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Sword Art Online 無限の剣製

作者:Drake
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プロローグ終

 
前書き
プロローグ長すぎませんかこれ。
いやまぁでも無駄だと思う描写とかしんじの存在とかのちのち絡んできたりするんでそこんとこお願いします。
 

 
「ソードアート、オンライン?」

 どこかで聞いたような単語を、聞き返す。

「そうだよ。いくらゲーム音痴の衛宮でも、きいたことぐらいはあるだろ?」

 目の前のソファに座り、優雅に紅茶を飲む男の名は間桐慎二。
 慎二には今日のお昼頃、昨日の遠坂の話を聞いてもらっていたのだが、話しが斜め上の方向に進んだため、

『だったらうちにきなよ。それだったら、聞いてやるからさ』
 
  という言葉に、甘えさせてもらったのだが。
 間桐家の居間に座らされ、桜とお爺さんの訝しい目を我慢した結果の第一声は、ソードアートオンラインという名のゲームの話だった。

「まぁ、一応、は」

 ーーーーーーーーーあぁ、そうだ。思い出した。
 昨日の遠坂との一連のやり取りの、一番最初に話していたのが、ソードアートオンラインだった。

 「あれだろ?VRMMOとかいう仮想世界に飛び込む新時代のゲーム、だとか」

「うーん......。ま、一応正解ってとこかな。ていうか、なに?むしろその程度の知識しかないのかよ」

「そうだな。これぐらいしか知らない」

 結局、遠坂から詳細な話も聞いていなければ、なぜソードアートオンラインの話を出してきたのかも聞いていない。

「衛宮ってなんでそんなゲームに興味とかないわけ?」

 慎二が本当に不思議そうに訊く。

「は?......いや、ゲームに興味がない、って訳じゃないんけど、なんだろ。お金を出してまでやりたいかって言われたらなぁ」

 そんな慎二の疑問に、真面目にこたえたはずなのに、 

「ーーーーーーーーーーーッは!これだから貧乏人は困るなぁ!!」

 唐突にとてつもない罵倒をしてきやがった。

「慎二。親しき仲にも、礼儀ありってもんだぞ」

「うるさいなぁ!これだから貧乏人は困る!!」

 慎二はソファから立ち上がり、ティーカップを持ち、腰に手を添え、目線は俺を見下し、

「これっっだから貧乏人は!!!」

 完膚無きまで罵倒された。
 なんだこいつ。貧乏人に親でも殺されたのだろうか。

「慎二、いいから落ち着けよ」

「落ち着けぇ?これが落ち着かずにいられるかよぉ!!」

「頼むから落ち着け。桜と爺さんがとてつもない目で見てるから」

「知ったこっちゃないねぇ!なぁ衛宮ぁ!?」

 あるんだよ、知ったこっちゃ。
 
慎二はその後もふははははっ!これだから貧乏人はァ!!と言いながら、居間を出ていく。
おい、当然かのように出ていくな。せめて桜と爺さんも連れていけ。

「ふははははっ!」

 声がここまで聞こえている。丁度、2回につづく階段のあたりだろう

「ふぅぅははは!」

 桜の部屋の前辺りだろうか。

 「ふっはは!」

 あ、今慎二の部屋の前だな。

「貧乏人がぁ!!」

 あれ、またすぐに声が近くなったぞ。
 桜の部屋の前か?

 「まったくこれだからぁ!!」

  .........居間に続く階段辺りだな。
 おい、なにしてんだよ慎二。

「貧乏人は困っちゃうよねぇ!!」

 最後に居間のドアをバンッ!と蹴り開け、慎二様がご帰還なされる。ほんと、なにやってんのさ。

「それじゃ、俺は桜と爺さんの視線と、お前が持ってるものが怖いんで帰るな」
 
 じゃ、と手を振って居間から出ようとする。

「まぁ待てよ衛宮。今晩は泊まってけ」

 しかし、手に持っていたなにかをソファに置き、瞬足で駆け寄ってきた慎二に、肩ではなく両耳を握られる。手や腰、お腹ならまだわかる。耳て。
サイコパス甚だしい。


「えっと.........、慎二くん?」

「なんだい、衛宮」

「俺達、友達だよな?」

「友達って、素晴らしいよな」

「南無っーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーえ?」


 慎二の言葉を聞いた瞬間、本能的に逃げることを選んだ俺の体は、動かなかった。
 俺が両耳に気を取られているうちに、第2の刺客であり、慎二の妹であり、我が愛しの後輩でもある間桐桜が、屈んで、ガッチリと俺の両足首をホールドしていた。

