FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
九つの星
前書き
週2回くらいの更新がちょうどいいかもしれないと思い始めている今日この頃。
ゆっくりと楽しみながらストーリーを進めていきたいと思います。
人気のない平野を急ぐ素振りも見せず歩いていく二人の人物。一人は白い髭と髪を揺らし、もう一人は黒い髪をなびかせながら歩を進めていた。
「ジェイン、着いたかしら」
「そろそろ・・・だと思うがな」
四天王を早々に破ったリュシーとオーガストは、先に妖精の尻尾へと向かったジェイコブのことを心配しつつ、足を進めていた。
「他は大丈夫かな?」
「奴等は問題ない。陛下のお眼鏡にかかった者たちなのだから」
「そう・・・ね」
人を殺めてしまったことで精神的にダメージを受けているリュシーは元気がない。オーガストは彼女のことを心配してはいたが、何と声をかければいいのかわからず、放置していることしかできなかった。
「はぁ、やっぱ広いわね、イシュガルは」
そこから離れた上空を飛んでいるのは銀髪の少女を持って自らの持ち場を後にした堕天使。捉えられた少女はいまだに意識が戻っておらず、自分がどこに連れられていくのか知らぬまま空を飛び続けていた。
「うおおおおっ!!」
「はぁっ!!」
しんしんと雪が降り積もる中、スティングを中心とした剣咬の虎と青い天馬の連合軍は敵の大軍の中へと飛び込んでいた。
「どうだ?グラシアン」
「・・・」
彼らは敵によって頭と体を引き剥がされた四つ首の番犬のメンバーを救いだし、せめて頭と体を同じ場所に埋めてやろうと考えていたのだが・・・
「・・・ダメだ。やっぱり足りない」
ほとんどの死体を救い出したのに、どうやっても数が合わない。四つ首の番犬の人数とも、体と頭の数も。
「奴等の目的は妖精の心臓だけでなく、イシュガルの殲滅も掲げているらしい」
「それでここまでの行動をできるわけか」
その場にいたミネルバとグラシアンは立ち上がると、仲間たちが戦う先を見据える。二人の目には、傷だらけで戦っている戦友の姿がはっきりと映っていた。
「これ以上の犠牲者を出さぬためには、早期決着が必要だのぅ」
「そのための秘策なら、あると言っただろ?」
そう言ってナイトメアドライブを発動するグラシアン。彼は先に行っている仲間たちと共に、敵の首を狩りに乗り出した。
「その秘策・・・本当に大丈夫なのか?」
だが、その青年の姿を見たミネルバは浮かない顔だった。女の勘といったところだろうか、心の中で嫌な予感がひっきりなしに起きているのだった。
「氷神の怒号!!」
放たれた黒い冷気がアルバレスのマークが入った服を着ている男に向かっていく。天海はそれを難なく払うと、地面を蹴り、レオンの目の前へと現れた。
「フッ」
「グッ!!」
低い姿勢から少年の土手腹を撃ち抜く。打ち上げられた少年にさらに追撃しようとしたが、自分を狙う少年の気配を感じてすぐさま下がる。
「水竜の鉄拳!!」
間一髪で回避した天海。シリルは一度空振りに終わったが、なんとか踏ん張り再度彼に向かっていく。
「水竜の鉤爪!!」
ジャンプして体を一回転させながら蹴りを放つ。真上から落とされたことにより威力は十分なはずだったが・・・
ガシッ
天海はそれを見事にキャッチしてみせた。
「やはり力は劣るな、水竜」
残念そうにそう呟いてシリルを投げ捨てる。少年は地面を擦りながら転がっていた。
「クソッ!!」
ようやく止まった彼はすぐさま立ち上がる。が、力の差が大きいこともあり、自分では入っていくタイミングを見い出せない。
「大丈夫か!?シリル!!」
そこにやってきたのは二人の造形魔導士。彼らはアルバレスの軍隊の人数が削られてきたこともあり、苦戦を強いられていた少年たちの助っ人に来たようだ。
