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夢幻水滸伝

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第四十四話 山と海その四

「わし等も困ってるんですが」
「その連中を田中がか」
「金太郎の鉞で成敗してくれました」
「金太郎の鉞か」
「はい、あの人の神具で」
 まさにそれでというのだ。
「倒してくれました」
「そうなんやな、鉞か」
「はい、お一人で」
「強くもあるねんな」
「トロルの中でもかなりの怪力の方で」
 それでというのだ。
「本当にお強いですよ」
「普段からその鉞振り回して木を持ち運んでるからやな」
 鵺はその田中が何故力が強いのかをすぐに察した。
「それでやな」
「トロルは元々力が強いうえにな」
 中里も言う。
「それに加えてやな」
「そや、それでその怪力と鉞でや」
「賊共を成敗してか」
「いつも木を切ってくれてます、あと切った後は絶対にです」
「絶対に?」
「その後の木を植えてもいますよ」
「植林もしてるんかいな」
 中里は田中のその行為を聞いて目を瞠って言った。
「それは凄いな」
「先の先まで考えておられるので」
「それでやな」
「はい、植えることもです」
 ただ切るだけでなくというのだ。
「そうしたことまで」
「凄いな、それは」
「はい、木のことならです」
「何でもやな」
「ご存知で」
「よし、そやったらな」 
 是非にと言う中里だった、コボルトから田中の話を聞いて。
「こっちに来てもらった時は政も期待出来るな」
「これからは国全体の山を見る人になってくれるんですね」
「政をしてな」
「そうですか、考えてみますと」
 吉野の者としては去ってしまうことは寂しく残念なことだ、だが国のことを考えるとだ。コボルトはそのうえで言った。
「それもいいかも知れないですね」
「ああ、国全体の林業がよりしっかりするからな」
「それでは」
「これから田中に会うな」
 こう話してそしてだった。
 中里は鵺と共にコボルトに田中がいる場所に案内された、するとトロルの中でも大柄で逞しい身体をした男がかなりの高さと太さの木をでかい鉞で勢いよく切っているところだった。その彼にコボルトが声をかけた。
「あの田中さんお客さんです」
「そのお二人か」
「はい、そうです」
「関西の中里さんと神具の鵺」
「そや、話すことがあって来たわ」
 中里がそのトロルに答えた。
「自分が田中秀一やな」
「そうです、人遂星です」
「そやな、僕は神勇星の中里雄一や」
「ご高名は聞いています」
「そうなんか」
「そしてその中里さんが僕に一体」
「決まってる、関西に来て欲しいんや」 
 中里は田中に自分が会いに来た理由を話した、そのうえであらためて田中に対して言った。
「そうして欲しいけれどな」
「そうですか、ですが」
「嫌か?」
「今日の分の仕事が終わってからでいいでしょうか」
「今日の分のか」
「はい、今日はどうしてもここでしなくてはいけない仕事がありまして」
「その木を切るんか」
 今切っている樹齢にして二百年は越えていそうな大きな杉を見上げて問うた。 
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