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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第5章:幽世と魔導師
  第151話「激闘の一方で」

 
前書き
優輝が戦闘している最中、葵や司、他の面子はどうしているのかと言う話です。
この戦闘で色々影響が出るので……。
 

 






       =out side=







「っ……なんて、速さだ……」

 アースラにて、優輝の戦闘を観測していたクロノが思わず呟く。
 そしてそれは、同じく映像を見ている者全員が思っている事でもあった。

「(確かに、こんな戦闘に介入できるはずがない。次元が違いすぎる。見ている限り、音速以上が普通の世界じゃないか……!)」

 優輝や椿達の言葉を疑っていた訳ではないが、それでもクロノは思っていた。
 “自分達でも戦えるのではないか?”と。
 だが、この戦闘を見てそんな考えは吹き飛ばされた。
 優輝が言った通り、身体強化を極限まで施した司ぐらいでないと介入できないからだ。

「クロノ君、指示通り、皆には偽物の心配はもうないと伝えておいたよ。でも……」

「油断はするな、とは伝えたのだろう?なら、それでいい」

 サーチャーの映像から目を離さず、エイミィの言葉に返事する。
 クロノ達にとって、なぜ葵以外の式姫の偽物がいないと断言できるか分からない。
 優輝が確信を持って発言をしていたから、その通りに伝えただけだ。
 だが、この状況でそんな決めつけをする程、優輝が浅慮ではない事をクロノは知っていたため、その言葉を信じて他の式姫たちに伝えるように指示したのだ。

「……凄いね」

「ああ。お互い、睨み合う時間を作る暇を与えていない。あそこまで息を付かない戦闘は、僕にもできない。あれじゃ、バインドでも捉えられないだろうな」

「援護は不可能って事かぁ……」

 どの道、守護者は体から漏れ出る程の瘴気を纏っている。
 そんな相手にバインド程度の魔法を当てた所で、すぐに打ち消されてしまう。
 よって、援護すらできない状態であった。

「何とか出来るとしたら、こっちだな」

「葵ちゃんと司ちゃんの方……だね」

 別のサーチャーの映像を出す。
 そこには、偽物と戦っている葵と、巨大な龍の前に佇む司が映されていた。

「葵は援護できそうだが、司の方は……」

「無理、みたいだね……」

 葵は拮抗した戦いだが、司はもう援護する事ができそうになかった。
 優輝と守護者の戦いの余波によって、龍が目覚めてしまったからだ。

「あはは……魔力計測器が振り切れちゃってる。あそこの人達大丈夫かなぁ……」

「ジュエルシードを全て使っているからな……」

 映像に映るのは、途轍もない魔力を溢れさせる司の姿。
 映像越しだからわからないが、目の前の龍の強さを、司は理解していたのだ。
 だからこそ、最初から全力で戦うつもりだった。

「……くそっ、失念していたな……」

「あの戦いの影響下じゃ、避難もままならないよ……!」

「転移魔法は……っ、座標が定まらない!」

 現在、東京に避難している人達は、優輝と司が行っている戦闘に挟まれている状態だ。魔力や霊力が吹き荒れる中では、転移魔法の座標を定める事は不可能だった。
 また、離れた所に転移して助けに行こうにも、二つの戦いの中を往復するのは、命がいくつあっても足りない。
 よって、東京に避難している人達を保護する事は出来なかった。

