儚き想い、されど永遠の想い
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365部分:第二十八話 余命その七
第二十八話 余命その七
その中に入ってだ。義正は真理に問うた。多くの赤や白の餅達を見ながら。
「どのお餅がいいと思われますか」
「どのお餅がですか」
「はい、どれがいいと思われますか」
餅達を見せながらだ。義正は真理に尋ねる。
「どのお餅が」
「はい。丸くてそれ程大きくないお餅がいいと思います」
「ではこういったものを」
店の中の掌に乗る程の大きさの丸い餅を指し示して問う。
「これがいいでしょうか」
「はい、それでは」
義正も頷きだ。その餅を店の人間に頼む。そうしてだ。
餅を買い次にはだった。
「あとは海老ですね」
「海老もですね」
「海老もまた欠かせません」
おせち料理にだ。だからだというのだ。
「魚介類に野菜類全体がですが」
「そうですね。では」
「それとお雑煮の材料ですが」
これについてはだ。義正はこう真理に言った。
「上方風でいいですね」
「はい、お雑煮は」
「白味噌で野菜を入れて」
これが関西風だった。
「そうして食べています」
「私もです」
「御雑煮は同じですね」
「そうですね。お互いに」
いがみ合ってきた八条家でも白杜家でもだ。それは同じだった。
「では同じ御雑煮を」
「一緒に食べましょう」
こう話してだった。餅に他の食事も買った。そうしてだ。
その食材をシェフに渡してだ。後はだった。
「シェフに任せましょう」
「これで終わりですね」
「おせち料理はお好きでしょうか」
「自分で作ったこともあります」
真理は義正に話した。
「実は」
「御自身でお料理もですか」
「母に言われまして」
それでだとだ。真理は夫に述べていく。
「女。大和撫子でしたら」
「それならですか」
「はい、料理はできて当たり前だと」
「教えてもらっていたのですね」
「そうです。このお屋敷に入ってからはしていませんが」
料理は全てシェフや婆やが行っていた。真理のすることはなくなっていたのだ。しかしそれでもだとだ。彼女は話すのである。
「実はしたことがあります」
「そうでしたか。ですが」
「それでもですね」
「シェフ達も楽しみにしています」
義正は彼等も立てた。共に日々を過ごしている彼等のことを。
「このおせち料理を作ることをです」
「だからですか」
「料理人の楽しみは料理を作ることです」
それもまた労働だ。労働に楽しみを見出し勤めるのは日本人の美徳の一つである。それはこの屋敷のシェフ達も同じなのである。
「ですからここはです」
「あの方々にお任せして」
「そして新年を迎えましょう」
新年のことを語る。それと共にだ。
義正はだ。新年の前のあの日のことを話した。
「そして大晦日も」
「大晦日もですね」
「一年の終わりも二人で」
過ごしたい。そうだというのである。
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