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ソードアート・オンライン~剣と槍のファンタジア~

作者:白泉
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ソードアート・オンライン~剣の世界~
2章 生き様
  14話 単独行動其の一~ツカサ編~

 
前書き
 どうも、白泉です!いやはや、最近随分暖かくなってきましたね~!そして、新学期も始まり、クラス替えも。柳南とは違うクラスになり、かなり寂しい思いをしております…!!まあ、同じ部活の人がいるので、ボッチにはならないのですが。いやぁ、こう見えても僕指折りのボッチ体質なのですよ。気づいたらなぜか一人になってるんですwでも、ここまで来ると慣れてしまって、小説さえあればもうどうでもよくなってしまうんですけどねw

 さてさて、僕の近況はさておき、今回は単独行動ツカサ編です!これは柳南の熱ーいリクエストなのです!本人曰く、「リアちゃんとツカサはいつでも2人だから、たまには単独行動が見たい!」らしいです。

 いつもは無口なツカサ君なので、今回はバリバリ活躍させちゃいたいと思います!さあ、どんなふうになっているのか、では、どうぞ! 

 
「はぁ…」

 ツカサは何度目かわからない溜息を吐いた。

 壁を流れていたマグマもなくなり、気温としては少し暑いが割合過ごしやすい温度になって、思考力もだいぶ回復したのはありがたいのだが…

「なんで急に単独行動にしようなんて言い出したんだ…?」

 そう。ツカサの憂鬱の原因はこれである。この状況のせいで、ツカサは何度も溜息を吐かなくてはいけないのだ。



 正直、リアが単独行動をしようと言い出した時、最初は反対しようと思った。だが、まるで一人は怖いといっているようで、さすがにそれは男のプライドが許さなかったのである。

 




 この2人の戦闘スタイルの最大の特徴は、コンビをいつでも組んでいても、スイッチを行わない、ということだ。通常、2人以上のコンビかパーティーを組んだ場合、ほとんどの場合、一人がソードスキルで相手の攻撃をパリィし、スキル後硬直している間に、もう一人が飛び込む、といった戦闘法をとる。

 こうすれば、体制が崩れても立て直せるし、回復も容易になる。ずっと使われている優秀な戦闘法だ。


 一方、リアとツカサの場合、もしモンスターが1体ポップしたら、どちらか一方が一人で相手をし、2体出た場合は、それぞれ一体ずつ、3体出たら、先に最初の1体を倒したほうがもう1体をしとめる、といった具合に、一人につき1体つくようになっている。そのため、一切スイッチなどはしない。


 なぜこんな戦闘法をとっているかといえば、1つはツカサの武器が関係している。ツカサの武器は、槍の中でも、“大身槍”というカテゴリーに入る槍である。大身槍の最大の特徴としては、槍身が非常に長いことだ。ツカサの愛槍“リカントヴェンデッタ”は、槍身が1m30㎝と、非常に長い。そのため、コンビでスイッチを使用して戦うには少々不便なのだ。

 そして、1番の理由としては、ただ単に、スイッチがないほうが効率がいいからだろう。ちまちまとスイッチをして、少しずつ敵のHPを削るよりも、一人でバンバン攻撃を叩き込んだほうが早い。





 なぜこんなことを長々説明したかといえば、ツカサは単独“戦闘”には非常に慣れている、ということを知ってほしかったのである。







 では、ツカサが単独”行動”を躊躇したのか。













 それは、ツカサのスキルの問題だ。


 ツカサの索敵スキルの熟練度は427。このレベルのダンジョンでは、何の役にも立たない熟練度である。そして、隠蔽スキルに至ってはとっていない。単独行動には必須とされているこの2つをツカサは持っていないのである。


 限られたスキルスロットのうち、3つは生産スキルで埋まり、そのほかはバトルスキルで埋まっているツカサには、そのどれかのスキルを捨てて隠蔽スキルと入れる余裕はないし、最大の要因は、2つのスキル両方ともをマスターしているリアがいつでも一緒にいたからである。


 2人でスキルを補い合うようにセットしているため、どちらかがいないと、お互いが困る。一番2人に当てはまっているのは、「2人で1つ」。お互い、そのことをよくわかっていると思ったのだが。