「……優輝と司を信じよう。あの二人なら、被害を出さないようにと考えるはずだ。……無理させるかもしれないがな」

「……そうだね」

 どうしようもないなら、別の事をするしかない。
 そう考え、クロノは葵が映る映像に目を向けた所で……。

『大変です!』

「っ、どうした?」

『京都の大門がある位置から、大量の妖が……!明らかに現地の戦力では凌ぎきれません!』

「なっ……!?」

 守護者は元々その大門を守る立場だ。
 その守護者が膨大な霊力を用いて戦闘を行っている。
 そのため、影響が大門に強く現れ、大量の妖を生み出していた。

『今こうしている間にも、街に……!』

「くっ……どれぐらいの戦力が必要だ!?」

『わかりません!少なくとも、現地の者では抵抗すら……!』

 サーチャーによって、映像が出される。
 そこには、大門がある位置から、まるで雪崩のように妖が出ている様子が映されていた。

「ッ……!!『現在待機している全員に告ぐ!!急いで京都に向かえ!!大門からの妖が溢れかえっている!!なんとしてでも抑え込め!!』」

 その映像を見て、クロノは即座に待機しているなのは達含む戦闘部隊に指示する。
 映像と、念話による報告から、戦力を増強しなければならないと判断したからだ。

「他の地域は大丈夫か?」

『こちら九州地方。門を閉じたにしては若干妖が残っていますが、影響はありません』

『こちら四国地方。同じく、影響はないようです』

『こちら中国地方―――』

 九州にいる光輝からの念話に続き、その後も京都と東京周辺以外は影響がないと、クロノは報告を受ける。
 ちなみに、東京周辺の様子は、優輝達が戦っているため、確認しようにもできない状況なので、報告がない。

「……大門だけ、か……」

 影響を受けているのが京都の大門だけだと分かり、ひとまず安心するクロノ。
 しかし、すぐに気を引き締めて、状況を分析する。

「(タイミングと、京都だけと言う点から見て、これは優輝と大門の守護者の戦い……正しくは、守護者が力を振るっている事による影響か……)」

 霊術などにあまり詳しくないクロノだが、状況やタイミングで、なぜ妖が溢れかえっているかは予想出来た。
 だからこそ、先程咄嗟になのは達を向かわせたのだ。

「……式姫の人達はそのまま周囲の警戒を頼もう。影響が京都だけならいいが、そうとは言い切れないからな」

「く、クロノ君……?どこに……」

「僕も現場に向かう。あの量の妖だ。混戦になるだろうし、戦力も指揮も必要だ。……エイミィ、アースラの方は任せた」

「っ、りょ、了解……!」

 こういう場合においての、クロノの判断は間違った事がない。
 そのため、深く問わずにエイミィはクロノの指示に従った。
 そのまま、クロノは出撃の許可を貰ってから現場へと向かった。





「……ここが正念場かぁ……」

 サーチャーから送られてくる映像から決して目を逸らさず、エイミィは呟く。
 すると、ふと一つの魔力反応を捉える。

「ん?この魔力反応って……」

 その魔力反応は、未知ではない……つまり、一度観測した事のある魔力だった。
 観測記録から、何の魔力反応か検索し……。

「……嘘、この魔力反応って……」

 驚き、固まるエイミィ。そうなるほど、その魔力反応は信じられなかった。

「っ、誤差なく完璧に一致……!?偽物の可能性もない!?嘘!?」

 何度確かめても、結果は“完全一致”。
 それでもなお、そこにいるはずのない存在が、サーチャーに映っていた。



















       =葵side=





「ふっ!!」

 一息の下に、一気に突きを放つ。
 けど、それは蝙蝠になる事で躱されてしまう。

「ッ……!」

     ギギギギギィイイン!!

 そして、死角を突くように、姿を戻してレイピアで突いてくる。
 あたしは、それを何とか相殺する。

「っ、はっ!」

 だけど、どうやら力ではあたしは負けているらしく、押されてしまう。
 そこで空へと逃げ、レイピアを作り出して射出する。

「空中戦ならあたしの方が……!」

 と、そこまで言った所で気づく。
 “そんなはずがない”と。

「っ……!」

 跳躍し、霊力を足場に反転。レイピアが振り下ろされる。
 それを横に避けると、即座に斬撃を飛ばしてきた。

「(やっぱり……!)」

 レイピアでその斬撃を防ぎつつ、蝙蝠に変化。
 斬撃の軌道からずれて、元に戻る。

「(……強さは、全盛期のあたしに近いかな……?)」

 あたしと同じ姿をした相手の正体は、実際に剣を交えて理解した。
 これは、“あたし自身”だと。
 あたしはユニゾンデバイスになる時、式姫として一度死んだ。
 でも、デバイスとして“薔薇姫”と言う存在は生きたまま。
 ……そうなると、“式姫としてのあたし”はどうなるのか。

「(……その結果が、これかぁ……)」

 結論から言えば、正しく幽世の還る事が出来ない。
 そして、大門が開かれた事で、残っていた“薔薇姫”と言う器に、妖としての霊力が注がれる事になってしまう。
 そうなれば、もはや目の前にいるあたしは、“薔薇姫”と言う式姫ではなく、妖と言う存在となってしまう。