「氷神・・・氷結!!」
その間にもレオンは次から次へと技を繰り出し天海に何とかダメージを与えようと奮闘している。しかし、脅威的な速度を持っているはずの少年でさえ、敵のガードを崩すことができない。
「いいぞ、もっと上げてこい」
「っ!!」
諦めることなくひたすらに向かってくる少年を見て笑みを浮かべている青年。それを最も間近で見ていた彼は、苛立ちで奥歯を噛み締めた。
「言われなくてもやってやらぁ!!」
今まで見せたことがないほど取り乱しているレオンは、まるで人が変わったかのように激しく攻撃を繰り返していく。
「なんだ?あいつ」
「あんなに怒っているレオンは見たことがない」
感情を表に出さない少年の鬼気迫る表情に違和感を抱いているのはシリルだけではない。グレイもリオンも、何かがおかしいと感じていた。
「何を焦ってるの?レオン」
厳しい剣幕で挑み続ける少年の姿に事情を知らないものたちは唖然としていることしかできない。ただ、天海は彼が向かってくる理由を理解していたのか、それを煽るように耳元で囁いた。
「お前を倒せば、次はあのガキを殺してやろう」
それによりさらにレオンの血圧が上がっていく。目にも止まらぬ早さで技を繰り出し続ける彼は、神と言うよりも悪魔に近いものだった。
北方の山岳地帯。そこではアルバレス軍を怒りの剣幕で蹴散らしていく魔導士たちの姿を、嘲笑うようにして見下している者がいた。
「あ~あ、あんなに怒って・・・こりゃ俺まで辿り着けないかな?」
黒装束に身を包んでいるティオスはスティングやグラシアンの必死な様を見て呆れているようだった。だが、しばらく笑っていると、彼の唯一見えている口元がキツく締まる。
「本当に無意味だよな、あんな我武者羅になっちゃって・・・」
突如不機嫌になったティオスは立ち上がると、これまで自分が見ていた方向へと歩いていく。
「なんだ?もう行くのか?」
その後ろ姿に声をかけた緋色の髪をした女性。それにティオスは立ち止まると、振り返って答える。
「お前も動いた方がいいんじゃないか?どうせ大した活躍もできんだろうが」
「っ!!」
その言葉に苛立ったアイリーンは杖を構えようとしたが、思い止まった。自分の力では彼に勝つことなど不可能なのは、よくわかっている。
「ゴッドセレナもブラッドマンも動いてる。お前も気が向いたら来ることだな」
そう言い残して立ち去ってしまうティオス。アイリーンはその後ろ姿を鋭い眼差しで見届けている。
「大丈夫ですかぁ?アイリーン様」
明らかに取り乱している彼女に声をかけたのは、全身白のスカートのついたコートを着ている、オレンジ髪のツインテールの少女。その横には両サイドが網になっている黒いタイツを着た少女が、これまた心配そうに立っていた。
「お体が優れないのですか?」
キツい目付きとは対照的に柔らかな物腰で話しかけてくる少女に思わずアイリーンは笑みを浮かべる。彼女は自らを落ち着けるように空を見上げた。
「霊峰ゾニア・・・この地はかつて黒き天女と白き天女が争った地。白き天女が勝利しこの山々には永遠に白い雪が降り続ける」
「よくこんな国の昔話なんか知ってますね、アイリーン様ぁ」
「バカ!!アイリーン様はイシュガル出身なんだぞ!!」
彼女が元に戻ったことで安堵したジュリエットとハイネはそんなことを放し始める。すると、それまで笑顔だったアイリーンが無表情になってしまった。
「あっれぇ!?それって触れてよかったのぉ?」
「あ・・・いえ・・・!!これは・・・」
何か事情があるのか、取り乱した様子のハイネとそれを楽しそうに見ているジュリエット。そのやり取りを見たかったのか、アイリーンの顔に笑みが戻った。
「白き天女と黒き天女・・・あなたたちみたいだわ」
「私黒とったぁー!!」
