儚き想い、されど永遠の想い
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340部分:第二十六話 育っていくものその六
第二十六話 育っていくものその六
その腹を見つつだ。彼女は言うのである。
「病が入るのでしょうか」
「労咳が」
「そうなるのでしょうか」
「前にもお話しましたが」
しかしだ。それでもだとだ。義正は前置きしてから妻に話した。
「それはありません」
「決してですね」
「はい、ありません」
それはないというのである。
「それはもうわかっていることです」
「病であるのは私だけですか」
「労咳は確かに伝染します」
そうした病であることもわかっている。義正はあくまで嘘は言わない。
しかしだ。それでもだというのだ。
「ですがお腹の中にまでです」
「入ることはないのですね」
「真理さんだけです」
あくまでだ。彼女だけだというのだ。
「私達の子供にはです」
「それはなく」
「そうです。ですから安心してです」
「この子を産めるのですね」
「何の心配も不安もいりません」
そうしたことは一切だと。己の妻に話した。
「御安心下さい」
「そうですか。それでは」
「後は。子供が産まれ」
「それからですね」
「生まれて終わりではありません」
やはりだ。ここでもそれからだった。
「生まれたその子を私達で」
「育てることですね」
「そうしていくものです」
これが彼の言うことでありだ。実際に言ったのである。
「ですから憂いなくです」
「育てていけばいいのですね」
「私達二人で」
一人ではなかった。あくまで二人だった。
「そうしましょう」
「はい、では」
「労咳には様々な偏見があります」
この時代においてはだ。まだそれは強かった。まだ座敷牢に入れられるということもあった。労咳に対して誰もが無知である結果だった。
だからそうなっていた。それでだったのだ。
しかしだ。義正はだった。
その偏見についてだ。こう真理に話した。
「西洋ではそれがなくなってきています」
「あの地ではですか」
「西洋でもまた労咳に悩まされています」
かつてはどの国もだ。労咳で多くの者を失っていたのだ。それは何も日本のことだけでなくだ。多くの国でも同じことだったのだ。
しかしだ。西洋ではどうかとだ。義正は話した。
「しかしそれでもです」
「人と分けられることはないのですね」
「それはなくなっています」
「伝染するというのに」
「そうです。そうした酷く伝染する病ではないのです」
「だから義正さんも私と共にいて」
「何の問題もありません」
彼もだ。そうだというのだ。
「そして私達の子供も」
「何の問題もなく」
「産まれます。そして育ちます」
「憂いなく」
「むしろ恐ろしいのは憂いです」
そのだ。それだというのだ。
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