儚き想い、されど永遠の想い
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447部分:第三十四話 冬の花その十一
第三十四話 冬の花その十一
そしてそのうえでだ。さらにこう彼女に話すのだった。
「生きる権利があり義務があります」
「では私は」
「医学から見れば難しいです」
そのことは否定できなかった。医師としてだ。
だがそれと共にだ。彼は真理に告げたのだった。
「ですがその御心ならばです」
「きっと、ですね」
「はい、貴女は生きられます。いえ」
「いえ?」
「生きなければなりません」
医師もまた強い声になっていた。そうしてだ。
真理にだ。今度はこうも告げたのだった。
「貴女は奇跡を起こさなければなりません」
「春まで生きて」
「三人で、ですね」
「そうです。貴女が仰った様に」
まさにだ。そうだというのだ。
そのことを告げてからだ。彼は真理の夫であり義正にも顔を向けた。
彼の顔、毅然としたものになっているその顔を見ての言葉は。
「そして貴方はです」
「妻をですね」
「はい、奇跡を共に起こして下さい」
「生きる、その奇跡をですね」
「奇跡は一人で為せなくとも二人ならです」
「そして三人ならですね」
「より容易に為せるのです」
そうしたものだというのだ。奇跡というものは。
「人は一人で生きるには限りがありますから」
「そうですか。三人ならですか」
「成し遂げられるでしょう。貴方も三人で春まで生きたいですね」
「はい」
その通りだとだ。義正はしっかりとした顔で答えてだ。
そうしてだった。その顔で医師に言ったのである。
「私は是非共です」
「奥さんを助けられてですね」
「共に生きます。春まで」
「桜を見るまで、ですね」
「そのつもりです」
「では奇跡を起こして下さい」
医師も真剣だった。そうしてだ。
今度は義正と真理の二人にだった。誓いを述べたのだった。
「私も。その力の限りです」
「協力して頂けるのですか」
「先生も」
「医術は仁術です」
かつて支那の医師華陀が言った言葉だ。その言葉を告げてだった。
「病に罹っている方を助けることが務めです。それにです」
「それに」
「それにとは」
「私も見たくなったのです」
ここでだった。医師の顔が微笑みになったのだ。
そしてだ。こう二人に言うのだった。
「お二人が起こす奇跡をです」
「それをですか」
「私達のその奇跡を」
「はい、お願いします」
こう話してなのだった。医師は。
二人に誓ったのだった。このことを。
「私はお二人に何があっても協力させてもらいますので」
「有り難うございます」
医師のその言葉を受けてだ。義正がだ。
静かに微笑みだ。その医師に述べたのだった。
「貴方の存在が。さらにです」
「奇跡をですね」
「起こしますので」
「ではまずはです」
医師は義正の言葉を受けたうえで、でだった。
彼にだ。こう話したのだった。
「奥様の御身体ですが」
「はい、そのことですね」
「やはりかなり悪いです」
このことを正直に話すのだった。ここでもだ。
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