「まったく、今になって出てきてこないでほしかったね……!」

 幽世に還れなかった、“式姫としてのあたし”の体。
 それは、大門が開かれるまで実体を持っていなかったのだろうけど……。
 こうなると分かっていれば、器を探していたんだけどなぁ……。

「(なってしまったのは、仕方ない。とにかく……)」

「―――――」

「(倒さないと……!)」

 蝙蝠になって、その場から離脱。
 すると、寸前までいた場所を、黒い剣がいくつも現れて貫く。
 あたしの得意技、“呪黒剣”だ。

「っ、ぁあっ!!」

 魔力弾を放ち、牽制する。
 同時に、上から斬りかかる。

「くっ……!逃がさない!」

 だけど、それらの攻撃は蝙蝠に変化する事で避けられる。
 そこを生成したレイピアを射出して狙う。

「はぁっ!」

 レイピアすら蝙蝠状態で避けられる。
 だけど、直接斬りかかる事で何羽か切り裂く事に成功する。

「……大したダメージはない……か」

「………」

 元に戻った相手……“薔薇姫”は、腕が少し切り裂かれていた。
 先ほど蝙蝠を斬った影響だろう。
 ……でも、それはすぐに治ってしまう。吸血鬼だからね。

「……我ながら、厄介だなぁ……」

 力を失っていた時ならともかく、万全のあたしは生存能力が高い。
 蝙蝠になれば自身の狙っていた攻撃は避けられるし、再生能力もある。
 一気に消し去るような、広範囲技でない限り、あたしをすぐに倒す事は出来ない。

「………」

「………」

 “薔薇姫”は、喋らない。
 妖の中には喋る者もいるし、大門の守護者……とこよちゃんも喋る。
 基本的に、人型は喋る場合が多い。
 それなのに喋らないのは、“あたし”と言う自我がこっちにあるからか、妖として変質した際に喋れなくなったか、それとも……。

     ッ、ギィイイイイイイイイイイン!!!

「っ……!!」

「……!!」

 一際大きな音が、聞こえてくる。
 優ちゃんと、とこよちゃんの刀がぶつかり合った音だ。
 それを合図に、地面に降り立ったあたしと“薔薇姫”はぶつかり合う。

「ふっ……!」

「ッ……!」

   ―――“闇撃”
   ―――“闇撃”

 レイピアを幾度もぶつけ合い、同時に霊術を放つ。
 闇色のそれは、相殺され、一進一退……いや、若干あたしが押される。

「(やっぱり、基礎的な力は上……!)」

 いくら妖に変質し、本来のあたしではないとしても、その力は全盛期のまま。
 ……正攻法じゃ、どうやってもあたしは勝てない。

「(でも、だったら魔法を使うだけ!!)」

 あたしの力は確かに全盛期には劣る。
 でも、その代わりに今は魔法がある。レイピアを生成する特殊能力がある。
 そして、優ちゃんに教わった魔法や霊術の応用法もある。
 ……それらがあれば、決して負ける相手じゃない……!

「はぁっ!」

「っ……!」

 レイピア同士が大きく弾かれる。
 その瞬間を逃さずに砲撃魔法を放つ。
 “薔薇姫”がかつてのあたしであるならば、これは避けるか耐えるしかない。
 そして、予想通り“薔薇姫”は避けた。

「そこぉ!!」

 避けた所へレイピアと呪黒剣を繰り出す。
 さらにそれを回避される前に、あたし自身も斬りかかる。
 これで普通に回避する事は不可能。だから……!

「今っ!!」

 “薔薇姫”は、蝙蝠になる事で回避するはず。
 そこを狙い、あたしは魔力を薙ぎ払った。
 一応射撃魔法に分類されるその魔法は、近距離を扇状に攻撃する事ができる。
 つまり、蝙蝠になったばかりの“薔薇姫”には、効果的だ。

