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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第152話「劣勢と好機」

 
前書き
視点は戻って優輝side。
避難場所に吹き飛ばされたため、ここから劣勢になっていきます。
 

 






       =優輝side=





「っ……!」

 周囲には逃げ惑う人達。
 そして、私へと攻撃しようと接近してくる守護者。
 ……庇いきれるのだろうか……。

「ふっ……!」

     ギギギギギギィイン!!

 振るわれる刀を全て逸らして受け流す。
 その際にばら撒かれた御札を、創造した剣で貫く。
 同時に、神としての力を行使。
 ツタを生成して、それで周囲の人達をさらに引き離す。
 その瞬間、貫いた御札が暴発。結界を使って被害を出さないようにする。

「っぁ!?」

 でも、そんな庇うような事をしていたら、自分が守れない。
 現に、刀で弾かれた所に蹴りが繰り出された。
 霊力の障壁で軽減したものの、吹き飛ばされて建物へ激突する。

「く、ぅ……!」

 すぐに起き上がると、そこへ斬りかかってきた。
 刀で防ぎ、しばらく鍔迫り合いになる。

「っ……!」

     ギィイイン!!

 何とか押し返……すと見せかけ、受け流して蹴りで吹き飛ばす。
 ……お返しだ……!

「……!」

 蹴りで間合いを離し、その隙に周囲を確認する。
 ……今の所、巻き添えで死んでしまった人はいない。
 だけど、衝撃波だけで怪我人が出ている。
 さっき建物に激突した時も、怪我をした人がいた。

「これ以上被害は……出させない!」

「……へぇ……」

 魔力結晶を一気に10個使い、剣や槍、盾の群を創造する。
 これらでは倒す事は不可能だ。だけど、移動させる事は出来るかもしれない。

「(……頼むから、パニックになって変な行動を起こさないでよ……!)」

 周囲の人達は、逃げる事も出来ない程、現状に驚愕している。
 むしろ、その方が好都合ではある。下手に逃げられても守り切れない。

「すぅー……ッ!!」

   ―――“速鳥-真髄-”
   ―――“扇技・神速-真髄-”

 息を吸い込み、一息の下に音を超える。
 ……何も、守護者がやった事が私に出来ない訳ではない。
 術式自体は知っているもので、神降しをしている今なら同じ事が可能だ。
 先程これで追い詰められたのは、同じことをした事に面食らっただけだ。

「っぁっ!!!」

「……!!」

     ギギギィイン!!ギギィイン!ギィイン!!
        ドンッ!    ドンッ!

 刀は刀で、術は術で相殺する。
 音を軽く超えた剣速なためか、躱した一撃は斬撃となって飛ぶ。
 その先には一般人がおり、そのままでは両断されてしまう。
 そこで創造した剣を盾にし、斬撃を相殺する。

「っ!」

「ふっ!!」

   ―――“斧技・鬼神-真髄-”

「ら、ぁっ!!」

   ―――“戦技・迅駆(じんく)-真髄-”

 突如武器が槍に変わり、突きが放たれる。
 刀で僅かに軌道をずらし、体を逸らして躱す。
 直後に鬼神の如き力を宿し、斧で攻撃しようとしてくる。
 それは、即座に放った二撃により、何とか阻止する。

「ッ―――!!」

「シッ!」

   ―――“弓技・閃矢-真髄-”

 だが、それすらも読んでいたように守護者は弾かれた勢いのまま、斧から弓矢へと武器を変える。

「くっ……!」

 弾かれた反動を利用した事で、超至近距離から矢が放たれる。
 咄嗟に扇に神力を纏わせ、上空へと弾く。

「ふっ!」

   ―――“戦技・金剛撃-真髄-”

「(防げない!)」

 そこで、懐に隙が出来る。
 その隙を突くように、守護者は掌底を放ってくる。
 防御は不可能と判断し、短距離転移で回避、後ろへと回り込む。
 しかし、そこからの一撃は想定済みなのか、攻撃の勢いのまま守護者は前進。置き土産に“呪黒剣”を放って間合いを離してきた。

「(……創造した武器や盾は……後、半分程)」

 超速の戦闘と言うだけで、周囲への被害はどんどん増していく。
 それを防ぐため、創造したものを盾にしていた。
 けど、それは長続きしない。補給をこまめにしているとはいえ、防ぎきれない。

「(何とか、ここから退かせないと……!)」

 踏み込み、間合いを詰め、刀を振るう。
 導王流の弐ノ型では、守護者を押し切る事は出来ない。
 何せ、似たような性質の剣術を、彼女も使っているからだ。
 そして、壱ノ型も完全に有効とは言えない。
 おまけに、剣術、槍術、斧術、弓術、扇術において、彼女は私を上回る。
 唯一体術のみが、こちらにアドバンテージがあるが……。

「ッ!」

     バシィイッ!