「どう見てもお前が白だろ!!バカ!!」
すっかりお楽しみモードのジュリエットとそれに突っ込むハイネ。アイリーンは二人を見つめると、真顔でとんでもないことを言い出した。
「あなたたちが争ったら・・・勝つのはどちらかしら?」
その瞬間、彼女たちの体はビクリと震えた。何をされるのかわからない少女たちは怯えていると、アイリーンは背を向ける。
「冗談よ」
それを聞いてホッと一息。気持ちが落ち着いてきたアイリーンは雪が舞い降る空を見上げ、口を開いた。
「二人の天女は一人の男をめぐって争ったらしいの。素敵なお話・・・素敵なお話だけど、ここは少し寒いわね」
そう言って彼女が杖で地面を着くと、雪で白く覆われたそれが一変した。雪が消え地面が見え始め、草木が生えてくる。さらには花まで咲き乱れ、冬景色が春の世界へと変化した。
「わーい!!さすがアイリーン様ぁ!!」
「あったかい・・・」
花が舞う草原と化した霊峰ゾニア。それにジュリエットは駆け回り、ハイネはボソリと感想を呟く。
「さぁ、楽しませてくれるのかしら?妖精の尻尾」
「なんだこれ・・・」
「辺りが・・・」
寒かった世界が変わったことに驚きを隠せないでいるセイバーと天馬の連合軍。アルバレスの兵隊たちも驚愕していると、突然彼らがドラゴンによって打ち上げられた。
「なんだありゃ!?」
「ドラゴン・・・じゃない!!」
ドラゴンと思われたそれは魔力で出来上がった竜であり、本物ではなかった。その魔力の竜から降りてきたのは、金色の髪をしたイシュガル最強と呼ばれる男。
「ゴッドセレナ!!ゴッド降臨!!これ以上好きにはさせないぜ」
部下たちの多くが削られたことで姿を現したスプリガン16。ゴッドセレナの奥には、ブラッドマンの姿もあった。
「今日は戦ってくれるよな?滅竜魔導士」
「残念だが、そうはいかねぇんだよな」
スティングたち三大竜と戦おうと考えていたゴッドセレナだったが、彼の前に立ちふさがったのは赤いハットを被った長髪の男と、緑の髪をした図体のいい男。
「あ?お前らが相手すんの?」
「そう記憶しておいてくれて構わないよ」
昨日の作戦通りに動き出したルーファスとオルガ。一方ブラッドマンの方にも、トライメンズが立ち塞がる。
「ここから先には行かせないよ」
「僕たちが相手だ」
「別に、お前のために来たんじゃねぇんだからな」
それぞれが作戦通りの相手に着いたことで三大竜は先へと進んでいけた。するとそこに、やって来る見覚えのある男。
「わざわざそっちから来やがったな」
「ずいぶん騒いでたから、黙らせないといけないからね」
そうは言いながらもあくびをしている彼はとてもやる気があるようには見えない。だが、そんな彼に突進していく一人の男がいた。
「食らいな!!」
ナイトメアドライブを駆使して速度を上げたグラシアンは彼に拳を叩き込もうとした。しかし、ティオスはそれを難なく受け止め、彼を投げ飛ばす。
「グッ!!」
「おい!!大丈夫か!?」
「いきなり動くな、俺たちは仲間だろ」
一人では難しくても三人でなら・・・今まで幾度となく修羅場を乗り越えてきたからこそ、彼らには自信がある。
「見せてやろうぜ、三大竜の力を」
「行くぞ、グラシアン」
「あぁ」
やる気満々の三人。しかし、ティオスはそれを見て笑ってしまった。まるで滑稽なものを見るような、憐れみの視線を向けていたのだ。
「意志が合わない三大竜・・・もう、俺が知ってる君たちではないな」
どこか残念そうな雰囲気を醸し出したティオス。彼は何を見てそんなことを言っているのか、スティングたちにはわからなかった。
「アイスメイク・・・限界突破!!一勢乱舞!!」
無数の造形を一瞬のうちに作り出し、一斉にそれを天海へと向かわせる。レオンとバトルしながらも自分に向かってきていることに気が付いた天海はあっさりと下がって回避した。