「ッ―――!?」

「さて……」

 もちろん、これで終わるとは思っていない。
 力を失っている時ならいざ知らず、全盛期の体なら……。

「っ……!」

 ……これで、倒れるはずがない。
 当然ながら、無傷と言う訳でもない。
 元の姿に戻っても、その姿はボロボロになっていた。

「……それに、ここからが本番って事だね」

 このままであれば、あたしが普通に勝てただろう。
 でも、そんなに上手く事が運ぶ訳がなかった。

「……瘴気。まぁ、妖に変質している時点で察していたけど」

 妖と化したのなら、全盛期のあたしのそのままな訳がない。
 確実に何かしらの力を得ているだろう。
 “薔薇姫”が纏うその瘴気が、それを物語っていた。

「っ……!」

 即座にその場から横に飛び退く。
 すると、寸前までいた場所を黒い靄が通り抜けていた。

「なるほど、遠距離攻撃……だけじゃない……!」

 すぐさまレイピアを振るい、“薔薇姫”の攻撃を受け止める。
 “薔薇姫”の持つレイピアは、あたしのと違って瘴気を纏っていた。

「っ!?くっ……!」

「……!」

     ギギギギィイン!!

 鍔迫り合いになったレイピアは、瘴気に浸食されてしまう。
 使い物にならないと判断して、咄嗟に後ろに飛び退く。
 同時にレイピアを生成。牽制として一気にぶつけるも、弾かれる。

「厄介なぁ!?」

 近接戦をすれば、瘴気に武器が蝕まれる。
 かと言って、遠距離自体があたしはあまり得意じゃないし、“薔薇姫”も遠距離攻撃を手に入れた事からアドバンテージがある訳でもない。
 そして、自力では相手の方が上。
 ……面倒な事この上ないね……!

「(浸食されたレイピアは、形を保つ事が出来ずに崩れる……それなら、魔力や霊力で補強しておけば、しばらくの打ち合いは耐えきれるね)」

 飛び退く際に手放したレイピアは、そのまま瘴気に浸食されて崩れていった。
 確かに厄介だけど、すぐに浸食されて壊れる訳じゃない。
 それなら、まだやり様はあった。

「はぁあああっ!!」

「……!」

 全力て身体強化を施し、一気に攻め立てる。
 いきなりの猛攻に、“薔薇姫”も若干怯んだようだ。
 そのまま近接戦に持ち込み、浸食で崩壊するレイピアを捨てつつ戦う。
 少しでも大きく弾かれれば、レイピアを射出して牽制する。
 同時に死角に回り込むように移動し、突きを放つ。
 蝙蝠化で躱されようと、構わない。魔力を放出して撃ち落とす。

「(魔力は魔力結晶で余裕がある。その余裕があるうちに、片を付ける!)」

 長期戦になれば、不利になるのはあたしの方だ。
 だったら、優ちゃんとの戦いで得た、導王流の戦い方を使って、一気に攻める。
 全ての攻撃とはいかなくても、一部の攻撃を適格に捌く事が出来た。
 おまけに、隙も大きく作る事ができる。

「はっ!!」

「っ……!?」

   ―――“神撃”

 導王流もどきの動きで、レイピアを大きく弾く事に成功する。
 その瞬間に、一度あたしはレイピアを手放す。
 そして、懐に入り込み、蝙蝠になって逃げられる前に、霊術を叩き込んだ。
 しかも、その霊術は使うのは苦手とはいえ、あたしのような吸血鬼や、瘴気などには効果的な聖属性の霊術。
 つまりは、今の“薔薇姫”にはこの上なく効果的な霊術だ。

「っ……!」

「今……!“霊縛陣(れいばくじん)”!」

 思わぬ大打撃に、膝を付く“薔薇姫”。
 その隙に蝙蝠化して逃げられないように陣で拘束する。
 使った霊力の指向性は、もちろん聖属性。扱うのが苦手でも、この方が効果的だ。

「これで、終わり……!」

   ―――“Silver Bullet(シルバーブレット)

 一つの魔力弾を生成し、それを膨れ上がらせる。
 そして、砲撃魔法として、その魔力を放出。
 “薔薇姫”を、光を秘めた闇色の極光が呑み込んだ。

「……倒した……かな」

 姿はもう見えない。周囲から魔力も霊力も感じられない。
 ……うん、倒しせたはずだね。

「よし、出来れば優ちゃんの援護に……」

 “向かおうか”。そう思った瞬間に、大きな力が移動していく。
 それは、もちろんと言うべきか、優ちゃんととこよちゃんだった。
 物凄いスピードで移動しながら戦闘をしているみたいだ。