 刀の一閃を上体逸らしで避けられ、そのまま放たれた蹴りを片手で受け止める。
 そこから徹る痺れのような痛み。
 霊力が込められたその蹴りは、衝撃が防御を貫通するのだ。
 それこそ、御神流の徹のように。

「(その上、神殺しの性質からダメージが大きい……)」

 相性は最悪と言えるだろう。
 今まで、私は相性が最悪な相手とは戦った事がない。
 魔力や力など、そう言ったものが完全に上な相手とは幾度となく戦っている。
 しかし、実力が上な相手とはいえ、相性が悪かった訳ではない。
 戦い方次第ではやり合えるような相手ばかりだった。
 ……それが、裏目に出たのだろう。

「ッ……!」

 刀の防御を抜けて、槍が頬を掠める。
 ……痛みが強く響く。

「っ、ぐぅっ……!」

 咄嗟に槍を掴む。
 すると守護者は即座に斧に持ち替え、槍を繰り出した反対側から振るってくる。
 掴んだ槍を盾にする事で、その一撃は防ぐが、吹き飛ばされる。

「っ……!」

 おまけに、その槍へ手を加える事は出来ないようで、矢として放とうとした瞬間に手から弾かれるように離れてしまう。
 代わりに魔力を手繰り、複数の砲撃魔法として攻撃する。

「無駄だよ」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

 しかし、その砲撃魔法は障壁によってあっさりと防がれてしまう。
 障壁で砲撃は霧散し、魔力は宙を漂う。

「……!!」

 だからこそ、それを利用するために背後へと転移。
 霧散した魔力を掌へと集束。高密度の魔力を伴い、掌底を繰り出す。

「っ!」

 それを躱される。だけど、想定済み。
 反撃に振るわれる刀を、もう片方の手に持つ刀で受ける。
 その衝撃で吹き飛ばされるのを利用する。
 掌に集束していた魔力を使い、大鎌を創造。
 そう。吹き飛ばされるのを良い事に、そのまま大鎌で切り裂くつもりだ。

     ギィイイン!

「っ、くっ……!」

「ふっ!」

 だけど、まるで無意味だった。むしろ、利用されてしまった。
 大鎌は斧によって防がれるどころか、押し返すように弾かれた。
 弾かれる瞬間に鎌を手放したため、引っ張られることはなかった。
 しかし、吹き飛ぶ勢いは完全に殺され、槍の一突きが目の前に迫る。

「っ……!」

 それを顔を逸らす事で避ける。
 そのままの勢いで体を回転。槍を蹴り上げる。
 同時に砲撃魔法を放つ。

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギィイイン!!

「っつ……!」

 守護者は砲撃魔法を体を逸らす事で避けた。
 そのまま繰り出された回し蹴りを障壁で受け止め、体勢を立て直す。

「シッ!」

「はぁっ!!」

 互いに地面に体勢を立て直すように着地する。
 そして間も置かずに一気に駆ける。
 一撃の下に交わる……に留まるはずがない。
 音を超える斬撃の応酬を、再び繰り広げる。

「ふっ……!!」

 魔力結晶を三つ消費する。
 短距離転移魔法の術式を重ねていくつも用意する。
 そして、一気に連続で行使する。

     ギギギギギギギィイイン!!

