儚き想い、されど永遠の想い
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482部分:最終話 永遠の想いその四
最終話 永遠の想いその四
「あの方々と共にね」
「桜を観にですか」
「そして人の心と新生をね」
「やはりあの奥様はですか」
「そう。死なないんだよ」
ここでも言う医師だった。
「肉体が滅んでもね」
「心は不滅だからこそ」
「そう、生きるんだよ」
まさにだ。そうだというのだ。
「だから。奥様の新生を見に行こう」
「もう奥様の御身体は限界の筈なのに」
看護婦はどうしてもだ。このことを考えずにいられなかった。
それで実際に言葉と出してだ。言ったのだった。
「それでもあの様にされてまで」
「あの方々はこの時を待っていたから」
「だからこそですか」
「今行くんだ」
外に。桜を観にだというのだ。
「そうするんだよ」
「それで私達もですか」
「行こう、あの方々と一緒に」
「わかりました」
釈然としないものがないと言えば嘘になる。これは紛れもない事実だ。
しかしだった。今はだ。
看護婦もだ。医師の言葉に頷いてそのうえで応えたのだった。
「では行きましょう」
「そうしよう。ただね」
「はい、奥様のお身体は」
「もうここには戻って来ないだろうね」
肉体は滅ぶというのだ。
「おそらくはだけれどね」
「そうなりますか」
「おそらくはだけれどね」
医師はこう述べるのだった。
「なるよ」
「そうですね。やはり」
「けれどそれでもね」
優しい目だった。医師はここでも。
「君も観るといいよ」
「そうさせてもらいます。先生がそこまで仰いますし」
看護婦が応えてだ。二人は部屋を出た。そして廊下を進み屋敷の、洋館のその玄関のところに向かうとだ。それぞれの方からだ。
義正と真理が来た。義正は草色の上着に緑の着物と袴だった。確かに大人しい色彩だが着物に使われている絹は確かに見事なものだった。
そして真理は赤と桃の見事な着物だった。帯は紅だ。
彼女の服の生地も上等の絹だった。その光沢のある色で出て来てだった。
真理はだ。微笑んで義正に声をかけてきた。
「御待ちになったでしょうか」
「いえ、私も今北ところです」
「そうなのですか」
「はい、ですから御気遣いなく」
こう微笑んで返す義正だった。
「ではですね」
「はい、今から」
二人で言うとだ。それぞれの後ろにいた佐藤と婆やがだ。屋敷の階段のところ、洋館の二階に続く階段のところに来ていた二人の家族に対して言った。
「では皆様、今から」
「御花見に参りましょう」
「うむ、それではな」
「行くとしよう」
八条家と白杜家それぞれの家の主達が応えた。そしてだ。
他の家族の者達もだった。
静かに玄関のところに行く。そのうえで。
二人に対してだ。こう言ったのである。
「では今から行きましょう」
「皆で」
温かい声だった。誰もが。そうしてだ。
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