ランス ~another story~ IF
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第4話 勇者・動く死体
前書き
~一言~
いやー…… ランス10をちょこちょこっとやってて、ヘイトをバンバンためてくれたキャラが何人かいたのですが……、あのチビ助!! も結構嫌いでしたねっ!
~ 翔竜山 ~
そこは大陸のほぼ中心に位置する場所。
鋭く塔のように高く細く聳え立つ山。その名の通り現在で生き残っているドラゴン達の住まう山であり、眼下に雲を見下ろす大陸の最高峰である。
そんな山である為、腕の立つ冒険者が腕試しに登ったりしている事が多々ある場所でもあるのだが、現在はそんな気配は一切ない。荒涼とした山中には人の気配はおろか生物の気配すら感じられなくなっていた。
「………ここに来るのも随分と久しぶりだ」
人を容易く吹き飛ばしてしまうのではないか、と思う程の暴風の中。それをものともせず歩く影があった。登っているのは ゾロ。
人がいないからこそ、都合が良いという事もある。かなりの有名人になってしまっているゾロだからこそ。
そして今日の彼は緑のマスクに赤い帽子……は今は外している様だ。風で飛んでいってしまうかもしれないから外しているのだろうか。
『……多分、付けてないそっちの方がオレは良いと思う。もう付けるの止めにしておいたら?』
ぼそり、と何処かから聞こえてくる声があった。
その声に耳を傾け、苦笑いするゾロ。そう……誰もいないからこそ、こうやって電波を受信してる? と誤解されかねない独り言をする事が出来るのだ!
―――と言うのは冗談です。
「他人の事を言えたものか? いつ如何なる時でも、何処でもどんな場所でも、フードを重宝していた主に言われるとは心外だ」
『うぐ……っ』
「まぁ 確かに。行動し易さから言えば、外した方が良いかもしれないか。幸いなことにこの顔は出回っていない。騒がれる事も無いだろう。……ミラクルの様な者は見破られそうだがな」
鏡が無いので簡単な水の魔法を使って地面に水たまりを作る。その水面を鏡の様に利用し素顔を確認。赤みが掛かった茶髪のセミロング。マスクと帽子を付けていた時は髪の色は黒だったから これはもう変装と言って良いレベルだろう。
『ところで、なぜ翔竜山に?』
「いや。特に理由はない。……いや、少しあったか。もしかしたら、いきなり本拠地に来るかもと思ったから、と言うのが理由、かな」
『……エールが?』
「ああ」
『いきなり、翔竜山に?』
「ああ」
そんな訳無いだろう。と普通なら思う。心の中では恐らく彼もそう思っている事だろう。
ここ翔竜山は元々難易度の高いエリアとして有名だ……と言う事もあるが、何よりもこの場所は魔王ランスが居城を構えている、と言う理由がある。
もっと危険地帯と言えば、他にもある。人間界で言えば マルグリット迷宮やヘルマン氷雪地帯、JAPANの死国、八甲田山。今でこそ多少落ち着いているが 魔物界は言わずもがな、どの場所も人間界と比べたらレベルが違う程の危険地帯。
だが、現在では人間、魔物、亜人。全ての生き物が盤上一致で人間界のこの場所を世界一の危険地帯と認識している。その理由は当然ながら魔王ランスがいるからだ。この場所に魔王の城 アメージング城が存在する。
故にこの場所では生物の気配がしないのだ。魔王が、そしてその配下の魔人がこの場所にいるから。
『……幾らなんでも』
「それはない、か?」
『ああ。例えるならレベル①でいきなりマルグリット迷宮第10層以降に侵入したり、魔王が来る前のこの場所に挑戦したり……いや、それ以上か。悪魔界や天界に普通の人間が殴り込んだり…… それ位の事だと思うが』
「的確な例え話だな。私もそう思う」
つまり、無謀を通り越している、と言う事だ。この場所にいきなり来ると言うのは。
だが、そう言う訳かゾロは本気だった。
「見た感じ、ではあるが、色々と理性はあるものの 突拍子もない事をしそうな雰囲気でな。クルック―とユーリ・ローランドの息子だ。危うさを感じても不思議ではないだろう?」
『………それを言われると反論のしようがないな』
一発で納得してしまう破壊力がある言葉だった。
昔のクルック―を考えると……、そして ユーリ・ローランドの事を考えると……。
「それに此処には、あの哀れな男もいる。また、馬鹿をしてないかの確認の意味もあるかもな」