「は、ぁっ!!」

「っ……!」

 転移と同時に繰り出す斬撃。
 回避と奇襲を兼ねた、超高速の連続転移。
 さしもの守護者も、初見では対応しきれずに防御の上から間合いを突き放す。

「ふぅ……ふぅ……」

 ……さすがに、神降しをしているとはいえ、ここまでの戦闘はきつい。
 守護者も同じようで、互いに少し息を切らしていた。

「(……今の攻防で、創造しておいた盾代わりは全て砕け散った)」

 怒涛の戦闘の最中、私は一般人たちを守り続けた。
 巻き添えを喰らった人は揃って腰を抜かしたためか、比較的守りやすかった。
 でも、既に盾代わりのものは、新たに追加した僅かな数しかない。

「……ちょっと、移動させてもらおうか……!」

 だけど、全てが砕け散ったのは、想定通り。
 当たり前だ。こんな守護者のような相手に、ただ創造した物で太刀打ちできない。
 だから、それを“リサイクル”させてもらう。

「ただの金属の破片。でも、それに神力を纏わせ、高速で飛ばせば?」

「っ……!」

「この数、簡単に対処できるとは思わない事ね!!」

 一気に破片を飛ばす。神力で殺傷能力をかさましして。
 霊力の放出などで一掃されないように、全てを一遍に飛ばす訳ではない。
 さらに、私自身も攻めに入る。これで、移動させる!

「(元よりこれで追い詰められるとは思っていない。でも、これで……!)」

「厄介な……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギギギギギギギギギギギギギギギギィイン!!!

 一部を霊力の放出で消滅させるが、その対処では追いつけない。
 その事に気づいた守護者はすぐさま障壁を張る。
 でも、その背後から私は襲い掛かる。

「はっ!」

「っ!」

     ギィイイン!!

 破片を竜巻のように展開し、その中心で私達は争う。
 刀を防がせ、地面から神力による衝撃波を繰り出す。
 障壁に受け止められるも、それで体は浮き上がる。

「はぁぁああああっ!!」

「その程度で……!!」

 重力を無視したかのように、怒涛の斬撃を繰り出す。
 守護者の体は重力に逆らうように、地面に落ちる事はない。
 守護者自身も霊力を足場に跳躍。上空へと場所を移していく。

   ―――“斧技・瞬歩-真髄-”

「ふっ!!」

「ぐっ……!」

 別に、私が押している訳じゃない。
 今のように、霊力を足場に瞬間的に速度を上げ、回り込むように斧で攻撃してきた。
 刀で防ぐものの、その上から吹き飛ばされた。
 ……でも、これでいい。

「(上空まで来れたら、後は押し出すだけ!!)」

 魔法陣を足場に、吹き飛ばされた勢いを殺す。
 そして、矢を番える。

「此の一撃を、基とせよ……!」

〈“Mitnahme(同調)”〉

   ―――“弓技・瞬矢-真髄-”

 真髄となった事で音を軽々超えた神速の矢が放たれる。
 そして、それに同調するように、周囲の破片が一気に守護者へと向かった。

「っ……!」

   ―――“扇技・護法障壁-真髄-”

     ギギギギギギギギギギギギギィイン!!

 その速度に、守護者は咄嗟に回避よりも防御を選んだ。
 確かに、判断としてはそっちの方が正解だ。
 躱した所で、再び追尾させるだけだし、この攻撃では障壁を貫けない。
 ……それを、狙っていた。

「術式構築。起動!」

 発動させる術式。それは転移魔法。
 いつも扱う転移魔法と違うのは、ある程度広範囲であり、対象は問答無用な所だ。
 つまり、転移魔法で私と守護者をここから移動させるのだ。





「シッ!」

「ふっ!!」

 転移による、戦場の移動は滞りなく済んだ。
 なお、転移しても破片による猛攻はそのままだ。
 それを利用して、御札を両斜め後ろから迫るように投げつけ、背後から斬りかかる。
 しかし、それは霊力を放出する事で、阻止される。

     ギギギィイイン!

