とある3年4組の卑怯者
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148 前夜(ほんばんまえ)
前書き
スケートのリハーサルを終え、藤木は美葡、黄花、そして瓜原と大会後の交友会に参加する事を確認し合う。そして3年4組のクラスメイトを乗せた花輪家の自家用飛行機は岩手県に到着したのだった!!
そういえば、たまちゃんのお父さんをこの作品に出してなかったな・・・。
清水市内の病院の一室。笹山は松葉杖を使いながらトイレから戻ってきた。足の怪我は深く、まだ上手く歩けなかった。両足とも怪我をしているため、片足の怪我よりも移動がさらに遅くなってしまう。外で歩く事など尚更無理で駅で藤木を見送った時は車椅子を利用した。ただ切断せずに済んだ事は不幸中の幸いだったかもしれない。
やっとベッドに入ると、笹山は藤木の事を考えた。皆は花輪の自家用飛行機で盛岡に向かっているだろう。あの校内テロさえなければ、自分もクラスメイトと同じように現地で藤木の応援に行けたのに・・・。
(明日か・・・。藤木君、帰って来たら大会の事、聞かせてね・・・)
笹山は藤木が再びこの病室に来てくれる事を待っていた。そして、賞を獲れたら「おめでとう」と言いたいし、たとえだめでも「よく頑張ったわ」とも言いたい。
(私、やっぱり・・・)
スケート大会の出場者達は会議室で明日の集合時間および動きの説明を担当者から聞いて解散した。
「ねえ、藤木君」
美葡が藤木に呼び掛けた。
「何だい?」
「私のお父さん、ビデオカメラで撮影してくれるんだけど、よかったら藤木君のも撮させていいかな? 私やこずえちゃんの友達に藤木君ってこういう子だって教えたいし・・・」
「う、うん、いいよ!」
「ありがとう、お父さんにも相談してみて、もしOKだったらそうさせてもらうワ!!」
「ありがとう!それじゃあ、僕はあそこに父さんと母さんが待ってるから失礼するよ。じゃあね」
「うん、じゃあね~」
藤木は美葡と別れ、両親の元へ向かった。
「父さん、母さん、お待たせ」
「茂、楽しそうだな。それじゃ、行こうか」
藤木は両親と共にスケート場を後にした。
3年4組の皆は盛岡の街を見回っていた。小杉はとある蕎麦屋に入ると、わんこそばを25杯食べていた。
「うおおお~、うめえぜ!!」
花輪とヒデじいは何かあるといけないと思い、小杉に付き添った。
「小杉クン、もうそこまでにしてくれたまえ・・・」
「え~!!??もっと食わせろよ!!」
「もうこれ以上は払えないよ・・・」
「小杉君、私達にも限界がありますので、本当にお願い致します・・・」
「ちえっ!!」
小杉は諦めた。そして花輪とヒデじいは小杉をようやく蕎麦屋から連れ出した。
「全く、ホント小杉って食べ物の事しか頭にないんだからっ!」
城ヶ崎が小杉達が蕎麦屋から出る様子を見て嫌味を行った。一緒にいたたかしも何も言えなかった。そして、その二人の間に山田が近づいてくる。
「あれれれ~?城ヶ崎と西村君が一しょにいるじょ~?二人ともなかよしなのかな~?」
「や、山田っ・・・!!」
城ヶ崎は恥ずかしくなった。たかしも顔が赤くなってしまった。たかしは花輪の高原の別荘に行った時以来、城ヶ崎が好きになっていたのだ。
「い、行こうっ、西村君っ!!」
「う、うん・・・」
たかしは城ヶ崎に手を繋がれ引っ張られた。その様子を永沢が見ていた。
「ふん、どいつもこいつもくだらないな・・・」
永沢は小杉や城ヶ崎などのやりとりが馬鹿馬鹿しく見えた。
同じ頃、リリィはまる子、たまえと行動を共にしていた。
「それにしても野口さん、来ないって残念だねえ」
「うん、何か他に用があるのかな?」
「もしかしてドリフの公開収録だったりして?」
「まさか・・・」
たまえはさすがにそれはないだろうと思った。確かに野口はお笑い好きではあるが、ドリフを生で観るのは無理だろうと考えた。
「でもどうして城ヶ崎さんの洋琴の応援には行ったのかしら?」
「ああ、あれね、大阪はお笑いで有名だから行きたかっただけだってさ・・・」
