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外伝・少年少女の戦極時代

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斬月編・バロン編リメイク
  もぎたての受難

 ――時は、およそ16時間前まで遡る。

 碧沙は戒斗の運転するバイクに相乗りして、市内でも有数の高級ホテルに到着した。
 ここは、咲との入れ替わりがなければ、呉島家と“財団”の会見のために碧沙も来るはずだったホテルだ。

 ホテルのロビーに入るなり、碧沙と戒斗は黒服の男たちに囲まれた。見覚えがある顔ばかりだ。つい昨日、自分たちを強硬手段で拉致した、アルフレッドの部下たちだ。

(ロビーでやり合ったらホテルのスタッフさんに迷惑がかかっちゃうし、駆紋さん自身がお客さんを気にして戦いづらいから――)

 戒斗は黒服たちに真っ向から告げた。

「このホテルのコンサートホールにお前たちの上司を遣せ。そこでシャプールを返してやる」

 戒斗は黒服たちを正面から押しのけ、エレベーターに向かって歩いていく。碧沙は戒斗の後ろを付いて行き、二人は共にエレベーターに乗り込んだ。


 このホテルは、結婚式などで使用する大きな式場ホールと、リサイタルや講演を開くためのコンサートホールを別々に設けていることを売りにしている。
 大立ち回りになることが当然予想されるので、常なら平面で広い式場ホールを指定するのがベストだが、戒斗の義憤は承知であえてコンサートホールにしてもらった。この点については、承諾した戒斗に頭が上がらない。

 碧沙たちはコンサートホールに入り、スポットライトが照らす舞台の上にてアルフレッドを待った。

 コンサートホールに、スポットライトとは異なる光が流れ込んだ。客席側のドアが開き、現れたのは、アルフレッドだ。

「シャプールを連れて来いと言ったはずですが?」

 アルフレッドは客席の階段を降りてきて、碧沙たちが立つ位置とは反対側から舞台に上がった。

「答えろ。なぜ最初から俺たちを狙わずに、ステージを襲った」
「あなた方が私の邪魔をするからです」
「違うな。それは貴様が弱いからだ。弱者だからそんな真似をした」
「――弱者だと? だったらどうだと言うのだ」

 アルフレッドは血眼でゲネシスドライバーを装着し、ドラゴンフルーツのエナジーロックシードを開錠しようと――
 その時、ロックシードが禍々しく光り、蔓を茂らせて、それを持つアルフレッドの手を異形へと変えた。

(! あのエナジーロックシード、咲や葛葉さんが使ってたのとちがう。フックが青じゃなくて赤い。もしかしてあれ、ふつうのエナジーロックシードより出力が高くて、その分ヘルヘイムの浸食が強いの?)

「……っ、シャプールを渡せ」
「もうやめてください! そのままじゃインベスになるかもしれないんですよ!? 怪物になってまでシャプールさんを殺しても、それこそあなたに得なんてありません!」
「私はいつの日か“財団”の全てを奪い取るッ! シャプールなど前座に過ぎない。邪魔な総帥も生まれた子も抹殺する。そしてあらゆる金と権力を手に入れ、私は絶対強者として“財団”に君臨するのだッ!」

 アルフレッドがドラゴンフルーツのエナジーロックシードを今度こそ開錠し、アーマードライダーへと変身した。
 その姿を見た碧沙は、アルフレッドが君臨するとしたら、それはロード(英君)ではなくタイラント(暴君)と呼ぶべきだ、と感じた。

 金と権力が強さ。どちらもある家に産まれた碧沙はアルフレッドの言い分を否定しない。
 だが反論はしよう。金も権力もただの“力”、所有者の強さの証明になどなりやしない。真に人間性を担保するものが何かと問われれば、呉島碧沙はこう答えよう。

「大切なものは――夢と人脈! です!!」

 碧沙は咲のものであるランドセルから素早く、ゲネシスコアとピーチのエナジーロックシードを取り出し、戒斗へとパスした。

「駆紋さん、信じてます!」

 これまた素早く、戒斗は片手でキャッチし、二つのパーツを戦極ドライバーに接合した。

「変身!」
《 バナナアームズ  Knight of Spear  ジンバーピーチ  ハハーッ 》

 ――アーマードライダーバロン、バナナアームズ・ジンバーピーチ。

 ピーチの陣羽織を纏った赤い騎士があらわになったのは一瞬だけ。なぜならバロンの変身完了の直後、コンサートホールのスポットライトが一斉に落ちたからだ。

 タイラントには暗闇に没した周囲の状況を知る術はない。知っている。アーマードライダーの眼球部分には、望遠機能はあっても()()()()()()()()()()()()