 いくらツカサが懸命に考えても答えはでない。信じられないほど長く、そして死と隣り合わせの時間を共に過ごしてきただけに、言葉にするよりも察するほうが多くのことがわかる間柄ではあるが、それでも言葉にしなければわからないことはある。まさに、これはいい例だ。



「またあとで聞くべきか…おっと!」

 後ろからかすかな、何かが羽ばたく音がして、ツカサが横に飛ぶと、先ほどまでツカサが歩いていた直線状に、黒い、人の頭よりも二回りほど大きな物体がかなりのスピードで通り過ぎる。その脚にある鉤爪は、しっかりと立てられ、前に突き出されていて、まさに獲物を捕らえんとする体制だ。

 ツカサは息を吐きながら、愛槍を構えた。


「これだから索敵スキルは重要なんだよな。リアがまた同じことを言う前に、今度から真面目にレベル上げするか…」


 奇襲攻撃さえよければ、その鳥形モンスターに勝ち目はない。その身は、あっさりとリカントヴェンデッタの餌食となった。






 




 たまに奇襲攻撃は受けながらも、それでも湧き出てくるモンスターたちをなぎ倒しながら歩くこと30分ほど。今まで直線だった道は、上へと続く螺旋階段に変わっている。といっても、かなりの横幅と高さはある。


 この層の地下へと降りてきたのだから、帰りは昇るのが当然だろう。だが、ここに来た理由は、依頼されているインゴットを、フィールドボスを倒して手に入れること。無事に地上に戻ることが目的ではない。このままダンジョンを抜けてしまうとしたら、ボスはリアの行った道にいることになる。となれば、引き返すべきか。いや、きちんと最後まで確認のために上ろう。

 
 そんなことを考えながら階段を昇るツカサの目に、一つのものが目に留まった。それは、螺旋階段の壁に彫り込まれた彫刻のようなものである。その絵柄に、見覚えがありすぎて、ツカサは思わずつぶやいた。

「…ボス部屋の奥の階段の絵によく似てる…」

 ほぼ毎回といっていいほど、あの階段を通ってきた。あそこの壁には、次の層を現すモチーフなどが精巧に彫り込まれており、それを見れば、たいがいどんな層かがわかる。


 つまり、この階段に、同じようなものがあるということは…

「この先に、ボスがいるってことか」


 恐らく、この予想は間違っていないだろう。


 引き返し、リアを呼んでくる…という選択肢は、ない。引き返し、さらにリアの進んだ分を歩き、またここに戻ってくるのは、効率が悪すぎる。恐らく、ここでの正解は、自分一人でボスを倒すこと。あの分かれ道で別れたとき、リアもそう思っていただろう。


 ツカサは目の前の彫刻に意識を戻した。
 まず、はじめに描かれていたのは、巨大な狼のようなモンスターと、剣や槍を構えた戦士たちが対峙している場面。

 次に戦士が狼を囲む。そして戦士たちは攻撃を開始し、狼の体からは血があちこちから吹き出し始めた。それでも、数人の戦士を吹き飛ばすが、自らが受けるダメージのほうが大きいことが見て取れる。そろそろ狼も倒れるのかと思いきや。


「…え?」



 次の場面では、武器は折れ、戦士たち全員が蹴散らされ、宙を舞っていた。そして、最後には、血を流しながらも、その場に堂々と立っているのは、狼のほうだった。

「…過程がない」


 狼が弱って、そして戦士が破れている場面の間に、過程が一切ない。その狼がどんな攻撃を使ってくるのかが何もない。


「つまり、まとめると、狼型のモンスターで、最後の最後に何か奥の手を使ってくるということしかわからないってことか」


 これだけの量の彫刻があるくせに、結局わかったのはその2つだけ。だが、されど2つだ。狼型というのは、見ればすぐわかるが、奥の手があると知っていれば、それに警戒することもできる。


 
 その彫刻が終わった先には、石造りの大きな扉がそびえ立っている。

「…行くか」

 ツカサはそうつぶやき、その扉を押し開いた。








 中の様子は、ボス部屋とそうそう変わらないが、奥行きがかなり狭いように感じる。5、60メートルぐらいだろうか。

 薄暗い部屋に、奥に向かって松明が数を増やしていくのは見慣れた光景だ。そして、徐々に浮かび上がるシルエット。


 

