儚き想い、されど永遠の想い
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282部分:第二十一話 忌まわしい咳その五
第二十一話 忌まわしい咳その五
「ここには」
「はい、残念ですが」
「何処にも永遠にはいられませんね」
「形あるものは何時かは壊れますから」
「この海も永遠ではありませんね」
「そうです」
これはその通りだとだ。義正は真理に答える。
「全ては変わるものですし」
「それに終わるものですね」
終わるとだ。真理はこうも言った。
「何時かは」
「それはそうですが」
真理の言葉に不吉なものを感じた。しかしだ。
義正はそれは隠してだ。彼女にあらためて話した。
「それでもです」
「それでも?」
「人は今を生きるものですから」
だからだとだ。その不吉なものを打ち消す為に言うのだった。
「そうしたことは頭の中に入れてもです」
「それでもですか」
「考えることは今、そして私達が見える未来です」
「そうしたことを考えてですか」
「この海や空を見ていればいいでしょう」
「今ここにある美しいものを」
「そう考えます」
義正は微笑みになり真理に話した。
「それではどうでしょうか」
「そうですね」
俯いたまま考える顔になってだ。真理は答えた。
「確かに。その方がです」
「いいですね」
「言われてみれば」
その通りだと答えはする。しかしだった。
真理はまだ俯いたままでだ。こう義正に答えたのだった。
「ですがそれでも」
「御気持ちは晴れませんか」
「今は」
そうだとだ。俯いたままでの返答だった。
「しかしこうしてあなたと一緒にいて」
「私と共にいるなら」
「それだけで気持ちがかなり晴れます」
「ならいいのですが」
「はい。それではこの後は」
「伊太利亜料理はどうでしょうか」
義正は微笑みと共に真理に話した。
「あの国の料理を食べませんか」
「伊太利亜ですか」
「そうです。仏蘭西や独逸ではなくです」
「今は伊太利亜なのですね」
「伊太利亜もまた美食の国でして」
このことを真理に話してだ。誘うのだった。
「如何でしょうか。美味しくしかも身体にいいのです」
「それが伊太利亜料理ですね」
「そうです。如何でしょうか」
「場所は」
何処で食べるのか。真理はそのことも尋ねた。
「一体」
「あの店です」
義正が指し示した先にだ。その店があった。
白い外観で木造の洒落たテラスが突き出ていてそこにも席が幾つも置かれている。その店を指し示して真理に話をするのである。
「あの店で、です」
「近いのですね」
「海を見てすぐにと思いまして」
「御食事に」
「そうです。スパゲティを食べましょう」
「スパゲティといいますと」
どういったものか。そのことは真理も知っていた。
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