儚き想い、されど永遠の想い
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
487部分:エピローグその二
エピローグその二
だがそれでもだった。その祖父の中でだというのだ。
「肉体的には別れましたが」
「心ではですね」
「ずっと一緒でした。曽祖父もまたです」
「八条義正さんもですか」
「曽祖父も私が成人を迎えた頃に亡くなりました」
少し遠い目になって話す紳士だった。
「ですがそれまでです。よく曾祖母のことを話してくれました」
「その方の心の中にも生きているからこそですね」
「そうです」
まさにそうだと述べる紳士だった。
「そのうえで、です」
「貴方に話してくれたのですか」
「曾祖母の姿は写真でしか見たことがありません」
言いながらだ。紳士は見事なスーツの懐に手を入れてだ。
そこから一枚の写真を出してきた。そこに映っているのは。
家族の写真だった。真ん中に赤子がいてだ。その左右にだ。
気品のある男女、美男美女と言ってもいい二人が微笑んでそこにいた。モノクロの、明らかに昔のものとわかる写真の中にだ。その三人がいたのだ。
その写真の中の和服の美女を見てだ。私は言った。
「その方がですか」
「祖父の子供の頃、曽祖父の若い頃に」
「そしてですね」
「曾祖母です」
彼等だった。まさにだ。
「私はこの写真から曾祖母を知りです」
「貴方の中にもですか」
「曾祖母は生きています」
「そうなのですね。貴方の中にも」
「曽祖父と祖父の、それに家の者達からもよく聞きました」
紳士の曾祖母、つまり真理さんのことをだというのだ。
「それで私の中に生きています」
「そうなのですか」
「勿論曽祖父と祖父もです」
その二人もだというのだ。彼女の他に写真にいる二人もだとだ。
「私の中に生きています。無論父の中にも」
「御父上のですか」
「父もまた曾祖母のことは知りませんが」
「それでもですね」
「はい、今も曾祖母のことをよく話します」
直接面識はない。それでもだった。
その中にだ。彼女が生きているというのだ。
「その中に生きているからこそ」
「魂は不滅ですね」
私はこのことを自分で言った。
「まさにですね」
「はい、本当に」
「多くの方の中にその方は生きておられるのですか」
「今もです」
「永遠ですね」
今度はこの言葉を出した私だった。
「魂は永遠に生きますね」
「そしてそのうえで想いもまた」
「心の中にある想いもまた」
「そうですね。では」
「はい、それでは」
「暫くこの桜達を見ていたいのですが」
私はこう紳士に我儘を言った。
「そうして宜しいでしょうか」
「では私もです」
「貴方もですか」
「はい、そうしたくなりました」
桜達を見たい。そうだというのだ。
ページ上へ戻る