「先輩、泊まっていってくれるんですか?」

 桜は上目遣いで、潤んだ瞳になりながら、声を震わせていた。いや、桜が屈んで俺の両足首をホールドしているのだから、上目遣いになるのはごくごく自然なことなんだが。

「それにしても慎二」

「なんだよ、衛宮」

「随分と趣味がいいじゃないか」

「衛宮、泊まっていってくれるってさ、桜っ!」

「お、おまっーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーとんでもないことを言う慎二に文句を言う暇なんて、俺には残されていなかった。

「本当ですか!?あ、それならわたし今晩は腕によりをふるいます!なにがいいかなぁ中華?洋風?でもせっかく先輩が泊まるんだから、和風がいいかなぁ。あ、でも先輩このところずっと晩御飯は和風ですよね?それならいっそのことスパイスをふんだんに使って煮込んだカレーっていうのもいいですね!」


「お、おい、桜......」


「肉は何がいいんでしょう?豚?鳥?それともやっぱり定番の牛にします?あ、そういえば先輩カレーは豚のブロック派でしたね!それなら脂の量が多くてコッテリになりすぎちゃうんで、サラダを多めに作りましょう!種類も2、3個ぐらい!どうせならドレッシングも自家製で行きたいですよね!あ、お客様の先輩に手伝わせてしまうのは申し訳ないんですけど、ドレッシングだけお願いしたいかなぁって。そっちの分野だと、本当にわたしはまだまだ先輩の足元にも及んでいませんから」

可愛い後輩に使う言葉じゃないんだろうけど、あえて言わせてもらう。

狂気を感じる。

「あ、でもスパイスに関しては任せてください。こう見えてわたし、最近結構勉強してるんですよ?いつか先輩に香辛料をふんだんに使った料理を食べさせてあげたいなぁなんて...って、やだわたし何言ってるんだろ。ううんじゃなくて、料理の話ですよね!カレーとサラダだけって少し味気がない気もするんですけど、でもやっぱり一般家庭ってそんな感じですよね!あ、そういえば先輩しってます?関西の方ではカレーに生卵を入れたりする風習があるみたいですよ?ありえない、って思うじゃないですか?これが案外いけるらしいんです。カレーにチーズ、なら定番なんですけど、先輩はカレーにアレンジとか加えるタイプですか?あ、でもやっぱり最初は普通に食べるのがベストだと思うんです!カレーて何日かにわけて食べるじゃないですか?だからこそ、初日はノーマルに食べて、二日目からいろいろ試せばいいと思うんです!あ、それとですね.........」

 気がつけば、俺の両耳はフリーになっていた。後ろを振り向く。

「ふんふん〜♪」

 俺の友人であり、今俺の足元で呪詛か何かを唱えている女の子の兄は、ヘッドフォンを装着し、先ほど持ってきたなにかをスリスリしていた。

後で絶対にしばく。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー足元で未だ呪詛を唱え続けている桜が収まり、食材を買いに行き、間桐邸で風呂に入り、晩御飯を頂き、桜を寝かしつける頃にはもう、丑三つ時になっていた。





















「で、ずっと説明がなかったこれは一体なんだ」

 深夜2時の丑三つ時。
 やたらとテンションが高かった桜に付き合い、トランプやテレビゲームや人生ゲームなんかをめっきり5時間ほど体験している間ずっと傍らにあった、2つのヘルメットらしきもの。
 その説明を、ようやく受けれるような状況になった。

「あぁ、これ。 やっぱ貧乏人にはわかんない?」

 何時間も前のネタを、まだ持ち出してくる慎二。

「いやいいからそういうの。説明してくれ」

 俺が怒気を孕めた声でそう言うと、渋々と言ったように、また、ようやく話せるとでも言いたげな声で、慎二は語り出す。

「この2つを衛宮はどうせヘルメットみたいなもんだと思ってるだろうけど、こいつはそんな、頭を保護するような物とは真逆の代物だ」

 急に口調が変わり、真剣モードに入る慎二。どことなく腹が立つ。

「名前は《ナーヴギア》」

「ナーヴギア...?」

 なんだ、それ。

「仮想世界。VR端末。.........っておい、さすがにバーチャルリアリティって言えばわかるよな?」

「あ、あぁ...バーチャルリアリティでVRか」

  すまん慎二、本気でそのへんのことには詳しくないんだ。
 ゲームなんて遠坂と藤ねぇと慎二がうるさかったからインストールしたパ〇ドラぐらいしかしてないし、家庭用ゲームなんて、それこそ慎二の家に来ないとやらないもんだ。