 まず、ツカサが思ったのは「でかい」だった。今までも巨大な動物の形をしたモンスターと散々戦ってきたのだが、ここまで大きいのは初めてだった。その体の大きさは、普通の一軒家2つ分ぐらいで、見上げ続けるだけで首が痛くなりそうだ(この世界で痛みは感じないが)。背中は艶やかな灰色、腹のほうは、まぶしいぐらいの白。足には金の輪に翡翠の飾りが付いたものをはめていて、頭には同じく金色に翡翠の頭飾り。
 


 固有名“エンペラー・オブ・ティバインウルフ”。


 いかにもその名にふさわしい容姿である。まさに皇帝、まさに神の化身のようだった。



 
 



 最後の松明に火が付き、その体がすべて明かりに照らされるが、ティバインウルフも、そしてツカサも槍を構えたまま動かない。



 どこからか柔らかい風が吹き、ティバインウルフの体毛と、ツカサの髪を揺らした時、金色と漆黒の瞳が交錯し、次の瞬間、ティバインウルフの身体が掻き消えた。


「っ!」

 
 ギリギリのところでツカサが脇へ飛び退ると、遅れてゾンッ!という空気を切る音が部屋に響き渡る。すでにティバインウルフはツカサの背後だ。


 ゆっくりとティバインウルフがこちらに向き直るのを見ながら、ツカサは目にかかった前髪を掻き上げた。


「ここまで速いやつを見たのは、初めてだな」


 言い終わった瞬間に、再びティバインウルフの突進が来る。


 今度は横に避けずに、ギリギリまで見極め、際どいところで避ける。が、避けた先に見えたのは、ティバインウルフの長い尾だった。とっさに屈むが、間に合わず、まるで猫の尻尾のようにツカサの身体に巻き付け、そのまま頭から地面にたたきつけられる。威力もすさまじく、ツカサのHPの2割強持っていかれた。


「久々にまともな攻撃喰らったな。…ただの獣型なら楽だと思ってたのにな」


 ツカサの言うことは、SAOにおいては一般論だ。人型モンスターの場合、一番の特徴と、そして面倒なところは、ソードスキルを使うことである。もちろん、プレイヤーが使うような10連撃近いものは使えないが、数連撃や単発の物だけでも十分脅威となりうる。


 その点、獣型はソードスキルを使えないので、人型よりも弱いという見方が強い。


 


 が、このティバインウルフはソードスキルが使えないその代わりに、スピードや攻撃の仕方が大きく工夫されている。



 再びの突進。だが、ここまで来て、ツカサが同じ手に引っかかるはずもなく、素早く攻撃を避ける。


 槍 3連続刺突技 トリプル・スラスト


 脇腹のあたりをリカント・ヴェンデッタの槍身が抉り、血のような赤いライトエフェクトを発生させる。だが、それでも10本あるHPバーのうち、1本の1割も削れていない。

 思わずツカサは舌打ちをした。


「やっぱり火力不足か…」




 通常のモンスターでは全く気にならないのだが、ボスのように、一体のモンスターを共同で倒すとき、いつものパターンでは、武器の耐久値がリアよりも高いツカサが攻撃をはじきあげたり、ガードなど、タンクのような役割をし、リアがそのすきに最大威力のソードスキルを叩き込み、そして、リアがスキル後硬直をしている間に、ツカサがまたタゲをとる、ということの繰り返しをする。


 単純に大身槍と片手剣では、大身槍のほうが威力は高いが、リアのほうが筋力値が高い上、手数が多いソードスキルがある関係で、結果的に分配はリアに上がる。



「こればっかりはしょうがないな、少しずつ減らしていくしか…!」


 今度は避けずに、顎を跳ね上げ、胸のあたりに再びソードスキルと発動させながら、ツカサはつぶやいた。


 内心、いきなり単独行動をしようなどといったリアを少々恨みながら…








 


 少しずつ同じことを繰り返し、きっかり2時間かけて、7本のHPを削ることに成功し、ツカサは自分で自分をほめてやりたい気分になる。槍のソードスキルの硬直時間は比較的長く設定されているため、大技を繰り出せず、3連撃を何回も繰り返す形でよくやったと思う。



 
 さて、HPバーが8本目に食い込もうとしている時だった。不意にティバインウルフの雰囲気が何となく変わったような気がして、ツカサは眉をひそめた。あの壁に書かれていた“奥の手”のようなものが来るのか。