「そ、そう・・・」
お笑いと聞いてリリィは以前野口がお笑いに関する雑誌を買っていた事を思い出した。しかし、何よりも今は藤木が気になっていた。
「リリィ、もしかして藤木が気になってるのお~?」
不意にまる子が聞いてきた。
「う・・・、うん・・・」
「まあ、わかるよ、まさか怖くて逃げちゃうんじゃないかってねえ~」
「まるちゃん、それは失礼よ。永沢君と同じ事言って・・・」
リリィが真剣な顔でまる子を見た。
「う、ごめん・・・」
「藤木も心配だけど、私お父さんがついてくるんじゃないかって心配なんだけど・・・」
たまえは別の心配事をしていた。たまえの父は度を超える程娘の写真を撮りまくろうとする傾向があるのだ。たまえもその母も彼の行動にうんざりしていた。
「球技大会の時も会社休んで私の写真撮りに行くって言ってさ・・・。その時はお母さんと一緒に止めたけど・・・」
「そうなんだ・・・」
「今日の事はお父さんに黙ってたんだけど、もし知ったら・・・」
「そうね、それなら藤木君の写真を撮るようにいいんじゃないかしら?」
「うん、そうだね・・・」
たまえは父が追いかけて来ない事を祈った。
藤木はクラスメイト達と盛岡駅前で待ち合わせる事になっていた。両親と共に皆を待っていた。
「Hey、藤木クン」
花輪の声がした。藤木は声の方向に顔を向けた。
「やあ、皆。来てくれてありがとう」
「皆さん、わざわざありがとうございます」
藤木とその母は挨拶した。
「それじゃ、鍋料理の店を予約したから皆で行こうか」
「え、そうなのかい!?」
「ええ、藤木君のお父様とお母様も是非御食事なさってください」
「あ、ありがとうございます」
藤木の父はヒデじいに礼をした。
夕食はすき焼きだった。リリィは藤木の隣に座って藤木は少し照れた。
(すき焼きか・・・。そういえば地区大会で金賞を獲った時もそうだったな・・・)
「おっしゃ、いただきま・・・!!」
「駄目だよ小杉君!!ヒデじいが乾杯の合図をとってからだよ!!」
小杉が先に食べようとしたが、山根に制止された。
「ちえっ!!早くしてくれよ!!」
小杉が急かした。
「ええ、では明日の藤木君の健闘を祈って乾杯!!」
ヒデじいが音頭を取り、皆が乾杯した。
「藤木、俺達お前を応援してるぜ!」
「絶対に賞を獲ってくれブー!」
「お前の力見せてやれよ!」
クラスメイト達が自分を応援してくれている。
「皆、ありがとう、僕、ここで金賞を獲って絶対に世界大会に行くよ!!」
藤木は応援してくれる皆に感動し、誓った。
「藤木君」
リリィが声を掛けた。
「え?」
「世界大会ってどこでやるんだっけ?」
「ああ、カナダのバンクーバーだよ」
「カナダか・・・」
「カナダ?どこにあるんだブー?」
ブー太郎はカナダの場所が分からなかった。
「富田クン、カナダはここからとても離れているのさ。アメリカの北の方ある国なのさ」
「へえ、凄いブー!」
「うん、外国だからもうパスポートはもう発行してもらったよ」
「すげーぜ、藤木!俺も外国行きてーぜ!!」
はまじが羨ましがった。
「浜崎君、まだ全国大会は始まってないし、まだ分からないよ」
「あー、わりー、でも藤木なら絶対に世界大会に行けるぜ!」
「あ、ありがとう・・・」
楽しい夕食の時間は終わり、藤木はクラスメイトと別れ、自分が止まっている旅館へと戻り、風呂に入った。そして猿のストラップを掴んだ。
(笹山さん、明日いよいよ全国大会の本番なんだ・・・。応援していてくれよ・・・)
藤木は入院中の笹山の事を思い出した。そのストラップを見ていると、「藤木君、頑張ってね」という笹山の声が聞こえたような気がするのだった。
後書き
次回:「全国大会」
夜中、笹山は変な悪夢に魘される。一方藤木は緊張しながらも、応援しに来てくれた皆に最高の演技を見せようと誓う・・・。
一度消えた恋が蘇る時、物語は始まる・・・!!
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