儚き想い、されど永遠の想い
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341部分:第二十六話 育っていくものその七
第二十六話 育っていくものその七
「それですから」
「だからですか」
「はい、心配も不安もなく」
そうしたことなしにだ。彼女はだというのだ。
「貴女の果たされることをされて下さい」
「そうですね。それでは」
「御安心されて向かわれて下さい」
ここまで話してだ。義正は。
真理にだ。こんなことを提案したのだった。
「それではです」
「それでは?」
「紅茶と。それに」
「それに?」
「お菓子にしましょう」
そしてだ。さらにだった。
「後は音楽も」
「それもですか」
「音楽は。そうですね」
少し頭の中で選んだ。その音楽は。
「前に聴いたヴェーバーにしましょうか」
「あの労咳だったという」
「はい、その彼です」
彼の音楽をだ。ここでも聴こうというのだ。
「そうされますか」
「では」
真理もだ。義正のその言葉に頷き。
「その様に」
「近頃はどうも」
「ウェーバーをよく聴いてますね」
「そうですね。そしてそれは」
「私の病気のことがわかってから」
「はい、そうなっていますね」
労咳のことがわかってからだった。まさに。
「本当に」
「ウェーバーは前から好きでした」
その音楽家自体はだというのだ。
「ですが」
「それでもですね」
「今は前よりもさらにです」
「お好きなのですね」
「思い入れがあります」
そしてだ。その思い入れの理由もだ。義正は真理に話した。
「それができたのはやはり」
「私のことですね」
「はい、貴女のことがあり」
真理のだ。その身体のことからだった。
やはりそれによるとだ。義正は話してだ。
真理を見てだ。自然と優しい顔になった。
その優しい顔のままでウェーバーをかける。その音楽を聴きながら。
真理の隣に来てだ。今述べた言葉は。
「私はこの音楽をより知りました」
「私の。労咳で」
「ウェーバーは労咳の中で作品を生み出していきました」
「死に向かいながらですか」
「はい、そうしながら」
真理を見てだ。そうしての言葉だった。
その彼女を見つつだ。延べたのである。
「ですから私達もです」
「ウェーバーの様に」
「二人で。生み出していきましょう」
「そうですね。私達の子供を」
二人の関心は次第にだ。二人の間の子供のことに移っていた。
その子の出産がまた近付いた。そのことを感じながら。
真理はだ。静かに言った。
「もうすぐですね」
「はい、本当に」
「私の中に命が少しずつ育っていっているのですね」
「私達の命が」
義正もだ。そのことを実感していた。
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