艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~
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第六十三話
前書き
どうも、なぜか弟と一緒に煮卵とチャーシュー作ってました。いやほんとなんでだ。
―食堂―
私達は二階の最後の開けられている最後の一ヶ所の階段から一階に降りる。そのときに防火扉を閉めることを忘れない。
これでGは二階より上に閉じ込められた……はず。
またいつ、どこから現れるか分からない相手だ。私達は一階に降りた後も、食堂に向かいながら引き続き警戒を続ける。
「…………居ないですね。」
「…………居ないね。」
一歩一歩慎重に歩を進めるが、姿が見えず、羽音も聞こえない。まさか、本当に居ないのかな?
私達はそんなことを思いながら、食品の前までやって来た。
私達は中に入ろうとしたが、あるものを見て脚が止まる。
食堂の入り口、付近に何やら大量に黒いものが落ちていた。
それは、先程まで私達が散々追いかけたり追いかけられたりしていた、大量のGの、真っ二つにされた死骸だった。
「…………やっぱり、木曾は食堂のなかに侵入は許さないか。」
拓海さんはその光景を見て、何度も頷いていた。
私はその光景に一瞬顔をしかめたが、千尋さんならやりかねないなと自己完結した。
しかし、千尋さんのことをあまり詳しく知らない皆は完全にその光景を怖がっていた。
「…………え…………なにこれ…………!?」
「そんな…………軽く三十は居ますよ…………。」
「それが、真っ二つに…………。」
「誰がやったの!?」
そう、この人たちは知らない。
「あー、俺だよ。入るときは踏まないように気を付けろよ?」
千尋さんが、あの『魔神木曾』以上の軍刀の使い手だと言うことを。
―数時間後―
「いやー、お前から連絡を受けたとき、一階にもかなりGが出てな。かなり焦ったよ。」
私達は入り口や窓を完全に封鎖した食堂の中にある、一つのテーブルを囲むように座っていた。
千尋さんはカウンターの向こうでいくつかの鍋の前を行ったり来たりしていた。そこから漂う暴力的な香りが、私達の空腹感を加速させていた。
「よく軍刀を持ってましたね…………。」
文月ちゃんはそんな千尋さんに向けて羨望と懐疑とが混ざった目を向けていた。それは回りの人達もそうだった。
「あぁ、何があってもいいように常に持ってるんだ。今回みたいな事が起こるかもしれないからな。」
それだけで帯刀の理由になるのだろうかな?今回のはかなりのレアケースだと思う。
「あ、そうだ、た…………提督。今度包丁買ってくれ。流石にこれは使えねぇや。」
千尋さんはこちらを向いて手にもった包丁を見せてきた。錆びたり欠けたり曲がったりしてて、確かに使えそうになかった。
あれ、それじゃあどうやって材料を切ったんだ?
「春雨ー。皿に盛るから手伝ってくれー。」
軽く微笑みながら私を呼ぶ千尋さん。その若干ぎこちない笑顔が、彼が意識して人付き合いを頑張ってるのだという印象を受ける。悠人さんは、「アイツは俺と拓海以外の友達らしい友達は殆ど居ないなぁ。」と言ってた。
女の子だらけの中に入っていったから、色々気を使わせてるのだろう。
「はーい。」
だから、私はそれを指摘しない。立ち上がると、カウンターの向こう側に移動する。
すると、千尋さんは私にしゃもじを渡してきた。千尋さんはお玉を持っていた。目の前にはほっかほかのご飯に、大きめに切られた具材がゴロゴロ入っているカレー。更には黄金色に揚がっているとんかつ。
「結局、牛と鳥と豚を全部使うことにしたよ。んじゃ、全部で十五人分入れてくぞ。」
「待って、サラリと僕の分を抜かないで。」
私は千尋さんと拓海さんのやり取りにクスリと笑った後、皿にご飯を盛り始める。
作業を始めて数分、私達は十六人分のカレーととんかつを皿に盛り付け、皆の前に運んだ。
「あの…………えっと、なんでですか?」
すると、一人の軽巡が手を挙げた。たしか、五十鈴さんだったはず。
「私達の食事はこれなのですが、なんで私達にこの様なものを?」
五十鈴さんはそう言いながら、懐からカロリーメイクを取り出す。どうやら、昼間に拓海さんが言ってたことは本当だったらしい。
「そりゃあ、権利だからだよ。」
拓海さんは少しだけ笑ってそう言った。その言葉に、佐世保の皆は首をかしげた。
「千尋、僕達に与えられる権利二つ、ちゃんと言える?」
拓海さんは千尋さんに話を振る。千尋さんはそれに対して顔をしかめた。少なくとも、私や夕立ちゃんは呉の提督からその話は何回かされたことがあるけど、千尋さんは知ってるのかな?
