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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その29

血の気の失せた青白いナルトを抱き抱え、グダグダと下らない事を垂れ流しているナルトを、もう一度サスケが怒鳴り付けてやろうと思ったその時だった。
ナルトの瞳孔が縦に狭まり、赤く染まる。

人柱力として、九尾のチャクラを使う時の変化に、はっとなった。

「ナルト!?」

思わず声をかけた瞬間、瞳を閉じて、くたり、とナルトの全身の力が抜けた。
ナルトの意識が途切れたらしい。

そのナルトを、九尾のチャクラがあっという間に、ナルトを抱えるサスケごと覆っていく。
肌を焼く障気のような重いチャクラに包まれ、直に感じ、サスケは忸怩たる思いに囚われていた。

こんなものとの共存を、ナルトは余儀なくされている。
そして、その存在を、ナルトは誰よりも何よりも頼りにしている。
全面的なナルトの味方でもなく、ナルトに現状を押し付けている疫病神のくせに!

サスケにはそれが面白くなかった。
だが、今、この場で九尾がナルトにチャクラを送って来る意味はなんだ。
じわじわと染みだし、狐らしい形を象って行く九尾のチャクラを眺めながら、サスケがそう考えていた時だった。

「これはいかん!」

ナルトの変貌に泡を食った自来也が、何かの封印式を書き付けた札をナルトに押し当てようとして来た。
思わずその手を掴んで止める。

「ナルトに何をするつもりだ!」

妙にチャクラの色や流れがよく見えるようになったまま睨み付ければ、自来也が硬直し、困ったように眉を下げた。

「サスケ。これがどういう事か、お前ならば察しておろう」
「ああ。だから、このままにしておけばナルトは助かる」
「何!?」

指摘すれば、驚いたように目を向いた自来也に、大蛇丸に貫かれたナルトの腹部を示す。

「見ろ」

果たしてそこにあったはずのナルトの怪我は、跡形もなく消えていた。
それと同じくして、ナルトを包んでいた九尾のチャクラも収まっていく。

「……これは、どういうことだ?」

困惑している自来也に、これ以上何も言う気になれず、サスケは思わずナルトの中の九尾に向かって声をかけた。

「ナルトを助けてくれて、礼を言う」

こちらの状況をナルトの中から九尾が覗いて居る事は、ナルトの口振りから察していた。
だから、サスケの言葉もきっと届いている。
そして、面白く無いものを感じつつ、ナルトの九尾に対する強固な親愛と信頼感を納得した。

成る程九尾は頼りになる。
誰よりも、何よりもだ。

現に、瀕死の大怪我だったはずのナルトの怪我は、すっかり跡形もなく癒えている。
もう、ナルトに命の危険はない。
ナルトに巡るチャクラの流れからも、それは明らかだ。
ほっと息を吐き、意識の無いナルトの体を強く抱き締めた。

「お前が居てくれて良かった。ありがとう」

ナルトが助かった安堵故に、ナルトを助けた九尾に対する好感を抱き、サスケがそう漏らした瞬間だった。

「え…」

サスケの側で、聞き慣れない女の声が聞こえてきた。
ふと、そう言えばナルトを助けようと動いてくれたのは、九尾だけじゃなかった事を思い出す。

そして、今のサスケの言葉が、そいつにあてたものにも取れなくもない事を。
しっかりと顔をあげて、赤い目と赤い髪の、ナルトとは全く似ていないのに、どこか似たような雰囲気を持つ赤い女と目を合わせて、ナルトへの尽力に礼を言う。

「こいつはいつも他人を優先ばかりして強情を張るからな。自分がどんな状況だろうとお構い無しだ。あんたの叱咤も有り難かった。助かった。済まなかったな」

九尾が居ればナルトは死なない事は証明されたが、このうずまき一族の女の行動も、ナルトが生き残る確率を上げるものだった。

成る程。
こいつの力は役に立つ。
十中八九、ナルトの行動は忍らしくもなく単に情に流されただけの結果だろうが、ナルトの判断は間違いではなかった。
この女の能力は使える。
素直にそう思う。

ナルトの側に置いておくのに丁度良いとそう思った。

「え、あの、別にウチは、助けてくれるから助けただけで、こいつの為じゃなくて、ウチの為だったし…」
「ああ。分かってる。だが、あんたのお陰でこいつが持ち直したのも確かだ。あんたがあの時こいつにチャクラを分けてくれなかったら、ナルトは死んでいたかもしれない」