「衛宮って、科学の文明が異様に発達したここ数10年にいきなりタイムスリップしてきた90年代みたいなやつだよな」

 俺の情けないまでのゲーム情報を、そんなふうに揶揄する慎二。
仕方がないだろう?趣味なんてないんだし、あったとしても...............いや、弓道は部活でやってただけで趣味ではないな。

「まぁいいや。話を戻すけど、こいつの名前はナーヴギアって言って、要は被ってスイッチ入れたら別世界に行けるってことだよ」

 「説明が急におざなりだし、それだけ聞くとやばい薬に思えるな......」

 「衛宮はどーせしょっぼいVR空間をただ《視る》だけだと思ってるんだろうけど、こいつは、そんなものとは違う。世界に、《入り込む》んだ」


俺の話なんて全く聞いていない慎二は、目を輝かせて語る。
でもそんな慎二は相当に珍しいので、うんうんと頷いて話を聞く。

「まぁ物は試しだな。被ってみろよ」

「今まさに慎二の話を最後まで聞こうと思ったところなんだけどな...」

まぁいいや...。
慎二に口を出すと、いかんせん長くなるし。省いてくれるのであれば、僥倖と言えよう。

「で、これ被ればいいのか?」

そう言い、返事も聞かぬ間に慎二に渡されたナーヴギアを被る。

「衛宮がこれからやるゲームはナーヴギアにデフォルトでついてる体験版みたいなやつだから。世界に入ってあとは存分に楽しめよ」

「待てよ慎二...。世界に入り込む薬をくれ。目の前が真っ暗なだけで何もかわりがない」

「はぁ?...いや、ナーヴギアもわからないんじゃ、知らないのも当然か」

慎二は大きなため息をつくと、リンクスタートだ、とだけ言う。

瞬間、不思議と背筋に緊張が走る。
どこか気が引き締まるような感覚。

俺は、正体不明のその感覚に気づかないフリをする。
気付かないフリをして、唱える。




「リンク、スタート」




その言葉を口に出した瞬間、突然に、なんの前触れもなく、ソレは起こった。








ーーーーーーー眩い光の螺旋階段。








俺はそれを、登っている?
よく、わからない。


ぼろぼろの体で
傷つきながら
血を流し




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー見れば、俺の体には、無数の剣が突き刺さっている。






ーーーーーーーーーーーーーー慎二の声が聞こえる。

「衛み......かぇ...ぐしょ......」


しかし、慎二の声は、風の音にかき消される。

.........風?

まるで、誰の侵入も許さず、階段を上るのを拒むかのような突風が、気づけば吹き荒れていた。



俺はなぜ、のぼるのか。


痛みはない。
ーーーーーーー当たり前だ。

俺は座っていたはずだろう。
ーーーーーーーそんなわけがない。

ここから先は進むな。
ーーーーーーー絶対に嫌だ。

幾度の衛宮シロウの声がこだまする。
自分は、何者なのか。
自分は、どこに行こうとしているのか。

こののぼる階段の先に、なにがあるのか。




知りたい。

知りたい。



遠坂ではなく。

桜でもなく。

イリヤでもなく。


ほかの、誰でもなくーーーーーーー。






「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーそんなもの、有りはしない。」

声が、聞こえる。ゲームであることはとうに忘れていて、
全ての意味が、わからなかった。

「そんなもの、どこにも、有りはしない。」

その声は、俺を否定する。
今わかるのは、今起こっているすべての出来事を、今の衛宮士郎は知らないということだけ。

「求めるだけ無駄だ。ソレは貴様ではたどり着けない。」

俺は、気づかないふりをする。
登り続ける。

「この先に何があるか。何が待っているか。お前はそれを、知ることも出来ない。」

気づかない。
登り続ける。

「なぜ進む。止まらない。」

気づかない。
登り続ける。

「なぜ追い求める。ナニを追い求める。」

気づかない。
気づいてやらない。
なおも登り続ける。


「それは、お前には過ぎた夢だろう!」


.........。
さっきとは打って変わり怒気をはらんだその声に、歩みを止める。

「ありったけを持ってしても届きはしない!過ぎた望み、最初から壊れた、ただの幻想!」

......黙れよ。
ーーーーーーー1歩を踏み出す。

「醜い欲望!それをぶつける、価値のない眩いだけの光!」

ーーーーーーーまた、立ち止まる。
それ以上先は、許容できない。
衛宮士郎を構成する部分の否定は矛盾へと繋がる。
その矛盾を容認してしまえば、きっと俺は壊れてしまう。

いや、そんなもの、本当は関係ない。
なのに、なぜ?