 しかし、突進の動きも何一つ変わっていない。ツカサは一瞬迷うが、同じように顎を跳ね上げる。が、その瞬間、ツカサの背中に、ゾワリと虫が這ったような、気味の悪い感覚が走る。久々に感じる感覚は、一つの記憶を思い出させた。






 砂漠に埋められた地雷を踏んだ瞬間を。カチリと、砂の中で小さな音がした、あの瞬間を。







「っっ!!」


 
 後ろに飛び退るが、すでに遅い。その体が起こす爆風をまともに受け、ツカサの身体はまるで人形のようにあっけなく吹き飛ばされ、壁にたたきつけられる。肺の空気が持っていかれる感覚まで非常にリアルで、ツカサはヴェンデッタを支えにして立ち上がりながら思わず苦笑した。HPバーを見やると、驚くべきことに、一気に3割持っていかれている。


 ティバインウルフの身体を先ほどの爆風が包み込んでいる形となっており、とてもじゃないが近づけない状態になっている。



「爆風はおよそ半径2m半ぐらいか。リーチがちょっと足りないな…」


 リカント・ヴェンデッタの全長は2m60㎝。このままでは少々足りない。かといって、あの爆風を再び喰らう余裕はない。リアが調合した高い効果をもつポーションを煽り、空になった瓶を放り捨てながら、ツカサは息を吐いた。


 あまり使いたくはないのだが、この際しょうがないだろう。


 メニューウィンドウを呼び出し、スキルスロットに“それ”をセットする。






 
 そして、愛槍を持った腕を伸ばし、小さいが、覇気のこもった声で

「“伸びろ”」



 すると、驚いたことにリカント・ヴェンデッタの全長が見る見るうちに伸び、長さはゆうに4m近くあるだろう。


「第2ラウンドの開始と行くか」


 すっと、ツカサの身体が掻き消え、現れたのはティバインウルフの纏う爆風ギリギリの場所。長さが増したリカント・ヴェンデッタの前で、ティバインウルフが纏う爆風など、ないものに等しい。

 4連続刺突技 リーパー・エイク


 薙ぎ払いも入ったこの技は、槍のソードスキルの中でもかなり上位のもので、なんとボスさえもノックバックできる確率がかなり高い。もちろん、100%ではないのだが、今までの戦闘経験から、きちんと攻撃が通るところにさえ当たれば、ほぼノックバックは発生する。


 その経験則にたがわず、ティバインウルフの身体がのけぞる。リアがいればここで飛び込んでくれるのだが、それはできないため、スキル後硬直でツカサも動けず、追撃はできない。

 わずかにツカサのほうが早く硬直からとけ、後ろへと軽いフットワークで飛ぶと、その直後にノックバックから解放されたティバインウルフの前足の強烈なたたきつけが、先ほどまでツカサがいた石床を抉った。


 

 ただ、ここまでの上位スキルを無防備なところに入れても、1割ちょっと。


「ほんとにめんどくさいな…」



 思わずため息を吐いてしまうが、そうは言いながらもツカサは次の攻撃に移るために、下に重心を落とした。
















 そうこうしているうちに、ティバインウルフのHPは9本目の9.8割ほど削れ、ツカサの8回目のリーパー・エイクが決まると、いよいよそれは10本目に突入した。


 その瞬間、急にティバインウルフの様子がおかしくなる。ふさふさとした体毛は、まるで体を覆うスーツのように変化する。


 そして…


「…は?」





 思わずツカサが声を出してしまうほど、それは彼の想像を上回るものだった。





 驚くべきことに、





 ティバインウルフが、後ろ二本足で立ちあがったのだった。


 前足も変化していき、それは人間の腕のようになっていき、五本指が生え、それぞれの指に、ゆうに10㎝はあるだろうと思われる爪が伸びる。


 


 そう、まさにその姿は、“狼男”だった。



「嘘だろ、壁画にはなかったぜ、そんなの…」


 呆れたように首を振る。壁画では、人間が倒される過程は書かれてはいなかったものの、最後に勝利した狼の姿は絶対に先ほどまでの姿だったはずだ。



 しかし、考えてみれば、この変身形態になる前にすべての人間が倒されてしまったのだとしたら、その倒された人間は、このティバインウルフの姿を知らない。確かに、壁画は事実を描いていたが、少々どころか、かなりの情報不足だ。