自分の漏らす言葉の持つ威力を再確認し、サスケはナルトを抱える腕に力を入れた。
いつの間にかナルトはサスケの腕の中に納まるくらい、小さくなっていた。
出会った頃は、同じくらいの体格で、力だってそうだったのに。

最近、ナルトを力で押し切ってしまえるようになっている事を、サスケは改めて認識した。
その理由もだ。

ナルトは女で、サスケは男。
そして、失いたくない女なら、自分の物にしてしまえば良いのも、何となく理解している。

父が母を大切にしていたみたいに、自分がナルトを囲ってしまえば良いのだ。
ナルトを自分に従わせてしまえばいい。
自分の側にナルトを縛り付けてしまえば、ナルトは何処にも居なくならない。
男と女ならそれが出来る。

そうすれば、ナルトにだって、家族が出来る。
ナルトが夢見たように、サスケがナルトの家族になれる。
ナルトが本当に望んでいた形では無いだろうが、それでも家族は家族だ。
サスケにも、もう一度、家族ができる。
また、家族を失ってしまう恐怖を、サスケは抱える事にはなるだろうけれど。
それでもナルトを永遠に失ってしまう事に比べれば、些細な事だ。

第一、今のようにサスケの所に入り浸っておいて、ナルトはサスケ以外の誰に嫁ぐ気だ。
恐らくナルトは、そんなことは考えた事も無いに違いないけれど。
そんな風に、忍の癖に、迂闊に隙を見せるナルトが悪いに決まっている。
サスケはもう腹を決めてしまったのだから。

愛だの恋だのはサスケにも良く分からないが、ナルトは自分の側から失くせない。
それさえ分かっていればそれで良い。

大体、うちはの復興を手伝いたいとか宣うなら、わざわざナルトが誰かを仕込まなくとも、母から直接サスケの家の味を仕込まれたナルト自身がサスケの嫁に来てしまえば、色々と手間も省けるのだし。
第一、三代目には既にそのように話を通したし、ナルトの父親に縁深かった担当上忍にも話を通した。
九尾を制するのに、うちは以上の適任も無いのは周知の事でもある。
それ故の下らない懸念は、これから叩き潰せばいい。

いざとなれば、ナルトを連れて里を出るまでだ。
ナルトの話通りなら、その時は兄も力になってくれるに違いない。
ただ、ナルトだけがサスケの意向を全っっっく気付いていないけれど。
一族所縁の武器屋にまで連れて行ってやったというのに。

じっと意識を無くした血の気のないナルトの顔を見つめていると、青い顔でサスケとナルトを伺っている同期連中と、頬を赤らめて自分を見つめているうずまき一族の血を引く女に、ふと思い立った。
そして、役に立たなかった木偶の坊の存在も。
そう言えばこの男はナルトの名付け親だったか。
ならばこの男にもサスケの意を知らしめておかねばならないだろう。

腕の中のナルトの顔にサスケは視線を落とす。
見慣れたはずのナルトの顔なのに、生きてナルトがここに居ると思うだけで、意識の無いナルトの顔が、酷く可愛らしく見えた。
日に当たると金の色を浮かび上がらせる赤い髪も、円やかな線を描く頬も、額も、ナルトを形作る何もかもがだ。
思わずそっと額に口付けを落とす。

声無き悲鳴が同期連中に走ったのを感じつつ、心からの安堵を漏らした。

「こいつがここで死ななくて、本当に良かった…」

もう、二度と、ナルトを死なせかけないと誓った筈なのに。
また、サスケはナルトを傷付ける事を許してしまった。

ナルト自身、素直にサスケに守られてくれるような玉ではないのは分かっている。
放っておけば、何処に飛んでいくか知れたものではない。

失わなかった安堵を感じながら、再びそんな状況を作る事を許した自分に対する憎悪と、そんな状況を許す世界に対する苛立ちにサスケは暗く思った。

力が必要だ、と。

ナルトを守り、ナルトをサスケから奪わせない圧倒的な力だ。
その為に、これからサスケはどうすれば良いだろう。

グツグツと煮え立つ思いを感じながら、もう一つ、思う。
ナルトを危険から遠ざけて大人しくさせて、サスケの言うことを良く聞くようにさせるには、どうするのが一番効果的か、と。