「お前が命を賭して求めるものではない!なのに、なぜ!!」



「ーーーーーーーーーーーーーーうるっせぇ!!」


全力をもって、風を、押しのける。
握った拳に爪がくい込んで、血が出ていた。




そうだ。
知らないだなんて、そんなことはない。







全て、わかっていたことだった。









衛宮士郎にとって、なにか一つを得ようとすることは、破滅を招くことだと。

衛宮士郎は、正義の味方でなくてはならないこと。



ーーーーーーーーーそれでも、

あぁ、そうか。
わかった。

ーーーーーーーーー俺は、




「あそこにーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー辿り着きたい」







手を伸ばす。
吹き荒れる、風の向こう側に。
一歩を踏み出す。
荒れ狂う、困難の果へ。

「求めた景色。 無力な自分。 抱いた理想。叶わない夢。」

声が、遠ざかる。

「証明してみろ。」

背筋が、伸びる。

「あぁ、約束する」

問答になっていない。

「必ず取り戻せ。」

約束にもなっていない。

「たどりつく」

それでも、

「あぁーーーーーー、」

それでも、その男は。


「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー任せた。」



瞬間、安心したように、存在が消える。
もう声は感じられない。

風はやまない。
階段は終わりが見えない。

それでも、確かに託されたものがあった。
存在は感じられなくとも、確かに存在したことは感じられる。


生まれて17年、そんな言葉は使ったことがなかったはずなのに。
今は、まるで、生涯にわたり呟き続けた言葉のように思う。

おそらく、これこそがやつの存在。
この言葉こそ、やつの生涯。

さぁ、証明してみろ、俺。
やつの存在を、生涯を、

背負って生きる。

血塗れた道、果てしなく遠い道。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー失った、アイツを取り戻すための道。





「体は剣でできている」










































目の前に広がるのは、荒れ果てた、高野。最初に感じたのは、小さな疑問。


「なん...だ、...?」



見渡す限り、無数の剣が地面に突き刺さり、



「...どこだ、ここ」



空には無数の巨大な歯車が連なっている。


夥しい程の鉄の臭いが、この世界中にひろまっていた。
胃の中の物すべてを吐き出せと言わんばかりの、悪臭。
鉄の臭い、血の臭い。

体の中のすべての臓物が混ぜっかえりそうになる。


「あぁ......くそっ」


まず、状況を整理しよう。

ここはどこだ?

ーーーーーーーーーーーーーーーいや。
そんなことはいくら考えても無駄か。
剣が刺さりまくった高野なんて、現実世界で聞いたことがないし、第一、空に浮かぶあの歯車はなんだってんだ。

慎二は体験版みたいなもんだって言ってたが、なにがなにやら、さっぱりわからん。
まぁ確かに、現実と言われても疑わない、リアルな世界だとは思う。
体は自分の意思のまま。ラグなんて存在しないし、目だってしっかりと機能している。

なにより、呼吸が辛い程のこの臭い。素直にすごいと思う。
ほんのひとにぎりの違和感さえなくなれば、現実世界と見分けがつかなくなりそうなほどに。

だが、しかし。
これははたして、ゲームなのだろうか。
俺のゲームへのイメージってのは、こう、なんていうんだろ。

モンスターとド派手な魔法とかを使ってドンパチするのを勝手に想像してたんだが。

......いや、待てよ。そういや前に美綴が

「なぁなぁ衛宮。アンタこのゲームやってない? 洞窟探索手伝って欲しいんだけど」

みたいなことを言ってたきがするな。
国内ダウンロード数上位の大人気ゲームだとかなんとかとも言ってたきがする。

ふむ、この体験版も、そういった探索型?のゲームなのかもしれない。

「とは、言ってもなぁ...」

辺りを見渡す。

「............」

どこを見ても、景色は何キロ先まで変わることなく、担い手のいない剣で埋め尽くされている。

そのひとつひとつをよく見ると、剣のディティールが、なんとまぁなかなかしっかりしている。

「ほぅ」

いや、ほんとに現実でありそうだな、と素直に感心してしまう。
慎二が奇声をあげてまで体験させてくれたせっかくのバーチャルリアリティなのだから、少しは楽しむとしよう。
そう思い、俺は大量にある剣の一つから、西洋風の馬鹿でかい剣に目をつける。

