野槌
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第一章
野槌
バチヘビと聞いてだ、伊藤涼子は勤めている学校の中でこう言った。
「ツチノコのことですよね」
「うん、そうだよ」
涼子にその話をした学年主任もすぐに答えた。
「東北の方ではそう呼ぶんだよ」
「それは聞いたことがありますが」
「いや、そのバチヘビがね」
「大阪にもですか」
「そう、ここに出るらしいんだよ」
自分達が今いる大阪市にというのだ。
「どうもね」
「嘘、ですよね」
まさかと思いつつだ、涼子は学年主任に問い返した。脚と胸は黒いズボンとスーツに覆われていてもかなりの脚線美と大きさである。黒髪を後ろで上に束ねてまとめていてきつそうな顔立ちに眼鏡をかけている。
そして色気のある大人の声でこう言った。
「それは」
「どうも嘘じゃなくて八条大学の方でもね」
「私の出身大学ですよね」
「そう、あそこからも調査班を出すって話があるんだよ」
「あの大学そういうこと好きですね」
「学長さんの趣味らしいね」
こう涼子に答えた。
「どうやら」
「それで、ですか」
「うん、妖怪とか未確認生物の話が出るとね」
それでというのだ。
「調査班とかを出すんだ」
「そういうこと好きな学校ですからね」
「それで出るという場所がね」
そこはというと。
「阿倍野区らしいんだよ」
「ここじゃないですか」
まさに自分達の学校がある場所だとだ、涼子は言った。
「本当に」
「そうだよ、ここなんだよ」
「じゃあこの学校にも」
「ひょっとしたら出るかもね」
「あの、ツチノコは確か」
ここでこう言った涼子だった。
「毒ありますよね」
「バチヘビはそうらしいね」
「さっきから学年主任ツチノコをバチヘビと呼んでますけれど」
「秋田出身だからだよ」
それでという返事だった。
「私がね」
「大阪生まれじゃないんですね」
「大学が大阪の方でね」
「こっちで学校の先生になられて」
「そうなったんだよ、だから生まれの言葉が出るんだよ」
「そうですか」
「ちなみに釣りキチ三平描いた人はバチヘビを見たことがあるそうだよ」
学年主任は涼子にこの話もした。
「何とね」
「あっ、そうなんですか」
「それであの人もバチヘビって書いてるんだよ」
「あの人釣りとか東北のこと描いてると思っていたんですが」
「そうした漫画も描いてるんだよ」
ツチノコの漫画もというのだ。
「それで文章も書いているから」
「ツチノコを見た時のことをですか」
「そうだよ」
「そうですか。意外ですね」
「とにかく私はこう呼ぶから」
ツチノコではなくバチヘビと、というのだ。
「そういうことでね」
「わかりました、それでその八条大学から調査に来る人とですか」
「伊藤先生と三人でね」
「調査をすることになるかも知れないんですね」
「こんな街中にバチヘビがいるとは思えないけれど」
学年主任はこのことはまさかと思いつつ述べた。
「調査を頼むよ」
「わかりました、と言いたいですが私もですか」
涼子は自分も調査班に入っていることに首を傾げさせてそのうえで学年主任に尋ねた。
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