忍を辞めさせるのが一番だが、現状、それは不可能だ。
暁とかいう、兄が属している組織に、ナルトは九尾目当てで狙われている。
そしてナルトが既に九尾の人柱力である以上、ナルトの生に平穏は無い。
サスケにもそれは分かっている。
しかし、許容は出来ない。

ナルトは本来、争い事が嫌いだ。
女なのだから当然だ。
可愛らしい物や綺麗な物に目を輝かせても、決してそれに触れたり、手折ろうとはしない甘い奴でもある。
徹底的に忍には向いていない要素ばかりを、本来のナルトは持ち合わせているのに。

ナルトの腹の中の九尾のせいで、ナルトは忍として生きざるを得ない。
そして、人が生きる為には、理由が必要だ。

サスケにはそれが良く分かる。
だからナルトの憎悪も理解できる。
そして、それもまた気に入らない。
何も考えずに笑っているのが、ナルトには似合うのに。

せめて大人しくサスケに守らせてくれれば良いのに、ナルトはサスケに頼ろうとせず、ナルトこそがサスケを護ろうと動いてくる。
その気持ち自体は、まあ、悪い気はしないが、サスケにだって、男としてのプライドがある。
何より、無意識にナルトがサスケを頼りにならないと断じているようで不快だし、気に食わない。
ナルトの境遇故に自立心が強い事を差し引いても、やはり面白くない。

ナルトにサスケは男だと認識させるには、やっぱり、はっきりとサスケの嫁に来いと告げてしまうのが良いのだろうか。
その方が色々と手っ取り早いだろうし。

だがしかし。
それにも一抹の不安が過る。

色々と自覚に乏しいナルトは、際どい事をあっけらかんと口走り、そんなナルトに、サスケが自分とナルトの性別の違いから、ナルトが口走った事の際どさを自分で推し量れるように促してやったのに、きょとんとするばかりで全く意味を解していなかった。
どんな馬鹿でも理解できるように、ナルトとサスケは同性ではなく、異性なのだとはっきり伝えてやっていたのに。

あの時のように、ナルトに嫁に来いとはっきり言っても、全く伝わらないのではないかという懸念がどうしても消えていかない。
ナルトには、言葉ではなく、行動で理解させた方が良いのだろうか。
幸い、ナルトは、サスケとの肉体的な接触を好んでいるし。

だが、サスケは婚姻前の男女が同衾するのは問題だと思うし、血継限界を宿すうちは一族として、その様に教え込まれている。
ナルトが同性であるのなら、ナルトのサスケと同衾したいという下らなくて他愛ない子供じみた幼い願いを、サスケの気が向けば叶えてやるくらいはやぶさかではないと思わないでもないが、あいにくナルトは男ではなく女だ。

そしてサスケは、血継限界をその身に宿す一族の生き残りだ。
サスケとナルトが同衾するのなら、ナルトはサスケの嫁になるしかない。
ナルトをサスケの嫁にすると決めたのは、それだけが理由ではないけれど。
誰かにナルトを奪われる事があるなど、今更耐えられる訳がない!

ナルトは自分で物事を考える頭が無い訳ではないのに、時折こういう重要かつ大事な事を見落として、自分の行動の結果を軽視するきらいがある。
だからこそろくすっぽ物を考えず、能天気に女のくせに男であるサスケにすり寄って来ているのだろうが。

そういう所は悪くないと思うし、出来るならそれは、サスケだけが知っていれば良いと思う。

なのに、ナルトはサスケの気も知らず、ふらふらと危険に身を晒してまた死にかけた。
意識の無いナルトを抱き抱え、愛おしむように頬を撫でながら、サスケは改めて思った。

力が必要だ、と。
ナルトをサスケに縛り付ける力もだ。

ナルトは自分から、サスケから離れる気はなさそうだが、うっかり離れようとする事があるかもしれない。
だって、ナルトはこうしてまた、サスケの前で死にかけた。

うちは一族の証である瞳を不穏に光らせて、じっと腕の中のナルトだけを見詰める。
そんなサスケの姿に、誰も声をかける事が出来なくなっているなど気付きもせず、サスケは腕の中のナルトを見つめ続けた。 
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