「っ!!」

 でも、私自身の攻撃はそれで止まるはずがない。
 僅かな間、ほんの一瞬だけ剣戟を繰り広げる。
 即座に私は間合いを離し、残りの破片を集中させるように守護者へと放つ。

「……吹き荒れよ」

   ―――“極鎌鼬-真髄-”

 しかし、破片は風の刃に一掃される。
 まだ再利用は出来るが、先程の魔法の効果も切れた。
 もう一度あの魔法を使わなければ、さっきまでの速度は出せない。

「(ならっ!!)」

 破片を構成しているのは元々は魔力だ。
 例え魔法が無効化される空間でも消えない代物になっているとはいえ、私の意思でその破片は魔力に戻す事が出来る。
 ……それを利用し、一度破片を魔力に還元。

「はぁっ!!」

 そして、それを純粋な衝撃波に変え、守護者へと向ける。
 無論、この程度でダメージを与えれる程簡単だとは思っていない。

「ふっ!」

 衝撃波は、当然のように霊力の放出によって止められる。
 だが、これですぐに動けるだろうとはいえ、身動きが止まる。
 そこを私は狙った。

「っ!?」

 守護者の目が見開かれる。そうするのは予想外な事を私がしたからだ。
 ()()()()()()()()()などと、普通ならばしないだろう。
 矢は、基本的に使い捨てだ。しかも、このような戦闘においては拾う暇もない。
 その状況で、強力な刀を使い捨てにするのだ。
 ……多少は、驚くだろう。

「(それが、狙い目よ!!)」

 動揺はあった。でも、それはコンマ数秒にも満たない。
 刀を矢にしても、それを迎撃すればいいと考えたのだろう。
 尤も、これはただの攻撃ではないのだが。

「ふっ!!」

 神力によって創られた刀に、神力を纏わせ、射る。
 その速度は、他の矢とは段違いだ。
 間違いなく、ダメージを与えるための一手だろう。

「(……()()()()()()()()()()()()())」

 ……でも、()()
 そうではない。そうではないのだ。
 これは、“陽動”でしかない……!

「ふっ!!」

   ―――“刀奥義・一閃-真髄-”

 神力を存分に込めた刀による矢は、生半可な攻撃では弾けない。
 だから、強力な一閃を守護者は放つ。
 ……だけど、それは悪手だ。

「っ!?」

 再度、彼女の目が見開かれる。
 驚愕半分、失敗半分と言った所か。表情から見て取れた。
 それも当然の事だ。何せ……。

     ィイイイン……!!

「ッ……!!」

   ―――“撃”

 弾いたはずの刀が反転、彼女の刀を弾き、私は懐に入っていたのだから。
 いくら神降し時の、専用の武器とはいえ、これも私が創造した武器。
 ならば、自由に操れるのも、当然の事だった。
 その特性を生かし、彼女の刀を弾く事で隙を作る。
 そして、そこへ神力の籠った掌底を当てた。

「か、はっ……!?」

「(まだっ!)」

 だけど、これで終わらない。終わるはずがない。
 この程度でやられる程度で、大門の守護者が務まるはずがない!

「シッ……!!」

「っ……!」

     ギィイイイイン!!

 一度体勢を崩した今が好機。
 浮かせておいた刀を手に取り、一閃を放つ。
 でも、その一撃は斧によって防がれた。

「ふっ!」

「くっ……!」

 攻撃を防いだ反動で、守護者はさらに後退する。
 体勢を立て直すために、御札を投げつけてくる。
 でも、それは私が放つ矢によって相殺される。

「っ、はぁっ!」

「く、ぐっ……!」

 間髪入れずに接近。
 それを阻止するように、霊力の込められた斧が投擲される。
 導王流で逸らし、刀をコントロール。守護者に槍で防がせる。
 長い柄の武器であれば、懐に入った私の方が有利……!

「ッ……!」

「なっ……!?」

   ―――導王流壱ノ型奥義“刹那”

 だが、やはり大門の守護者だけはあった。
 懐に入られた瞬間、彼女は武器を手放し、素手で私の攻撃をいなそうとした。
 ……でも、体術は私の方が上。そのいなそうとした動きを利用し、攻撃を叩き込む。

「(優勢な今の内に、一気に……っ!?)」

 カウンターで当てた掌底により、守護者は再び吹き飛ぶ。
 意表を突いた事によるこのラッシュ、無駄にはしたくない。
 その思いでさらに追撃しようとして……途轍もない悪寒に襲われた。

「くっ!!」

     ガィイイイイイン!!

 振り返りざまに導王流による受け流しを行う。
 すると、拳が飛んできた斧の軌道を逸らし、何とか無事に済んだ。

「(呼び戻し……!すぐに対処してくるんだから……!)」

 その斧は、先程投擲されたものだろう。
 そして、こうして彼女の下へ戻るように飛んできたのは、そういう術式だからだろう。
 ……私のさっきの行動を真似したのだろうか?

