獣篇Ⅲ
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22 年は取りたくないものだ。
西郷も口を開く。
_「アンタ…」
_「待たせてすまねェなァ?邪魔物の登場で。」
_「次郎長…」
_「構わねェよォ。気にしないで話を続けなィ。三人組んでオイラを消す、ってところまでだったかなァ?」
_「そのようなことは一言も申しておらん。これ以上のくだらない争いはごめんじゃが、止めようにも止まらない暴れん方が一人おる、と申したのじゃ。」
_「オイラなら、迷わず殺るねェ。世の中にゃァ、死ななきゃならねェバカがいるもんさァ。間違っても話し合いの場なんて設けちゃいけねェ。皆、テメェら全員雁首揃って、オイラの獲物を射程に入ってるぜェ?…孔雀姫のペットか?」
彼が動いたようだ。
だが、どうやら次郎長に斬られたようだ。中々の腕前である。
_「引け、ただの戯れ言じゃ。」
_「いやいや、お前さんの判断正しい。オイラも殺気に反応するたァ、なかなか躾が行き届いてるじゃねェかァ。だが悪いが、オイラ年食ってからこっち、小便も殺気も切れが悪くなっちまってなァ。とっくに獲物はおさめたのに、ダダ漏れよォ。例えば今、本気でお前ェさんを取りに行ったもんが気付かなかったんだろ?」
軽い呻き声を上げて崩れ落ちた。
全員突入の合図を出した。
だが腕で、まだ、の合図をする。
_「止めろと言っているのが聞こえぬかッ!?」
_「親父きになにしてくれとんじゃァァッ!」
_「尻尾を出しやがったわねッ!?ママには指一本触れさせないんだからッ!」
_「レディの密談を盗み聞きするなんてェ、金◯引き抜かれる覚悟は出来てんだろうなァッ!?てめェらァァっ!」
_「引けィ、てめェらァ。」
_「親父きィ…」
_「人間の出る幕じゃァねェ。」
_「やれやれ。こんな化け物たちを一体どう止めるってんだィ?良い案があるならぜひお聞かせ願いたいもんだよ。」
_「見た通りじゃ。力はより大きな力を以て封ずるしかあるまい?我が案はこうじゃ。これより四天王の配下に属する者は、かぶき町での私闘を禁ずる。これに反した勢力は、残る3つの勢力を以てして一兵卒に至るまで叩き潰す。」
そう。これは正確には私が考えた、華蛇を陥れるために、平子を通して上奏した計画だ。
_「ククク)そいつァ結局、テメェら三人が組むことと変わりねェんじゃねェかァ?徒党を組めば、この次郎長の魂が取れるとでも思ってんのかィ?」
_「勘違いするな。これは争いを生まぬ為の法。」
_「喧嘩一つできないなんて、つまらん町になっちまうねェ。」
_「戦争を回避するにはそれしかないと言うのなら、仕方ないわねェ。」
_「ククク)正気かァ、テメェらァ?上等じゃねェかァ。我慢比べ、ってわけかィ?せいぜいオイラより先にボロが出ねェ用に、気を付けるこったなァ。」
全員、華蛇に付いて、らすべがすに戻るように指示を出した後、私だけその場に残り、さっきの着流しに着替えた。
男たちの会話が聞こえてくる。
_「親父きィ、ホントにあんな話ィ、本当に乗る気でィ?」
_「騒ぎを起こした勢力は、残る三勢力が手を組んで潰すなんざァ、奴ら手を組んで邪魔なワシら殺す気なのは明確ですしィ?」
_「手間が省けて良かったじゃねェかァ。ここいらでかぶき町の王は誰か、はっきりさせんのも悪かァねェ。」
_「あーでも、そないなことになったら、お登勢んとこ…」
次郎長からの殺気に、まだ気づいていないようだ。
_「近頃物忘れが酷くってなァ。お登勢ってェ、誰だっけェ?」
_「アホォ、親父きの前であの婆ァの話は禁句や、て言うたやろ。」
_「今は、女狐よりよっぽど面倒な子狸がいるだろォ?そっちの方に気を配っとけェ。ってィ、何しに来やがったァ、あの餓鬼ァ。」
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