 



 そんなことを考えていたツカサに影が降り立ち、

「っっ!!!!」

 
 頬から赤いライトエフェクトが飛び散る。




 確かに、考え事はしていた。だが、それでも警戒は怠っていなかったはずだ。


「おいおい、ちょっと速過ぎだろ…」


 確かに、元々今までにないほどに速かった。だが、今の速度はそれ以上だ。普通のプレイヤーなら目視ができないくらいに。




 だが、そういうツカサの口角は上がり、漆黒の瞳はらんらんと光を宿している。


「最終ラウンドと行きますか。…“縮め”」







 ほぼ、初動は同時だった。ゾンッ!という音を立てて、2人の姿が掻き消える。そして、ほとんどそれと同時に聞こえる金属音。ソードスキルを使わないツカサの槍と、ティバインウルフの爪が、ほとんど絶え間なく甲高い音を上げる。


 ソードスキルを使っている暇はない。ただの純粋な打ち合い。





 狼男と化したティバインウルフの動きは、人間の動きといっても差し支えはないだろう。ツカサの攻撃を避け、ガードし、そして反撃をする。


 まるで、プレイヤーとデュエルしているようで、ツカサの気分は最高潮だった。長剣ほどの長さまで縮めたリカント・ヴェンデッタを、まるで剣のように扱かているため、槍とは思えないほどの速さの斬撃を繰り出せる。







 決定打が全く入らず、ツカサのHPばかりがゆっくりと減り続ける。このままでいくとジリ貧で、ツカサが確実に競り負けるだろう。



 

 “あれ”なら、ティバインウルフのHPをすべて吹っ飛ばすことができるかもしれない。だが、もし削りきれなかったとしたら、それは=自分の死になる。だが、使わなければ、どっちにしろ死ぬ。


「…悪い、リア。…賭けるよ。“伸びろ”」



 


 つぶやくように言うと、ツカサはティバインウルフの攻撃をはじかずに、槍を横にして受け止める。


「っ!くっ…」


 筋力値があまり高くないツカサにとって、これはかなりきつい。完全に受け止められずに、後ろへとスライドし、ツカサのブーツは煙を上げる。


 恐らく、一番最初の狼形態では、こんなことはできずに、あっけなく吹き飛ばされていただろう。狼男になったとき、速さが尋常でないぐらい強化されていた。それ故に、筋力値は落ちているだろうというツカサの考えはどうやら当たっていたようである。




 あと1mで壁というところで、何とか止めることに成功したツカサは、SAOに来てから、初めてだろうと思われるほど、ありったけの力を腕に込める。

「い…っけぇ!!」


 

 それは、驚くべきことに、ティバインウルフの攻撃を跳ね上げることに成功する。




 大きくのけぞったティバインウルフの身体は完全に無防備。そう、ここで終わりではない。ここからが本番なのだ。



「…初めて神がいてほしいと思った」


 思わず自嘲気味に鼻で笑う。










 そして、それは始まりを迎えた


 
 



 



 <無限槍>7連続重刺突技 ジャッジメント・ピアッサー





 槍のソードスキルの中で、最高位の威力を持つソードスキル。それは、無防備となったティバインウルフの腹にきれいにすべてヒットする。一気に1割5分ほど削れる。






 だが、それで終わりではない。




 体勢を立て直し始めたティバインウルフのに、再び襲い来るのは


 <無限槍>4連撃刺突技 フェイタル・スラスト

 

 跳ね上げも入ったそれは、ガードしようとするティバインウルフの方腕を部位破壊することに成功する。




 ティバインウルフの体には、それの動きに合わせたソードスキルが次々と叩き込まれ、そこにはリカント・ヴェンデッタの翡翠の軌跡が閃く。





 見る見るうちにティバインウルフのHPはがりがりと削れていく。そして、ツカサの最後のソードスキルが放たれた。総スキル数、その数――――――――10。


 
 













