儚き想い、されど永遠の想い
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460部分:第三十六話 遂に来たものその一
第三十六話 遂に来たものその一
第三十六話 遂に来たもの
三月になった。その春にだ。
そのことに義正は心から喜びだ。こう兄弟達に話した。
四人で支那料理を店で食べている。だが普通の支那料理ではなくだ。かなり豪奢で紅い丸い席に四人で座りそのうえでそれを食べていた。
宮廷料理だ。だから普通のものとはまるで違う。その家鴨の料理を食べながらだ。
彼はだ。こう言ったのである。
「遂にですね」
「春か」
「春が来たな」
「ようやく来てくれました」
春から来たとだ。兄達に答えた。
そうしながら家鴨の焼いた皮を小麦粉で作った皮で細長く切った葱と共に包んで食べつつだ。そうして今度はこうしたことを言うのだった。
「本当に待っていました」
「待ち遠しかったのですね」
「これまでの春よりもね」
妹の義美に対しても話すのだった。
「本当にそう思ったよ」
「一年と言われていたな」
「お医者様には」
義愛と義智はその期限から話す。
「しかしそれでもだな」
「一年は過ぎたな」
「はい、過ぎました」
そのことにもだ。笑顔で答える義正だった。
そしてだ。家鴨料理と共にある海鮮ものをふんだんに使ったものも食べつつだ。そのうえでこうしたことも笑顔で言ったのである。
「この三月を越えて」
「そうしてだな」
「四月に」
「桜です」
最後の目的、それをだというのだ。
「桜を観ます」
「本当に間も無くですね」
義美は豚バラを柔らかくまで煮たものを食べている。
それを食べつつだ。兄に笑顔で話すのである。
「桜までは」
「あと一月」
義正はこの時を述べた。
「ほんの一月です」
「そうだな。一月だ」
「あと僅かだ」
兄達もまた言う。
「それだけだ。そうして」
「桜を。三人でか」
「見ます。その桜を」
桜を思い浮かべながらの言葉だった。
「そうしますので」
「よし、それならだ」
「目指すことだ」
これが兄達の彼への言葉だった。
「いいな、それでな」
「桜を見るんだ」
「そうさせてもらいます」
義正も兄達に応える。そしてだ。
義美もだ。兄に言うのだった。
「桜にです」
「桜に?」
「はい、桜の前には何を御覧になられますか」
妹が兄に今問うのはこのことだった。
「それはどうされますか」
「桜の前にか」
「はい、桜が咲くのは三月の末からですね」
「うん、それまではまだ時間があるね」
「ではそれまでの間は」
何を見るのか。それを兄に問うのだった。
「どの花を御覧になられますか」
「梅を考えていたけれど」
義正はこう義美に答えた。
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