天使のような子に恋をした
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天使のような子を助けた
前書き
皆様、初めまして。Evoluzione(エボルツィオーネ)です。
この度、暁様にて小説を投稿させて頂くことになりました。あらすじにもあるように、この作品は以前ハーメルン様にて投稿していたものと全く同じです。予めご了承下さい。
至らない点もあるとは思いますが、これから何卒よろしくお願い致します。
「現実世界に運命の出会いは存在するか?」
──そんな事を聞かれた時、人々はどう答えるだろうか? 胸を張って「存在する!」と自信満々に答える人もいれば、恨めしそうにしながら「存在する訳ない」という人もいるだろう。
俺はどちらかというと後者の方だった。ドラマやアニメじゃあるまいし、テンプレとなっている『角でぶつかった男女が恋に落ちる』なんて有り得ない。そんなものは人々が作り出した幻想などと考えていた。
あの出来事があるまでは。
今では俺も胸を張り、自信満々に「運命の出会いは存在する」と言える。あの出会いが運命じゃなかったら何というのか。偶然? それとも必然? いや、そんな小さいものじゃない。
俺の横で歩いている女の子に視線を向ける。ベージュのきめ細やかな風に靡く髪。高校二年生とは思えないほど、大人の女性らしくきちんと出る所は出ている身体。全体的にふわふわしていて、いかにも癒し系な女の子。加えて超絶美少女というおまけ付き。
南ことり。それがこの女の子の名前。彼女とは、前述したように運命としか思えないような出会いを成し遂げた。今でこそ落ち着いた様子だが、あの時はさぞかし怖かっただろう。
あの時──それはつい昨日。二学期最初の学校が終わった下校中のこと。
◇
その日は誰にとっても辛い一日だったのは間違いない。
夏休み明け。それまで一ヶ月以上休んできたんだ。誰もが「学校行きたくない。もっと休みたい」と思っただろう。自殺者が増えるのもこの時期だとかなんとか。
俺も上の例に漏れず、誠に遺憾ながら学校へ向かった。
学校では特に何も無く。新学期最初ということで、始業式とHRをやってその日は午前中の内に放課。
家に帰ったら昼寝でもするかと決め込んだところで、後ろから声を掛けられた。
「蒼矢、この後暇か?」
「翔真か。いや、昼寝するから暇じゃないな」
声を掛けてきたのは俺の幼馴染でもあり、唯一無二の親友でもある前原翔真。10年来の付き合いがあり、コイツだけには何の気兼ねもなく話をすることができる。
俺と同じくらいの背丈。どこかで見たことがあるような茶髪のツンツンヘアー。顔もイケメンと呼ばれる部類で、性格良し、頭良しと完璧に近いが、一つだけ大きな欠点がある。
翔真は吃驚するほど運動音痴。サッカーでシュートしようとしたら何故かひっくり返るわ、バレーでレシーブしようとしたら何故か後ろにボールが飛んでいくわ、とにかく酷い。
それ以外にも小さい欠点は多々あるけど、それはまた後ほど。
ただ、それらの欠点を抜きにしても人望は厚い。
「暇じゃねえか。ちょっと付き合ってくれよ」
「えー、またかよ。この前行ったばかりじゃん」
「いやいや、最近目を付けてるグループがいてさ。そのグループの新しいグッズが発売されたんだよ。昼飯奢ってやるから。いいだろ?」
「うーん、まあそれならいいか」
「おっ、センキュー!」
最近、翔真はとあるものに夢中になっている。それは、近年爆発的に流行しているスクールアイドルというもの。聞く話には、一般高校の生徒だけで結成されたアイドルで、芸能プロダクションを介していない。つまり、芸能人ではなくご当地アイドルみたいなものらしい。
翔真がかなりおすすめしてくるので、スクールアイドルの頂点に立つA-RISEという三人組のグループのライブ映像を見てみたのだが、度肝を抜かれた。
アレは本当に高校生なのか。プロと比べてもなんら遜色がなくて衝撃を受けた。なるほど確かに流行している理由がよく分かった。
──今思えば、ここが運命の分かれ道だった。ここで断っておけば、運命的な出会いをする事はなかったのだから。
そうして買い物を終えた後、昼食を食べて帰路に就いた俺達。秋葉原の大通りを歩いている。
平日の午後にも関わらず、たくさんの人で溢れかえっている大通り。交通量も多く、たまに改造車やスーパーカーが通って爆音を響かせたりしている。流石日本一の電子街といったところか。
隣には、欲しかった物を手に入られてご満悦な様子の翔真。彼が今回購入したのは、最近人気が上がってきているスクールアイドルのグッズ。そのグループは、A-RISEとは違って9人で構成されていて、ネットでは「9人の女神」と呼ばれているらしい。なんだろう、とても心に響く呼び名だ。
俺も翔真の影響を受けてスクールアイドルに興味を持ち始めてきたかな。そんな事を思っていると唐突に翔真が声をあげた。