「お、」


簡単に地面から抜くことが出来た。
そのまま、片手で、難なく持ち上げ、肩に担いでみる。


「へぇ...」

思わず関心の声が漏れる。
柄の部分は少しザラザラしていて、大昔のグリップなのかもしれないと思わせるような加工が施されてあった。

あまりのリアルさに少し感動してしまった。

俺は馬鹿でかい西洋風の剣は丁寧に元の場所にさし直し、今度は少し歩いて日本刀らしきものを見つけ、引っこ抜く。

「おおっ」

刃渡り60cm程の刀を振り回す。
ゲームの世界なのだから剣が軽くても違和感はないのだが、この日本刀のようなものは、先程の西洋風のものより、圧倒的に軽かった。

あぁ、確かにさっきの剣も楽に抜いて振れてはいたが、なるほどこっちの剣と比べると違いがよくわかる。
西洋風の剣はブゥン。
日本刀らしき剣はフォン。
みたいな感じ。

「.........ふぅ」

俺はひとしきり剣を見て回ると、小高い丘に腰掛けた。......丘と言っても、剣がささりまくって殺風景なことにかわりはない。
相変わらずの悪臭に頭が痛くなるような錯覚はあるが、しかしそれを差し引いてもなかなかにロマン溢れる世界だった。

西洋風やら日本刀らしきやら、俺の知識が少ないせいで幾分か曖昧なのは勘弁してもらいたいのだが。
しかし、なんだろう。
知識が少ない上に、興味も特にないし、あまりゲームもしない俺なのだが。
しかし、それでも。

見渡す限り、無限に広がる剣の1つ1つには、本来いたであろう担い手の想いのようなものが再現されている、と、感じた。
あくまで、無趣味人間が直感的に感じたものなのだが。

「いや、それにしても、どうすればいいんだ、これ」

そう、確かにこの世界は凄い。
空一面を覆い尽くす巨大な歯車群、見渡す限りの地面に余すことなく突き刺さっている剣。それにこもる、担い手の想い。......のようなもの。

確かに、すごいんだが。
正直なところを言うと、俺はすでにこのゲームの世界に飽きていた。
探索型のゲームなのかと興味ついでに剣を触ったりしていたものの。
なんにも起こらない。
あるのはただの悪臭。
あるいは、謎の嫌悪感。

理由はわからない。
だが、衛宮士郎の直感が告げている。


ーーーーーーーこの世界に、長居はするな、と。

「あぁ、ダメだ、しっかりしろ」

あからさまにそう呟き、頭に浮かんでいる不安を忘れる。
頭が、痛い。

「くそ、慎二のやつ。ろくに説明もしないで」

この頭痛はきっと、慣れないVR体験によるものだと、自分に言い聞かせる。
そうでもしないと、この世界に充満している悪臭......、いや。

それこそ、嫌悪感とでも言うものに、飲まれてしまいそうだった。
長居は、したくない。
この殺風景な世界も、臓物に響く悪臭も。
きっと全てが不快なんだろう。
けど、俺が抱いてる、この謎の嫌悪感の正体。
いいや。

この世界に入って最初に感じた、違和感。


言葉に出来ない、居心地の良さってやつだった。


そう、俺はこの世界を悪くないと思ってしまったんだ。こんな悪臭蔓延る殺風景な世界。
こんな世界を悪くないと、居心地がいいと、そう思ってしまったことが、不快だった。

空に、手を伸ばす。

開いた手を振り回せば、あの不可解な、謎に満ちた歯車を、この世界から盗み出せそうなきがした。

でも、それはきっと、しちゃいけないことだと感じた。

「なに、考えてんだ」

この世界にきて何度目かわからない独り言をこぼす。
誰にも届かない言葉。

でも、今は誰もいない、誰にも聞かれない、届かない。そんなこの世界に少し、感謝していたりもする。

「あぁーーーーーーーーーーーーーー」

ダメだ。
考えがまとまらない。さっきから俺は何を思っているんだ。
何を考えているんだ。
全てどうでもいいことのように聞こえるくせに、しかし、忘れてはいけない、重要なことのようにも思う。

