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外伝・少年少女の戦極時代

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斬月編・バロン編リメイク
  自由論インバース


 ホテルから出たところで、戒斗は碧沙(体は咲)を下ろした。そして走り出した戒斗を、碧沙は自身の足で走って追った。
 ダンススクールのレッスンで基礎体力はついているとはいえ、大の男の走りに付いて行くのは、マラソン大会と100m走測定を同時にやっているような苦しさだった。

 戒斗が立ち止まったところで、碧沙は両膝に手を突いてぜいぜいと呼吸した。こんな季節なのに汗だくだ。

 酸欠と火照りで頭がぼうっとしていたせいだ。
 ポケットで鳴動したスマートホンを、碧沙は条件反射で取り出し、新着メッセージのアイコンをタッチした。
 画面が切り替わってようやく、このスマートホンが咲のものなのだと思い出した。


《カイトのレア映像Get!(≧∇≦)》


 ビートライダーズの全体SNSに、チームメイトのモン太のコメントと添付動画が上がっていた。

(駆紋さんはここにいるのに?)

 一拍ためらったが、碧沙は思い切って添付ファイルを開いた。
 画面に表示されたのは、確かに、赤と黒(トランプツートン)のチームユニフォームを着て、ハチャメチャにステップを踏む、戒斗だった。

 顔を上げる。戒斗はここにいる。では、この映像の中の「戒斗」は「誰」だ?

「あの、駆紋さん。これ……」

 碧沙はスマートホンを戒斗に差し出した。戒斗は画面を覗き込んだ。

「こいつだ。俺と入れ替わった奴。ここは……中心街のフリーステージか」

 戒斗が歩き出した。碧沙は慌てて戒斗を再び追った。

 戒斗の歩調は一定で、何度か小走りしないと置いて行かれそうだった。
 そうして初めて、貴虎や光実と歩く時はそのようなことがなかったことに気づいた。兄たちはコドモの碧沙に歩調を合わせてくれていたのだ。


 目的地のすり鉢型ステージに到着した。

 舞台の上ではしゃいでいる青年は、なるほど、戒斗の鏡写しのような容姿をしていた。それが女子のようにきゃいきゃいはしゃいでいるものだから、笑いを通り越してシュールである。
 隣の戒斗がどんな表情をしているかは、あえて見上げたくなかった碧沙である。

(あれがホンモノのシャプールさん)

 客席の階段を降りていく戒斗に、碧沙も続いた。

「おい。お前」
「ん? ――あ!」
「え? 戒斗が、二人!?」

 叫んだ舞が、絋汰が、ザックやペコを初めとするチームバロンのメンバーが驚きもあらわに、戒斗と、戒斗そっくりの青年を何度も見比べた。

「偽者だ。そいつは俺じゃない」

 戒斗は壇上に上がると、シャプールの首根っこを猫の仔のように掴み上げ、乱暴に引っ張って歩き出した。

 つい見送ってしまったヘキサに、モン太たちリトルスターマインの仲間が声をかけてきた。

「なあヘキサ、カイトとなんかあったのか?」
「えーと……いろいろ。うん、イロイロあった」
「……だれ?」
「あのそっくりさん? たぶんだけど、外国のちょっとしたとこのお坊ちゃま。少しフクザツめの事情があって――あ! 待ってください、駆紋さんっ」

 碧沙はチームメイトに「ごめんね」と言い残して戒斗たちを追いかけた。





 戒斗は最寄りの閉鎖工場地帯にシャプールを連れ込み、服を元通りに交換した。
 ちなみに碧沙は彼らが着替える間は外で待っていた。ここまで来たら顛末を見届けたい気がした。

 やがて戒斗とシャプールが廃工場の中から出て来た。

「やっぱりそのコートじゃないと駆紋さんって気がしませんね」
「――ふん」

 コートの裾を翻して背中を向けた戒斗に、シャプールが叫んだ。

「カイトみたいに! ……自由に生きてみたかったんだ」

 自由に。
 そのフレーズは呉島碧沙の深いところを大きく揺さぶった。

(わたしも、もともとダンススクールに通い始めたのは、貴兄さんの目の届かない世界に出てみたかったからだった)

 咲が、みんなが、自分を「ヘキサ」と呼ぶ。そう呼んでくれる時は、「呉島のお嬢様」でも「ユグドラシル・コーポレーション重役の娘」でもない、「ただのヘキサ」でいられた。その時間の何と解放感に満ちて、幸福だったことか。

「とぼけるな。自分の命が狙われているのが分かっていて俺と入れ替わったんだろう?」
「命? 僕の?」

 シャプールは本気で意味が分からないという顔をした。

「駆紋さん、待ってくださいっ。なにも今言わなくても」
「今言わないでいつ言うんだ。これはこいつの問題だ。それともお前は、何も知らせないままこいつを帰してみすみす死なせて構わないのか?」

 その時、黒い車が工場地帯に走り込んできた。 
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