「(しまった……)」

 今の防御行動の間に、彼女は体勢を立て直してしまった。
 これで、私の有利はなくなって仕切り直しだ。

「やるね」

「っ……」

「だったら、これはどうかな?」

    ―――“速鳥-真髄-”
    ―――“扇技・神速-真髄-”
    ―――刻剣“聖紋印”
    ―――刻剣“呪紋印(じゅもんいん)

「ッ――――――」

 ……彼女の“圧力”が、増した。
 今までは武器を一つしか使わなかった。別々の武器を使っても、同時ではなかった。
 でも、今の彼女は違う。……()()()だった。

「くっ……!!」

     ギギギギギギギギギギィイン!!

 傍目から見れば、守護者は瞬間移動したかのように私の所へ現れただろう。
 それほどのスピードで、先程まで以上の剣速と手数で、私を襲う。
 導標と、神力を使った急造の刀、守護者と同じ速度強化で対処する。

「ッ……!!!」

     ギギギギィイン!!ギギギギギィイン!ギギギィイイン!!

 しっかりと創られた導標はともかく、急造ではすぐに折れる。
 だけど、導標のようにしっかり創る暇はない。
 折れて、創り直し、折れて、創り直す。その繰り返しだった。
 間合いを離す隙も、術で妨害する隙もない。

「くっ……!!」

「っ……!!」

 彼女は、ただ正面から斬りかかっている訳ではない。
 回り込むように、死角を突くように斬りかかっているのだ。
 さらに、その場から退こうとする私を止めるようにも動いている。

「厄、介、なぁ……!!」

「ふふ……!」

 その猛攻を前に、私は凌ぐ以外の手段を取れない。
 あまりに早く、あまりに鋭く、あまりに重い。
 どれか一つでもマシであれば、導王流で受け流せただろう。
 でも、そのどれもが私を上回る。

「ッ……!」

 このままでは、押し切られる。
 凌ぎつつ導王流を使う事で、蹴りを当てる。
 その間に武器を創造する……が、即座に間合いを詰められ、同じ状況に陥る。
 今度は刀を折られた手を懐に潜り込ませ、掌底を当てる。
 そして、間合いが離れた瞬間に術と魔法を放つ。
 けど、それは切り裂かれ、躱される。まるで無意味だ。

「(何か手は……)」

 いつもなら、例えこれほどの猛攻でも導王流が使える。
 むしろ、カモ扱いできる程だろう。
 だけど、それが出来ない。導王流が上手く通じない剣筋だからだ。

「これで……!」

「っ……!」

 導標が、大きく弾かれる。
 咄嗟に振るったもう片方の刀も、簡単に砕かれてしまう。
 手元に導標を呼び戻す事も、新たに刀を創造する事も間に合わない。

「終わ……ッ!!」

   ―――“呪黒剣”

 袈裟切りを喰らいそうになった瞬間、彼女の足元から黒い剣が生えた。
 彼女は咄嗟にそれを切り裂き、追撃の黒い剣も切り裂いた。

「ッ、はっ!!」

   ―――“撃”

「くっ……!」

 その隙を逃さず、神力を多く込めた衝撃波で吹き飛ばす。
 障壁で防がれたけど、これで間合いを離し、導標を手元に戻せた。

「……間一髪……だね」

「葵……!」

 先ほどの黒い剣……呪黒剣は、葵のものだった。
 “薔薇姫”との戦いは、終らせてきたのだろう。

「ふっ!!」

「っと!」

   ―――“撃”
   ―――“呪黒剣”

 連続で同じ技を繰り出す。
 すると、守護者は大人しく下がるように、呪黒剣を切り裂きつつ間合いを取った。
 ちなみに、神力による衝撃波は躱された。

「……神降ししても、敵わないの?」

「拮抗はしている……でも、一撃でも喰らえば詰みね」

「そっか……」

 短く状況を伝える。
 私が劣勢なのも、戦いを見ていたのなら分かるだろう。

「……援護お願い」

「了解。あたしのやれる限りをやるよ」

 既に私はだいぶ草祖草野姫に存在を寄せている。
 “優輝”と言う自我は残っているものの、ほとんど“椿”と同じだ。
 ……それだけ、神に寄せているというのに、倒しきれない。

「(でも、一人じゃなく、二人なら……!)」

 葵では、彼女の攻撃は受けきれないだろう。
 でも、一人味方が増えるだけで戦況は変わる。
 ……どう変わるかは、私達次第だけど……!