頭の中がこんがらがって、何を思って何を感じればいいのか、わからなくなっていた。

いや、そもそもそんなことを頭で考えてる時点で、相当おかしいな。

無限とも言える、剣を眺める。
地平線の先まで続く、無数の剣。
担い手は、いない。

士郎はふと、そんな無数の剣の中に、1つ気になるものを見つけた。

小高い丘から、少し離れた位置。
金色に輝く、何かを見つけた。

さっきまで、そこにあっただろうか、とか。
なぜ、あれだけ輝いてるのだろうか、とか。
そんな疑問をおしのけ、立ち上がった。
最初は足元を確認するかのような速度で。そして小走りに。

しかし、次の瞬間には駆け出していた。

近づく度に頭が痛くなり、吐き気がした。
何度目の違和。何度目の疑問。何度目の謎。
この世界から早く抜け出したい。
あそこに辿りついて、あの金色に輝くーーーーーーーーーーーーーー剣を抜けば、居心地の良さの正体、違和感の起源、とめどなく溢れてくる、感情の渦。
それらを全て、払い除けてくれる。そんな気がした。

「はっ...、はぁ」

辿りついた。
辿りついてしまえば、あっけないものだった。
乱れた息を整えた。
それからぐっと前を見据えて、剣に手をかけた。
碧い柄を握りしめる。
その瞬間、わかってしまった。
いいや、本当のことを言うと、これを見つけた瞬間からわかっていたのかもしれなかった。
光る何か、ではなく剣であること。
その剣を、見た瞬間抜こうとすること。
そして、どう足掻いても抜けないということ。
ーーーーーーーでも。

「おお...!」

理屈ではなかった。
いや、そもそも理屈などなかった。

あるのは、ただこの剣を、抜かなければならない気がしたというだけ。

「おお...うおぉおっ!!!」

野太い声をあげる。
柄を握る手に、更に力を込める。
右手だけでは足りない。なら、左手も使う。
柄と右手の上から握る。
あまりに強すぎる力に、肉体が耐えられていなかった。
右手が潰れた。左手は甲の骨が砕けた。
食いしばって砕けた奥歯が、口の中に突き刺さって、血の味が広がっていた。
肩の骨が使い物にならなくなった。
それに伴い、手に、腕に、力が 入らなくなった。


銀色に輝く刀身に映る顔は、酷く醜かった。

でも大丈夫。
まだ大丈夫。

なぜなら、この体が砕けようと、意志は変わらない。抱いた理想も変わらない。
本音は曲げられない。自分勝手を止められない、
ーーーーーーーあの女の子は、助けなければはらない。























魔術回路はまだ、死んでいない。











「トレース、オンッ!!!」



ーーーーーーーーーーーーーうちなる力をもって、損傷部位を補強する!!


足は地面に張り付き、砕けた手の甲、肩の骨にコンクリートを流し込む。
それを“強化”で固める。そんなイメージ。
握った手のひらの血は、いつの間にか止まっていた。

剣は、まるで士郎を受け入れるかのように、輝く刀身を顕にした。
一瞬だけ全身に巡った“力”は、最初からなかったかのように消えていた。
あるのは輝く剣と、それを握る自分だけ。

「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

体の至るところが軋んでいることが手に取るようにわかった。
さっきまで帯びていた熱のような物は既に消えていた。
その代わり、今度は予感がした。
ゲームというよりは、まるで夢だ。
脈絡や情緒、道程や過程。
そこに至るまでに起きる道すがらの出来事すべてに意味がなく、すべてに意味がある。
そんなふうに確信していた。

「ーーーーーーーーーーーーーそっか」

深いため息をつく。
いつしか周りの景色は花畑に変わっていた。
どこまで続く青い空。彼方まで生い茂る芝生や花。
風の音が妙にくすぐったくて。
あまりにも綺麗すぎて。
さっきまでの場所とはあまりにも違いすぎて。
ここは俺が立っていていい場所なのかと、背中が少しソワソワしてしまう。

「ーーーーーーーーーーーーーここに辿り着きたかったんだよな」

誰に向けてでもない言葉を漏らす。

「きっと辿り着く」

また、約束をする。

「だから、もうちょっとまってろよ」

誰かが頷いた気がした。

さぁ、そろそろ行こう。





















「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」




「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」






「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」



「ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーなかなか勇気のある小僧ではないか」



物事に干渉するのが大好きな老人は、暗い部屋で1人、透かした石のその先に写る男をみて、呟くのであった。




 
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