朱の盆
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第四章
「心配なのよ」
「気をつけてるけれど」
「気をつけていてもよ、注意してね」
心配だからこそまた言うのだった。
「本当に」
「わかったわよ、けれど柔道はね」
「続けるのね」
「そうするから」
「本当に気をつけてね」
「今だって気をつけてるしね」
ここでこんなことも言った奈緒だった。
「柔道とは別のことだけれど」
「妖怪のこと?」
「そのこともあるけれど夜道に女の人二人じゃない」
「用心するっていうの?」
「そうしないと」
それこそとだ、奈緒は母に話した。
「駄目じゃない」
「いつも歩いてる道でしょ」
「いつもでもよ、私だって気をつけてるし」
「柔道の技でやっつけるつもりなの」
「そう、当て身だって覚えたし」
かつての柔道にあった技だ、相手の急所を突いてそれで相手を気絶させる技だ。スポーツとしての柔道では使われていない。
「それでね」
「やっつけるの」
「そうするわ、変な人が出たらね」
「その当て身で」
「勿論他の技でもよ」
柔道の技でというのだ。
「そうするわ」
「じゃあボディーガード頼むわね」
「そうさせてもらうわ」
奈緒はまた母に言った、そしてだった。
二人は家に向かって歩いていった、そして家まであと少しのたまたま周りの民家の死角になる場所で。
いきなり左から何かが出て来た、その何かは二人に襲い掛かって来る様に見えた。それでだった。
奈緒は咄嗟にだ、その襲い掛かってきた何かにだ。自分から向かっていって。
相手が襲い掛かろうとしているその動きの力を利用してその服を掴み。
自ら背中から倒れ一気にだった、相手を巴投げにしてしまった。そうしてからだった。
奈緒は立ち上がって晶子に言った。
「いきなり出て来たけれど」
「咄嗟に投げたわね」
「ええ、けれどね」
「襲い掛かろうとしてたから」
「悪戯でも正当防衛で通じるわね」
奈緒は投げてからだがそれでも言った。
「そうよね」
「今の状況だったら大丈夫だと思うけれど」
晶子は娘に考える顔で答えた。
「また豪快に投げたわね」
「実は巴投げ得意なの」
「それで使ったの」
「ええ、ただ投げたのが畳の上じゃないから」
アスファルトの上だからとだ、奈緒はこのことを心配していた。
「ちょっと以上のダメージじゃないけれどね」
「死ぬかしら」
「基本柔道の技は畳の上でないと使ったら駄目なの」
理由は簡単で危険だからだ、ただし奈良県の中学校では教師が受け身すら知らない生徒を床の上で背負い投げにすることがありこれが犯罪にもならずまかり通る。
「けれど今は仕方ないわね」
「そうよね、襲い掛かってきた様に見えたから」
「仕方ないわ」
二人で奈緒の今の行為について納得する為に話した、そのうえで投げた相手を見たがその相手はというと。
着ているものは青い着物に水色の脚絆、顔は異常に大きく夜でもわかる位に真っ赤な顔だ。しかも額には角がある。
その外見を見てだ、奈緒はすぐに言った。投げられて仰向けにのびてしまっているので近寄っても大丈夫だった。
「人間じゃないわよね」
「妖怪?」
晶子もそののびている相手を見て言った。
「これは」
「どう見てもそうよね」
「ええ、妖怪が出るって噂があったけrど」
「本当にそうだったみたいね」
「そうね」
「うう・・・・・・」
ここでその投げられた妖怪も呻きつつ意識を回復させた。そうして目を開けて二人に言ってきた。
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