート協会会長が現れた。
「会場の皆様、本日はご来場頂きましてありがとうございます。そして出場者の皆様、この大会への出場までの道程は大変な事だったろうと思います。各都道府県の地区大会を勝ち抜き、そして各地方大会で賞を獲り、ここまで来る事は簡単な事ではありません。しかし、ここにいる出場者の君達はそんな中から選ばれ、ここに集いました。そして、ここで金、銀、銅いずれの賞を獲得できる事は素晴らしい事になり、きっと友達や家族などに自慢できる事だと思います。私は誰かを贔屓せず、皆さんを応援しています。最後に一言、自分の全てを出しきって下さい!以上です」
『会長、ありがとうございました。それでは審査員の紹介です』
そして、審査員の紹介が続いた。そして、開会式が終わり、出場者はリンクから退場した。
「藤木君、頑張って・・・!!」
リリィは藤木の入賞を祈っていた。
後書き
次回:「下克上」
アマの小学生スケート全国大会男子の部が始まった。吉岡が、住吉が、佐野が金賞者または銀賞者達の上を行くために全力を振り絞って滑り出す・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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