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儚き想い、されど永遠の想い

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372部分:第二十九話 限られた時その三


第二十九話 限られた時その三

「貴女が実家に行かれているとは聞いていましたので」
「それでわざわざここまで」
「乗られますか?」
 義正はあえて答えが決まっている問いを出した。
「そうして二人で」
「そうですね。お屋敷まで戻りましょう」
「ではその様に」
「ここまで列車で来ましたけれど」
「そうされたのですか」
「はい、八条鉄道の列車で」
 それを使って来たというのである。そうして。
「婆やと一緒に」
「その婆やさんは」
「こちらですよ」
 義正が言うとすぐにだった。婆やが庭から出て来た。丁度屋敷の使用人達と何かを話していたらしい。そこに来たのである。
 その婆やがだ。笑顔で二人に言ってきたのである。
「では婆はこれで」
「何処に」
「御二人で帰られて下さい」
 気を利かせてだ。こう二人に言ったのである。
「私はこれから列車で帰られるので」
「そんな。別に」
「いえいえ。旦那様と奥様で」
 あえてそうすることを選んだ婆やだった。そうしてだ。
 彼女は実際に二人に一礼してからだ。歩いてその場を後にした。そして残った二人は。
 少し苦笑いになって顔を見合わせてから。こう言い合うのだった。
「こうされてはですね」
「そうですね」
「仕方ありませんね」
「はい、これでは」
 二人で帰るしかなかった。婆やの思惑通り。そうしてだった。
 車に一緒に入りだ。義正の運転するそれでだ。
 道を通り屋敷に帰る。その帰路でだ。
 真理は車中から見える風景を見た。季節はまだ冬、二月だ。
 その二月の寒く何もない風景を見てだ。真理は義正に言うのだった。
「今はこうですが」
「それでもですね」
「この何もない場所がやがては」
「はい、草には緑が戻り」
「そうしてやがては」
「春になります」
 その春を迎えるというのである。
「梅が最初に来て」
「梅からはじまって」 
 それかだった。まずは。
「春ですね」
「桜の春です」
 二人の約束しただ。その桜だというのだ。
「その季節になります」
「まずはその桜を見て」
 助手席からだ。真理は言っていく。
「それからですね」
「次の桜まで、ですね」
「そうですね。また桜を見ましょう」
 一度見て。またそれからだというのだ。
 その話をしつつだ。真理は今は何もない世界を見ていた。しかしその何もないのは今この二月だけだということもわかっていた。そうしてだ。
 外を見つつだ。彼女は言うのだった。
「同じ道を通りたいですね」
「春にですね」
「はい、春に」
 まさにその春にだった。
「同じ道を見たいです」
「その頃にはこの道にはです」
「緑が芽生えてきていますね」
「そうなっていきます」
 季節の移り変わりは義正も知っていた。そのうえでの言葉だった。
 そしてだ。彼はこうも言った。
「では」
「それではですね」
「二人で行きましょう」
 笑顔で真理に話す。
 
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