儚き想い、されど永遠の想い
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459部分:第三十五話 椿と水仙その十
第三十五話 椿と水仙その十
「ですがその弱さを知り」
「そうしてですね」
「優しくなれるのだと思います」
「そして人に優しくなれるのは」
「強さだと思います」
完全にだ。その二つは一つとなっていた。真理はそう言ったのである。
「それこそがです」
「まずは弱さを知ることですか」
「この水仙達は一見すると小さく」
「はい、とてもですね」
「弱いです。実際に弱いでしょう」
小さく何の歯向かいもしてはこないのはわかっている。それならばたというのだ。
「ですがそれでもです」
「こうして香りは強く」
「そして優しいですから」
真理はその温かい目で話す。
「人もまた、です」
「強いからこそ」
義正もだ。真理の話を受けてから言った。
「人に優しくできますね」
「そう思います」
「強くなるにはまずその弱さを知る」
これは何かというとだった。義正は話した。
「企業にしてもです。その弱点を知りです」
「そうしてですね」
「その弱点を克服して。人の心の弱さもですね」
「そうして克服して」
「強くなれますね」
二人で話すのだった。そうしてだった。
二人で水仙達を見る。その花達を見ながらだ。
真理はここでもだ。我が子を見て話した。
「この子にもそのことを知ってもらいたいです」
「弱さ、そうしてですね」
「強さと優しさも」
この二つ、それをだと話す。義正もまた。
そうしてだ。真理に話すのだった。
「そうしてこれから生きていって欲しいというのですね」
「この一生を」
こう話しているとだ。少しずつだ。
上から雪が降ってきた。そうして白い花に緑の葉、青の水に落ちていく。
銀色のそれが少しずつ降ってくるのを見てだ。義正は真理にこう話した。
「もう少し観たいところですが」
「雪が降ってはですね」
「はい、お身体に悪いです」
真理のその健康を気遣っての言葉だった。
「そうしましょう」
「ではですね」
義正がまた言う。
「今はですけれど」
「屋敷にですね」
「はい、帰ってそうして」
「どうしましょうか」
「本を読みますか」
義正が今言うのはこれだった。
「そうされますか」
「本をですか」
「詩集はどうでしょうか」
微笑みだ。それを勧めたのだ。
「その仏蘭西のです」
「仏蘭西の詩人のですか」
「日本語に訳したものを買いました」
「そしてその詩集をですか」
「二人で読みましょうか」
これが義正の今回の提案だった。
「そうされますか?」
「そうですね。それでは」
真理も笑顔で応えた。そのうえでだ。義正にこう問うたのである。
「それでどの詩人でしょうか」
「ランボーです」
その詩人のものだというのだ。そうしてだ。
彼に加えてだ。この詩人の名も挙げたのである。
「それにラディゲもです」
「ラディゲといいますと」
「御存知ありませんか」
「はい、どういった詩人なのか」
「ですがそれでもです」
読むといいと話してだった。三人でだ。
神社を後にしてだ。屋敷で詩集を読むのだった。そうしてその日を終えてだ。
それから時を過ごしていった。その結果だ。冬が終わろうとしていた。
その二月の末にだ。真理は笑顔で義正に話した。
「遂にですね」
「はい、冬が終わりますね」
「冬を越せました」
そのことにだ。笑顔になり義正に話すのである。
「本当に。奇跡ですね」
「一年と言われましたからね」
去年の冬に言われたことだ。しかしだった。
真理はその一年を生きた。そうして見えてきたものは。
「春、ですね」
「間も無くです」
「その春なのですね」
心から喜びだ。言う真理だった。
「その春に着けました」
「あと一ヶ月と少しです」
義正もだ。笑顔になり真理に話す。
「それを過ごされれば遂に」
「桜ですね」
「三人で見られます。その桜を」
「そうですね。ではです」
「それではですね」
「あと少しだけ頑張りましょう」
これが真理への言葉だった。今の義正のだ。
「桜まで」
「そうですね。本当に待ちに待った」
そのだ。桜の季節がもうすぐだというのだ。
そう話してだった。義正は外を見た。まだ外は寒く木に葉もない。それを見てだ。
彼はだ。こう話したのだった。
「今は何もありませんが」
「もう少しすれば」
「木に葉が戻ります」
それが即ち春だった。そうしてだ。
真理も外を見る。まだ何もない春をだ。真理は遂にだ。春まで生きた。だがそう思える中にだ。遂にそれが迫ってきていたのである。彼女に。
第三十五話 完
2011・12・1
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