 条件はバロンも同じだが、今のバロンには集音機能を拡張するジンバーピーチがある。いかにこの場が暗闇一色であろうと、それを補うだけの聴覚がバロンの戦いを有利に運んでくれる。

(ごめんね、咲。せっかく咲が葛葉さんから貰ったパーツ、無断でほかの人に貸しちゃって。でも、咲っていう親友がいて、咲のトモダチが葛葉さんだったから、このバトンを駆紋さんにつなげたよ)

 碧沙は苦笑しつつ四方を見回した。目に留まったのは、小さく瞬くLED。碧沙はその方向へ、走り高跳びの要領でジャンプした。その体をチューやんがキャッチしてから、チューやんは手首のLEDチョーカーの電源を切った。

「(ありがとう。ほかのみんなは?)」
「(……機材室)」

 コンサートホールのあちこちをランダムでスポットライトが照らし出す。タイラントは反射的に照らされた位置へソニックアローを放つが、無人の的外れ。
 逆にバロンはタイラントの駆動音をキャッチして弓と矢をタイラントにお見舞いする。身も蓋もない言い方をすると、ワンサイドゲームである。

「(ねえこれ、スポットライトいじってるの、モン太でしょ。モン太ってバロンのファンだし)」
「(……『バロンの仇はおれがフルボッコにしちゃる!』って)」

 ――決戦の場をコンサートホールにしたのは、スポットライトを駆使して明暗を使い分ける戦場を構築するため。今頃はナッツ、モン太、トモが機材室で好き勝手に会場のスポットライトを操作している(ホテルの許可? 緊急事態につき省略)。ついでにアルフレッドの登場時の叛逆宣言も、記録機材で録画してあるで、物的証拠も確保済みだ。

 あとはバロンがタイラントを仕留めるだけ――そう思ったのに。
 あの禍々しいドラゴンフルーツのエナジーロックシードの光が暗闇に際立った。

 コンサートホールにの照明が客席を含めて全灯火された。

 タイラントがヘルヘイムの蔓に覆われ、オーバーロードインベスに成り果てようとしていた。
 バロンがバナナからジンバーピーチを外し、ランスを手にタイラントに迫った。

「殺しちゃだめぇッ!」

 碧沙の叫びが届いたかは分からない。だが、バロンはランスを突き出し、タイラントのドラゴンフルーツのエナジーロックシードとゲネシスドライバーのみを的確に刺突し、破壊した。

 ロックシードとドライバーの破壊に伴い、アルフレッドの変身が強制解除された。床に転がったアルフレッドは、呼吸を荒げながらも、自身の手が怪物のそれでないことに唖然としている。

 結果的にはアルフレッドをインベス化から救ったことになるが――碧沙は何も道徳や倫理で彼を助けたわけではない。

 碧沙はチューやんを離れ、アルフレッドの前に立った。

「あと何人ですか?」
「――は」
「あなたの息がかかった人――ありていに言うとシャプールさんを殺すことに賛成の部下は、この街にあと何人いて、どこで、何をしているか。それを教えてください」

 この事件はアルフレッドをやっつけてバンザイ、では終わらない。来日したアルフレッドの部下たちの暗躍も阻止せねば、シャプールの命は延々と脅かされたままだ。

「ああ、それと“財団”の中の派閥なんかも知りたいです。べつにくわしくなくてもいいです。そっちの情報は保険程度にしかあつかいません。シャプールさんが日本を無事に発てても、あっちの国の空港で迎えの人にドスリ! ってやられたら、意味ないですから」

 そう――碧沙がアルフレッドを生かしたのは決して情などによらない。アルフレッドが貴重な情報源であるからだ。()()()()()()()()()()()()()()()

「話したくないならべつにかまいませんよ? ただ、あなたは暗殺に失敗しました。だったら“財団”に帰った時に何かしら処罰を受けるでしょうし。あなたの処分によってシャプールさん反対派が芋づる式にわかったら、それはそれでってことで」

 処罰や処分という物騒な単語に、アルフレッドが顔色を青くした。9割はブラフでしゃべっているのだが、どうも“財団”の体質はブラフが成立するほど粗暴なものらしい。

「は、話す……話すからっ、私を……私を!」
「助けてくれって訴えでしたらお断りします。全力で人一人を殺そうとした犯罪者は、まず警察にご厄介にならないといけません。ご安心を。日本は犯罪者の人権もきちんと尊重する国ですから、檻の中で守られてください」 
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