「おっ、おい……アレってことりちゃんじゃないか?」
「なんだって?」
“ことりちゃん” その名前には聞き覚えがあった。ついさっき翔真が購入したグッズにも書いてあったような……まさか。
他人に気付かれないように、翔真が右斜め前に小さく指を差す。そこ──大通りを挟んだ反対側の歩道──には言った通りことりちゃんと、友達なのか男の人が2人。
しかし、どう見ても友達には見えなくて──
「まさか……ナンパか!?」
「……有り得るな」
もう少し様子を見てみる。男2人は執拗に声を掛けていて、ことりちゃんはかなり嫌がっている。間違いない、ナンパだ。
「助けないと……どうする!?」
「ああ、ちょっと俺行ってくるわ」
「えっ、お前まさか──やるのか?」
「アホか。俺だって武力行使はしたくない。しかも衆人環視の中だぞ? ちょっと演技してやるだけだ」
「……ま、それならいいか。ちゃんと助けてやれよ?」
「ああ、もちろん。じゃ、また後で」
一旦翔真と別れ、反対側の交差点へと急ぐ。俺の作戦はことりちゃんの彼氏のふりをすることだ。ナンパには一番効果的な方法だと思われる。今すぐ横断歩道を渡って助けてあげたいところだが、作戦実行の為、ある程度ことりちゃんより先回りする。
それにしても、この人が多い中でよくナンパなんか出来るな。寧ろ人混みの方が都合が良かったりするのか? ナンパなんかした事もなければ、する気もないからそれに関してはサッパリだ。
よし、このくらい距離があれば大丈夫かな。丁度横断歩道もあるし信号は青。躊躇なく反対側へと渡る。
ことりちゃんは……まだ声を掛けられ続けている。彼女が中々折れないからか、少々苛立ってきた様子の男2人。反対に表情に恐怖が見え始めたことりちゃん。目には薄らと涙が浮かんでいた。
──よし。後は、適当な店の前で待ってればいい。距離が近くなり、俺も声を掛ければナンパは失敗に終わる。男2人が諦めれば、だけど。
かなり距離が近くなってきた。声を掛けるのならこの辺りだと判断した俺は、ことりちゃんに向かって歩き出した。ここからは俺の演技力が試される。
そして──
「よう、ことり。来たか、随分遅かったな」
「えっ……?」
ことりちゃんは困惑。「えっ、誰?」というのが今の彼女の心の内だろう。まあ当然の反応。
「その人達は友達か?」
「あっ、えっと……」
先ほどから、ばつが悪そうな表情をしている男2人。それと同時に俺のことを睨んでくる。おお、こわいこわい。
「チッ……彼氏持ちかよ。滅茶苦茶可愛かったのに」
「仕方ねえ、行こうぜ」
俺をことりちゃんの彼氏と勘違いしたのか、ナンパを諦めて来た道を戻っていく男2人。どうやら作戦は成功したようだ。
「ふう……まあ、何とかなったか」
「あの、えっと……?」
「あ、安心して。俺はナンパじゃないから。それよりも馴れ馴れしく呼び捨てしちゃってごめんね?」
「い、いえ、いいんです! あの、私……助かったんですよね?」
「うん、そうだよ」
ようやく自分が助かったことを理解したのか、安堵からくるものであろう涙で顔が濡れてゆくことりちゃん。傍から見たら俺が泣かしたようで少しだけ気まずい。
「あの、何も泣くことはないんじゃないかな……」
「ご、ごめんなさい……。私、本当に怖くて。でも助かったんだなって思ったら涙が出てきてしまって……」
うーん、まあ仕方ないか。少なくとも大泣きではないから数分もしない内に泣き止むとは思う。だけど、やっぱり気まずい。
俺がどうしようかと悩んでいると、後ろから我が親友の声が聞こえてきた。
「おーい、蒼矢ー!」
「よう、さっきぶり」
「流石だな。演技、上手かったぞ」
「そうでもないぞ。ただあいつらが馬鹿だっただけだよ」
「またまた謙遜しやがって。っと、ことりちゃん、大丈夫か?」
ターゲットを俺からことりちゃんへ変更した翔真。いつの間にか、泣き止んで俺達を見守っていた彼女。
「は、はい……。でも、どうして私の名前を……?」
「どうしてって。そりゃスクールアイドルが好きなら自ずと分かるさ。な、蒼矢?」
「ごめん、俺は言うほど詳しくないんだわ」
「どうしてだよ! この前散々教えてやったのに!」
「A-RISEとさっき教えてもらったグループしか覚えてない。えと……何だっけ」
「μ'sだよμ's! ほら、ことりちゃんがいる……あっ」
スクールアイドルの事で饒舌になっていた翔真だが、何かに気付いたのか、急に口を閉ざす。そして、みるみる顔が驚愕の色に染まっていき──
「ほ、本物のことりちゃんだ……! こんな間近に……!」
「いや今更かよ」
「だって色々あって気にする暇なかったんだよ……!」
何かと思えばコレだ。ことりちゃんも翔真の豹変ぶりに困惑を隠せない様子。だが、翔真はそれに気付いている様子はなく、何の躊躇いもなくサイン用の色紙とペンを差し出した。
「俺、μ'sのファンなんです! ことりちゃん推しなんです! サイン貰ってもいいですか!?」
「え、えぇ……?」