「はぁっ!!」

「っ、そっちから来るんだ……!」

     ギギギギギギギィイイン!!

 こちらから斬りかかる。
 例え、私から行った所で、さっきまでと同じだ。
 だから、どっちが先攻だろうと、関係はない。……ないけど……。

「あたしもいるよ!!」

   ―――“呪黒剣”

 そこへ、葵の妨害が入る。
 “(椿)”の動きをよく知るからこその、援護だ。
 これで、状況は好転する……!

「っ、っ!」

「ッ、ふっ!!」

     ドンッ!!

 一対一だから、導王流を差し込む隙がなかった。
 でも、葵が少しでも意識を逸らしてくれれば、こうして掌底を当てられる。

「かっ……!?」

「やぁっ!!」

「はっ!」

 レイピアが飛んできて、守護者の動きを妨害する。
 しかし、それは障壁で阻まれ……転移して私が叩き割る。

「(このまま押し切る!)」

 たった一人、味方が増えるだけでこちらが優勢になった。
 でも、戦闘前にクロノと言っていた通り、動きについてこれないといけない。
 実際、葵は戦闘の余波だけでどんどん傷が付いている。
 さらには、衝撃波を必死に避けている状態だ。
 ……“(椿)”の動きをよく知っていなければ、既に死んでいただろう。

「っ、ぁあっ!!」

「か、はっ……!?」

   ―――“戦技・金剛撃-真髄-”

 神力の籠った、渾身の一撃がついに決まった。
 葵の妨害と、導標の投擲による隙を突き、ようやく大ダメージを与えた。
 ……でも、これで終わりじゃない。

「『葵!ありったけのバインドを!!』」

「『了解!』」

 吹き飛んだ先へ大量のバインドを設置。
 さらに、地面に縫い付けるように、創造した剣と導標を四肢に突き刺す。
 これで、“結果”に“導く”導標の効果も十二分に発揮する。

「(千載一遇のチャンス!これを逃す訳にはいかない!!)」

 葵が霊術でさらに拘束を強める。
 ……これで、決める……!

「一歩、無間」

     ドッ!

 吹き飛ばした事で離れていた間合いを、一気に詰める。
 ……彼女を拘束していたバインドが、彼女の持つ瘴気で蝕まれ、全て破壊された。

「二歩、震脚」

     ズンッ……!

 脚に込められた神力によって、大地が揺れる。
 ……霊術による拘束が破壊され、葵が弾かれるように仰け反った。

「三歩、穿通!!」

 同時に、四肢に刺さる武器の内、創造したものが破壊された。
 これで、ほぼ拘束はなくなった。

「(だけど、遅い!!)」

 既に間合いの内。
 おまけに、導標は未だに脚に刺さり続けている。
 その場から動く事は不可能。一手、遅い……!!

「ッ――――――!!!」

   ―――導王流弐ノ型奥義“終極”













   ―――戦いを終わらせる一撃が、放たれた。



















 
 

 
後書き
戦技・迅駆…突属性による二回攻撃。素早さによる防御無視ダメージが大きい。素早く駆け、二回の突きを放つ技。攻撃をさせないように潰すのに使う。

Mitnahme(ミットナーム)…“同調”のドイツ語。この魔法は、基点となる対象(今回は瞬矢に使った矢)に他のものを同調させると言う効果を持つ。今回の場合は速度を同調させ、矢と同じスピードで破片を飛ばした。

呪紋印…呪属性を付与し、強化するスキル。本編では、闇を纏わせ、斬りつけた相手に軽い呪いを与える。


現在の優輝はだいぶ椿……と言うより、本体の草祖草野姫に引っ張られています。他の人間であれば、既に魂が草祖草野姫に塗りつぶされている状態です。
そんな、ほぼ神の状態になっても勝てないとこよ。神を殺した経験と、幽世の大門の守護者の名は伊達じゃない……。 
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