「氷刃・白鳥の翼!!」
無数の翼を模した氷が襲い掛かる。グレイの攻撃を回避するために後ろに下がっていた天海は反応できないかと思われたが、彼はそれを何事もなく払い除け、一度距離を取っていた氷の神へと向かっていく。
「あいつ・・・俺たちに興味ないのかよ」
「まるで割って入っていける気がしない・・・」
レオンとの戦いにばかり夢中でグレイたちには目もくれない。青年たちの攻撃を、戦場での流れ弾を避けている程度としか、彼は考えていないのかもしれない。
「もうレオンごと吹き飛ばしてみますか?」
「やめろ!!」
「どうせどっちにも避けられる。意味がない」
一か八かの賭けに出ようとしたシリルだったが、それを青年たちに止められてしまう。なかなか突破口が見えないでいると、さらにそこに増援がやって来た。
「グレイ!!シリル!!」
「エルザ!!」
「カグラ!!」
「ジェラールさんもいる!?」
魔女の罪が合流していたことを知らなかったシリルはジェラールが目の前にいることに驚いていた。遠目にはカミューニとメルディも戦っており、安堵しているのか、笑みが見えている。
「あの男のスピード・・・只者ではないな」
「レオンと互角・・・いや、それ以上だ」
シリルの目ですら捉えることが困難な速度で動けるレオンをさらに押している天海のスピード。もしこれに割って入ろうとすれば、瞬く間にやられてしまうのは言うまでもない。
「スピードか・・・なら・・・」
カグラとリオンの話を聞いていたジェラールの体が浮き上がる。魔力に包み込まれた彼は呼吸を整える。
「レオンを一度離れさせてくれ」
「なら俺が・・・」
「僕が行くよ~!!」
流星で天海に戦いを挑むにはレオンが邪魔になってしまう。そこに飛んできたセシリーが事情を察し、レオンに飛んでいく。
「ハァッ!!」
「「!?」」
上空から聞こえてきた声にそちらを見上げたレオンと天海。そこにはラウルに持たれていたサクラが魔法陣を展開しており、二人めがけて武器が降り注ぐ。
「レオン!!」
「セシリー!!おわっ!!」
二人ともサクラの攻撃を避けようとしたところでセシリーがレオンを捕まえてその場から飛び去る。天海のみが残された格好になったが、彼は武器の間を縫って攻撃範囲から逃れる。
「二人が離れたぞ!!」
「流星!!」
それを見て動き出したジェラール。流れ星に近い速度で動ける彼のその魔法により、天海との距離を一瞬で詰める。
「ほぅ、まだこんな奴がいるのか」
自身に挑んでくる青年を見て嬉しそうな顔をする天海。ジェラールは彼に蹴りを放つがあっさり回避される。しかし、それこそが彼の狙いだった。
「食らえ。九雷星!!」
九本の雷の剣を生み出すと、後退していた天海めがけてそれを降り下ろす。天体魔法を使う彼のそれは、まさしく隕石に近い威力があった。
「七つの星に裁かれよ!!七星剣!!」
九雷星を受けたことでバランスを崩していた天海に追撃を喰らわせる。隕石に相当するとされるその一打により、地面は大きく崩れていた。
「やったか?」
「いえ・・・これは・・・」
煙に包まれて敵の姿が見えない。やっつけたのかと思い視線を注ぐが、煙が晴れて見えてきたその姿は一切の傷を負っていなかった。
「惜しかったが、まだ足りないな」
「バカな・・・」
九つの星に七つの星・・・自慢の攻撃さえも受け流されてしまったことに動揺を隠せないジェラール。その時常に不敵な笑みを浮かべていた天海の顔が、少しずつ険しいものになっているのを、水竜は見逃さなかった。
後書き
いかがだったでしょうか。
vs天海に多くの人員が割かれ始めているのでおおよそ察してると思いますが、アルバレスの兵隊たちは壊滅状態です。
そこも本文で後々触れるとは思いますが、一応ここで先に言っておこうと思います。
ページ上へ戻る