八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十五話 夏の終わりの海その十四
「食べたことがなかった」
「やっぱりそうですか」
「特に私は砂漠の方に住んでたから」
オーストラリア中央部だ、この国は砂漠地帯も多くてそちらの自然もまた独特だと聞いている。
「余計に」
「そうなんですね」
「羊、牛、豚、鶏」
この四種類だというのだ。
「主に食べているのは」
「オーストラリアらしいですね」
「そう、特に羊」
「マトンとかラムですね」
「そう、どっちも好き」
マトンもラムもというのだ。
「それでよく食べているけれど」
「お魚はですか」
「あまり食べないというか」
「殆どですね」
「食べたことがなかった」
日本に来るまではというのだ。
「お刺身もなかった、ましてや蛸は」
「なかったんですね」
「見たこともなかった、それに」
「それに?」
「人を襲うって言われて子供の頃怖かった」
「ああ、ミズダコですね」
人を襲う蛸と聞いてだ、僕はすぐにこの蛸を思い出した。
「あの蛸大きいですからね」
「海で人を襲って殺すこともあると」
「それ日本人の殆どが知らないことなんですよね」
図鑑を読んでもそんなことは一行も書かれていない、他の蛸と同じく全長とどう調理したら美味しいかが書かれているだけだ。
「あの蛸が人を襲うって」
「そうね」
「食べものとしか思っていないです」
これが大抵の日本人だ。
「ミズダコも」
「そうなの」
「はい、もう完全に」
「そんな怖い蛸がいても」
「簡単に捕まえられますし」
日本人にとってはだ。
「タコツボ海に入れて」
「それでなの」
「はい、銛とかで捕まえるより」
あえてそこまでせずともだ。
「簡単に捕まえられて」
「食べるのね」
「そうしますから」
「ミズダコも怖くない」
「そうなんです」
「そうなの、けれど私怖かった」
蛸がというのだ。
「海にそんなのがいるのかって」
「私は子供の頃から見ていましたが」
ジョーンさんはこうだった。
「実家の近くに海もありましたので」
「それで潜ったりして」
「実際に見ていましたわ、ですが」
「食べようとはなんだ」
「思いませんでした、ですが」
『日本に来てだね」
「いざ食べますと」
その蛸をだ。
「美味しかったですわ」
「たこ焼きもだね」
「はい」
まさにという返事だった。
「蛸のお料理の中でも一番でしたわ」
「そこまでいいんだ」
「ですからこれから行く屋台も」
そこのたこ焼きもというのだ。
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