八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第百四十三話 髑髏検校その六
「ヒロインとその家族を襲って文字通り八つ裂きにします」
「それこそまさにです」
「群集心理で」
「人でなくなったということです」
「そうですね、あの場面は」
ヒロインと一家が惨殺されたそのシーンを思い出した、漫画史に残る衝撃的な場面だと聞いている。
「もう人間に見えませんでした、まるで魔女狩りでした」
「そうです、魔女狩りはです」
「まさにそのサンプルですか」
「そう言っていいです」
人が人でなくなった、そのことのというのだ。
「異端審問の惨たらしさはご存知ですね」
「物凄かったんですよね」
「はい、何十万の人が酷い拷問を受け火炙りになりました」
「それも生きながら」
「まさにそれはです」
「人が人でなくなったんですね」
「異端審問はそうでした」
畑中さんはこう僕に話してくれた。
「悪魔を恐れていた人間がその悪魔になった」
「皮肉ですね」
「はい、まことに」
「そうした醜いこともですね」
「ありましたしこれからも」
「有り得ますね」
「人は何時狂うかわかりません」
畑中さんは遠くのもの、そこに悲しいものを見てそのうえで僕にさら話してくれた。
「きっかけがあればです」
「デビルマンや異端審問みたいに」
「狂うのです、そのうえで」
「人間でなくなりますか」
「そうです」
まさにというのだ。
「人間は」
「そう思うと嫌なものですね」
「私もそう思います」
畑中さんは今度は悲しい目になって言った。
「人間は醜くもありますし」
「鬼にも悪魔にもなる」
「それが怖いのですね」
「しかしそれと共に」
「清らかにもなってですね」
「はい、仏にも天使にもなります」
鬼や悪魔と正反対の存在にもなるというのだ。
「逆の存在にもなります」
「それも人間ですね」
「そうです、人間は人でなくなることもありますが」
「人以上の存在にもですね」
「なるのです」
「どちらにもなれるんですね」
「これ以上はなく恐ろしくこれ以上になく尊い」
この二つを僕に話してくれた。
「それが人間なのです」
「そうなんですね」
「怪談でも双方が出る場合がありますね」
「そうですね、同じ人でも」
あのアッシャー家の崩壊もそうなるだろうか、読んでいて物語の語り部である主人公の友人、彼が実質的にこの物語の主人公かも知れないがこの人には確かにおぞましさもあるが同時に何か清らかな決意も感じられた。
「両方を持っていたりありますね」
「人は多面的なものであり」
「その両方をですね」
「持っているのです」
「そうしたものですね」
「はい、私はそう考えています」
こう僕に話してくれた。
「人間は恐ろしい、確かに」
「それと共にですね」
「尊いものなのです」
「そうしたものですか」
「怪談ではそれもわかります、ですからこのこともです」
「読まれていますか」
「はい」
まさにというのだ。
「今も尚」
「そうですか、じゃあ僕も」
「人間をですね」
「読んでみようと思います」
「いいことかと」
畑中さんは僕に微笑んで話してくれた。
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