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雨降り小僧

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第三章

「お互い共働きでお家にいないから」
「乾燥機か」
「私がお休みでなかったらね」
 つまりいざという時に洗濯ものを干す人間が家にいないと、というのだ。
「そうなるから」
「シビアな話だな」
「それが現実なのよ」
「それで外で干せたらか」
「その分幸せよ」
「何か朝も言ったけれどささやかな幸せだな」
「そうね、けれど幸せってね」
 それこそと言う紗菜だった。
「そんなものでしょ」
「ささやかなものか」
「そういうものでしょ」
 こう夫に返すのだった。
「そうでしょ」
「言われてみればそうか」
「そう、案外ね」
「ささやかなものか」
「そんなものよ。それが集まってね」
 そのささやかな幸せがだ。
「人は幸せな人生って感じるものでしょ」
「そんなものか」
「あなただって火山灰ないと幸せって感じるでしょ」
「あんな迷惑なものないぞ」
 それこそとだ、慎吾は桜島のそれについてむっとした顔で返した。
「お米は採れないし雪と違って溶けないしな」
「残るからね、火山灰は」
「だからな」
 それでというのだ。
「迷惑だって言うんだよ」
「それもあそこはしょっちゅう噴火するから」
「鹿児島の象徴であり厄介ものなんだよ」
「しかも鹿児島のど真ん中にいるから」
「余計にな。せめて海の方にあったらな」
「種子島みたいに」
「どれだけよかったか、まあ言っても仕方ないか」
 鹿児島の中央部に桜島があることはというのだ。
「あの山のことはな」
「そうよね。それであの山が出す火山灰がないことは」
「それだけで幸せだよ」
「そういうことよ。やっぱりね」
「人生ってのはささやかな幸せの集まりでか」
「幸せになるものよ。今の御飯も美味しいし」 
 紗菜はこちらのことにも笑顔で言った。
「お互いお仕事もあって仲良く暮らせて」
「どれもささやかだけれどな」
「それが集まってるから幸せでしょ」
 天気のこともとだ、こう話してだった。
 二人は夕食を食べた後で交代で風呂に入って同じベッドで寝た、それで次の日はどちらも仕事だったが。
 自分が店長を勤めている回転寿司の店でだ、紗菜は店員達に言っていた。
「わかってると思うけれどね」
「はい、そろそろですよね」
「梅雨ですからね」
「いつもより遥かにね」
「雨に注意しないといけないですね」
「そう、私も注意するけれど」
 店長としてそうするというのだ。
「皆もね」
「はい、わかっています」
「食べもの扱ってますしね」
「しかも生ものを」
 寿司のネタ、それがだ。
「だったらですね」
「本当に注意しないと」
「食中毒なんてなったら」
「終わりだからね」
 もう店も何もかもがというのだ。
「注意してね」
「はい、そうしていきます」
「梅雨ですし、これから」
「これまで以上にです」
「そうしてきます」
「そうしてね。後ね」
 ここでこうも言った紗菜だった。 
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