『あぁ。あの男か。因果応報、自業自得とも取れるが、あの男の傍にいる下っ端のせい……とも考えられるから一概にはオレは言えない』
「うむ。………では行ってみるか」
踏みしめる様に、この翔竜山を登っていく。
暫くは緩やかな傾斜が続き、時折吹く風はまさに豪風。肌を刺す冷気を纏い、そして 天に近い位置にいるからか照り付ける太陽の熱は宛ら砂漠を連想させる矛盾の秘境。
だが、この翔竜山の気候は恐らくは地理的問題にあるだけではない。此処に住まう魔王がもたらすのだ。そう、天候さえ変えてしまう程の圧倒的な力を持つ魔王が。
が、ゾロにとってはそれは関係ない、と言わんばかりに歩を進め 軈て洞窟へとたどり着く。
「気配が濃くなってきた。……ここか」
言葉の通りだった。
洞窟の中を覗くと、その中には何かがいた。それは人間ではなく、魔物とも言えない異形の姿。その者にゾロは冷やかな視線を向けた。先程の雰囲気とはまるで違う絶対零度付近にまで冷めた眼で、その者を見ていた。
「……久しいな。ゲイマルク。魔の気配に誘われたか」
「…………」
人型の何か……身体中の肉と言う肉がただれ落ち、骨は露出し 眼球は辛うじてつながっているだけの状態。このゾンビ状態になっているのが且て人間界に災いを齎した勇者ゲイマルクなのだ。
「どうだ。調子の程は」
「…………」
ゾロは ゲイマルクに語り掛けるが まるで返事はしない。ただ、虚構を見つめつつそこに佇んでいるだけだった。
「あの時のお前を考えたら、今の姿は想像出来ないだろうな。かつてのお前の仲間も含めて」
返事はないがゾロは思い出す様にそのまま語り続ける。
それは勇者災害の時の事。
勇者に 与えられる武器エクスードソードの発動を促す為に人類を虐殺していった。
魔王を打倒する事を目的として引き起こした未曾有の災害。死滅率は%に現すと少ないと言えるが、それでも1個人が殺傷した数と考えれば、歴史に刻む程の凶悪な事件。先代勇者アリオスよりもさらに非道に徹し、必至に抵抗を見せる人類を大量に殺した。
更に女は犯した後に殺す。男はそのまま殺す。その所業はまさに災害。意思のある災害で性質が悪い事この上ないものだった。
ゲイマルクは、その志に共鳴した仲間達(同属の屑)と共に人類に牙を向け、虐殺を楽しむまでになったが、それは長くは続かなかった。
そう――目の前の男 ゾロが現れたからだ。
「正直に言えばあの時……私はまだ方針を固めてなかった。私自身が動くのか。ただ見守るだけなのか、色々と自問自答をしていた最中だった。……いわば、ゲイマルク。お前が私を動かしたんだ」
ゆっくりと歩を進める。ゲイマルクの方へと。
「如何に目的があったとしても、優先されるものがあったとしても。……目の前であの惨劇を引き起こそうものなら、すべき事は自ずと決まる。そして……」
ゲイマルクに一定距離近づいたその時だった。
「ぐごおおおおぷぴょーーーーっっ!!」
狂ったように奇声を発しながら、その姿からは想像がつかない程俊敏に、素早く手に持った錆びた剣を振り下ろしてきた。
その剣はゾロの頭部を唐竹割りしようとしていたが、ゾロの指先で止められる。
「それは呪い。お前が背負うべき呪い。……今のお前の全身を襲っている苦痛。お前が殺してきた者達からの、な。……いや罪、と言い換えた方が良いかもしれん」
「う、ご、ごご、ご…… こ、こ、こ……」
ぷるぷるぷる、と剣に力を込めているのか身体全体が震えていた。
そして、もう殆ど形を成していない顔の口の部分が何度も何度も動く。奇声ではなく、何かを伝える様に懸命に口を動かしていた。
「こ、こ……ころ……して……… く、れ」
懇願だった。死ねない呪いから解放してくれ、と。ゾロが言っていた言葉の意味を理解していないのだろう。今の苦しみは 自分がもたらした結果だという事を。殺してきた者たちから勇者へ送られる呪い。罪なのだという事を。
「…………」
ゾロはそれには答えず、ただ受け止めた剣を弾き返した。
ゲイマルクは よろけて倒れそうになるが、何とか踏みとどまり 軈て虚空をじっと見つめながら固まった。
憐れな男、と思えなくもないが これは先程にもあった通り自業自得の結果だ。この勇者は、以前のアリオスとは絶対的に違う面がある。それは喜々として人を殺し過ぎた所にあった。恐らくは歴代の勇者の中でも一番人間を殺してきただろう。あのLP時代の戦争時のアリオスの行為が可愛く見える程に。