「って、急がないと追いつけない……!」

 慌ててあたしは二人を追いかけた。
 どう役に立てるかは考えてないけど、いざとなったらユニゾンでもして助ける。
 余波に巻き込まれないように気を付けつつ、あたしは飛び立った。















「………」

 ……瘴気を纏った蝙蝠が、何羽もそこにいた事に、気づく事なく。

























       =司side=





「っ……!」

 数キロ後方で、大きな音が聞こえる。
 優輝君と、大門の守護者がぶつかり合ったのだろう。
 だけど、私はそれを気にする事は出来ない。
 私には私のやるべき事があるのだから。

「あれが……!」

 襲い来る空中の妖を蹴散らしつつ、巨大な龍を視界に入れる。
 サーチャーや記録映像で少しだけ見た、各地の龍神程の大きさだ。

「(……皆、混乱に陥ってる……)」

 龍の付近の場所には、もう誰もいない。
 避難場所らしき建物だった所にも、誰もいなかった。
 ……当然だよね。誰だって、一般人ならあれから離れようとする。

「封印は……」

〈……ダメみたいですね〉

 見れば、既に龍は目覚めていた。
 今封印しようとしても、打ち消されるだろう。

「(それに……)」

 聴覚強化して、後方の様子を探れば、慌てた声がが聞こえた。
 龍が動き出した事に、住民も気づいたのだろう。

「(先手必勝!)」

Libération(リベラシオン)

 相手が動く前に、特大の攻撃を叩き込む。
 そう判断した私は、ジュエルシードを活性化させる。

「(結界展開で被害をゼロに、そして天巫女の魔法を……!)」

〈“Sacré lueur de sétoiles(サクレ・リュエール・デ・ゼトワール)”〉

「叩き込む!!」

 結界が私と龍を隔離する。
 そして、ジュエルシードが集まって魔法陣を展開。
 先手で放てる魔法で最大威力の砲撃を叩き込む。

「(いくらなんでもアンラ・マンユに匹敵するはずはない!なら、例え耐えられたとしてもこれで……!)」

 海坊主の時は、余裕から油断していた。
 だけど、今回は違う。
 優輝君の手助けになるためにも、慢心も油断もせずに一気に倒す。
 その方が被害も少なく済むし、時間も短い。

「……え……?」

「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!」

   ―――“滅獄炎(めつごくえん)

 けど、その砲撃は減衰させられた。
 霊力を伴った咆哮に加え、焔を集束させて相殺に持ち込んできた。
 当然、溜めが少なかったとはいえ、全力で放った砲撃だ。
 相殺なんてことにはならなかった。けど、威力は半減させられた。
 ……こうなれば、当然の如く耐えられてしまう。

「(一足遅かった……!)」

 これなら、威力をもう少し弱めてでも早く放つべきだった。
 しかも、今のぶつかり合いで折角張った結界は破られてしまった。

「っ……!」

   ―――“バリエラ”

 咄嗟に、ジュエルシードを三個使い、障壁を三枚張る。
 そこへ龍の尾が叩きつけられた。

「っぁっ!?」

 攻撃自体は防御出来た。しかし、霊力を伴った衝撃波は別だった。
 ダメージ自体は少ないものの、私は大きく吹き飛ばされる。
 何百メートルも一気に吹き飛ばされ、地面に着地する。
 幸い、建物に激突する事はなかったけど……。

「しまっ……!?」

 そこは、どこかの学校だった。
 学校は、よく広域避難所に選ばれやすい。
 ……つまり、ここも例外ではなかった。

「っっ……!!」

 周りを見れば、パニックになって逃げだそうとしている人達がいた。
 当然だ。……龍は私を追いかけてここに急接近しているのだから。

「シュライン!!ジュエルシード!!」

〈全力で防ぎます!!〉

 結界で隔離している余裕はない。
 咄嗟に張った結界では、魔力を僅かにでも持っている人達は巻き込まれてしまう。
 だから、私が防ぐしかない。

「ぁあああああああああああああああ!!!」

   ―――“Avalon(アヴァロン)

 空へと飛び立つ。そして、防御のための魔法を発動させる。
 向かう先は、龍。それが振るう巨大な尾。
 先ほど私を吹き飛ばしたのよりも強力な一撃が、ここへ叩き込まれようとしていた。
 ……でも、そんな事は……!

