八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百四十九話 夏は終わりでもその十六
「痛かったからな」
「だからですね」
「とてもな、高校で一緒の奴もいるが」
「普通にお付き合い出来ていますか」
「いや」
首を横に振って言ったきた。
「それはとてもだ」
「そうですか」
「私には無理だ」
苦い顔を僕から背けて言った。
「とてもな」
「そうした人達と付き合うことは」
「絶対にだ」
こう言った。
「出来ない」
「以前のことが気になって」
「それでだ」
このことは潔癖症な井上さんらしいと思った、その人のそうした本性を知るとどうしてもとなることが。
「もうだ」
「その人達とはですか」
「付き合っていない」
「恋愛はあれですね」
僕はここで言った。
「失恋の話なんかは」
「すべきではないというのだな」
「はい」
こう答えた。
「そう思いました」
「若し言うとだ」
「井上さんがそうであるみたいに」
「言った相手は軽くてもだ」
軽い気持ちで言ってもというのだ。
「言われた方はだ」
「覚えていますね」
「そしてだ」
「恨まれる」
「恨みはよくない感情だが」
井上さんは自分から言った。
「私は今も彼等、彼女達をだ」
「恨んでいますか」
「そうなっている」
「だからですか」
「恨まれたくはないな」
「普通はそうですよね」
進んでそうなりたい人もいないと思う、どんな相手でも恨まれると背中が怖いしいい思いはしない。
「誰だって」
「失恋は傷になる」
心のそれにだ。
「だからそこに触れないことだ」
「井上さんはそのことがわかったんですね」
「自分自身のことでな」
「それで目の前が真っ暗にもなった」
「実際にそうなった」
「そうだったんですね」
「普段いる場所、歩いている場所がだ」
まさにその場所がだ。
「真っ暗闇になるのだ」
「想像すると怖いですね」
「どうしようかとも思うが」
「どうしようもないとですね」
「思う、これ以上の苦しみはない」
絶望に陥る、目の前が真っ暗になる程のそれは。
「それだけは二度とだ」
「経験したくないですか」
「私もな」
「そんなことがあったんですね」
僕はしみじみとした口調になっていると自分でわかった。
「井上さんにも」
「そうだった」
「それで今はですね」
「人は外見で判断しない様にもなった」
「幾ら顔がよくてもですね」
「腐った奴は腐っている」
それもどうしようもなく、というのだ。
「外見で好きになるのでなくな」
「心ですね」
「そこを見ることだ」
「それが大事ですね」
「人間はな」
夏休みの図書館の中でそうした話をした、井上さんが話してくれたその過去はあまりにも思いものだった。
けれどだ、その話の後だ。
部活に戻った僕はふと顧問の先生の一人にこんなことを話した。さっきまでの井上さんとのやり取りを思い出しながら。
「あの、人の恋路を邪魔するなっていいますけれど」
「いきなりどうしたんだ」
「いえ、若し失恋してです」
そしてとだ、僕はさらに言った。
「それを囃したら絶対に駄目ですね」
「御前がされたら嫌だろ」
「はい、本当に」
「ならだ」
「しないことですね」
「最初からな」
それは禁物だというのだ。
「自分がやられて嫌なことは人にはするな」
「そういうものですね」
「そこは気をつけろよ」
「自分がやられて嫌なら」
「最初からするな」
「そういうことですね」
僕も納得した、そしてだった。
部活に戻った、だが僕はこの日も大事なことを学んだと思った。人の恋路のことを囃し立てるものではないということもそれ以上のことも。
第百四十九話 完
2017・7・25
ページ上へ戻る