 だが


 ティバインウルフのHPバーは、最後の1ドットが点滅していた。
 


 地上へと降り立ったツカサのは動かない…否、動けない。今までキャンセルされ続けてきた硬直時間が、今合計されてツカサの体にかかっている。



 ゆらりと、ツカサの体に、ティバインウルフの影が落ちる。



 最高位のソードスキルを連発したため、その硬直時間の合計時間は15秒ほど。



 加えて、ツカサの残りのHPは6割。先ほどからの攻撃を見ていると、クリーンヒット2.3発で消し飛んでしまうだろう。それにかかる時間は、15秒では十分すぎるほど。





 『死ぬのか…』




 ツカサは、心の中で思わずそうつぶやいた。


 不思議と、なぜか諦めがついていた。今までのことを考えてみれば、自分が死ぬことは当然だろう。いや、そもそも死ななければならなかったのだ。これだけ罪深い自分が生きているなど、罪以外の何物でもない。



 ティバインウルフの振り上げた腕が、ゆっくりと見える。




 
 だんだん暗闇へと視界が変わる中で、かすかな光が煌めいた。


『ツカサ君!』
『ほら、おいてっちゃうよ~』
『大丈夫だよ、大丈夫』
『はい、これ。ツカサ君に』
『生きる時も、死ぬ時も、絶対に一緒だからね?』


 
 

 



 一気に全身に血が廻った気がして、カッと体が熱くなる。ドクン、ドクンとまるで耳元で心臓が鳴っているように脈打ち、体に力がみなぎる。




 あの日、誓ったのだ。…彼女のために生きると。




 その時


 



 金色の瞳と、狂気の光を宿した漆黒の瞳が、熱を持って絡みついた。






 何かを、感じた。



 熱いような、冷たいような、甘いような、苦いような、痛いような、痛くないような、何か。


 

 ゆっくりと頭の中を駆け巡るようで、軽い吐き気を覚える。




 

 耳元で、一度だけ心臓が脈を打った。













 視界が元に戻ると、目の前には相変わらずティバインウルフの姿がある。だが、驚くべきことに、先ほどまで振り上げていた腕を下ろし、じっとこちらを見ている。



 

 再び視線が交錯するが、先ほどのようなことは起こらなかった。





 すると、シュン…という、まるで空気のような音がする。瞬きを一度するその一瞬に、いつの間にかティバインウルフの姿はなくなっていた。



「…え?」




 硬直が解け、ツカサがあたりを見回すと…




「…………………」



 目の前にいた。しかも、最初の狼形態で、なおかつ、2メートルほどの全長になって。



 
 そして、この意味不明な空気に異様ともいえるほど浮く、金管楽器のファンファーレが鳴り響いた。そして、目の前のウィンドウには











 <エンペラー・オブ・ティバインウルフをテイムしました>






「…はい?」
 
 

 
後書き
 はい、お疲れさまでした!いやぁ、めっちゃくちゃ大変でしたw何せオリジナル回、自分でボスモンスターをつくったので。



 さてさて、ツカサさんもお疲れさまでした!大活躍?でしたね!wツカサにあまりスポットが当たることがないため、ツカサ大好きの僕としては、結構ルンルンですw


 今回はいろいろなものが一気にドバっと出ました。やはり一番はツカサのわけのわからんスキルですね!wあれはツカサの持つユニークスキルです。ではでは、スキル解説と行きましょう!



 

ユニークスキル<無限槍>

 
スキル内容
 1、槍の長さが無限になる
“伸びろ”、“縮め”の声で、槍をプレイヤーの思い通りの長さにすることができる。しかし、いくら
無限槍といっても、そのプレイヤーの筋力値関係で、それを戦闘で使える長さの上限がある。


 2、ソードスキルを連続で10回使える
   これは本編で見た通り。最上位のスキルも10回までなら使い放題。だが、その分10回のスキルを終えたスキル後硬直の時間が長くなる。そのため、ラストアタックにしか向かない。


 3、無限槍特有のユニークソードスキルを使える
   これはそのまま。ほかの槍使い(ランサー)には使えないソードスキルが使える。



 
 


 こんな感じです。この無限槍は、もともと川原礫先生が考えていたスキルで、その内容は全く明かされていなかったため、僕が自分で考えちゃいました☆といった感じですw


 そして、最後の“テイム”。なかなか気になりますねぇw次の次ぐらいにティバインウルフは再登場しますw

 さて、次回は単独行動其の二~リア編~です。実は、ツカサのほうは割合すぐに思いつくのですが、リアのほうが…という状況になっています。更新速度は期待できないので、そこはご了承くださいませ。




 次回はたっぷりリアとお付き合いしていただくので!お楽しみに!
 
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