「……おや? 少し席を外していましたが、珍しい来客ですね」
そして、勇者は1人ではない。いつの時代にも勇者の傍には従者がいる。先程までは見当たらなかったが、言葉で言う様に理由は判らないが、席を外して洞窟の奥へといっていた様だ。
「……あぁ。お前もいたな。確か」
ゾロは ゲイマルクに向けていた視線を、その傍にまで戻ってきた小柄な少年? に向けた。
「ええ。そーです。私は勇者の従者をしてますからね。傍にいるのが常ですよ」
「の割にはさっきまではいなかったみたいだが?」
「少々用を足していたので。人間の体と言うのは少々不便な所がある、と言うところですね」
淡々とした会話なのだが、その周囲に放たれる異様な圧力はゲイマルクのそれを遥かに凌駕している。
「それで、世界の英雄さんがこの様な場所に何しに来たんですか? えーと、マスクマン? でしたっけ?」
「あぁ ただの傍観だ。魔の気配が色濃くなってきた。……そろそろ お前達がうろつくと思っていたが、案の定。そんな姿になって、死にたがっていてもまだ、魔の気配にはつられるらしい。……いや、魔王に殺されたい、とでも考えているのか」
「おー、鋭い読みですね。多分ですが、後者でしょう。動く死体状態の勇者になって殆ど意識は無いと思ってたんですけど、2人の会話みたいなのを訊いて改めましたよ。いやぁ可哀想ですね。きっと今も全身に激痛、痒みが襲ってるでしょうし」
口では可哀想、と言っているのだが、従者の表情のそれはまるで違った。人間では浮かべられるとは思えない程邪悪な笑みを浮かべていた。
だが、それに動じる様子なく、ゾロは淡々と訊いた。
「お前はどうなんだ? 自分が可哀想とは思ってないのか?」
「……はい? 何故私が可哀想なんですか? この通り、身体は大丈夫そうでしょう? 裸にはなったりしませんよ?」
軽いジョークのつもりで言って笑っているのだが、嫌悪感しかそこからは生まれない。
「いや、私が言っているのはそこではない。ただの下っ端とは言え、お前が完全に堕落した現在の状況を、と聞いている」
「…………」
邪悪な笑み……だったのだが、それは完全に消え失せた。
《笑み》から《怒り》の表情へと。
「……随分と懐かしいセリフですね。数年前に会った時 もしやとは思っていましたが、貴方………。……貴様は。そうだったんですか……」
怒りの表情のままに 邪悪な圧力を直接ゾロに向けるが、これも暖簾に腕押しだった。
攻撃手段に移りたいのだろう。拳が不自然に力を籠められ僅かに震えていたが、直ぐに力を抜いていた。
「……く、人間とも神とも言えない存在になってしまった事に怒りを覚えたのは今が初めてです。……殺す事が出来なくなったのですから」
忌々しそうに自分の身体を見下ろしていた。
それを見たゾロは満足……とまではいわないが、興味が無くなったかの様に踵を返した。
「何処行く……?」
「RA期に入り、人の範疇を超える様な行動はとっていない……と訊いてはいたが、間違っていないと確信出来たのでな。もう、今のお前には用はない。……元々、この洞窟へはゲイマルクを見に来る為に来た。お前自身には端から用などは無い」
「いちいち癇に障る男ですね」
「気が合うな。私もお前の存在そのものが不快だ。……あぁ、ものは次いでだ。もう1つだけ吐いて行こう」
ゾロは進める脚を止めた。
だが、振り返る事はせず 声を低くさせながら言った。
「コーラス0024」
「……なッッ!?」
先程までゾロを睨み付けていたのだが、その表情は消え失せ驚愕の表情へと変えた。
理由はこの人間界で 未だ名乗った事の無い真名を 目の前の男が口にしたからだ。
ゾロは そのまま 続けた。
「……目障りな真似はするな。……1年後に興味があるのなら、努々忘れぬ事だ。……さもなくば」
極限までの殺気がこの洞窟内で暴れ狂う。
所々の岩が砕け、地面に亀裂が走り、ゲイマルクに至っては立つ事さえ出来ず、倒れ込む。コーラス…… コーラにもそれは例外ではなかった。圧倒的な力。どれ程離れているか判らない力を前にして 脚が全く動かなくなってしまっていた。
故に――。
「……消すぞ」
その言葉が大言壮語の類ではない、と直ぐに理解したのだった。
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