夢幻水滸伝
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第四十四話 山と海その二
「けれどお役人になってですか」
「国全体の木のことで頑張ってもらいたいんや」
「この村だけやなくて」
「そや、まずはこの日本の西半分の山の木のことを頼みたい」
「でかいお話ですな」
「それで誘いに来たんや、この村はこの村で頑張ってもらうけど」
田中がいなくなってもというのだ。
「まずは田中に会わせてもらいたいんや」
「わかりました、ほな今から田中さんのところに案内します」
「そうしてくれるんか」
「はい、そして」
そのうえでと答えたコボルトだった。
「田中さんとお話して下さい」
「ほなな」
中里はコボルトの申し出を受けた、そうして彼に案内してもらって鵺と共に山に入った。山に入ると至って静かだった。
木は多く兎や猿、鹿等は時折見える。しかし魔物と呼ばれる獣の影はなく鵺は中里にこのことについて話した。
「実はこの辺りは魔物は殆どおらんねん」
「それで林業も出来てるんやな」
「そや、けど紀伊との境になるとな」
「魔物がおるか」
「その辺りはおるねん」
こう中里に話した。
「この辺りは熊や狼位やけどな」
「紀伊との境は魔物もおるか」
「その辺りはもう誰も行きません」
案内役のコボルトも話してきた。
「熊や狼ならわし等も何とかなりますけど」
「魔物になるとやな」
「一人でおる時はちょっと無理ですから」
相手をするのはというのだ。
「そやさかい」
「そこまでは入らんか」
「相当な距離もありますし」
「ああ、吉野も山は深いけどな」
それでもとだ、中里も大和の地図を脳裏に出して応えた。
「大和全体ではまだまだな」
「山の入り口位です」
「吉野から深い山々がめっちゃ続いててな」
「人はどんどんいなくなり」
人口が少なくなっているというのだ。
「魔物もいて」
「秘境か」
「そうした風になっています」
「それが紀伊との境やな」
「十津川になりますと」
その辺りになると。
「もうわし等も行くことはまるでなくて」
「付き合いもないか」
「あそこのことはよく知りません」
「同じ大和の人間でもか」
「はい、それで十津川からさらに南になりますと」
「ほんまに魔物も出てか」
「わし等は全然行きません」
十津川以上にというのだ。
「そうなってます」
「そんなところか、あそこは」
「はい、ほんまどんなところか」
「わからんか」
「そうです、吉野でも結構田舎やと思いますけど」
「この辺りになると人が少ないのは事実やな」
こう答えた中里だった。
「馬が進める様な公道もここまでやし」
「それがこの吉野でして」
「紀伊との境はやな」
「そんなとこです」
「そうか、紀伊との境の魔物はこれから何とかするか」
「あと山賊もおったらな」
鵺も言ってきた。
「成敗やな」
「そやな、しかし今は連中を魂単位で葬ってるけれどな」
「それでは勿体ないか」
「どうせ屑ばっかりやしな」
生きていても世に害を為すだけの連中に過ぎない、それでと言う中里だった。この辺りの考えはシビアなのだ。
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