「させ、ないっ!!!」

     ドンッッッ!!!

 巨大な魔法陣が展開され、その上に青と黄金を基調とした模様の鞘が出現する。
 そこに尾は叩きつけられ、拮抗する。

「っっつぅううううう……!!」

 魔法陣で足場を作り、踏ん張る。
 守る範囲を広くしたため、楽に受け止められない。

「あ、あれは!?」

「防いでいる……のか?」

 下にいる何人かが、私に気づく。
 まずい。早く次の判断をしないと。

「(守りながら戦う……一応、可能だけど守り切れるとは限らない。じゃあ、隔離?でも、それだと結界に巻き込まれる可能性がある)」

 この一撃は被害を出さずに防げるだろう。
 範囲を広くしたおかげで、衝撃波も防いでいる。
 でも、その後は護り切れるとは限らない。
 結界で隔離しようにも、即席で張る結界では巻き込んでしまう可能性がある。
 そして、即席ではない結界は、この龍相手に張る暇はない。

「(外に取り残される事はないけど、巻き込む可能性は……あれ?)」

 結界以外で守り切れるとは限らないと考えていて、ふと気づく。
 結界は、巻き込む事はあっても取り残す事は抵抗がない限り滅多にない。
 つまり、一般人しかいないこの学校では、取り残す事はない。

「(……そうだ。逆に考えればよかったんだ。私と龍だけを隔離できないのなら、逆に私と龍以外を隔離すれば……!)」

 除外する相手は私と龍だけ。対象が二つだけなら結界内に巻き込む事もない。
 そして、そんな簡単な条件なら即座に結界が張れる!

「シュライン!!」

〈はい!〉

 私の意図を汲み取ったシュラインが、ジュエルシードを使って結界を展開する。
 途端に、私を中心に半径五キロにいる人達が全員消える。
 これなら……!

「(結界内の人達は、後で転移させれば、建物の崩壊には巻き込まれない。後は、この龍を倒すだけ……!!)」

 結界内からならともかく、結界外から結界に干渉される事はない。
 龍にその手段があったとしても、流れ弾程度では破られないだろう。
 唯一、霊術に破られにくいのが、結界だからね。……結界外と言う条件付きだけど。

「(それに、おまけだよ!)」

 さらに、その上から結界で現実から私と龍を隔離する。
 結界の術式を上手く組めば、二つあっても干渉し合う事はない。
 これで、完全に一般人達は安全になった。
 周囲の建物も、そのまま戦うよりはマシだろう。

「さて……」

「…………」

 尾の一撃は、既に凌ぎきった。
 再び私と龍は対峙する事になり……。

「オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

「っっっ!!」

 私と龍は、互いに攻撃をぶつけ合った。















 
 

 
後書き
“薔薇姫”…葵がユニゾンデバイスになる際、幽世に還ろうとして還れなかった葵の式姫としての肉体。そこに大門が開いた事による影響で、瘴気などが入り込み、妖と化した。霊力(瘴気)が詰まっているので、肉体そのものは全盛期。しかも、瘴気による攻撃も扱う。

霊縛陣…文字通り霊力で拘束する陣。シンプルだが、色々応用できる。

Silver Bullet(シルバーブレット)…“銀の弾丸”。本来は単発射撃魔法に分類されるが、可変式となっており、今回は砲撃魔法として運用した。再生能力が高かったり、化け物染みた相手に有効。由来はもちろん、魔除けや化け物退治で使われる銀の弾丸から。

Libération(リベラシオン)…“解放”のフランス語。所謂全力解放的な起動ワード。

滅獄炎…封印されし龍が瀕死になってから使う技。トンデモ威力の全体攻撃。しかも、今回は司の砲撃に合わせて、集中砲火している。


葵が“薔薇姫”の瘴気を見た時、本番と言った割りにはあっさりついた決着。まぁ、実力的に格上の相手に長期戦なんてやってられませんからね。だからこその短期決着です。
龍に関してですが、最初に放った砲撃が直撃していれば耐えられはしますが、司が圧倒的差で倒せます。しかし、半減されてしまったので少しばかり長期戦に。まぁ、とこよよりは弱いので司なら余裕です。時間はかかりますが。 
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