「あ?三つじゃねぇんだ。えっと、『旨いもんを腹一杯食う権利』と『安心できるところでぐっすり寝る権利』だろ?」
少し気になることも言ってたが、千尋さんは私達が聞いたものと同じことを答えた。
「うん、正解だ。はっきり言って、君達が置かれている環境はおかしい。ろくにご飯も食べれず、寝るときは一ヶ所で雑魚寝。まともに補給もされずに、ボロ雑巾のように捨てられる。そんなんじゃ、戦果を挙げることも無理だろう。」
拓海さんの言葉はかなりキツい印象を受けた。ここの前の提督を罵ってるようにも見えた。
「僕がここの所属を元帥から受けたとき、この劣悪な環境を改善することを言い渡された。まずは『安心して休める場所』と『美味しい食事』を整える。今日皆に与えた指令にはそんな意味があった。」
奴のせいで二階に行けないけどと、悪態をつく拓海さん。後で○ルサンしないとなぁ。
「だから、食べろ。美味しいものを倒れるほど食べろ。そして寝ろ。安心して泥のように寝ろ。これからの話は、その後だ。」
拓海さんの言葉に、皆は戸惑っていた。前の提督とのギャップに驚いてるのか、拓海さんが信じられないのかは分からないが、誰もカレーに手をつけようとしていなかった。
私は夕立ちゃんや千尋さんと目を合わせる。私達は、自分達が最初に食べようかと考えていた。そうでもしないと、この人たちは食べないだろう…………と、思っていた。
「頂きます。」
やけにハッキリと聞こえたその声の主は、入り口からすぐのところに座っていた、若葉ちゃんだった。
彼女は目の前には置かれていたスプーンを手に取ると、そのままカレーを口の中に運んだ。
モグモグと口を動かす若葉ちゃん。唖然とする私達。興味深そうに見ている千尋さんと拓海さん。
「…………木曾、なかなか旨いぞ。」
若葉ちゃんは千尋さんを見ると、少しだけ笑った。
「おう、ありがとな。さ、皆も食べてくれ!」
千尋さんは若葉ちゃんに向けてニヤリと笑うと、私達を一望した。
すると、皆恐る恐るといった感じでスプーンを手に取り始める。口々に小さく「頂きます」と言うと、それぞれカレーを口に運び始める。私や夕立ちゃんもそれを見て、カレーを食べ始める。様々な香辛料から産み出された辛さと香りが口の中一杯に広がり、少し大きめに切られた具材がホロリと崩れていった。
要するに、美味しい。
私はひと口食べた後で、回りを見渡した。
佐世保の皆は、泣きながらカレーを口に運んでいた。
皆、久しぶりにまともなものを食べたのだろう。誰もその涙を拭うこと無く、ただ目の前のカレーを食べていた。
恐らく、ここに来てから始めての『人間扱い』だったのだろう。
私はその光景を見て、涙が出てきてしまった。
この人たちが今までどんな生活をしてきたのか、想像の範囲でしかない。
しかし、この光景を見ると皆がどれだけ劣悪な環境で生活してたのか、伝わってきた気がした。思わず、涙が溢れた。
すると、誰かに頭を優しく撫でられた。
「ほら、お前もしっかり食え。」
千尋さんは私の頭から手を離すと、私の隣に座った。その顔は、さっきよりもずっと自然な笑顔だった。
「…………はいっ!」
私は元気に返事をすると、二口目を口の中に運んだ。
後書き
読んでくれてありがとうございます。食事シーンの難しさって凄いと思うんですよ。形容詞の数だけ表現があると言いますか。いや、それはどのシーンもか。
それでは、また次回。
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