「おいアホ落ち着け。困ってるだろ」
残念なイケメン、前原翔真。自分の好きな物を前にすると暴走する癖がある。コレと運動音痴さえなければ完璧なのに。
「サインは別に構わないんですけど……。ええと、お二人はμ'sのファンなんですか?」
「コイツはそうだけど俺は違うかな。ついさっき存在を知ったばかりだし。でも、少しだけ興味はあるかも」
「そうなんですか、ありがとうございます」
優しく微笑むことりちゃん。
その笑顔が眩しすぎて──心臓がドクンと跳ねた。思わず、彼女と目を逸らしてしまって。
今まで気にする余裕なかったけど、実はことりちゃんって物凄く可愛いんだよな。加えて声も脳が蕩けそうな甘い声。
うん、悪いけどナンパされるのも仕方ないわ……。
「あー……お礼なら俺よりも翔真に言ってくれ。色々グッズ買ってたから」
いきなり目を逸らして怪しまれたかな、と思いつつも、ことりちゃんの様子を伺う。だけど、予想と反して当の本人はまるで気にしていない様子だった。照れ隠しみたいに思われたのかもしれない。
色紙とペンを受け取り、慣れた手つきでペンを走らせていくことりちゃん。やっぱりこういう時の為に練習しているのだろうか。なんて、どうでもいい疑問が脳内をよぎる。
「はい、どうぞ! 応援してくれてありがとうございます!」
「お、おお……。こ、こちらこそありがとうございます! 一生大事にします! あぁ……生きてて良かった……」
「あ、あはは……」
ことりちゃんと一緒に苦笑い。本当に残念なイケメンだ。これはもうどうしようもないかな。熱が冷めるのを待つしかない。それがいつになるかは神のみぞ知る。
「あっ、そういえば……。まだお名前聞いてませんでしたね。教えてもらっても大丈夫ですか?」
「えっ、でも──」
俺達の名前なんて知ってもいい事ないよ、と言おうとした所で我が親友に遮られる。
「俺、前原翔真っていいます! 近くの高校に通ってます! ことりちゃんと同じ二年生です!」
「あっ、それじゃあ同級生ですね。前原くんって呼んでいいですか?」
「もちろん! 敬語も使わなくていいよ!」
「うん、分かった──それじゃあ前原くん、よろしくね?」
「こちらこそよろしく! ことりちゃん!」
……ったく、コイツは。俺を置き去りにして何仲良くなっているんだ。
「あの……貴方も前原くんと同学年ですよね?」
「あっ、うん……」
どうしよう。この感じ、俺も自己紹介しないといけない雰囲気だよな……? でも、人気のあるスクールアイドルと仲良くなっていいものなのか。
俺の自己紹介を待っているのか、顔を覗き込んでくることりちゃん。当然、その可愛い顔で見つめられる訳で。
耐えられなくなった俺は、遂に──
「神崎蒼矢です。まあ、そこのソイツと同じ学校、学年です」
「分かりました。神崎くんって呼びますね」
「構わないよ。あと敬語もいらない。同学年だしさ」
「それもそうだね。神崎くんもこれからよろしくね」
「ああ、よろしく。“南”さん」
彼女と自己紹介を交わす。
これは──友達になったということでいいのだろうか。だったら、これからことりちゃんのことは名前ではなく苗字で呼ぼうと思う。
一人のファンとしてではなく、一人の友達として。
……ただ、我が親友は気にも留めて無いようだが。
「神崎くん」
「ん?」
「助けてくれて本当にありがとう。神崎くんのお陰で助かりました」
とびっきりの笑顔で、だけどどこか憂い顔で。
やっぱり相当怖かったんだろう。俺が助けてくれなかったら、なんてことも考えているのかもしれない。
「お礼なら翔真にも言ってくれ。実はナンパされてるのに気付いたのはコイツなんだ」
「えっ、そうなの? それじゃあ前原くんにもお礼を言わないと。本当にありがとう」
「いいのいいの! ことりちゃんが無事で何より!」
翔真も南さんが無事で、心から安堵の顔を見せていた。
最初は人気スクールアイドルと親しくなっていいのかと思ったけど、特に問題はなさそうかな。翔真の好意だってファンとしてのものだろうし。追っかけにはならなそうだ。
「それじゃあ俺達はこの辺で失礼するよ。またナンパされないように気を付けなよ」
無事南さんを助けたことだし、後は帰るだけの俺達。そのことを南さんに告げたんだけど、次の瞬間、とんでもない発言をする。
「あっ……う、うん。そのことなんだけど……」
「どうかした?」
「良かったら──一緒に帰ってもらえませんか?」
俺と翔真、同じタイミングでお互いの顔を合わせる。そして、これまた同じタイミングで、
「……へっ?」
素っ頓狂な声をあげた。
──どうやら関わってしまった以上、簡単に帰ることは出来なさそうだ。
後書き
閲覧ありがとうございます。感想、評価などお待ちしております。
このような調子で、これからも投稿をしていくのでよろしくお願いします。
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